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服に対してのノウハウを吸収し、クオリティ重視へ

―その後は洋服業界へと足を踏み入れることになりましたが、ベースは不変だったのでしょうか?

栗野:フェリーの服装を真似して着ていたアイテムが、実は非常にトラディショナルなものだと気付いたのは洋服屋に入ってからですね。なぜシーアイランドコットンの肌触りがいいのか、グッドイヤー製法の靴がなぜ履きやすいのか、ハリスツイードの耐久性がなぜいいのか、とクオリティのノウハウが蓄積されていきました。価値観が変わったのもこの頃ですね。伝統的なアイテムが持つディテールなどを気にするようになったのもこの時期からです。様々な服を買いましたし、格好も色々と変遷しました。

―今まで何となくだったものが、クオリティという裏付けを得ていったということですか?

栗野:そうですね。31歳くらいからクオリティの良いものしか着たくなくなっていったんですね。ワードローブを構築していく、というか、僕にとっては図書館が本を集めるような作業だったといえると思います。82年くらいかな、所謂デザイナーものに開眼するようになるんです。〈マーガレット・ハウエル〉が特に好きでよく着ていました。やはりフェリーもビートルズもそうなんですが、基本的にイギリスが僕のベースにあるんだと思います。英国の雰囲気が好きなんでしょうね。その頃にはじめてポパイの誌面に登場させていただいたのですが、〈ジョン・スメドレー〉とかを紹介していました。後にクオリティコンシャスということと、デザイナーが持つクリエイティビティの2つが僕の軸になっていく過程を象徴してますね。その後は30年くらい、そのバランシングを考えて今に至っています。

―モードやトレンドを意識したスタイルなども通って来ましたか?

栗野:やはり服を生業にしていますから、〈ドルチェ&ガッバーナ〉の中でも、最新シーズンのアイテムなどをいち早く取り入れようとした時もありました。でも、徐々にトラッドマインドで選んで着るようになりました。基本が大事ですから、デザイナーズブランドであってもその部分は重要視したいんですね。捻りを知っているデザイナーが作るトラッドアイテムは格好いいですし。結局、これみよがしとか、一目見てブランドが分かるようなものは選択肢に入らないです。その点ではアンチブランド派といえるでしょうね。

―やはり、そこもバランス感覚が成せる部分なのでしょうか?

栗野:フェリーは折衷的なスタイルだからこそスタイリッシュだったんだと思うんです。どちらかというとボウイはステージ衣装のような派手さが印象的ですが、彼らはギリギリの部分でまとめあげる手腕やバランス感覚がいいのでしょう。僕もそういった部分は留意するようにしています。つまるところトラッドマインドとミーハーさは不変なんだと思います。特に最近は原点に回帰しているような気もしています。自分が自分のスタイリストをやって楽しんでいます。洋服を通して世間へのアピールをしているというと大げさかも知れませんが、何よりその行為が楽しいんですよね。

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