さいき - 代官山通信（蔡 俊行）

　昨夜はかれこれ10年以上ぶりになるか。恵比寿「さいき」へ。

　ここは50年以上の歴史のある趣のある居酒屋。20台の頃、よく通ったお店。もうだいぶなるけど吉本隆明、吉行淳之介といった方々が集っていた由緒正しい名店だ。

　以前はカウンターの角に陣取った（厨房側）、おかあさんが入店すると「おかえりなさい」、帰る時は「いってらっしゃい」と声を掛けてくれたもの。しかしもうだいぶ前に亡くなったという話を聞いた。おやじさんは健在だったけど、何か大事なものが欠けているような気になりました。

　ここではいつも飲むのは凍結酒。しぼりたての原酒を火入れせず生のまま瞬間凍結させ、超低温で保存したお酒。シャーベット状になったお酒ですね。いまでは珍しくないが、20年以上前このお店で初めて知った。ここに来るのはこのお酒が目的、という時期もありました。

　ぼくらはテーブルに座ったのだけど、すぐ横のカウンターで飲んでいたい女性二人連れの片方が前後不覚になるくらい酔っぱらっていて、あれも凍結酒の仕業かなと思ったりもしました。立ち上がる度、ひっくり返る。隣の女性はそんな彼女を放って、カウンターに座っていた別のお客さんたちのお喋りに加わっていました。結構冷たい仕打ちですね。あんなに飲んで。何があったのでしょうか。

　給仕してくれた若い女性はたぶん中国の方。時代だなあと感慨にふけました。

　あ、そういえばおかあさんがいらっしゃった頃、お勘定すると「9円50銭」とお代を言い、お釣りは「50万円」と言って返してくれてたっけ。

　その伝統は廃れたようです。