街着でありながらも、ハードなミルスペックを踏襲。

―見た目だけを今っぽくモダナイズドさせているワケではないということですか?

松本:そうですね。例えば、素材に関していうとこのメルトンはかつて正式な軍モノ用のファブリックを生産していた某ヨーロッパのファクトリーで、過去の資料を参考に別注したものです。実際に触れてもらえば分かるのですが、毛足が長くバサバサした生地なんです。シャギードッグのニットのようなイメージですね。背裏の光沢がある生地は将校クラスの人間だけが着用していたチノクロスを使用しているのですが、これはコールドユーセライズ加工された非常に贅沢な使い方をさせてもらっています。いうなれば本格的なミルスペックに準拠していながら、あくまでもそれを目的とするのではなく手段にしているんです。

―ディテールを見ると第二次大戦中の軍用コートを彷彿とさせますね。

松本:その年代のコートは参考にした部分もあります。キャロル・リード監督の「第三の男」というイギリス映画があるのですが、劇中で登場するイギリス占領軍の少佐が纏っているダッフルコートのイメージですね。 そのナッピングした生地感をイメージして、やや毛足の長く、かつハードな打ち込みのメルトンを作ったこと、 またアシンメトリーなトグルのバランス・位置なんかも参考にしてます。着こなしのイメージでは「愛の狩人」という青春映画に登場するダッフルコートのスタイルがソースになっているといえます。

―ニス塗りを施さないトグルや、それに繋がる麻紐なども雰囲気がありますね。

松本:オリジナルとして1から設計しました。意外と目立たないのですが、麻紐にはワッシャーも通しました。こういった細かな部分は好きな方には欠かせないポイントですし、知らない人にも何かしらの興味を持ってもらえるようになれば嬉しいですね。他にも軍モノのステンシルを意識してプリントネームにするなどといった小技も投入させてもらいました。

―聞けば聞くほど蘊蓄というか、ある種のオタクっぽい要素が出てきますね。でも、それを前面に出すのではなくさり気なく内包しているのがB&Yっぽいというか、奥ゆかしい印象です。

松本:足し算をしていけばいいという話ではないので、必要な要素を適材適所で投入していると解釈していただければと思います。

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軍モノに見られるステンシルを彷彿とさせるブランドロゴ。脱いだ時に自己主張できます。

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ワッシャーの通った麻紐やニス塗りを施していないトグルが特徴的。経年変化も楽しみです。

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チノクロス素材が随所でアクセントになっているのが分かります。ボタンも実に頑強な仕上がり。

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