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川田十夢公私ともに長男。「AR三兄弟の企画書(日経BP社)」、「ARで何が変わるか?(技術評論社)」、TVBros.連載「魚にチクビはあるのだろうか?」、WIRED連載「未来から来た男」、ワラパッパ連載「シンガーソング・タグクラウド」、エンジニアtype連載「微分積分、いい気分。」など。発明と執筆で、やまだかつてない世界を設計している。https://twitter.com/cmrr_xxxhttp://alternativedesign.jp/

青雲、それは君が見た光。

川田十夢
公私ともに長男。「AR三兄弟の企画書(日経BP社)」、「ARで何が変わるか?(技術評論社)」、TVBros.連載「魚にチクビはあるのだろうか?」、WIRED連載「未来から来た男」、ワラパッパ連載「シンガーソング・タグクラウド」、エンジニアtype連載「微分積分、いい気分。」など。発明と執筆で、やまだかつてない世界を設計している。
https://twitter.com/cmrr_xxx
http://alternativedesign.jp/

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「縦」「縦」「横」「横」から始まる「縦」について

2011.08.18

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僕はいま、三年から十年前のアイデアを実業にしている。毎日が退屈に感じられる。三年くらい横になって時代が追いつくのを待ちたいけど、同じ形の波が二度と来ないのも、大波を生み出す準備期間が必要なのも知っている。途方もない時間と孤独。僕が体調を崩すのは、決まってそういう時期だ。しばらく横になりながら、縦と横について考えてみることにした。

「縦」:
昔から、「縦」が嫌いだ。頭は悪い方ではなかったのだが、試験の解が一つしかないことに違和感があったし、そもそも偏差値だとか学力とかは猿真似の一端に過ぎない。もっとユニークなものに興味があった。だから、学校の試験ではトリッキーな方向にいつも走っていた。(走れメロス。最後のマントをかけられた時の気持ちを書けという国語のテスト回答で、僕は書道で使うスポイトで問題文を濡らして「状況」をぼかした。今でもそれが正解であると思っている。)

「縦」:
縦社会という言葉はそれほど嫌いではなかった。特に会社に入ると、お金の流れの本流にルールと重力を設定する人物がいて、彼らはお金に関する一切のリスクを背負う代わりに、縦社会に於ける上の方に位置することができる。リスクを背負いたくない人間は、リスクを取らなければいいのだ。とても整然としていて腑に落ちるルールである。
僕は十年間くらい会社員をやっていた。縦社会に於ける最下層から始まり、ある時期までは実績とともに順当なポストを与えられた。が、特許だとかクリエイティブだとかメディア席巻だとか縦も横もない活動を続けるうちに、組織の中の縦のモノサシでは誰も僕を評価できなくなっていた。入社当時に掲げた夢も全て実現させてしまっていた。会社からは、その「夢の運用」を求められ続けた。体調を崩した。次を目指すことにした。

「横」:
僕の組織は、会社組織の体裁を保っていない。厳密にいうと、僕個人のフリーランス名義に他の兄弟と従業員が紐づいている状態。これには、明確なポリシーがあった。徹底的に、縦のルールを排除したかったからだ。たとえば、資本関係が誰かと発生した時点で、縦に逆戻りすることになる。僕は、個人として企業とどれだけ深く関われるかの挑戦を続けた。多くの同業者や先輩からは、「個人では大企業は相手にしてくれない」「形だけでも会社名義をとっておいた方がいい」と多くの進言をもらった。でも、僕はそこにも縦の重力を感じ、首を横に振り続けた。
個とはすなわち「点」でもあった。点は、どこにでもつながれる。線になり立体になってしまうと、持ち込めない持ち出せない場面が増える。僕のやりたいことが縦のスケールによって狭められるのだけは厭だった。

「横」:
時代の変わり目だったのか、出会えた人々が寛容だったのか、才能があったのか、そもそも僕らの組織体系に誰も興味がなかったのか。僕らは「点」の存在のまま、縦にも横にも縛られない、縦横無尽の活動を続けている。続けるうちに、縦の力が必要なのも分かってきた。横スクロールだけではけして出会えないラスボスの存在。そこに辿り着くためには、あとどれくらい時間が必要なのだろうか。

「縦」:
そもそも、時間の流れは横に流れているのだろうか。縦に流れているのだろうか。バックミラーに流れる景色は過去なのだろうか。引力には縦と横があるのに、重力には縦しかないのはおかしいのではないか。チーズバーガーとハンバーガーの違いに過ぎないのか。いやいや、地球を離れれば重力は縦にも横にも機能しているじゃないか。
横井軍平が十字キー(正式名称:十字ボタン)を発明しなかったら、ゲームはどうなっていただろうか。発明以前のゲーム(ゲーム&ウォッチ)には、左右の押しボタンしかなかった。「指の感触でどっちの方向を押しているのかが分かるようにしたい」という意図から作られた十字キーの普及によって、縦に進みたいのか横に進みたいのか、手元を見なくとも分かるようになった。

僕はいま、縦に進むべくボタンを押している。横になったままなので、うっかり横に進んでしまうのかも知れない。

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