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FEATURE|TOKYO ART BOOK FAIR トークイベント「3冊の本について」を電脳再現。写真家・平野太呂が語る、本のウラガワ。

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愛すべき、なりきりエルビスたち。

平野:ところが、エルビス本『The Kings』に関しては身体性はなかったなあと。でもこれも車と同じで、“いいエルビス”に出会えたっていうことが重要だった。

村岡:今日初めて見たんだけど、面白い、最高ですね。なんていうか、すごい愚かさと愛しさと悲しみが感じられて、人間そのものだなって感じがすごいする。太呂さんの今までの中でも一番人情味がある。最高じゃないですか、切ないでしょ。

平野:僕は、この撮影から帰って来たときに、アルゼンチンの映画…タイトル忘れちゃったけど、エルビスのそっくりさんが主人公の映画を観たんですよ。アルゼンチンでエルビスのモノマネをやってる人が主人公なんだけど、その映画がめちゃくちゃ暗くて、アルゼンチンでの生活が苦しくて、妻とうまくいかない、子供ともうまくいかない、仕事もない。で、エルビスのショーをクラブでやるんだけど馬鹿にされて、「俺はもうメンフィスに行く」ってなって、その時に仕事場に火をつけ、家族も絶って、メンフィスに行くんです。僕もメンフィスに行ったんですけど、エルビスが住んでた邸宅があるんです。そこはツアーがあって、各国の言葉の解説を聞きながらエルビスの家を回れるんです。それを彼もやって、係員が目を離した隙にぱっと物置に入っちゃうんです。それで、じーっと営業が終わるの待って、真っ暗になったら出てきて、薬飲んで死んじゃうんです。それでわー!っとなったらエンドロール。終わり。

村岡:やばいですね。でもそういうことですよね?

平野:いや、僕はそういうつもりじゃない。

村岡:僕が思ったのは、ハーモニーコリンの『ミスター・ロンリー』。マイケル・ジャクソンやマリリン・モンロー、エルビス・プレスリーのそっくりさんがいて、まあ死んじゃう話ですけど。モノマネの悲哀というか、実物にはなれないというのと、人生のよすがとしてエルビスがいるというのも、なんかねえ。

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平野:僕の場合は、悲哀ももちろんあるんだけども、もっと肯定的で。初めて僕が出会ったエルビスが彼なんです。タイトル『The Kings』っていうのは、みんながエルビスのこと「キング、キング」って呼ぶのね、だから神々ってことで「キングス」なんだけど。彼だけは去年でなく一昨年に撮っていて、『ポパイ』でアメリカを横断する仕事がきた時に、僕がエルビスのそっくりさんに会いたいから、横断コースにメンフィスを入れたの。で、メンフィスに到着して、メンフィスのエルビスのお土産屋さんのおばちゃんに「誰かいないか?」って聞いたら、「ああ、わかった」って言って携帯で連絡してくれたのが彼。待ち合わせに2、3時間くらい遅れて、全然来なかったんです。赤いTシャツに短パンでね。「ごめんごめん! ガソリン間違えて入れちゃってさー」みたいな、よくわかんない言い訳をして。「ごめんね!すぐ着替えてくるから!ごめんごめん!」って一回部屋入って、出てきたのが、これです。

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村岡:これってもう、エルビスが出てきてる。

平野:そうそう。俺もうわー、すげー!って思って、理由は全然わかんないけど、堂々としててかっこいいなと。彼がどういうタイミングで言ったかはわからないけど、エルビスはこういう感じで、みんなにすごく優しくて、堂々として懐が深くて、愛に満ちてる、って彼が言うんだよ。俺はそれを継承してる、モノマネじゃなくて継承してるって。

村岡:マインドを継承。モノマネじゃないんですね。

平野:まあ、この人毎晩ショーやってるんだけどね。そう、それで理由はわかんないけど堂々としてる人は説得力があるなと思って。それで彼にエルビスにもっと会いたいんだけど、どこに行けば会えるの? って聞いたら「エルビスの命日にメンフィスに行けばエルビスのお祭りをやってるから、何万人といるよ」って言われて、嘘でしょ!? って。来年来るよって言って、実際に次の年に行ったら、あんまりいなかったんだけど(笑)。そのときも会えたんだけど、彼はもうエルビスを卒業してた。卒業してなんか、丸坊主になってた。「俺太っちゃったからプレスリーやめちゃったよ」みたいなこと言ってたね。それでも彼、エルビスのカラオケ大会やってる会場の横にはずっといたけどね。

村岡:マインドを受け継いでるんですね。これも最初から写真集にしようって思ってたんですか?

平野:そう。けっこうイメージははっきりとあって、車は6、7年間かけて撮ったけど、エルビスはもうガン!とやって、ガン!と出したかった。そう何回も通うもんでもないなって。お腹いっぱいだよ。30人くらいは撮ってると思いますね。

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村岡:この人は?

平野:この人は、エルビスの出演している映画のなかのキャラクターを真似してるみたい。僕自身はすごいエルビスのファンってわけじゃなくて、でもだんだん好きにはなってきてはいるけどね。でも、エルビスの映画を全部観るとかいうレベルではないから。とにかく、この格好をしてエルビスが出ている映画があるらしいんだよね。この人、すごいマニアックだったなあ。なんかいろいろ言ってたけど、日本に俺行きたいんだよ、って。

村岡:たしかに、肯定的に見ようと思えばすごいいいですよね。

平野:いいというか、なんだろね。もちろん悲哀も入ってるし。多分マインドはすごい保守的な人たちだと思う。今の政治に照らし合わせて言えば、トランプを支持してるとか、まあわかんないけどね、人にもよるけど。でも、そういう人たちだとは思う。

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平野:これ、ワイルドだよね。もう刺青じゃなくて、シミがこうなっちゃったんじゃないかなって。

村岡:ハイウェイもエルビスも、良きアメリカの残滓じゃないですか。そういうものにどうしても惹かれちゃうのは、なぜなのか?

平野:それがテーマですよね。なぜなのか自分でもよくわかってないところがあるから、こういうことをやってるのかなと。もちろん楽しいし、いいなと思ってるし、でも、どうしてこんなにアメリカのことばっかり僕はやるんだろうなあとは思っていて、やっぱりそれは思春期にスケートボードやってたからかなあ。かっこいい、かっこ悪いの判断を、全部スケートボードの中でやってたし。アメリカのカルチャーだったからそうなっちゃったのかなーと思いつつ。

村岡:スケートボードのカルチャーからいうと、エルビスはかっこいい部類に入るんですか?

平野:いやー、どうなんですかねえ。アメリカにいるスケーターの友達にも聞いたけど、やっぱりクスッと笑う対象ではあるよねえ。スケーターとは、マインド的には真逆なんじゃないかなあ。

村岡:そしたら、保守のなかでも保守な人たちを、こうやって写真集でまとめて、かっこいいと思いながら同時に笑えるという入り混じった状態ですよね。しかも『The Kings』という名前でアメリカの象徴をまとめるって、全く知らない人がこれをみたら、もうアメリカ賛歌じゃないですか。でも太呂さんはそんなことをしたいわけですよね。そこがすごくねじれてるというか…。

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平野:そうかぁ、ねじれてるよね。この人たちを笑い者にしてるつもりは全然ないし、多分笑い者にしたかったらこんなことはできない。まあ、当然面白いとは思ってるけど、そういうねじれてるところが現れるテーマだと写真にしたくなるのかな?その辺は僕も自分ではうまく説明できないんだけど。わかりきってることばっかりだとちょっとね…。

村岡:ストレートにということであれば、別に写真じゃなくてもいいしね。

平野:解決しちゃってるからね。そうじゃなくて自分でもよくわかんないけどなんか惹かれる。これになりたいわけでもないし、みんなこうなりゃいいと思ってるわけでもないし、と考えながらやってて。

村岡:この辺は『LACC』のあとがきにも書いてあるんだけど、翻って日本のことを考えると、日本だったら何ができるか、みたいなことを最近考えてるって。

平野:今回、アメリカの写真をしつこいくらいに、一ヶ月の間に立て続けに出して、『POOL』と合わせるとなんとなく三部作だなと思っていて、ちょっとこれで僕の中では結構まとまったって感じがしてる。なんかもうそういういろんなモヤモヤやわかってないことをやった方がいいんだろうなって思ってて。そういうのがまだ全然見えてないから、もしかしたらあと10年かかるかもしれないけど(笑)、これで次のステップにはいかなきゃいけないなと思ってるんですよね。

村岡:こういう写真集として出すっていうのは、使命感があるという感じですか?

平野:使命感と言うと誰に対してかっていうのが問題だけど、やっぱり形として本にしないと、まとまった・できた・乗り越えたって感じがしない。本棚に残らず、展示だけして終わってたらなんか終われない気がする。展示はしなくても本が残ってれば、何となく片はついたって気がする。写真をやってる人にもいろいろいて、展示が第一で、オリジナルプリントっていうが一番だっていう人もいるし、中にはいい写真一枚売れればいいって人もいるだろうし。いろんな人がいる。僕はたまたま本の方が好き。

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村岡:このエルビスの本をみたときに、男の人だけじゃなくて、おばあちゃんもいるなあと。

平野:なんか、本のリズムを考えるとエルビスのそっくりさんの男たちが全ページだと、まあそれはそれでいいかもしんないけど、息抜きがほしいじゃん。

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村岡:やっぱりそういうところが編集者目線だと思う。このコカコーラの前とかも。

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平野:僕が、写真にiPhoneが写ってるのが嫌だったんだけど、これはなんかいいなと思って。エルビスが自撮りしてるのが面白い。

村岡:女性はファン?

平野:一緒に撮ってってことなんだけど。僕が室内から日の当たるところに連れ出しているんだけど、そうすると寄ってくるんですよね、おばあちゃんたちも。

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村岡:この人は?

平野:お金をあげるとエルビスのレパートリーをやってくれるんです。だけどベース。しかもゲータレード飲んでっていう。なんなんでしょうね。

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村岡:これはオンリーディングから出版されているんですよね。

平野:そうです。オンリーディング(名古屋のブックショップ)は、展示できるスペースもあって、前に車のシリーズを展示に出したこともあって前から付き合いはあったんだよね。で、あれ? おや? と思って、なんか「エルビスプレス」ってレーベル出してるなーと気づいて、内緒にしてたんですよ。そこならオチがついて面白いし、それに断れないだろうし(笑)。どう? って言ったら、それはぜひ! って言ってくれて。

村岡:太呂さんのなかでは、本はもっと軽い感じのイメージだった?

平野:もっと軽い感じでもいいかなと思ったんだけど、『LACC』を全部自分で監修しながらやったから、これはぽんと投げてみたいっていう気持ちがあって、エルビスプレスの黒田くんに渡してみて、好きにやってみてって言って、出てきたものを確認だけっていう本の作り方もちょっとやってみようかなって。

村岡:どのやり方が一番しっくり来ました?

平野:そうだね。なんか全部隅々まで自分でコントロールしてやりますっていうタイプでもないんで、それだとちょっと窮屈だから、人に託すのが面白いね。

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村岡:今日も入れると「TOKYO ART BOOK FAIR」で4日間、それ以外にも何回か手売りをしているじゃないですか。その中で今まで自分で考えてきたことと違う何かが見つかったりもする?

平野:今まで何回か手売りもしてるんだけど、自分でやってる小さいギャラリー(No.12 Gallery)とか、イベントに出てここで売ってまーす! とか、そういう時は、そこめがけて買いに来てくれる人だから、100%買ってくれるんですよ。入れ食いなんです、ヘラブナ的には(笑)。だけど、この場所では僕のことも知らないし、『POOL』も知らないし。そういう人の目の前に出したのが初めてだったから、勉強になりました。

村岡:知らない人も買ってくれました?

平野:買ってくれたと思う、それはすごい嬉しかった。なんか柔らかそうな女の子が2人で来て(笑)、「これすごいですね、買います」って買ってくれたりとかね。もちろんめがけて買いに来てくれる人も嬉しいけど、それとは別に面白いし、なるべくそういう人にもアピールできる本じゃないとなって思うから。やっぱり作るからにはね。

村岡:その割にはスペックが。

平野:『LACC』に関しては自費出版だから、値段設定も自由だし、僕だったらこの内容で、この装丁で、この値段で欲しいって思えるものがいいじゃない? それはもう僕の基準。僕がこのブックフェアに来て、知らない人が同じものを出してたら買う、っていう。それはあくまで自分の基準なので、どれだけみなさんに寄り添うかっていうのは。

村岡:それを決められるのは面白いかもしれないですね、好きに決める。

平野:エルビスの本を手に取った人の顔とかを見ていると、ニコリともしない人もいるんですよ。で、これだめだーってなって。俺がいけないのか、彼ら(エルビスのそっくりさんたち)がいけないのか(笑)、わかんないけど、それなりに壁も感じましたね。

村岡:そもそもエルビスを知らないっていうのもありますよね。

平野:それでも…って感じだけど。

村岡:車に比べると断然わかりやすいけどね、やっぱ笑って欲しいね。

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平野:ニヤニヤしてほしいよね。彼は、僕が「もうちょっとかっこいいポーズしてよ」って言ったら、「こういうポーズをエルビスはやるから、これで撮って」って。結果これが一番似てた。

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平野:これはどっちかっていえばおちゃらけ。靴はランニングシューズ。これは、エルビスマラソンに出てた人なの。朝5、6時くらいからスタートして、みんながエルビスの格好して走るっていう。それも行ってみようって。

村岡:ディズニーマラソンとかもありますよね?

平野:へえ、そうなの? そういえば、ライブハウスの中に入ると、顔はあんまり似てなくても歌が上手いと盛り上がりがすごい。

村岡:顔とかが一番似てる人が勝つんじゃないですか?

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平野:いわば、一番みなさんの心を動かした人が勝つっていう。僕が見てたチャリティコンサートで優勝したのが、この若者でした。

村岡:かっこいいですね。

平野:この子は若いのに中期後期のエルビスをやってたんだけど、見てる人たちはおばちゃんばっかり。でも、歌上手いときとか、演奏盛り上がってるときとかはすごい拍手で、みんなわかってんだなと思って。係の人が歌ってるエルビスにスカーフ渡して巻いて汗を付けておばちゃんに渡すと、おばちゃんもワァー! って(笑)。で、また次のスカーフを巻いて…っていう。それをメンフィスの片隅のライブハウスでやってるんです。

村岡:実はおじさん文化じゃなくて、おばさん文化なのかも。

平野:そうなの。それはやっぱり行ってみなきゃわからなくて、完全におばちゃん文化でしたね。

村岡:おじさんからおばちゃんに(笑)。

平野:これは、おばさんを撮った方が面白いんじゃないかって途中でふと思ったんだけど、でもおばさん超怖いんだよね(笑)。このそっくりさんたちは、撮られることに慣れてるし、撮られたいんだけど、おばちゃんたちは本気だからね。

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平野:だけどほんとにこういう感じで人気があるんですよ。ショーが終わった後とかに、人生相談とかしてましたよ。去年旦那が亡くなって、みたいな。

と、ここでトークタイムは終了となりました。

さて、いかがだったでしょうか? のべ1時間強にも渡った、平野太呂さんの写真のウラガワのお話。ただありのままを撮るのではなく、たとえば被写体へどうアプローチするのか、編集的な視点をどう活かしているのかなどなかなか聞けないけれど、知ることでさらに写真や写真集を立体的に見ることができるようなお話ばかりでした。平野さんの被写体への情熱と愛情が詰まった3冊の本、ぜひ直接ご覧になってみてください。

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