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FEATURE|TOKYO ART BOOK FAIR トークイベント「3冊の本について」を電脳再現。写真家・平野太呂が語る、本のウラガワ。

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TOKYO ART BOOK FAIR トークイベント「3冊の本について」を電脳再現。

写真家・平野太呂が語る、本のウラガワ。

話題となった『POOL』から11年。今年、3冊の本『ボクと先輩』、『Los Angeles Car Club』(以下、『LACC』)、『The Kings』を出版した写真家・平野太呂さん。それぞれの本では愛すべき被写体として、平野さんの先輩、アメリカの車、エルビス・プレスリーのそっくりさんが登場します。では、どうして平野さんはこういったテーマを選んだのか。去る9月、多くの来場者でにぎわった「TOKYO ART BOOK FAIR」会場内にて、盟友のライター・村岡俊也氏をインタビュアーに招き、各本に対する思いやユニークな裏話などを語りました。フイナムではこの模様を(ほぼ)すべて再現した形でお届けします。なかなか知ることのできない、写真家の作品のウラガワをまるっと覗き見しちゃいましょう。

  • Photo_Takeshi Abe(in TOKYO ART BOOK FAIR)
  • Edit_Shinri Kobayashi

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平野太呂

1973年東京生まれ。武蔵野美術大学で現代美術としての写真を学び、その後講談社のアシスタントを勤める事により、より実践的な撮影技法を学ぶ。雑誌、広告などで活躍。2004年から渋谷区上原にギャラリーである『NO.12 GALLERY』を立ち上げる。著書に『POOL』、『ばらばら』(星野源共著・ともにリトルモア)など。

村岡俊也

1978年生まれ。写真や旅などのテーマを中心に、『BRUTUS』(マガジンハウス)やANA機内誌『翼の王国』など各メディアで執筆。平野太呂さんとは11年来の仲。

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(左)『ボクと先輩』(晶文社)¥1,600+TAX(中)『Los Angeles Car Club』(自費出版)¥3,500+TAX(右)『The Kings』(ELVIS PRESS)¥3,000+TAX

思い通りにならないカメラであえて撮る。

平野:村岡と僕の出会いについて話すと、僕が『POOL』の写真集を出した時に、いち早くインタビューしてくれたのが彼で、その時に初めて会ったのかな、『relax』で。

村岡:そうですね。岡本仁さんがやめてからちょっと後の『relax』。

平野:プールの写真集を初めて出した時に、インタビューしてもらったっていうのが最初。

村岡:10年以上の付き合いですね。

平野:ということで、今回はみなさまに対して話すというよりは、村岡の質問に僕が答えるという形で進めてみたいので、そのへんをご了承いただけたらと思っております。

村岡:普段割と近い関係なんだけど、インタビューって形をとるとすごく真面目な話をできたりしますね。この間『ブルータス』でも新しいこの『Los Angeles Car Club』(以下LACC)を紹介させていただいたんですが、松江でご飯食べながらインタビューしてみたら、割とちゃんとできたので。この3冊の写真集は、10年ぶりってところですかね?

平野:そうですね。プールが2005年なので、正確には11年です。

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村岡:11年と間が空いたのにいきなり三冊。間には星野源さんの本とか多部未華子さんの写真集とか、実はあまり知られていない作品があったりするんですけど、それもすごくいい本なんですけどね。で、まあなんでやっぱりこうやって本を出さなきゃいけなかったっていうと、本にしないとまとまらないってところがおそらくあったと思うので、それはなんだったのか? っていうのが分かるといいなって思います。たまたま今年3冊発売だったんでしょうか?

平野:そうですね。今年に一気に集めてやろうとかそういうのは全然思ってなくて、たまたまです。やらなきゃやらなきゃってずっと心の中で思ってたけど、どっちかっていうと腰が重い方なので、なんとか自分を焚きつけて、あれをやらなきゃ、これをやらなきゃって、自分がやる気になってる時にずっと溜めてたものを一気に出さないとっていうことかもしれないですね。

村岡:この3冊はそれぞれ出し方が違います。『ボクと先輩』っていう本は、マガジンハウス『ポパイ』の連載をまとめるっていう形で最終的に晶文社という出版社から出してる。『LACC』は、自費出版で自分で装丁までいろいろ相談して出した。で、自分の企画として撮影してきたエルビスプレスの『The Kings』っていう写真集は名古屋の「オンリーディング」っていう本屋さんに頼んで、そこの小さい出版社・エルビスプレスから出してもらっている。出し方が違うというのは深く考えてたんだなっていう気がするんですけど、それぞれは分けて考えてたんですか?

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安西水丸/イラストレーター(『ボクと先輩』より)

平野:かつて『POOL』をリトルモアという出版社から出しました。で今回は、『LACC』を自費出版で、『The Kings』をインディーズ系の本屋さんのレーベルから出して、『ボクと先輩』は、マガジンハウスのポパイで3年間連載してたフォトエッセイで、マガジンハウスから出すの順当だったけど、まあいろいろ会社の事情や判断があり…。まあそれでどうしようかなって思って、晶文社は僕のお父ちゃんがずっと装丁をやってた出版社で、そこで連載の一番最後にお父ちゃんに取材して装丁を頼んで、晶文社から出すのがまとめ方としては美しいのかなあと思いまして、そういう経緯で落ち着いた。

村岡:まず個別の話をすると、お父さんを最後に取材するっていうのは決まってたんですか?

平野:取材をするということ自体は決まっていたけど、最後にするかどうかっていうのは特に決めてなかった。毎月の連載だったから、毎月いろいろな先輩にオファーして、OKしてくれるかどうかはわからないし、僕が慣れない文章を書いている連載なので、編集部から「この先輩どうですか?」ってふられたときに、その先輩にまったく思い入れがないと書けないんですよね。だから事前に取材しなくても書けるくらいの先輩じゃないと不安っていうのがあった。で、うちの父ちゃんは人選がピンチになった時に出てもらおうと思ってとっておいたんです。それがめでたくも、毎月なんとか先輩達を取材できて、雑誌に白いページを作らないで済んだので、父ちゃんを最後まで残せたので、最後になった…。

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篠塚和典/プロ野球解説者(『ボクと先輩』より)

村岡:ライターとしては、この本は太呂さんの文章がうまいのが気に入らないですけど(笑)、太呂さんの文章を読むと、写真家としてどういうことを考えて撮っているかっていうのがすごくよくわかるなって思って。たとえば野球選手に会いに行った時に、ライターだとやっぱり今なにしてるか? とかすごく取材をしてしまうんですよ。聞いたことを全部書きたくなっちゃう、できるだけ情報量が多い文章にしたいなと思っちゃう。けど太呂さんの文章だと、書いてあるのはキャッチボールをしたことだけなんですね。たとえばどうやって元ジャイアンツの篠塚さんが現れてキャッチボールして帰って行ったか、僕はこうやってジャイアンツの帽子を仕込んでいったっていうお話とか。でもそっちの方が伝わるんだよなあと思ったりして、そういう切り取り方をしているっていうのもすごくよくわかります。

平野:その辺、僕は最初から放棄してて(笑)。その人を取材して、その人の魅力を引き出して、僕が文章にしてやろうとか、そういうのは絶対できないとわかっていた。短時間だし、写真も撮らなきゃいけないし、そもそもそんな能力がないと思ってるから、あくまで僕の印象と思い入れと実際にお会いしたときの印象を書くしかないなあという割り切りはあったと思います。

村岡:写真はどんなスタンスで撮っているんですか?

平野:僕としては言い訳を一個作ってるんですけど、『ボクと先輩』のシリーズが始まる前に「マキナ67(ロクナナ)」っていうすごい不便なカメラをわざわざ買ったんです。これは画角がファインダーで見てる形と実際はちょっとずれる。つまり撮りたい写真を正確には撮れないんですよ。完全にはコントロールできなくて、カメラの特性で撮るみたいな面がある。だからそれを一つの言い訳というか武器として、うまく撮れない、うまく撮れなくてもOKっていう言い訳にした(笑)。その先輩のみなさんが知らない魅力を引き出す、なんていうのはもう無理だと思ってて、同じような言い訳をカメラにも適用してて、ちょっとピントがぼけてて、うまく寄れないし…。そうやって言い逃れしようと思ったんです(笑)。

村岡:「マキナ67」はいい写真は撮れます?

平野:うん。独特なシャープネスがあって、僕が今まで撮ってる写真より少しコントラストが強い写真が撮れる。あと、このカメラを向けられた被写体も、レンズがギュンギュン回ってるような、ものすごいデジタル一眼レフを向けられるよりは、のんびりできるんじゃないかなっていうのはありますね。

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岡本仁/編集者(『ボクと先輩』より)

村岡:普段は「ペンタックス67」で撮影してるけど、以前撮影に立ち会ったときに「すごい音してるね」って言われたことがあったと思うんですけど、そんな大きな音もしない?

平野:そうだね。これはシャッター音も「プチッ」て感じで全然わからないですね。そういう仕掛けみたいなものは、自分で結構用意していますね。

村岡:あんまり“がっぷり四つ”にはなりたくないみたいな感じですか? 負けちゃいそう?

平野:そんな毎月がっぷり四つにはなれないってことですね。その人に興味があって、もう何年も取材して何回も撮影行ったとかいうケースであれば、もちろんそういう方法がいいと思うけど、毎月のことでがっぷりヨツになってたら、この人たちの人生がすごいから、飲み込まれてしまうし、僕が先輩たちの人生を語るっていうのはおこがましいなあっていう意識はある。

村岡:インタビューっていう意識はあんまりない?

平野:全然ないです。撮影しながら雑談したり、同行している編集者が横で話していることを聞いてたり、とか。その人その人ではあるんですけど。

村岡:画角がロクナナとほかは…

平野:これ全部ロクナナ。

村岡:あ、全部ロクナナなんだ。人選はわかりやすく言うと、やっぱり自分が影響を受けた人?

平野:そうですね。あともちろん編集者の紹介のなかにもいいねえっていうのもあるんで、それで行くこともあるんですけど。

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早川浩雄/へら師(『ボクと先輩』より)

村岡:太呂さんがちっちゃい頃からヘラブナをずっとやってて、当時の小学生ヘラブナ大会のライバルのお父さんが載ってるじゃないですか。

平野:そうなんですよ。これで仇打とうと思ったけど(笑)、やっぱり負けました。

村岡:そのライバルのお父さんと一緒に竿を出すっていう行為のために行ってるじゃないですか。野球選手とキャッチボールをするとか、その感じが雑誌の連載を使ってやりたいことをやって、結果として本にするっていう楽しさが出てるなーと。

平野:なるほど。たしかに好きにやらせてもらってるなあと思う。プロの釣り師っていうのが世の中にはいて、特にヘラブナっていうフナのある特定の一種しか釣らないんですけど、そのプロなんです。この先輩が一番早く文章書けた。もう事前にほとんどできてるんです。撮影し終わったあとに船を右隣につけて一緒に釣りをしたんですけど、餌をくれたんですけど、それがすごくいいんですよ。

村岡:ヘラブナって餌を作るのに3年かかるって言われてるほどで。もし太呂さんを通さなかったら、この人絶対知らないままだったなっていう。

平野:よく『ポパイ』で許可が出たなと(笑)。

村岡:個人的に、この人が一番面白かった。出てこないですから。雑誌の連載をまとめたからこそ、こうやって力が抜けていると思うんですよね。最初から本を作る予定だったら、多分本の中には入れないでしょ。こういうところとか、雑誌の連載を本にするのはいいなと思う。

平野:そういう風に考えたことなかったですね。でも、そうかもしれない。こういう本を作るぞってなったら、みんなが知ってるような先輩のとこばっかり行くような気がする。

村岡:写真を見ると、人はもちろんなんだけど、その周りの様子がなんとなくわかるようにっていう親切心を感じます。

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イエルカ・ワイン/薪ストーブ職人(『ボクと先輩』より)

平野:まあそうですね。雑誌だからそういう気持ちも少しあるのかもしれない。このイエルカ・ワインさんが住んでる家の外観とかも撮ってるんですけど、こういうのもあった方がいいかなとか。そんな風に思ってるから。

村岡:でもエルビス本とか『LACC』にも言えるけど、写真家としての特徴として雑誌的、編集者的な視点があるなと。言われなくても撮るっていう。

平野:そうだね。この連載は特にレイアウトがちゃんと決まっていて、大きな写真が一枚、小さな写真が4枚と、毎月決まっていたので撮りながら寄り引きとかを考えたりとか、これがメインになるだろうなとか。そういうのやっぱりクセかもしれないけどね、雑誌の仕事をしてる人の。

村岡:メインはこれだなっていうのが撮るときにわかります?

平野:なんとなくわかる。あがってみると違ったってこともあるけどね。

村岡:こういうのが足りないなってところも?

平野:そうです。

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武末充敏/『organ』店主(『ボクと先輩』より)

村岡:例えばこのタクシーの写真(中央上)でいうと、本で話を読むとなんでタクシーの写真が入っているか、意味がわかる?

平野:うーん、これは福岡の「オルガン」という家具雑貨屋の武末さんという方なんですけど、お店があるところが福岡のど真ん中ではなくて、ちょっと電車で2、3駅外れた街にあるんですね。で、その外れた感を出したくて。

村岡:そういうのが入ってると、なんとなく空気が変わっていいですね。お父さんのときは、撮りに行ったというよりも話をしに行った?

平野:いや、話とかは日常会話くらい。

村岡:飯食べに行こうとか? 『ブルータス』で親子特集のとき出て頂いて、お父さんと子育て論みたいな対談をしてもらったんだけど、太呂さんを育てていて、自分のダメなとこを見せないとダメだなって言ってたのがすごい格好良くて。なんか似てますよね、なんかクールな感じのところが。その時もお父さんとはがっぷり四つには行かなかったんですか。

平野:うん、そうです。この企画は通してでやってるんで、他と同じようにね。

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渡辺篤史/俳優(『ボクと先輩』より)

平野:これ渡辺さん。本当面白かったなー。

村岡:なんかテレビの人って感じ。

平野:そうですね。あ、これね、右の写真はもう渡辺さんのサービスですね。「撮れた撮れた?」とか言ってくれて、「じゃあ、このワイチェアを持ち上げるから」と言って、「このワイチェア、いいですねえ〜」みたいな。ちゃんとしゃべってくれてるんですよね。文章にも書いてあるんですけど、本当にびっくりしたのが、おうちの目の前に渡辺さんの車が着くんだけど、着く前にクルーがすでにカメラを準備してて、バンって渡辺さんが降りてきて建物を見て「うわぁぉ〜…」ってときには、もうカメラが回ってる。びっくりしちゃって。待ち合わせ時間のとおりに行ったらちょうど収録が始まる時間で、ほぼ渡辺さんと同着くらいになっちゃって、もう回ってるぞ!って。ほんとすごかったなー。

村岡:そもそもなんで渡辺さんだったんですか?

平野:『建もの探訪』(テレビ番組)が大好きで、時間帯がこれまでにいろいろと変わってるんだけど、以前は朝10時半くらいにやってて、それを朝10時半に見るのが好きだった。まあ、僕の好きなおじさんの感じだよね(笑)、角刈りでヒゲ。あの声がすごい好きだし、理想的なおじさん像っていう感じかな。

村岡:今回のエルビス本とか、やっぱりなんだかおじさんが好きなんですね。例えば、おじいさんだっていろいろいるじゃない?

平野:そうかもしれないね。ヘラブナ釣りで育ったっていうのが結構大きくて、ヘラブナ釣りってがっつりおじさんといるわけだから。僕は小学生で、毎週おじさんに囲まれてたんで、なんとなくおじさんの感じはすごくしっくりくるのかも。

村岡:(平野さんの経歴として)スケーターの前にちゃんとヘラブナ釣りがあると。

平野:そうですね。この連載ではそのあたりが出ましよね。『ポパイ』はそんなの求めてないかもしれないけど(笑)。

村岡:でもそれって実は、ヘラブナの次にスケーターが来てっていう、静の感じがつながってるのかなーと。

平野:そうかもしれないですね。素敵なおじさん先輩、いいですね。

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