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小西康陽音楽家NHK-FM「これからの人生。」は毎月最終水曜日夜11時から放送中。編曲家としての近作である八代亜紀『夜のアルバム』は来年2月アナログ発売決定。現在、予約受付中。都内でのレギュラー・パーティーは現在のところ、毎月第1金曜「大都会交響楽」@新宿OTO、そして毎月第3金曜「真夜中の昭和ダンスパーティー」@渋谷オルガンバー。詳しいDJスケジュールは「レディメイド・ジャーナル」をご覧ください。pizzicato1.jphttp://maezono-group.com/http://www.readymade.co.jp/journal

小西康陽・軽い読み物など。

小西康陽
音楽家

NHK-FM「これからの人生。」は毎月最終水曜日夜11時から放送中。編曲家としての近作である八代亜紀『夜のアルバム』は来年2月アナログ発売決定。現在、予約受付中。都内でのレギュラー・パーティーは現在のところ、毎月第1金曜「大都会交響楽」@新宿OTO、そして毎月第3金曜「真夜中の昭和ダンスパーティー」@渋谷オルガンバー。詳しいDJスケジュールは「レディメイド・ジャーナル」をご覧ください。
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正月休みに実家で「サザエさん」を読むこと。

2011.12.31

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年内にブログを更新、と思っていたが、ついに大晦日になってしまった。
 
年末が近くなったら、今年作った『11のとても悲しい歌』、という自分のソロアルバムのことを書こうと考えていたのだが、少し遅くなりすぎた。
 

 
毎年、年末年始になると、「このミステリーがすごい」とか、「このマンガを読め」とか、あるいはお薦めの映画をDVDで、といった特集をどこでもやる。
 
そういうものに乗せられて、正月休みに読んでみたりするのは決して嫌いではない。
 
そのような気分で、このアルバムを聴いてもらえたら嬉しいと思った、というのも、ひとつにはある。
 

 
ちょうどタイミングよく、このソロ・アルバムは「ミュージックマガジン」誌の年間ベスト・アルバムの<歌謡曲/J-POP>部門の1位に選ばれた。
 
日本語の歌詞を持つ歌の入っていない、さらには全ての曲を外国人が歌っているアルバムが<歌謡曲/J-POP>部門で選出される、というのは、つまり<日本のロック>、あるいは<クラブ・ミュージック>、としては、絶対に認めないということだ。そう解釈したのだが、どうだろう。
 
とはいえ、以前にも書いたが「ミュージックマガジン」は、10代のときに自分に決定的な影響を与えてくれた音楽雑誌だった。
 
創刊当初は毎年4月の選出だった年間ベスト・アルバムや、批評家によるベスト・テンなどは何度も繰り返し読み、選ばれたアルバムを聴きたい、と思った。大学生の頃になると、自分でも年間のベストを選ぶ真似事をしてみたこともあった。
 
自分がこの雑誌を定期購読しなくなったのは、たしか自分がミュージシャンとしてレコードを作るようになった頃のことだ。そして、初代編集長であった中村とうようの死んだ年に、自分のソロ・アルバムは年間ベスト・アルバムに選ばれた。まあ、そんなものです。
 
年間ベスト・アルバムの1位に選ばれるのと、年間ベスト・アルバムの選者に選ばれるのと、これはどちらが名誉なことなのだろう。
 

 
もうひとつ、このアルバムを年末年始の休みにあらためて聴いてもらいたい、と思ったのは、つまり作り手としては、一年に一度くらいの頻度で思い出して聴いてくださるのがちょうど良いのかも、と考えているからだ。
 
どんなレコードだろうと、何度も繰り返し聴けば飽きてしまう。だから飽きる前に他のレコードを聴くようになってくれたら有難い。そして、例えば正月休みにでも、思い出したように再びこのアルバムを聴いてもらえたら、と思うのだが、それはあまりに虫の良い話だろうか。
 
毎年でなくても構わない。三年後、あるいは五年後、十年後。正月に帰省して、実家に置いてあった「サザエさん」とかを読み返すように、思い出して聴いてもらえたら嬉しい。このアルバムのために選んだ歌の歌詞と、ヴォーカリストたちの歌は、何年後かにあらためて聴いたとき、何がしかの発見、何がしかの印象の変化を感じるはずだから。
 
歳月とともに輝きを増すアルバム、などと言うつもりはない。けれども、聴き手であるあなたは確実に老いて、確実に心境も変わっていると思うのだ。
 
だから、編曲は出来る限り時代の推移によって古びてしまうことのないように心掛けた。簡単に言えば、最初から時代遅れなサウンドにした。どんなに時代遅れな音でも、十年前に解散したバンドのメンバーによる最初のソロ・アルバムくらいは、興味本位で聴いてもらえるのではないか、と思った。
 
そんなわけで。大晦日の夜、紅白を観て、年越し蕎麦を食べて、「ゆく年来る年」を観て、新年を迎えて、『喜劇・初詣列車』も観終わって、もう寝床に入ろうか、それとも、もう少し酒を飲もうか、という朦朧とした時間に、このアルバムを聴いてもらえたなら、自分はとても嬉しい。最後のトラックにはとてもスウィートな曲を置いているので、それを聴きながら炬燵の中で眠ってくれたら素晴らしい。
 

 
年が明けて1月には、ヨーロッパからこの作品の輸入盤が入ってくるはずだ。けれども、海外盤には当然のことながら、日本語の歌詞対訳のブックレットは添付されていない。このアルバムのいちばんの聴きどころは歌詞なので、英語のヒアリングが得意、というのでもないなら、やはり国内盤のCDをお勧めする。
 
配信もしているのだが、対訳について、とくに何の配慮もしなかったのは自分の落ち度だった。
 
と、ここまで書いた時点で、フカミマドカさんのブログで、このピチカート・ワンのアルバムが今年の邦楽のベストの内の一枚に選ばれているのを知った。自分にとっては、これが一番の勲章なり。
 

 
そういえば、渋谷ハイファイ・レコードストア年始恒例のセールの特典として、ここ数年作っている『これからの人生。』というCD-Rの選曲をしていて、一曲、素晴らしい歌詞を持った歌を見つけた。以前から聴いていた曲だが、ちょっと気になって歌詞に注意してみると、ピチカート・ワンのアルバムに収めても違和感がなかったような内容だった。
 
ソロ・アルバムを出した後すぐに、ああ、この曲を忘れていた、と思い出した曲がひとつ。高校生のときに買ったザ・ビーチ・ボーイズのアルバムに収められていた、無常感漂う歌。
 
今年の夏、名画座で観た映画の中で使われていて、この曲があったか、と気付かされた曲がひとつ。この曲を最初に聴いたのは、洋楽ポップスを知って夢中になった小学生の頃。だが、それがどんな歌詞なのか、知りたいとも思わなかった。
 
そして先週末、CD-Rの選曲をしていて、これはレパートリーにしても良いか、と思った曲がひとつ。
 
5月にアルバムをリリースした後の7ヶ月間で、次のアルバムに使えそうな曲を3曲、見つけた計算になる。このペースで行けば、2年後には新しいアルバムを作ることが出来る。だが、もう一度、同じ趣向のアルバムを作る必要があるのだろうか。
 

 
ハイファイ・レコードストアの<お年玉プレゼント>として、『これからの人生。』、というミックス・CDを作り始めてから4年目になる。
 
さらにその前の年、京都のジェットセット、というレコードショップの、やはり年末年始のセール特典として、同じ題名のミックス・CDを作ったのが、このシリーズの最初だった。
 
07年の暮れ、最初にジェットセットのスタッフからオファーを貰ったときは、ミックステープとか作ること自体が面倒で正直な話、躊躇していた。 いつも何かとお世話になっているレコードショップなので、引き受けたいけれども、自分のDJセットをクラブ以外の場所で聴かれるというのも、何となく嬉しくない。いま、Ustreamによる配信でDJプレイを聴かせることに対して消極的なのも、同じような気持ちからなのだが。
 
だが、とりあえず引き受けた。どこかのカフェで行なったラウンジ風の選曲のMDがあったから、それをリマスタリングして渡そうか。そんなことを考えていた矢先、とつぜん言葉が降りてきたのだった。
 
「これからの人生。」
 
ミシェル・ルグランの曲にアラン&マリリン・バーグマン夫妻が歌詞を付けた曲の邦題であり、シモーヌ・シニョレが出たかなり重い感じのフランス映画の邦題もまた、この言葉であった。
 
だが、このタイトルでミックステープを作るとしたら、音楽もクラブ・ミュージック、ダンス・ミュージックから離れて選曲することが出来るはずだ。
 
ちょうど前の年に大病をして、酒を飲まない生活に変わってから、夜の長い時間に聴く音楽もすっかり変化した。
 
ドラムスの入っていない音楽。無伴奏の歌や楽器の独奏。呟くように、語りかけるように歌われる歌。真夜中に独りで聴くための音楽。
 
そうしたものを集めたら、他のどんなDJとも違うスタイルのミックスCDになるはず。「これからの人生。」とは、まさに相応しいタイトルだと思った。
 
初めて作ったミックスCDは、グレン・グールドの「ゴールドベルグ変奏曲」と、自分のぼそぼそとした語りから始まった。
 

 
翌08年のある夏の夜、代官山のカフェでハイファイの松永良平さんが友人たちとDJをしているところに、大江田信さんが来ていて、この『これからの人生。』、というCDRの話になった。小平市から渋谷に向かう通勤電車の中でときどき聴いている、という大江田さんに、今年の暮れはハイファイでこのCDRを作らせてもらえませんか、と売り込んでみたのだった。
 
それから4年、毎年暮れになるとこのCDRの選曲をしている。最初の年は組んだばかりのバンド、前園直樹グループの音源などを入れた。翌年は手掛けていたミュージカルの仕事にちなんで選曲した。去年は自分のソロ・アルバムのレコーディングの最中だったので、そのレパートリーの原曲などを多く選んだ。
 
そして今年は原点に戻って、というつもりではないが、特にテーマなどはなく、ただ2011年に入手したレコード、好きなレコードを中心に約70分の音楽を選んだ。
 
このアルバムを特典とする<お年玉プレゼント>のキャンペーンは、ハイファイ・レコードストアで既に始まっている。店舗のほうは新春4日まで休業しているが、詳しくはネットショップをどうぞ。
 

 
もうひとつだけ、書いておこう。2011年に発表した自分のソロ・アルバムも、毎年作っている『これからの人生。』、というミックスCDも、本当はクラブ・ミュージックを熱心に聴いているリスナー、あるいはトラックメイカーにこそ聴いてもらいたいのだが、いまのところ、そうした聴衆には届いていないように見える。
 
自分が何を言っても、何を作ったとしても、歌謡曲/J-POP部門の作品と見られてしまうのは、いままで自分が仕事を選ぶことなく何でも引き受けてきたからに違いない。所詮、自分は<二流小説家>、というわけだ。
 

 
いつもこのブログで紹介したい、と思う本などがあるのだが、たいがい時期を逸してしまう。来年からはもう少し、頻繁に書こう、とは思うのだが。あ、『淀川ハートブレーカーズ』、という本だけは、本当に素晴らしかったので、皆さまぜひ。
 
それでは皆さま、どうぞ良いお年を。