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石井克人監督と妻夫木聡が語る、 『スマグラー おまえの未来を運べ』に込めた想い。

2011.10.17

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作品を観終わった瞬間は気分爽快。でも、振り返ってみると随所に差し込まれたディープな映像が、清々しい気分を覆い尽くしてしまう。なんとも「奇妙」な作品『スマグラー おまえの未来を運べ』。手がけたのは日本を代表する奇才・石井克人監督。主演を務めたのは俳優として目覚ましい活躍を見せる妻夫木聡。この2人の言葉をもとに、本作に潜む「奇妙」の答えを探っていく。

Photos_Maeda Kozue
Text_Hiroshi Yamamoto

石井ワールドにおける妻夫木聡の役割とは。

―まずはこの作品をご覧になった感想を教えて下さい。

石井:感想というよりも、精一杯やったなと(笑)。

妻夫木:(笑)。僕の場合、自分が出ている作品は客観的にみることができないんですよね。ついつい、自分の反省点ばかり探してしまう。ただ、刺激的な作品に仕上がっているかと、それは間違いありません。

―そもそも漫画『スマグラー』を原作に選んだ理由は何だったのですか。

石井:どういうわけか、僕の周りにはディープな作品を求めてくる人が多くて(笑)。実際に濃い内容の脚本を書き進めていたんですよ。ただ、濃過ぎるほど壮大な物語になってしまい、これは実現不可能だと諦めていたときに、たまたま家にあった『スマグラー』を手に取って。と同時に新しい映画の話も頂いて......、という感じですね。

妻夫木:漫画『スマグラー』も現実と非現実の境界が絶妙というか。原作と石井監督の世界観に通じるものがありますよね。僕の場合は本当に石井監督のファンなので、『スマグラー』に「石井監督」という2つのキーワードが並んでいるだけで興味が沸いていましたね。

―妻夫木さんは石井監督作品への出演を熱望していたと伺ったのですが。

妻夫木:単純に石井監督の作品って面白いじゃないですか。『鮫肌男と桃尻女』を観た瞬間に、ファンになってしまったというか。いずれ一緒にできればとは、ずーっと思っていましたね。とはいえ願っていても、簡単には実現しないだろうし。いつかできることを心待ちにしていたら、今回のお話が飛び込んできて。正直、かなり嬉しかったです。

―石井監督作品の面白さというのは具体的にどういった部分になるのでしょう。

妻夫木:現実的だけど、あり得ない世界。どの作品にも完全なる石井ワールドが存在する部分ですね。異世界に連れてってくれるというか。テンポも良いし、配役も絶妙、ポップでコミカルなのにダーク、それでいてドラマ性もある。まるでオモチャ箱のようなイメージ。漫画で味わう感覚に近いかもしれません。

―実際に一緒に作品を作ってみていかがでしたか。

妻夫木:凡人とは違うな、と(笑)。石井さんの発想の根本的な部分が、僕らからすると異次元なんですよ(笑)。そういったことを実感しながら作品を作るのは、本当に楽しかったですね。しかも、僕だけでなくみんな同様に楽しんでいるので、現場いる人はほとんどニヤニヤしていて(笑)。異様な光景かもしれませんが、幸せな時間だったと思います。

―石井監督は妻夫木さんを起用してみていかがでした?

石井:ストーリーのなかでも最も衝撃的なシーンを、最初の方で撮影することになってしまったことを「申し訳ないなぁ」と思って観ていたら、妻夫木君の表情が抜群に良くて(笑)。これは確実に印象に残るシーンになるなという実感をしつつ、迫真の演技を面白がって見ていましたね。

―世界観のできあがっている漫画作品を実写化するうえで、難しかったことはありますか。

石井:基本的には、僕が漫画を見た印象を、誠実に映画にしているので、難しいというのはありませんでした。漫画はコマでしか描けないので、僕にはこう見えたというか、自分の解釈を入れやすいんですよね。それと原作が1巻完結というのも、やりやすかったポイントだと思います。1巻を読み終えるのが30分だとすると、残りの60分は好きに埋められますからね。

妻夫木:漫画に捕らわれすぎると難しくなりますよね。ただ、僕はやると決めたら脚本を見るしかないですからね。原作を大事にするというよりも、新しい作品を作るつもりで監督を信じてついていきました。

トラウマをも植え付ける、痛みを伴うエンタメ性。
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―個性豊かな脇役に比べ、極めてフツーの青年である砧役を演じるうえでこだわった部分を教えてください。

妻夫木:みんな個性的なキャラクターを楽しそうに演じているんですよ(笑)。そんな現場のなかで、僕は1人で砧でいることだけに集中していました。気を抜いてしまうと、周りに釣られて演技が大きくなってしまいますからね。

―目を覆うようなシーンもありましたが、現場はどういった雰囲気なんですか。

石井:見ているこっちも痛いですよ(笑)。意図的に痛くしようと思っていましたし。映画館で観ている人たちが、手で目を覆ってくれれば良いなと。映画って、どうしても座って観ているだけになってしまうじゃないですか。作り手としては、そこを何とか動かしたくなるんですよ。

―衝撃のシーンのなかにもコミカルな部分もありますよね。目を背けるというよりも、手で覆いながらも指の隙間から観てしまうな。

石井:痛々しいのは意図的とはいえ、観てはもらいたいですからね(笑)。思いっきりホラーでもないし、かといってバリバリのアクション映画でもない。途中で作品の毛色がガラっと変わるのを目指していたんです。観客が「なんだこれ!?」と戸惑うような。しかもその戸惑うシーンが、砧と河島(髙嶋政宏)の迫真の演技という。是非、注目して観てほしいですね。

―ついついバイオレンスな部分にフォーカスしてしまうのですが、随所にエンタテインメント作品として楽しめる仕掛けも施されています。実際、この作品をどういった方々にご覧になってもらいたいですか。

妻夫木:それは僕も気になりますね(笑)。

石井:若い方々に見てもらいたいですね。10代から20代くらい。あんまり若すぎるとトラウマになる可能性もありますからね(笑)。中学生くらいなら大丈夫かと。PG12なので、中学生から1人で見られますし。

―今作は運送屋のアルバイトが題材となっていますが、お2人はこれまでどういったアルバイト経験をしてきたのでしょうか。

妻夫木:いろいろやってきましたよ。引越業者にファミレスの厨房、テレフォンアポインターにデリバリースタッフ、横浜スタジアムで売り子もしていましたね。

石井:ビアガーデンのホールもあるし、モスバーガーでも働いていたこともありますよ。あとはホテルマンとか。ホテルマンの頃は評判も良くて(笑)。

―ちなみにスマグラーのようなディープなお仕事は?

妻夫木:さすがに踏み込んではいないですね(笑)。

―今では第一線でご活躍しているお二人が、庶民的なアルバイトをしていたとは意外です。それでは最後に読者へのメッセージをお願いします。

石井:フイナムの読者であれば、好きな方が多いと思います。是非、劇場でご覧になって、そのあとの酒のつまみにでもして頂ければ幸いです(笑)。

妻夫木:「泣ける」とか「ここを観て」とか、映画っぽい宣伝文句がないんですよね(笑)。ただ、映画作りを好きな人たちが、好きな映画を作りたくて、本当に作ってしまった作品です。とにかく面白いので是非、劇場でご覧になってください!

eiga.jpeg 映画『スマグラー おまえの未来を運べ』
監督:石井克人
原作:真鍋昌平「スマグラー」(講談社アフタヌーンKC刊)
出演:妻夫木聡、永瀬正敏、松雪泰子、満島ひかり、安藤政信、阿部力、我修院達也、テイ龍進、島田洋八、髙嶋政宏、小日向文世
配給:ワーナー・ブラザース映画
(画像:©真鍋昌平・講談社/2011「スマグラー おまえの未来を運べ」製作委員会)
www.smuggler.jp
2011年10月22日より全国ロードショー!

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