vol.89

ポール・スミスが緊急来日。その熱い思いを語る。

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5周年を迎えた旗艦店と自身のクリエイションについて
そして今、日本に来た理由とは?

全ラインが一堂に会した青山の旗艦店、「ポール・スミス スペース」。5周年を迎え、新たな岐路に立つ今シーズン。緊急来日したポール氏が見据える視線の先には、どんな"宇宙"が広がっているのだろうか。
Photos_Shinichiro Ariizmumi(Sputnik)/Hiroyo Kai(STUH)
Interview&Text_Kyosuke Nitta

「スペースは、"コミュニケーション"の母艦なんだ」。

----「ポール・スミス スペース」の5周年、おめでとうございます。

Paul Smithー以下(PS):ありがとう。

----まず始めに、表参道や骨董通り沿いではなく、この閑静な住宅街を選んだ理由は何でしょうか?

PS:フラッグシップショップをオープンするにあたって、東京の色々なファッションエリアをリサーチしたんだ。騒がしい場所になることを覚悟していたんだけど、この物件を初めて見たときに、入口に植えられている竹や松が趣き深くて、この空間だけがメインストリートの時間軸とは違う、ゆったりとしたリズムが流れているように感じたんだ。

----確かに、自然が溢れていて、すごく落ち着きますね。

PS:あとは、3階まであるから、私がディレクションしている全ラインを一括して提案できるし、なんといっても、ギャラリーやテラスを作れるスペースがあったことが大きい。色々な要素を考えて、この場所に着地したという感じだね。

----ギャラリーが共存しているのは、世界で日本だけなんですよね?

PS:店と同じ屋根の下にギャラリーがあるのはこの店が初めてだね。だから、店名も、アート空間としての"スペース"からきている。あとは、オリジナルのショップバッグからも見て分かるように、"宇宙"という意味も込めてるんだ。宇宙を凌駕するクリエイティビティがこの場所から生まれる、そんなイメージでね。

----幅広いシーンで活躍しているアーティストが、3階のギャラリーで作品を発表されていますよね。

PS:そうだね。UKの本社からアーティストにオファーする時もあるし、日本のスタッフから依頼することもある。インディーズであろうがメジャーであろうが、とにかく良いものをこのギャラリーから発信していきたいと思ってるし、そういったクリエイターや、作品を紹介するジャーナリストにとって、コミュニケーションの場所になってほしいと願ってるよ。

----クリエイターとは、どういったコネクションから知り合いになるんですか?

PS:妻のポーリーンがアーティストだから、色々なフィールドで活動しているクリエイターを紹介してくれるんだ。また、彼女は、ロイヤルカレッジオブアートでテキスタイルの教師もやっていたし、そのスクールでファインアートを専攻する学生と、ノッティンガムトレント大学 で、服飾とグラフィックデザインを専攻する学生とを対象に、奨学金制度を設けたりしている。加えて、私のところには、毎日世界中のギャラリーからインビテーションが送られてくる。常にアートに触れられる環境があるおかげで、新しいアーティストや作品と出会うことができているんだ。

----一番最初のアートに対するインパクトはいつで、どんな作品だったんですか?

PS:18歳くらいの時からアートスクールの友達と交流があったし、個人的にも集めたりしていた。けど、21歳くらいの時かな。イタリアやフランスに旅に出たんだ。旅に出られるようなお金と、心の余裕が少し出てきた時だね。偶然入ったパリのカフェに、すごい格好いいポスターがいくつも飾ってあったんだ。芸術としてのアートとなると、高いお金を払ってっていうイメージがあったんだけど、なんてことのない街中のカフェにあったそのポスターに、アートのあるべき姿を感じたんだ。その時の衝撃はとてつもなく大きかった。

----最近気に入っている写真集はありますか?

PS:昨年5月に死去してしまったデニス・ホッパーの作品だね。彼の長いキャリアで関わったセレブリティ達のプライベートな写真が収められているんだけど、すごいリラックスした表情が魅力的なんだ。人望を集めていた彼にしか撮れないと思うよ。

----親交はあったんですか?

PS:特に親しかったわけではないんだけど、俳優として、表現者として、フォトグラファーとして心から尊敬してる。他にもたくさん紹介したいんだけど......何を隠そう、私のデスクにはアートブックや写真集が山積みにされているから、その質問に答えるのに何日かかるか分からないよ(苦笑)。

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エントランスに敷かれた石畳の感触。松の木や背の高い竹に覚える懐かしい感覚。所 々にカラフルな椅子が置かれていて、天気の良い日は、そこに座って本を読んだり、談話している人の姿が見受けられます。

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ポール・スミスのアートディレクションを20年以上も手掛けるアラン・アブード氏が、世界中を旅する中で撮影した航空機からの雲上写真。壮観な光景に、ポール氏が思い描くブランドビジョンが窺えます。

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3階に上る階段の壁一面に、今まで展示やワークショップをしたクリエイター達のサインが書かれています。国内外で活動するジャンルレスなアーティストのラインナップに、新鮮な驚きと発見を得られます。

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ポール氏が語る"アート本来の姿"は、2階にあがったところの壁に垣間見ることができます。名盤のレコードジャケットをはじめ、セレブリティのポートレイトなど、様々なアートが額縁にパッケージされています。

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「Photographs 1961-1967」 (Taschen America) 2009年刊行。代表作「イージー・ライダー」より少し前の'61年から'67年までに撮影されたセレブリティの貴重なオフショットを収録。写真家デニス・ホッパーが捉えた1960年代アメリカ。必見です。

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