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FEATURE|ロンドンに住まう若者たちの肖像 PORTRAIT IN LONDON VOL2.大竹彩子 アーティスト

PORTRAIT IN LONDON VOL2.大竹彩子 アーティスト

ロンドンに住まう若者たちの肖像

PORTRAIT IN LONDON VOL2.大竹彩子 アーティスト

EU離脱に揺れる2016年の英国。その時々の情勢によって多少の違いはあれど、いつの時代にも首都ロンドンにはあらゆる人種が集まり、様々な文化がうごめいています。これより激動の時代に入るだろう英国において、いまロンドンにはどんな人々が住まい、何を思い、どんなことをしているのか? 2016年より現地に滞在しているフォトグラファー、野田祐一郎によるロンドンレポート、第二弾です。

  • Photo & Interview & Text_Yuichiro Noda
  • Edit_Ryo Komuta
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ー自己紹介してください。

大竹:大竹彩子です。1988年生まれ、愛媛県宇和島市出身です。大学進学のために上京して、卒業後1年地元に戻り、その後渡英しました。セントラル・セント・マーチンズというロンドン芸術大学に通って4年経って、今年2016年BA(学士課程)を卒業しました。今は絵を描いたり、写真を撮ったりしています。

ーどうしてロンドンに?

大竹:一番は父の影響かもしれません。高校のとき、ロンドンに住んでいた父の友人を家族で訪ねたときから、ロンドンの空気に惹かれ始めていたんだと思います。日本で通っていた大学は美大ではなかったのですが、アートにはずっと興味があったので、大学2年の夏休みにセントラル・セント・マーチンズのショートコースで英語とファインアートのクラスが一緒になったものを見つけて、約1ヶ月留学しました。今と比べると英語も話せなかったと思うので、どのくらいコミュニケーションをとれていたのかが不思議ですが、自分で作ったものを誰かに見てもらったりする授業や、ドキドキしながら歩く街など全てが初めてで、新鮮で刺激的でした。それをきっかけにまた絶対ここに帰ってきたいなっていう気持ちが強くなり、大学卒業後に同じくセントラル・セント・マーチンズに戻ってくることになります。

ーお父さんもアーティストですが、その影響を自分で感じますか?

大竹:そうですね。小さいときによく遊んでもらっていました。父のアトリエが家の隣にあって、子どもの頃よくそこに遊びに行って、壁に絵を描いたりしてましたね。あとは、家族でご飯を食べるときに、絵しりとりしたり、一緒にダンボールで家作ったり。それと、一からカルタを作ったり、4コマ漫画考えたり…たくさんありますね。一緒に過ごした時間があったのは、自分もモノを作ることに繋がってる気がします。

ー日本と英国で大学に行ってますが、違いはありますか?

大竹:日本の大学にはちゃんと行ってましたが、飲み会とかサークルは苦手でした。こんな毎日だったら早く留学して、英語を喋れるようになりたいって、ずっと思っていました。もちろん友達と遊んだり、楽しかったこともありますけど、何かずっとモヤモヤしてる感じはありましたね。今思えば、あのときにもうちょっとやっておけばと思うこともありますが…。いまは自分がやりたいことにお金を出してもらってロンドンに来てるわけなので、なんとかしないといけないなと思います。面白い展示もたくさんやっているし、観れるものは観たいって自主的に動くようになったと思います。外に出るようになったというか。

ー大学卒業してから来るのは、遅いと思いませんでしたか?

大竹:確かに、日本だと周りのみんなはちゃんと就職してて、なのに何で私はこんなところに来てしまったんだろうって考えることもありました。日本に帰って働いた方がいいんじゃないかって。「大丈夫、やるしかない! でも…」という葛藤はずっとあったと思います。

ー今は何やってるんですかと聞かれたら、なんと答えているんですか?

大竹:今は、絵も描くし写真やいろんなことに興味があるので、ものを作ってますと答えています。アーティスト、恥ずかしいですがそういうことなんだと思います。よくわからないですし、なんでもいいかなと思います。でも、そうやって自分から言っていかないと、ダメなのかなとも思います。自分で言い切るのは恥ずかしいけれど。写真を撮ってますが、フォトグラファーではないので。感覚的には好きなものを採集するコレクターですかね。

ーイラスト、コラージュ、写真、刺繍といろいろな作品を作ってるイメージがありますが。

大竹:シャーペンで書くのは、もともとずっとやっていました。ただ、写真は人に見せるためのものじゃなかったんです。制作意欲が湧くものをただ撮りためていて、それがいっぱいになってきて、この写真をどうにかしたいと思ったときに先生に相談したらいいねって言ってくれて。それで、写真の専門の先生に繋いでくれて見せに行ったら、その先生も気に入ってくれて。それでこれをプロジェクトの1つにしてみようと思ったんです。それが始まりですね。そのときに「なんだこれ?」って言われていたら、まとまってなかったかもしれません。 刺繍とかもそうですが、手を動かすのが好きです。今はとりあえずいろんなことをやってみたいんです。何かを作り続けてたいっていうのはずっとあって、それがどんな形かはわかりません。誰かが気にいってくれるなら、もちろんそれを売っていくというのも一つの手だと思います。それが簡単なことじゃないのもわかっていますが。とにかくいろんなことに興味を持ってたいです。どこに何があるかわからないですし、展示して人に見てもらいたいし、写真もまとめて本にしたいし、いろんなことに挑戦してみたいです。好奇心が終わったら終わりだと思ってます。何でも見逃したくありません。街を歩いててもいつもキョロキョロしてます。ロンドンは変なものがいっぱいあると思います。

ーなかでも何に興味があるんですか?

大竹:写真と絵は続けないといけないなって思っています。この二つは自分にとって、直感的に選んで記録し続けているものなので。

ーロンドンの街は何が楽しいですか?

大竹:最近「すごっ!」って思ったのは、車を透明のテープで補強してたことです。割れたのかわからないんですが、結構な量でびっくりしました。そういうガムテープで止めてるとか変だな、でも愛おしいなって。買い変えるお金がないだけかもしれませんが、これでいいんだって。それを愛おしいとか、「おぉ!」って反応できる感性があるのはよかったなって思います。興味ないって決め付けたくないんです。

ーロンドンのどんなところが好きですか?

大竹:自分の精神状態もあるのかもしれませんが、ハッピーな気がします。自由というか。カフェに行っても、みんなが挨拶してくれるんです。「Hi! How are you?」って言われると、ちょっと嫌な気持ちも晴れます。単純なことなんですが、 笑顔で話しかけられると元気をもらえますね。 街歩いてても呼び止められて、そのジャケットかっこいいねとか、そのカバンいいねとか。別に伝えなくてもいいし素通りすればいいものを、素直にいいってちゃんと伝えてくれるんです。やっぱり褒められると嬉しいし、そういうコミュニケーションがふとしたときにあるんです。日本ではあんまりそういうことはないと思います。日本のコンビニで「元気?」とか言われると、文化が違うからちょっと違和感があるかもしれませんが、ロンドンはオフライセンス(日本でいうコンビニ)でも、普通にたわいもない会話があるんです。

ー逆に嫌いなところはありますか?

大竹:適当なところですかね。時間通りにうまくいかないことがよくあります。アポイントをとっていても来てないとか。交番なのに誰もいなくて対応してくれないとか。あと雑なところもあります。写真を印刷して製本してもらうときも、色が違うんだけどって言うと、これは仕方ないって。 綺麗に切ってと言ってもずれてたり。そういうところで、ピシッとはいかないですね。でも「それもよしとするか…」っていうか、なんか許せちゃうから、そんなに嫌いなところはないかもしれません。街が汚いといっても、逆にそれを写真に撮りたいと思ったりもするし。曇りが多いけど、空が広いから天気もそんなに気にならないですし。ただ、具体的に怖い思いをしたことはないんですが、日本の夜道と違う怖さはあるとは思います。誰かが叫んでたりとか。あそこに近づいてはいけないなっていうのを感じることはあります。

ー日本の好きなところはどんなところですか?

大竹:便利さ、丁寧さ。こんなことまでしてくれるの?って驚きます。日本に帰ったら行きたいところは、世界堂と紀伊国屋です。見てるだけでも楽しいので毎回うろうろしています。文房具の種類の量が全然違うし、値段も安いんです。私はよくシャーペンを使うんですが、0.2mmというのがあって、ロンドンは売ってないんです。売っていたとしても高い。あとはもちろんご飯が美味しいですね。ドラッグストアとかコンビニにも行くだけで楽しいし、日本独特だと思います。あんなにきっちりといろんな種類のものが、整理整頓されて並んでて、なんでも揃ってる感じがすごいです。 ロンドンはスーパーでも腐ってるものとか置いてあるし、自分でちゃんと見ないといけないんです。自己責任。日本だとお店の責任になりますよね?

ーでは、日本の嫌いなところは?

大竹:「すいません」って言われることが多いかもしれないです。そんなに謝らなくていいのに、って。こっちも「すいません、すいません」ってお互い言い合ってるみたいな。丁寧すぎることがあるのかも。ロンドンは、自分でしないといけないし、して当たり前みたいなところがあるので。

ーロンドンで何を学んだと思いますか?

大竹:自分が作ったものが、人にはどう見えてるのかが知れたし、他の人が全然違う解釈をして違うアプローチをしていることもたくさんあるので、こういうこともできるんだって気付けました。あとは、純粋に絵がうまい人の作品を見てたら、やるしかないなって気にさせられますね。刺激はあります。色んなことを知らなきゃいけない、知識を増やさなきゃいけないなって。あとでき上がった作品よりも、そのプロセスを重要視するときがあるんです。なんでこう思ったの?とか、人から意見もらってそれをどう変えたの?っていう風に。自分の好きなものをただただ描いてっていうのではなくて、色んなことを試しながらできたのは良かったですね。

ーイギリスのEU離脱はどう感じますか?

大竹:難しいことはわかりませんが、大きなことが起こったなという空気は肌で感じました。EU離脱だけではなく、テロなどいつどこでなにが起こるかわからないときをロンドンで過ごしたことは、忘れてはならない重要なことだと思います。難しいことよりも、ただただ身近な誰かが嫌な思いをしなければいいなと思います。

ーこれからの予定を教えてください。

大竹:卒業制作で作ったものを、改めて個展として発表する機会があったんです。たくさんの人に見てもらえて、写真も絵ももっとやってみたい、続けていきたいという気持ちが強くなりました。10月にシンガポールで同じ内容の個展も決まっているので、当面はそれに集中する感じです。そのあとは日本に帰ります。

ー帰国する理由は?

大竹:BA(学士課程)を卒業して、VISAが切れたからです。ロンドンにはまだいたいんですが、住むには高すぎるし、ビザの問題もあるので、日本でどうしていくかを考えようと思いました。自分が何かを作っていくのはもちろんですが、やっぱり親の仕事をもっとちゃんと知って、自分に何ができるのかをそばで知りたいです。どうしてもまたロンドンに行きたいって思ったら、進学とかワーホリという選択肢もあるので、それはそのときに考えればいいかなと。友達で卒業後にベルリンとかアムステルダムに行く子達もいますが、今そこに行くという選択肢は私にはありません。今は、自分でお金を作るようなことをしないといけないと思います。このままここにいても、生活できる十分なお金をすぐに稼げるわけではないですし。また戻って来ればいいやっていう感じです。生きていけるのであれば、場所にこだわってはいません。一旦帰国しますが、日本にずっといないといけないって考えもありません。

ー日本に帰ってやりたいことはなんですか?

大竹:作品を親に見せたいですし、知ってる人にも見てもらいたいです。とにかく人に会いたいですね。不安もあるけど、色んな人に出会えるのが楽しみです。 ロンドンに来て、色んな人に出会ってここまできているので。友達繋がりで個展が決まったり、卒展を見てくれて雑誌が取材してくれたり。この企画もその1つですね。だから、ロンドンに来てよかったって思いますし、これを繋げていかなきゃっていう不安もあります。

ーロンドンでの個展はどうでしたか?

大竹:人に見てもらえる機会を与えてもらえて、単純に嬉しかったです。自分が何をしたいのか、何を見せたいのかを考えるきっかけになりました。 今までは作って、見せて、フィードバックもらって終わり。それをクラスメイト以外の人に見てもらう機会はなかったので。たくさんの人に見てもらえたというのは、自分の刺激にもなったし、やる気にも繋がって良かったです。

ロンドンに来て1番よかったと思うことは?

大竹:作品と呼べるものが作れたことですね。個展もできましたし。 それは絶対1人ではできなかったことだから、色んな人に出会えたのは大きいです。本当に自分自身が変わったと思っていて、人と話すことが楽しくなったんです。人と出会ってそれが連鎖して、今があると思うので。何かに誘われてそこに行かなかったら、なかった話もいっぱいあるでしょうし。不思議な縁もある気がします。

ーアウトプットするということは、自分にとってどういうことですか?

大竹:自分が興味あるものをコレクションしてきて、それを自分の中を通して、抜け殻じゃないけど、もう一回作品として残していく感覚です。強迫観念というわけではないんですが、何か手を動かしてないといけない、動かしていたい、つねに作っていたいです。やりたいからやってる人たちのエネルギーはすごいから、そこに憧れますね。

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