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川田十夢公私ともに長男。「AR三兄弟の企画書(日経BP社)」、「ARで何が変わるか?(技術評論社)」、TVBros.連載「魚にチクビはあるのだろうか?」、WIRED連載「未来から来た男」、ワラパッパ連載「シンガーソング・タグクラウド」、エンジニアtype連載「微分積分、いい気分。」など。発明と執筆で、やまだかつてない世界を設計している。https://twitter.com/cmrr_xxxhttp://alternativedesign.jp/

青雲、それは君が見た光。

川田十夢
公私ともに長男。「AR三兄弟の企画書(日経BP社)」、「ARで何が変わるか?(技術評論社)」、TVBros.連載「魚にチクビはあるのだろうか?」、WIRED連載「未来から来た男」、ワラパッパ連載「シンガーソング・タグクラウド」、エンジニアtype連載「微分積分、いい気分。」など。発明と執筆で、やまだかつてない世界を設計している。
https://twitter.com/cmrr_xxx
http://alternativedesign.jp/

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十年ぶりに、特許事務所に行って来た。

2013.03.29

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十年前にお世話になったのは、ミシンとインターネットをつなぐというざっくりとした特許を発案したとき。はっきり言って、その時の印象があんまりよくなかった。

僕:「○○っていうところが斬新。この発明は、やがて文明単位で人間の暮らしを豊かにすると思います。」
国際弁理士:「そう言われましてもねぇ。それが斬新かどうかは、特許では問題にならないのですよ。」
僕:「は?(なにその対応)じゃ、何が問題になるんですか?(この斬新がお前には理解できないのか?)」
国際弁理士:「要するに、特許というのは訴えられたときの防御手段として企業が持っておくカードですからね。それが文明単位でどうとか、論外なんですよ。」
僕:「あ?(なんだこいつ)そんな下らないことの為に、僕はいままで1ヶ月も費やして資料を作ってきたのですか?」
国際弁理士:「あなたが何ヶ月それに費やしたのかは、私は関知しません。でも、特許というのは数十年かけてやってひとつの特許をようやく取ることができるというのが、頻繁にある世界です。あなたの費やした1ヶ月って、一般的にとても短いですよ。」
僕:「(完全にキレた)一般の物差しで僕を評価しようってこと自体、間違っています。そして、こんな下らないことの為に僕の頭脳と時間を使いたくありません。あとは、会社の連中にやってもらいます。金輪際、このような会議には顔を出しません。僕は、1ヶ月を費やして、文明単位で暮らしが豊かになる技術と概念を発明した。それが特許になろうが、なるまいが、僕の知ったこっちゃない。大体、企業のカードのために技術があるって発想からして終わってる。1秒たりともこの空間に存在したくない。あとは、お任せします。勝手にやってください。」

以降、僕は特許関係の会議には一切参加しなかった。その後、あの技術が世の中に出たというニュースは聞かないし、僕もメーカーを出てしまったから顛末は分からない。
話を元に戻す。僕は今日、十年ぶりに特許事務所に行って来た。前のことがあったので、正直よく思っていなかった。が、今日交わされた会話で、印象が一変した。お話した弁理士がとにかく優秀な人だった。

「特許なんて、あってないようなものですよ。」
「特にソフトウェアの領域。どんなに斬新でも、なかなか認められない。」
「Googleの記念日ロゴの特許は、2001年に特許申請があってものをずっと放っておかれて、2011年になってやっと米特許商標庁が特許を認めた。あれだって、いつ取り下げられるかわからない。」(
「特例として特許項目として認められるものというものがあって、それは国が守りたいものでもある。フランスの匂いに関する特許はそれ。」

大半のことはここでは書けないのだが、彼の話には難しい話を一般に広く理解させようとするユーモアがあって、聞きやすかった。あんなに大嫌いだった特許の話が、ポップに思えてきた。特許にまつわる本も、うっかり何冊か買ってしまった。本当に技術について分かっている人は、技術そのものに敬意を持っている。ひいては、それを生み出す人間のことを理解しようとする。だから、斬新を生み出そうとする人間が、一般的な常識だとか社交辞令だとかで評価されることを嫌うことを、よくわかっている。

僕のアイデアは、全部パクっていい。最初に書いた本にもそう書いた。だって、小説に特許なんてないですから。ただ、そこには文体だとか構造だとか概念だけがあって、それを真似る人も大勢いるわけで。それでもなお、その作家が書いた文章を読みたいと思う読者がいるわけで。だから、僕が第一人者かどうかも、『読者』が決めればいい。特許に関して考えていることは、つまりそういうこと。十年前も十年後も、変わらない。僕のアイデアは、全部パクっていい。

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