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FEATURE|TOKYO ART BOOK FAIR トークイベント「3冊の本について」を電脳再現。写真家・平野太呂が語る、本のウラガワ。

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『Los Angeles Car Club』(『LACC』)に写る、必然性と偶然性。

村岡:『LACC』だけど、すでに買われた人とこれからという人もいると思いますけど、そもそもなんで自主でっていう形に最終的になったんですか?

平野:まずこれを6、7年間こつこつと撮ってたんですよね。最初は最終的な形も見えずに単純にいい写真を撮りたいとか、こういう構図で撮れたら面白いっていうので少しずつためていったんですけど、だんだんこれをどういう風に活用したらいいかっていうのを考えるようになって。そうするととりあえず本が見えてきちゃう。展示でっていうよりかは、ページでめくっていくとどんどん現れるっていうイメージができたから、まず本だなって思った。

村岡:そういうイメージができると成立するのか。展示で見せるっていうイメージは湧かなかったですか?

平野:うーん。でも本の方が優先な感じがしてて、それは撮影期間の後半にあたる、ここ2、3年の話だけど。やっぱり本だなと。

村岡:後々のことを考えずに、写真として撮っていた?

平野:そう。じゃあ本をってなった時にどんな本なのかっていうのをやっぱり考える。本ってやっぱりモノだから、どういう存在感のあるものにしたいのかっていうのを徐々に考えていくんだけど、それを渾然と考えながら撮影も並行していく。自分がこういう本になってほしいなっていうのがだんだんと固まっていくんだけど、どっか出版社に持っていくとやっぱり固まったものが曲げられちゃうんだよね。ニューヨークのダッシュウッド・ブックスというところのデイビットさんとか、イギリスのマックのマイケル・マックさんにも見てもらった。マックの方はその後で音沙汰がなくなっちゃったけどね、その時は好意的に見てくれていたけど。で、ダッシュウッドはこういう形だったら、うちから出す?っていう提案をいただいたけど、僕がずっと考えて固まっていた本の形とはだいぶ違ったんだよね。

村岡:ちなみにどんな?

平野:中綴じの48ページくらいの軽い感じの本。それじゃないなと思って、でも出版社を説得したりとか、僕の好きなような形で出してくれる出版社を探すとか、そういうのってすごいパワーが要るなと思って。そもそも外国の出版社から出してみたかったんです。そういう出版社をあたってみて、母国語じゃない言葉で交渉するっていうのは相当なパワーだなと感じて、じゃあ自分で出そうってなった。いつか本を自費出版で出してみたいっていう思いももともとあってね。『POOL』のリトルモアみたいな、写真集を出してる出版社から出してみたい、外国の出版社から出してみたい、自費出版で出して自分で売ってみたいっていういろいろな気持ちがあって、これは自費出版で出すのが向いてるなと思った。お金の面はあるにせよ、自分の好きな形にできる。そういうことで自費出版になった。

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村岡:デザイナーさんも、自分がやりたい形でできる人を選んでる?

平野:うん。デザイナーさんからは自分が思いもつかなかったようなアイデアをもらえたらいいなとは思ってて。僕が思ったようにそのまま動いてくれるひとっていうわけではなくて、僕がやりたいと思っていたものを最低限崩さないっていうか、むしろそれ以上にしてくれるっていうひとがよくて。ナカムラグラフのナカムラさんに相談して、お願いしたんだよね。

村岡:写真の並び順とかもまるごとデザイナーさんに投げちゃうっていうケースもあると思うんですけど、そういうのはどうでしたか?

平野:今回は僕の方でやりました。本当になんとなくなんだけど、セクションに分かれてて。最初はバラバラ、だんだんセダンに、たまにスポーツカーを挟むみたいな。

村岡:初めて見るひとは本当に車しか写ってないんだ! って思うかもしれないですね。車しか写ってない。

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平野:で、働く車。これはマットレス屋さん。ピックアップトラックは日本にはあまりないので、目がいっちゃう。

村岡:では、そもそもこれはどこでどうやって撮ったのかを聞きましょう。

平野:これはタイトルが『Los Angeles Car Club』ってことで、ロサンゼルスに限定しました。なぜ限定したかといえば、とりとめもなくなっちゃうっていうのもあるし、ロサンゼルスっていう地域性が見えるかもしれないなとも思って。アメリカはとても広くていろいろな形のアメリカがあって、僕が知らないアメリカがまだまだたくさんあるんだけど、一番知っているのはロサンゼルスだなあと。ロサンゼルスが一番好きかって聞かれるとちょっとわからないけど、何かしらでよく行く場所だよね。こういう日の光とか高速道路の感じとかが、僕の中でロサンゼルスっていう感じがするんです。

村岡:これはペンタックス67で?

平野:そうですね。

村岡:車で走りながら?

平野:そう。僕は助手席にいて車の中から撮ってるんだけど、別の人に運転してもらって。運転してもらわないとこれは撮れないので。

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村岡:車で走ってて、面白そうなものがあったりすると、行けーって感じで?

平野:そうそう。車でむやみに走って、面白そうな車が遠くに見えたら、ちょっとスピード上げて付いていって、よさそうだったら並走する。ガラス窓開けて手持ちでカメラを構えて。こっちも揺れるし、あっちも揺れてるし、だけどブレたくなかった。でも背景はスピードが出てる感じでブラしたかった。シャッタースピードも、125分の1のシャッタースピードでずっと撮ってるんだけど、それ以上早いと背景止まっちゃうし、それ以上遅いと車がぶれちゃうし、だから絞りをそこに合わせて撮ってるものが多い。並走して走ってるってことが、みなさんあまりわからないみたいで、今日も『LACC』を売ってたんですが、「止まって撮ってるんですか?」って言われるんです。

村岡:真横からはかなり難しい。これが出版された時に「必然と偶然が両方写ってる」という話があって、必然というのは自分が撮りたい対象としての車、偶然というのは背景が選べないというところ。

平野:それは、この東京アートブックフェアのディレクターのひとり、河内タカさんに指摘されてハッと思ったんだけど、時速100キロとかで走ってるので、車がぴたりと並走できて、ピントが合って、今! って押すタイミングがほんとにない。1枚だけの時もあるし、5枚撮れたらたくさん撮れたってくらいだから、背景を選んでいられない。自分は背景を選ばない写真ってあんまり撮ったことないなと思ったんだけど。車種は撮りたいものという必然だけど、背景はランダムという偶然。背景を見てみると、誰もこんなところじゃシャッターは切らないだろうなあっていうところで撮ってたり。それはなんか大きいかなあ。

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村岡:このアメリカ国旗みたいなやつは?

平野:それはセレクトの段階で4、5枚撮ってるものは、星条旗が写ってたり、ヤシの木が写ってたら「あ! おいしい!」と思って、それを選んでる。そうか、撮ったあとの段階では選んでる。

村岡:なんか文字が入ってきたりとか、その意味を勝手に考えるっていうところが写真っぽいなと。この撮り方だと水平を出すのは大変なんじゃないですか?

平野:水平、大変です。結構右下がりだったりもするし。極力水平にはしようとしてるんだけど。

村岡:プリントするタイミングで、例えばインスタみたいに水平にするっていうのもできなくはない?

平野:でもね、フォトショップ的に水平にはできないですね。フィルムなので、単純なトリミングで水平出すっていうのはできるけど、ぎゅっと起こしたりとか、倒したりとかはできない。

村岡:トリミングしちゃうとまた結構変わっちゃいます?

平野:でも、多少はやってるよ、微調整程度には。

村岡:これは高さ合わせようみたいのはあった?ど真ん中に来るように合わせようみたいな。

平野:高さは結構ずれてるね。

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村岡:それにしても乗ってる人が面白いですね。

平野:そう! 乗ってる人がうっすら見えるんですよ。オリジナルプリントの方が見えるんですけど、写真集だとちょっとスミが乗っちゃってるんだけど、目を凝らすと見えるんですよ。

村岡:なんで面白いんですかね? 乗ってる人を見るっていうのは。

平野:やっぱり覗き見ってこともあると思うんですけど、真剣だからじゃないですかね。かれらも無意識だから。

村岡:無意識の人を撮るっていうね。この車にこういう人が乗ってるんだってこともありますしね。でもそれが見たかったんですよね?

平野:そうですね。撮ってると見えないから、プリントしてニヤニヤする。

村岡:メッセージ性うんぬんの前に面白いっていうのがある。

平野:撮ってプリントした時にニヤニヤできるかっていうのが、僕のバロメータでもあって。自分がニヤニヤしてると、これ面白い・イケるなってわかる。

村岡:『POOL』の時も面白かったよね。

平野:別の意味で、ニヤニヤがありましたね。プールはなかなか撮れないんだよね、いいプールにはまず出会えないので。だから、よっしゃー撮った! みたいな感覚があった。いろんな条件があるから、大体斜俯瞰で撮ってた。プールの壁面がみえても、必ずしも登れるような壁とは限らないから、何回かはでっかい脚立を持ち歩いてたね。でも、そういう条件が揃わない時もあって、いい形のプールをいい角度から撮れたときはオォー!っていうのがあった。

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村岡:撮るの大変っていうところは、ちょっと似てますね。

平野:自分もほんとにそう思った。この車たちよりも面白い車なんて、住宅街の路駐を探せばいっぱいある。もう高速乗れないくらいのボロいやつとか。高速道路の上で撮るんじゃなくて路駐車でやれば楽だよね。でも路駐車を探して横からぱちっと撮るだけだと満足できない。それは自分のくせというか、自分も体を動かして、撮り逃したとか、やった! 撮れたとか、そういうのが好きなんだなあと自分で思ってる。

村岡:ちょっと大変な思いをしないと撮った感がない?

平野:なんでだろうね。

村岡:たとえば停まってる車を全部同じやり方で撮影してどうかなっていうのは聞きながら思ってたんですけど、太呂さん自身がちょっと面白くないのかなって。

平野:やっぱり、スケボーやってるからじゃないかなって思うんだ。ヘラブナ釣りの次に始めたスケボーで、体をすごく使って達成感とか喜びを感じて、青春を過ごしたから、苦労して難しい技を自分のものにしたというところに達成感を感じるクセがあるのかもしれない。

村岡:スケボーだと、苦労して場所探して、練習練習してメイクする、みたいな?

平野:そればっかりだからね。

村岡:そうですよね、ただひたすらそれをやる。

平野:自己満足というか、やった!という感じの連続だよね。だからちょっとフィジカルに写真を撮るとか、そういうクセが自分にはあるのかなとなんとなく思ってる。

村岡:実は太呂さんって『POOL』の時から、わりとクールに客観的に撮ってると思われている。写真には身体性を感じさせないけれど、でも実は肉体で撮っているということだよね。

平野:そうそう。特に『LACC』はもう体幹で撮ってるから。三脚も使えないし、インナーマッスルで撮ってる。そういう本も書けるかなって(笑)。

村岡:そういう点からも、写真の本質とは実は身体性にあるっていう、太呂さんの写真も身体性が隠れているということかなと。

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