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フイナムテレビ ドラマのものさし『若者たち 2014』

2014.07.30

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2014 January-March vol.04
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公式HPより
『失恋ショコラティエ』6~8話 フジテレビ 月曜21:00~
人妻になった紗絵子(石原さとみ)にずるずると思いを寄せる爽太(松本潤)の妄想恋愛は、セフレ・えれな(水原希子)の行動によって別の文脈へと移行する。えれなは、片思いの相手・倉科に告白し、あっけなくフラれたことで相手への思いを断ち切ろうとする。片思い中は「実在しないファンタジーの世界のひと」のように思えた倉科が、告白してはっきりフラれたことではじめて現実に存在するひとに思えたと、えれなは言う。
その姿を見た爽太も、ずっと自分のなかの「妖精さん」だった紗絵子に「ちゃんと告白して、ちゃんとフラれるんだ」と誓う。バレンタインデーにこれまでの紗絵子への思いのすべてを注ぎ込んだチョコをつくり、真正面から告白して玉砕し、吹っ切ろうと決意した爽太の表情はいっそ清々しい。爽太にとって紗絵子はインスピレーションの源であり、クリエイションの源泉なのだ。バレンタイン用のチョコをつくりながら爽太はこうつぶやく。
「まるでパックリ開いた傷口からひらめきが溢れ出すみたいだ。滲みないわけじゃない。でも、それよりうれしい。何かを生み出せる力が沸くことがうれしい。」
妖精さんに告白してちゃんとフラれることで、紗絵子という現実に存在するひととして捉えて脳内から追いやり、次へ行こうとする爽太のもくろみは、しかし幸か不幸か叶わない。なぜなら、冷酷で、ときに暴力的になる夫との関係に嫌気がさした紗絵子は、爽太のつくったチョコをうっとりと口にしながら爽太への思いを募らせていたのだから。
ファンタジーと決別しようと思ったら、そのファンタジーがあっさりと現実のものになってしまう戸惑い。もちろん、そのままで済むはずもなく...。
と、筋を追いながら書いていると、「恋愛ってたいへんだな」とつくづく思う。恋愛とは、食べ物や飲み物のようになくても困るものではないが、あることで人生に彩りや華やぎがもたらされるという意味では、まさにこのドラマで扱われるスイーツのような嗜好品に近い。そして、一度その甘美なる世界に触れた者は、中毒になる可能性がある。
紗絵子のような女性は、同性からすれば「ブリッコ」「つくってる」などと言われ忌み嫌われる存在の典型のはずなのだが、本ドラマにおける石原さとみの圧倒的な女子度の高さも手伝ってか、同性の視聴者からも支持されている点は興味深い。爽太に片思いしている地味系女子(酒癖悪し)の薫子(水川あさみ)には自分に近い親近感を抱きつつも、注視すべきなのは紗絵子だ、ということか。
女性が女性アイドルのディープなファンになることもごく当たり前の時代、男心を自在に転がす紗絵子を否定するのではなく、むしろその技に学ぼうという姿勢の表れなのかもしれない。それは昨今の若い女性の貧困問題などとも実は密接な関係があり...などと言い出すと話がややこしくなりそうなのでやめておく。
それにしても、嵐ファンの小学生も見ている時間帯でこれだけ「セフレ」というワードが頻出するのもすごい。「ママ、セフレって何?」「間男って?」と聞かれたら親はどうリアクションするんだろうとも思うが、心配しなくてもイマドキの小学生はとっくに知ってるか。
爽太のやっていることは要するに不倫なのだが、松潤で、月9で、こういうドラマをやってしまうと、もうぬるい恋愛ドラマはつくれなくなるだろう。という意味では、間違いなく『モテキ』以降の恋愛ドラマのひとつの到達点といえる。
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公式HPより
『なぞの転校生』6~8話 テレビ東京 金曜24:12~
4話以降、不良グループの鎌仲(葉山奨之)らが登場し、突如として不良マンガテイストを帯びたが、なぞの転校生・山沢にアステロイドなる特殊なバイオアプリであっけなくコントロールされて骨抜きになり、そうこうするうちに山沢の住むD-8世界から容体の悪化した王妃一行が時空を超えてやって来て...と、見ていないひとには何のことやらさっぱり分からないであろう怒涛の展開が繰り広げられている。テレビドラマの枠でできるSFの限界に挑戦したともいえる、実に見応えのある野心作だ。
我々の良く知るこの世界のすぐ横に「平行世界」なるものがあり、良く似てはいるが少しだけ違う世界が無数に存在しているというパラレルワールド物の映像化は案外ハードルが高く、下手をするとチープなものになりがちなのだが、本作はカメラワークやライティング、節度あるCGの使い方によって独特の世界観の表出に成功している。ようするに、全編ゾクゾクする「SF的リアリティ」に溢れているのだ。そして、「日常とは何か」について考えさせられる。空が、夕日が、花が、教室が、そこにあることの意味について。
D-8世界からやってきた姫のアスカ(クックドゥのCMで豪快に中華料理を頬張っていた杉崎花)のいかにも超然とした佇まいも「別の世界から来た感」に満ちているし、アイデンティカだのキャトルミューティレーションだのといったよく分からないがソレっぽい用語が飛び交う様もワクワクする。
岩井俊二、長澤雅彦という映画界からの使者によって、従来のテレビドラマでは味わったことのない肌触りを体感させられる。まさにこのドラマ自体が、ドラマ界にやってきた「なぞの転校生」だ。
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公式HPより
『明日、ママがいない』5~7話  日本テレビ 水曜22:00~
『国家なる幻影』とは石原慎太郎の著書のタイトルだが、このドラマを見ていると「家族なる幻影」というフレーズが脳裏をよぎる。親に捨てられた子どもは、どこかにいるかもしれない理想的な親の幻影を追い求め、何らかの事情で子を失った、あるいは子に縁のなかった大人は理想的な子どもの幻影を探しつづける。
放送中止を求める声を受けて、元々の脚本のどこをどう変えたのかは分からないが、たとえば以下のようなくだりは、世間なるものに対する辛辣なアンチテーゼとして逆に付け加えられたのではないかと想像できる。
6話、児童養護施設「コガモの家」の職員・ロッカー(三浦翔平)が暴力沙汰を起こし、施設の子どもたちから拒絶されそうになったとき、施設長(三上博史)は子どもたちを前にこう説く。
「大人の中には、価値観が固定し、自分に受け入れられないものはすべて否定し、自分が正しいと声を荒げて攻撃してくる者もいる。それは胸にクッションを持たないからだ。 そんな大人になったらおしまいだぞ。話し合いすらできないモンスターになる。だが、おまえたちは子どもだ。まだ間に合うんだ。」「つまらん偽善者になるな。」
話し合いすらできないモンスター。「子どもたちがかわいそう」という一見まっとうな意見の裏にある上から目線と差別。そうした世間なるものの見えない暴力に真っ向から立ち向かう反逆性がこのドラマには当初からあったが、それがクレームを受けてより強いものになっているとすれば、むしろそれはドラマの勝ちだろう。キービジュアルでThe Whoをモチーフにしたり(vol.1参照)、芦田愛菜演じるポストがモッズコート風のアウターを着ているのはダテじゃないのだ。
7話では、ついに伝説的ドラマ『家なき子』(脚本は本ドラマ脚本監修の野島伸司)で主演を務めた安達裕実が、子どもを事故で失ったもののいまだに死を受け入れられず精神に変調を来している母親役で登場。かつての名子役と当代の名子役・芦田愛菜の共演が実現した。
野島伸司といえば、初のマンガ原作である『NOBELU-演-』(『少年サンデー』連載中。作画・吉田譲)では、「生きていくために演じる」子役の世界を過激に描いている。当初、『明日ママ』でも児童養護施設を子役の世界のメタファーとして描いているフシがあったが、回が進むごとにその要素は影を潜めていった。ようするに、メタファーなんていうものが通用しないのが世間なのかもしれない。
子どもたちがポスト(赤ちゃんポストに預けられていたから)、ドンキ(母親が恋人を鈍器で殴ったから)、ボンビ(家が貧乏だから)といったあだ名で呼び合うことが問題視されたが、複数の人物が入り乱れる群像劇で視聴者に名前と顔をすみやかに覚えさせるうえで、この手法はとても効果的だった。もしこれがマナミだのユカだのといった名前だったら誰が誰やらという感じだったかもしれない。
たとえば、『ロストデイズ』(フジテレビ 土曜23:10~)では7人の同世代の若者たちの名前と顔が一致するまで時間がかかったことを思えば、あだ名をつけたのは正解だったし、それによって各キャラクター像も明確化された。ピアノがうまいからピア美、とかね。
そういえば、何人もの養子をとっていることで有名なアンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピット夫妻の養子になることを夢見ていたボンビ(渡邊このみ)が「ジョリピ~」と腰をくねらせながら叫ぶのは、『時間ですよ』で樹木希林が沢田研二のポスターの前で「ジュリ~」と叫びながら腰をくねらせる有名なポーズのパロディだと思うのだが、ネタが古すぎて「あのジョリピ~のくだり意味不明」などといわれているらしい。さすがに昭和すぎたか。
では、いいドラマを。
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