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川田十夢公私ともに長男。「AR三兄弟の企画書(日経BP社)」、「ARで何が変わるか?(技術評論社)」、TVBros.連載「魚にチクビはあるのだろうか?」、WIRED連載「未来から来た男」、ワラパッパ連載「シンガーソング・タグクラウド」、エンジニアtype連載「微分積分、いい気分。」など。発明と執筆で、やまだかつてない世界を設計している。https://twitter.com/cmrr_xxxhttp://alternativedesign.jp/

青雲、それは君が見た光。

川田十夢
公私ともに長男。「AR三兄弟の企画書(日経BP社)」、「ARで何が変わるか?(技術評論社)」、TVBros.連載「魚にチクビはあるのだろうか?」、WIRED連載「未来から来た男」、ワラパッパ連載「シンガーソング・タグクラウド」、エンジニアtype連載「微分積分、いい気分。」など。発明と執筆で、やまだかつてない世界を設計している。
https://twitter.com/cmrr_xxx
http://alternativedesign.jp/

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上田を軸にして考える、プライマリースクール・ウォーズについて。

2012.07.04

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まず、この映像を見て欲しい。2012年5月に京都の元立誠小学校で初上演した『プライマリースクール・ウォーズ』の冒頭、ヨーロッパ企画上田誠とAR三兄弟、初の合作です。一見、映像を合成しているようにも見えるかも知れませんが、黒板をスクリーンにしたプロジェクション・マッピングなので、実際に映像で見えているものは現実に見えます。



このプライマリースクール・ウォーズという作品が出来上がるまで、上田誠と僕は何度か対話と会話を重ねてきました。それは、初対面(はてな特集記事)だったり、共演(ショートショートムービーフェスティバルSF映画大会)だったり、呑み屋だったり、直接会話だったり、間接対話だったりする訳ですが。この作品を作ることになったのは「川田さんが監督したプロトコルを観て思ったんですけどね。物語が物語にまだなっていない。僕の主戦場はお芝居ですし、逆にプログラムのことは分からないし、一緒に作ることでいままでにない新しいエンターテインメントを作れるような気がするのです。」という上田誠の言葉でした。とても気持ちがいいオファーだと思うのですが、当時の僕からすると少し複雑でした。だって、物語の中に技術を持ち込める登場人物として、僕はAR三兄弟という物語を順調に書き進めているつもりでしたから。でも、この複雑な気持ちをおさめてまで一緒に新しいものを作りたいという気持ちが、すぐにむくむくと芽生えました。上田誠という男が、彼が率いるヨーロッパ企画という劇団が、虚と実を無尽に行き来することに、それをエンターテインメントとして成立させることに、誰よりも早く成功しているからです。
例えば、2005年に朝日放送で放送されたロケコメ。「ルールはただひとつ、町で、コメディを演じること。ただし、そのロケーションは、あらかじめ指定されており、演じ手は、その場所に合わせたコメディを作り、それを、実際のお客さんの前で演じなければならない。つまり、町がそのまま劇場になる。それが、ロケコメ。」要するにバラエティ番組なのですが、このクオリティが半端ない。ARと名乗っていないものの、僕はこの手法こそ拡張現実のいち形態、完成形のひとつであると初見で思いました。あと、上田誠のポテンシャルの高さも信頼に足るものがあります。だって、あの大喜利の祭典ダイナマイト関西で、うっかり優勝したことがあるんですよ。芸人でさえ決勝大会へ進むのが難しいあの大会で、作家として唯一優勝している。全体的に、僕がやったことにしたい。悔しいけど、安易に認めたくはないけど、凄いものは凄い。こんな人物と作品をつくれる幸運を、まずは享受すべきではないか。
こうして、上田誠との共作は始まりました。僕はヨーロッパ企画の芝居をほぼ全部観ているし、彼は元々ある感性の中で拡張現実を理解していました。舞台装置としておもしろくなりそうな試作のひとつに、黒板という質感にプロジェクションマッピングをするというアイデアがありました。出来映えがよかったこともあり、これをベースに設定を考えることにしました。結果的に、目と耳の奪い合い演劇みたいなのがいいなと落ち着きました。彼の物語の作り方は特殊でした。ドラゴン青年団の台本を同時に進めていたとはいえ、シナリオが完成したのは上映の三日前。それまでに決まっていたのは、タイトルと設定のみ。直前まで、視覚と聴覚の認知に関する膨大な資料を一緒に漁っていました。ここまでは、僕がAR三兄弟の作品を考えるときと同じでした。違っていたのは、起承転結(なだらかな起・粘りのある承・加速する転・飛翔して着地する結)でした。僕がAR三兄弟の物語を考えるとき、起承転結を起(承転)結として考えることにしていました。これは厳密には、AR三兄弟が作り出す拡張現実が、現時点ではまだ構造的に長時間に耐え得るものではないことに由来して、仕方なくこうならざるを得なかったのですが。この承転を省略する癖が、映画や演劇や小説を考えるときもうっかり抜け切れずにいました。これは、僕の作家としての弱みであったし、今回痛感したことでもありました。同時に、劇作家の個性というのは、起承転結の時間配分だし、構成能力だし、破壊力だなとも思いました。膨大に調べ上げた対象やモチーフを、どれだけ空気に変えるか、台詞に落とすか、作品の重みにするかでもある。これは、京都に滞在したとき、上田誠の書斎に泊めてもらったことから考え至ったことでした。
こうして生まれたプライマリースクール・ウォーズは、上演を重ねるとともに、色んな賞を穫ったり、評価が一人歩きしたり、一人歩きした評価が意思をもって図に乗ったり、その反動で鬱になったり、またその反動で独立国家の総理大臣だとのたまったりするのだと思います。でも、僕はこれが完成するまでに彼と交わした会話だとか時間こそ、とても貴重な体験だったと考えています。これからまた新しい物語を構造ごと作ってゆくうえでの、原動力となってゆくのだと思います。そしていつか、棒倒しという役目を負うのだと思います。

*この記事は、本日7/4(水)に発売されるTVBros.の連載『魚にチクビはあるのだろうか?第16回:上田を軸にして考える、棒倒しという役目について。』との連動記事となっております。ここでは書いていないことを、違う視点から、同じ密度で、738文字で簡潔に文章にしています。

*そして、7/17からはじまる連続ドラマ『ドラゴン青年団』。上田誠の最新作です。ぜったいおもしろいので、是非。

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