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田中恭平ELIMINATOR PRESS 代官山のセレクトショップ”ELIMINATOR”のPRESS。世界に一店舗だからこそ出来る事、世界に一店舗だからこそ言わなくてはいけないコアな情報や新たな価値観の提案を発信していけたらと思っています。www.eliminator.co.jp

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田中恭平
ELIMINATOR PRESS
代官山のセレクトショップ”ELIMINATOR”のPRESS。世界に一店舗だからこそ出来る事、世界に一店舗だからこそ言わなくてはいけないコアな情報や新たな価値観の提案を発信していけたらと思っています。

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2012年秋冬 "ARC'TERYX VEILANCE"のインスパイアーの一つ、畠山直哉氏の「underground」

2012.10.04

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以前、本ブログでご紹介した「ARC'TERYX VEILANCE」
http://www.houyhnhnm.jp/blog/eliminator/2012/09/arcteryx-veilance-in-stock.html

INVENTORY Magazine内でVEILANCEデザイナーのコンロイ・ナクティガルが
インタビューを受けたページがアップされています。
http://www.inventorymagazine.com/features/arcteryx-veilance-fall-12.html

和訳は下層にございます。↓

機能・性能的なテクニカルな面は今までも情報としてあったのですが、珍しくインスパイアー源についての情報もありました。

2012年秋冬シーズンは、日本人写真家畠山直哉氏の「underground」という東京の地下下水道を撮った作品からインスパイアーを受けているとの事。
1_4126HG5Q39L._SS500_.jpg

カラーチップを並べ、決められた色ではなく、きちんとインスパイアー源があってストーリーが込められていると思うと商品に対する見方、感じ方がより良い方に変わってきますよね。

写真集の内容を観て、その後、商品を体験する。

つまりは、感じ方は異なるかもしれませんが、デザイナーと同じプロセスを辿ってみる。

何だか、普段のお買物とはまた違った満足感を味わえそうですね。

<INVENTORY Magazine>
http://www.inventorymagazine.com/features/arcteryx-veilance-fall-12.html

以下、ARC'TERYXを愛する日本代理店のT氏による和訳。
2_Veilance_grid-Opener.jpg
ARC'TERYX VEILANCEのデザイナー、コンロイ・ナクティガルによるブランド
4度目の秋冬コレクション。
鍵となる要素の解説は、その基礎となる部分から、これらの製品に命を
吹き込むまでの技術的な挑戦まで、様々なコンポーネントを取り上げています。
 
今期、防御という点に焦点を当てたコレクションは、防水透湿性と保温性を
持った製品が登場。15品目の製品ラインナップは、現代のアーバンな環境下で要求される複雑なニーズを満たすためのデザインとなっており、ARC'TERYXがアウトドアで築いていてきた名声を、削ぎ落としたシンプルさの中に反映させています。

Photographer
--Ryan Willms

我々がVeilanceをスタートさせて数年が経ちました。まだまだ歩き出したばかりの比較的新しいブランドです。

極限まで削ぎ落とされたクリーンで控え目なラインは、テクニカルなパフォーマンスを持ち、虚飾を排しながらも、一目瞭然なユニークさを持ち合わせる。この命題に沿ってデザインが進められます。

具体的なその作業は如何にこれらの要素(エレメント)のバランスを取っていくのかというものとなります。必ずしも知的なデザインである必要性もありませんが、ただ単にアウトドアの製品から拝借してきたようなディテールでもありません。

Veilanceはすなわち、要素(エレメント)の全てを再考し、ほぐし、再構築するということなのです。我々にはアウトドア製品を作る上での技術的集積があり、難しい事を可能にする能力があります。しかし、ブランドを開始するにあたり、その歴史を活用した何かをしようというコンセプトもなかったのです。

ARC'TERYXにおいて我々が確立したアプローチは、全てのディテールを考え抜くという事でした。Veilanceでもその手法は踏襲していますが、さらに進化させていかなくてはなりません。この2012年秋冬コレクションでは「防水透湿性と高機能中綿素材」の組合せにフォーカスしています。

このコンセプトは極めてARC'TERYX的にユニークであり、故にVeilanceでも同じです。またこれを可能にする技術を持っている数少ないブランドの一つが我々であり、また、そういったブランドの中でもごく限られた者しか可能にしえないレベルの完成度を、我々がお届けします。
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建築的なアプローチはこれらの製品をデザインするに当たり、その基本的な部分で活かされています。建築とは環境や空間というものを作り出すという作業だという考えに私は非常に共感を覚えるのですが、ある意味これらの製品を作り出す作業とは同じものと言えます。

これらの製品は着用される方の個人的な環境となります。そこが正に私が見出す両者の共通点です。

それは決してある建物のディテールを反映させたりしたりすることではありません。空間をデザインすることと、モノに対しての反応をデザインすることは異質なものです。

建築はその点に於いて、モノをいじっていく工業デザインと異なるのです。あなたが直に建物に触れながら、という作業はありません。

建物とのやり取りはあなたの尺度を通して行われ、それはすなわち人間の尺度なのです。そして服というものも実際に製品を実現化するやりとりは人間の尺度であって、全く異なる分野ではあるのですが、私はそこに服のデザインと建築との間に直接の繋がりを見出すのです。

これは使用する素材に関しても同様の事が言えます。建築は素材というモノと非常に密接な関係にあり、それによってやれることの可能性をさらに伸ばすことが可能です。

これらの製品をシーズン毎に創り出すということは、同じような挑戦の連続です。
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全てのインシュレーテッドジャケットには我々独自素材のCoreloft™ (コアロフト)という化繊中綿が使用されています。これを使用するにあたり、我々は二つの事を求めていました。

一つはCLO値(どれだけの熱が繊維の隙間の空間の空気に保持されるかの値)です。しかし我々はロフト(嵩高さ:すなわち生地の厚み)が暖かさで担っている役割にも注目していました。

あるブランドでは極細の繊維を使用し、より多くの空気の分子をその間に保持することでCLO値を向上させようとしていました。しかし、この方法では繊維があまりにソフトであることが裏目になり、ヘタリが早いという問題を抱えていました。

またロフトだけを追求すれば、嵩張ったものになってしまいます。基本的にその二律相反する性質を克服する為に我々が取った手法はその中間を追求するというもので、そこから生まれたのがCoreloft™ です。

そこには何も魔法の方程式が存在しているわけではありません。我々は単純にロフトの持つ利点を取り入れ、二つの層の間に耐久性に優れたロフトを持った繊維を組み込み、二つの層が出来る限り離れていられるようにしたのです。

さらにその後の研究で、ソフトな繊維を間に組み込むことで異なる厚み(ウエイト)の中綿を作る事が可能となり、また、CLO値とロフト双方の利点を両立させることに成功したのです。
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通常、中綿入りの製品を手に取った消費者は「どれ位暖かいの?」という質問をしてきます。我々もよく「これって最も暖かいジャケットかしら」。という質問を受けますが、その質問に対する回答としてはNOです。

それはこの中綿の暖かさが安静時の暖かさを狙ったものではないからです。もしあなたがそこで立っているだけであるなら、このジャケットは市場の中で最も暖かいジャケットではありません。

しかし、このジャケットにあって、市場の中で無いものは活動時の暖かさという考えです。もし、あなたが異なる環境下で活発な運動をしているとします。

その際に必要となるのは寒さをしのぐものではなく、天候から身を護るものです。これはその時の衣服の中の環境が水分を入れることなく、身体をドライな状態に保つことが可能になるからです。

反対に水分が衣服の中に侵入、もしくは発生することは、本来ドライであればあったはずの暖かさを失うことに繋がるのです。ですから、立っているだけであればより厚手のジャケットの方が暖かいのは事実です。

しかし、もしあなたが寒冷でウエットな、もしくは寒く強い風にさらされる環境下で活発に動いているのであれば、異なる暖かさが必要とされるのです。
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GORE-TEX® 以外にも我々は興味深い生地をこのラインでは展開しています。MAPPウールはニュージーランドのメリノウールサプライヤーです。

このウールはその育てられる環境が非常に高地であるということから、ウールの中でも最高の品質を誇ります。今までも様々なウール供給業者の物も試してみては来ましたが、MAPPは我々の供給元であり続けています。

また、最近はショーラーの生地も活用しています。今シーズンのブレザーは高密度コットンにナノ球面仕上げを施し、油や水をはじく性能を持たせています。

そこにショーラーのラペルを採用し、風が強い時などにストレッチナイロンのラペルを立てて使用が可能という機能を与えています。これをこのジャケットの特徴というようには捉えてはいません。

なぜなら、そこが真価ではないからです。しかし、その復元力の高さや、色の出方が我々の要求を満たす高い水準にあることで、他の製品にも使用したりしています。我々の製品は製造の過程で通常のアパレルでは使用しない様々な高度なテクノロジーを用いており、簡単に色やテクスチャーという事だけでは取り換えが効きません。

我々の無縫製技術に用いられる接着工程は、非常な高温を伴います。また、接着剤との相性というのも全ての使用される生地でテストが必要となるのです。

そのため、広範な性能を持った生地を見つけた時は、その生地との付き合いを非常に大事にしています。そこに行きつくまでの生地はそもそもあまりに少ないのです。

我々は常に前進をしていますが、我々の要求を満たす素材の開発は、時として我々のスピードに付いてくることが難しいのも事実なのです。
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Veilanceの製品は純粋なハイパフォーマンスウエアというよりは、複雑なアーバンな環境とあなたのインターフェイスとしてデザインされています。アウトドアのカテゴリーでは前者が基本となりますが、それらの製品は一つ一つが対象としている活動目的が特化されています。

Veilanceではあなたとあなたが送る人生の中継役として、より広い範囲を守備できるデザインが求められます。例えるのならポケットです。

その役割や使われ方に関して我々の側では様々な局面を想定していますが、何の為の物なのかに関して目的をあえて限定することはしていません。携帯の為、手帳を収める為、その他様々なものを収納する為ということを想定はしていますが、それぞれのポケットに、それ専用の用途を与えることはしていません。

それはあなたが自分の使い勝手に合わせて結論づけるべきものと考えています。
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Veilanceにおいて色の果たす役割は次第に大きいなものになってきています。これらの色のインスピレーションはしばしば本やイメージから喚起されています。

私もこの業界の人間の多分に漏れず様々なところにアンテナを張っています。しかし見たものが直接製品に貢献するということはまずありません。

なぜならそれは、今までの蓄積や、新たなアイデア、コンセプトというものであって、写真を見て思いつくものではなく、実際に動かしながら作られていくものだからです。それらの蓄積がその役割を果たすのはコレクションのカラーパレットに取り組む時なのです。
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今シーズン、私のインスピレーションに多大な影響を与えたものの一つに、日本人写真家畠山直哉氏の「underground」という東京の地下下水道を撮った作品群があります。我々は色を決定するに当たり、単純に引出しを開け、カラーチップを並べるという作業をするのではありません。

今回は氏のイメージを中心としてアイデアを生み出し、また、デザインのプロセスの中でそこへ立ち返りながら確認するという作業をしていったのです。過去にもDoug Aitkenのイメージを多数用いたこともあります。

彼らの作品に共通なのはその激しさと豊かな色調、そして色に対してのストーリー性です。根源的には空虚なもの達でありながら、豊かな感情をその色に湛えているのです。

我々の製品の多くは非常にテクニカルであり、反面、冷たい印象を持たれるかもしれません。そこにエモーショナルな構成部分を探すことは、他の何かでするよりも色で行うのが比較的簡単と言えるかもしれません。

カラーストーリーを更に掘り下げて表現すれば、製品にゆっくりとした進化が起こるのと同じように、カラーストーリーにも同じことが言えるという事だと思います。個々の色が必ずしも他の色と合うことが無いように、個々の進化が全体との調和を乱す場合もあります。

そのような時にはあまりに過激な変化にならぬよう、または前のシーズンとの調和というものを心がけることもあります。その変化は時に非常にダイナミックで想像以上の時もあるでしょう。

しかし、出来る限りそれをソフトな表現とし、それ自身にそのストーリーを語らせなくてはならないのです。
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ブランドのクリーンなラインを追求した美的感覚を保持するに当たり、殆どのジャケットで調整機能を省いたガスケットカフスを採用しています。その特徴としては十分な防風性を保ちながら、余分な構成部品を必要としない所です。

もしあなたが真剣なサイクリストでそれを使うのであれば、よりタイトに締める必要がありますが、毎日の使用においてであれば、調整を必要としない仕様の方が使い勝手はいいはずです。ジャケットを着用して腕時計を確認するシーンを想像してみてください。

腕時計を出すための操作というものはなく、単純に袖をずり上げるだけでいい方が簡単なはずです。
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我々の製品の縫目にはシームテープ処理をされています。故に多くの方が、表地の優れた撥水性能とあいまって、完全防水なのかと勘違いをされることがあります。

しかし、本来の機能は表地の撥水処理でビーズ状に弾かれた水の縫目からの侵入の阻止です。テープ処理を施すことによって製品の耐水性を向上させ、裏地での縫目の嵩を低く抑える事が可能になります。

通常、縫目というものはたくさんの糸で処理をされ、その糸が全て水分を吸い上げる結果に繋がります。これはランプの芯が燃料を吸い上げるのと同じ原理で、一度糸が濡れてしまうと、どんどんと外からの水分が中へと侵入してしまいます。

よって、テープで処理をすることで、水分を瀬戸際で押しとどめる効果があるのです。テープ自体が防水性能を付与してくれるわけではありませんが、このような小さな機能の積み上げによって耐水性が多少なりとも向上していくのです。

更に付け加えるならば、テープ処理は着心地の向上にも貢献しますし、裏地を張るという作業が不要になることは、
削ぎ落とすことがブランドの美学であることともマッチするのです。
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