Number 28
日本橋 魚がし本店

ホントのマナーで喰らう寿司。

大好きだが、なかなか気楽に食べられるものではない。代表的な日本食として世界に定着したお寿司に対して、これが僕等日本人が、余程のお金持ちでもない限り、普通にもっている印象だろうと思う。いつから高級食となってしまったか、それが物価や魚の高騰と関係しているのか、厳密なことはわからない。しかし、お寿司は元々屋台で立食いで食べる"庶民の食べ物"だったことは、間違いのない事実だ。

東京駅と日本橋駅のちょうど中間付近、路地を入り、「魚がし」暖簾のかかったメインの入口に見える引戸も過ぎて、突き当たりを右に細い通路を入る。奥にあるもう一つの入口から入店し、頼み方は一度にネタを2種類、計4貫をオーダーするのがしきたり。トロに白身に貝各種、光り物やシャコ他、普通の寿司屋にあるもの全てに、巻物まで揃って何を頼んでも4貫で300円なのだから、辺りの回転寿しをも軽く凌駕する価格設定だ。

「頼み方は、握る方もわけわかんなくなるから、わかりやすく。値段は昭和29年のオープン当初、1貫10円だったわけだから。でも50年以上で65円の値上げは、悪くないでしょう?」と、魚がしで働かれて16年になるという、安倍店長。チェーン店でもないのに実現された驚きの価格は、会長、社長さんの心意気はもちろん、長い年月で培った築地の仕入れ先との信頼関係による。平成6年にビルに建て変わるまで、蹴れば倒れそうな店舗時代を知る30年以上前から魚がしで働かれている、下平さんのお話も聞けた。

「店の面積自体、今の半分だったんです。そこに11時半のオープン前から長蛇の列ができて、店に限界まで詰め込んで30人。最初来た時は、なんだここ?と思いましたよ」

だからこその独特なオーダー方法であるし、混み合うお昼時には計算がややこしいという理由で、みそ汁やビールも出さないのも頷ける。店員さん達も知らない頃から通う年輩の常連さんが今も来る魚がしで、今となっては難しい、寿司本来の姿を楽しむのが幸せだ。


住所:東京都中央区日本橋2-2-3
TEL:03-3271-1050
営業時間:11:00〜22:00(月〜金)、
            11:00〜21:00(土)
定休日:日曜日・祝日






sum_img05.jpg


中トロもこの通り、明らかにとても旨そうで実際旨い。やはり「トロ、ダブル」ばかり頼まれるお客さんもいらっしゃるとか。
下ろされている最中なのは、カンパチ。
そのカンパチと鯵。寿司が置かれる銀の台もいい感じ。
巻物はウニといくら以外もたくさん種類があり、月木だけある鉄火巻き目当てのお客様も多い。
穴子と甘エビ、鉄板。
13時半以降出る100円(!)のみそ汁も、あら汁で豪華。
雑誌、広告、CDジャケット、ドキュメンタリーなどで世界各地のディープな場所やモノ、人を中心に紹介することで有名な写真家。ダライラマ14世を写真に収めたことでも知られる。
休刊したSTUDIO VOICE誌で、約4年間、計44回続いた秘境を巡る連載「SACRED PLACES」が、青幻舎より遂に、2月頭頃の刊行。その他、この連載「白眉の食事」等、諸々書籍化を控え、基本家に籠る地味な日々。