歴史だけが生み出せる信頼感。
ーまず初めに坂田さんご自身がこれまでに傾倒してきたミリタリーのカルチャーに関して、最初の出会いから教えてください。
坂田 :80年代のファッションの流れでいうと、ロンドンで言えば『i-D』*1や『THE FACE』*2などの雑誌に代表されるようにストリートやパンクというだけではなく、それまでの“すでに作られたモノ”とされていたファッションに、別のなにかをミックスして新しいものにしていく、というそんな文化が生まれた時代でした。そんな時にファッションとして初めてミリタリーウエアがクローズアップされていったんです。そうしたロンドンからのブームが東京にも浸透してきたんですけど、その頃に僕も当時の感度の高いひとたちに憧れてフライトジャケットなどを着たりしていましたね。
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イギリスはロンドンを代表するファッションカルチャー誌。80年代にユースカルチャーにフォーカスを当てた独自の視点から切り取ったスタイルを提案。今年4月には、日本版となる「i-D Japan」を再創刊した。
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80年代のリアルなティーンエイジャーたちの姿を映し出したカルチャーファッション紙のアイコン的存在。2004年に惜しくも休刊。
ーこれまでに坂田さんご自身、〈アルファ インダストリーズ〉のアイテムはどんなモデルを着てこられたのですか?
坂田 :80年代にレギュラーで生産されていたアメリカ製の黒のフライトジャケットや、当時流行っていたバーガンディーカラーのモノなんかもよく着ていました。最近でも手前味噌ですが、自分で携わったブランドとの別注品などはよく着ていますね。
ー〈アルファ インダストリーズ〉って坂田さんにとってどんなブランドですか?
坂田 :よくあるレプリカブランドではなく、きちんとした長い歴史があって、最も知られているメジャーブランドですよね。ミリタリーアイテムの別注やコラボレーションをする際には真っ先に名前が挙がりますし、信頼感が違いますね。
MA-1 TIGHT ¥17,800+TAX ほか本人私物。
「秋にブラックのワントーンが新鮮かなと思って合わせてみました。全体のフォルム感は90年代をイメージしつつ、トラッドになりすぎないようミリタリーを意識したディテールのロングシャツを今っぽくレイヤードしました。ただしシンプルに、は忘れずに」(坂田さん)
ー実際に〈アルファ インダストリーズ〉の新作のフライトジャケットを着てみて、印象はいかがでしたか?
坂田 :もちろん過去に僕自身が携わってきたブランドを通して何度もコラボレーションもしてきましたので、ブランドやアイテムに関する僕なりのイメージは昔から持っていました。その中でもフライトジャケットは、軍にも支給していた背景を持ちながら、現在ではストリートにも広く活用されているアイテムでもあるので、とても安心感がありますよね。シルエットは現代的にモダナイズされながらも、アイテムとして核となるディテールや匂いはそのまま残しながらアップデートされているな、という印象を受けました。
ーミリタリーのアイテムを着る際にテーマのようなものを持っていたりしますか?
坂田 :フライトジャケットってどこか反骨的だったり、カルチャーを持っている人のモノっていうイメージがあったんです。そういうのって若い頃はかっこよく思えるんですよね。初めはロンドンからの流れではブラックカラーが主流だったんですけど、東京でも渋カジ*3やヴィンテージブームが訪れてミリタリーが流行るようになると、アメリカ製のゴリゴリしたヴィンテージものに注目が集まり、オリーブカラーが流行り出すんです。なのでどちらも着てきましたが、やっぱり当時のロンドンカルチャーというのは、一つのきっかけにはなっていますね。
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80年代後半~90年代に流行したアメカジの進化系。主に501®などのジーンズやエンジニアブーツ、古着などを好む若者を指す。渋谷カジュアルの略。
アメリカではなく、イギリスがもつ空気感に魅せられて。
ー実際に当時のロンドンカルチャーとはどんなものだったのでしょうか?
坂田 :ロンドンを拠点とする「バッファロー」というクリエイター集団がいるのですが、彼らの中にバリー・ケイマンというスタイリストがいまして、彼は元々「バッファロー」のリーダーでもあったレイ・ペトリという伝説のスタイリストの後継者でもあるんですが、その彼と親交があり、彼のスタイリングが個人的にとても好きだったんです。80年代の後半くらいに「バッファロー」やレイ・ペトリという存在を知って、当時は影響も受けました。雑誌でもこぞって彼らのファッションを取り上げていて、それこそクラブなんかに行けば、そうした影響をダイレクトに受けた若者たちが沢山いました。
ー具体的にはどんな影響なんですか?
坂田 :最近も2010年に発売した『i-D』で特集された「バッファロー」の25周年の特集企画内で、彼はリスペクトと皮肉が入り混じった”Monarchy In The U.K.”というテーマを元に独特なスタイリングを展開しているんですが、その中でもフライトジャケットって効果的に使われているんですよね。そうした着こなしは、知らず知らずのうちに僕自身のクリエイションやスタイルにも自然と影響を与えていると思いますね。ものづくりの面でもディテールまで細かく再現するというよりは、その空気感をどう表現していくかということを重点的に捉えています。
ーミリタリーカルチャーと聞くと、アメリカの無骨なヴィンテージものというイメージもありますが、坂田さんがロンドンのカルチャーに傾倒した理由ってなんだったのでしょう?
坂田 :アメリカのミリタリーの方がダイレクトに日本へ流通してきた印象があります。イメージとしては映画の『トップガン』*4でトム・クルーズが白Tとデニムに合わせていたフライトジャケットですよね。もちろんスタイルとしてはとてもかっこいいんですけど、やっぱりあの着こなしはアメリカ人特有のガタイと身長があってこそ、じゃないかなと。日本人が真似しても似合わないんですよね。そういう人も当然沢山いましたが、当時、個人的にはロンドンに影響を受けた、西麻布とかのクラブ*5に集まってくるスキンズやパンクスのようなカルチャーに敏感な着こなしの人たちの方がかっこよく見えたんですよね。アメリカが正統派だとするなら、イギリスは夜だった。その雰囲気に僕は憧れてしまったんですよね。
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1986年に公開されたアメリカ海軍の戦闘機パイロットの青春群像を描いた航空アクション映画。当時、主演であったトム・クルーズのフライトジャケットを着用した着こなしが話題にとなり、社会現象に。
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東京のクラブ黎明期を代表するハコだった『P.PICASSO』。ロンドンカルチャーからの影響を直に受け、当時は”LONDON NIGHT”を冠したレギュラーイベントが人気に。ファッション関係者も多く出入りしていたことでも知られる。
MA-1 LIGHT ¥16,800+TAX ほか本人私物。
「オリーブカラーのフライトジャケットはド直球なアメカジコーディネイトになりがちなので、さらっと綺麗に着るのが最近の気分なんです。合わせるアイテムはグレーを効果的に使いながら、足元だけ軽めな印象の白いスニーカーを選んでいます」(坂田さん)
ー今回の着こなしも、やはりそうした坂田さんの視点から捉えられたミリタリーの背景が反映されているんでしょうか?
坂田 :そうですね。影響をうけたスタイリングから反骨心の象徴でもあったフライトジャケットの存在は知っていったんですけど、だからといってそうした着方をそのまま真似するわけではなく、現代的にというか自然な着こなしの方が僕はいいなと思うんです。メッセージ的なものや軍モノとしての背景とかはあまり気にせず、シンプルに着たい。それは東京に住んでいるということや、自分の年齢も考慮してですね。でもカルチャーとして、そういった背景は知っておきたいという思いは当然あります。
SOUVENIR REVERSIBLE JACKET ¥24,800+TAX
「まず裏地でフライトジャケットを想起させるデザインが〈アルファ インダストリーズ〉らしくていいですね。リバーシブルでも着られるけど、両方スカジャンではないというギミックが魅力です」(坂田さん)
ー最後に、坂田さん自身が今思う、現代的なミリタリーってどんなスタイルをイメージしますか?
坂田 :アメリカやロンドンからそれぞれ異なる背景を持ったミリタリーが東京にも浸透し、そのスタイルを渋カジやクラブに集まる若者たちが取捨選択しながら、着こなしていた時代。そんな時を経て僕自身は改めて、先ほども話した『i-D』や「バッファロー」に代表されるようなロンドンマインドのスタイルに影響を受けている。そこから今の年齢や東京らしさをミックスしながら、あくまでも自然な着こなしを楽しんでいます。