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FEATURE|Candide Thovex 天才スキーヤー、キャンディッド・トベックスによる映像革命。

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Candide Thovex

天才スキーヤー、キャンディッド・トベックスによる映像革命。

スキームービーの常識を覆した男、キャンディッド・トベックス。フランス生まれの天才スキーヤーが作り出した映像は、何が新しく、革新的だったのか。スキーに親しみのない人でも、思わず見入ってしまう映像作品から垣間見られる彼の思いを考察していく。

  • Illustlation_Takeshi Tomoda
  • Text_Jun Takayanagi

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まずは動画を観てみよう。

オールドスクールゆえに輝く、ニュースクールな感性。

オールドスクールとニュースクール。物事が大きく前進するとき、これはどの業界や分野でも避けては通れない対立軸として姿を露わにする。それぞれの意見や考えは並行し、最悪な結果としては、これから大きく育つ新しい芽を摘み取ってしまいかねない。しかし、そんな悲惨な結末を回避する選択肢も私たちには用意されている。それは2つの橋渡しとなる人物が現れるのを待つことだ。

とりわけアクロバティック・スキーの業界において、この対立軸を結ぶ見事な架け橋となっているのが、フランスのアルプス山脈寄りに位置するアヌシーで生まれたキャンディッド・トベックスというスキーヤーだ。彼がそうしたポジションに付けたのは、彼自身がオールドスクールを通過したスキーヤーだったから。5歳のときに地元のスキークラブでモーグルの練習を始め、14歳でフランスのモーグル競技のジュニアチャンピオンに輝く。以降、フリースタイルスキーヤーとしてのキャリアを積み重ね、15歳でオーストリアのスポーツブランド〈クイックシルバー〉のスポンサーを獲得、17歳のときにはコロラド州で開催された「X Games」のビッグエア種目に初出場し、4位という好成績を収めている。

しかし、転機は訪れる。長年に渡って酷使してきた背中やヒザのケガの影響から、2007〜2008年シーズンをもって競技としてのスキーヤーから引退することになってしまったからだ。そんな彼が次の目標としたのは、従来のフリースタイルスキーより自由度も危険度も高いフリーライドのスキーヤーとして再び輝くことだった。このジャンルは同じエクストリームスポーツであるスノーボードやスケートボードのように地形を利用したトリックやエアーと、レールやボックスのあるパークなどでの遊びがルーツとなっている。従来のスキーのイメージを大きく変える可能性に満ちたフリーダムなスポーツなのだ。

そんなより過激なスキーの虜となった彼の凄さを知りたいならば、つべこべ言わずにインターネット上にアップロードされている動画を見るのが手っ取り早い。特に渾身の3部作となっている『One of those days』は、わかりやすく彼の滑りの魅力を伝えてくれる。

障害物に見立てた人をかわしながら滑り出すという凝った演出から幕を開けるパート1では、滑走コースとは違う「道なき道」を突き進む。最先端のアクロバティック・スキーではオールドスクールに分類されるフリースタイルスキーの分野で磨き上げたスキルをニュースクールであるフリーライドで遺憾無く発揮しているのが見所だ。エアトリックも横回転、縦回転と縦横無尽にやりまくる姿は真の“自由”とは何かを示唆するかのようだ。パート2では、ライディングの過激度はよりいっそう増す。洞窟の中に入り込んだり、リフト乗り場から跳び降りたり、雪のない山道を滑ったり。クライマックスでは多くの人が食事を楽しむゲレンデのレストランスペースを滑走し、最後はスキー場のゴンドラへとイン。これには客たちも怒り、ゴンドラへと詰め寄るが当のキャンディッド・トベックスはクールにこの状況を眺める。このいたずら心は、’90年代のスケートボードの黄金期を築いた往年の名作スケートビデオと相通ずるヤンチャさを醸し出している。

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アウディ「クアトロ」のプロモーション映像からのひとコマ。ゲレンデではなく草原を滑走し、道路を走るトラクターを飛び越え、目を疑うような驚愕のラストシーンに繋がっていく。

スキーは本来、創造性豊かな「遊び」なのである。

そして、集大成となるパート3では、人の股の間を潜る、池の水面を滑る、大きな樹木の先にスキーを当て込む、巻き込まれたら死んでしまいかねないプロペラの回転するヘリコプターやパラグライダーを楽しむ人の上を跳び越える、納屋の中に入り込み出口のガラスを割って滑り抜ける、馬に引っ張ってもらうとやりたい放題だ。おまけにクライマックスでは湖上でヘリコプターにフックアップされるという結末を迎える。このメチャクチャな滑りは、スキーが本来、創造性豊かな遊びだったという事実を知らしめることの裏返しとなっているから驚かされる。全編を通した演出は、アクションカメラを使って彼の目線で撮影されているところ。rawな雰囲気がヒシヒシと伝わるような工夫がなされている。

経済や社会、そして遊びまでも行き詰まりを見せる現代において、その突破口となるのは、オールドスクールのスキルを持ち、ニュースクールのような進取の精神を持つ人物が示唆する新しい方向性ではないだろうか。キャンディッド・トベックスのライディングを見ているとそれが確信めいてくるから不思議なのである。


Candide Thovex
キャンディッド・トベックス。1982年生まれ。フランス・アヌシー出身のフリースキーヤー。超絶なテクニックや壮大な景色に加え、ストーリー性やユーモアを取り込んだスキームービーを配信している。
www.youtube.com/channel/UCsFkInl7eWF0mkBbT2ATbNA


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