ブランド設立20年目にして、大阪にショップを構えたその真意とは?
大阪での旗艦店オープン、おめでとうございます! ブランドスタートから20年目にしてようやく拠点である大阪にショップをつくったということですが、逆にこれまでどうしてお店をつくってこなかったのか、その理由を教えてください。
辻 ぼくらは大阪にお取引先が多いですし、お店をつくったら迷惑になってしまうので。あとは販売のスタッフが揃わなかったという理由もあります。
辻 正直言って、20年前は大阪でも東京でも、お店を持とうなんて考えてもいませんでした。でもこのお店のオープンに関しては、実は3年ほど前から準備をしていて、関西のお取引先の方々にインフォメーションをして、「やらさせていただきます」という許可をいただいていたんです。
3年前、どんなきっかけがあって準備を進めるに至ったんですか?
辻 大阪では、路面店のセレクトショップなど、いいお店がどんどん減っていっているのが現状なんです。駅前には大きな商業施設ができて、その中にお店を構えるのが当たり前の状況になっていて。ぼくらはそれに対して危機感を覚えたんです。路面店ならではの、ファッションが与える高揚感が薄れてしまうなぁ、と。それは我々が担うべき使命ですから。やらなきゃな、と。
辻 近隣に取扱店もありますから、当然、賛否いろいろな意見がありました。その頃は東京にもお店を持っていましたし、いろいろな考え方があるのは仕方がないと思います。オープンに至った理由をもうひとつ挙げるとすれば、ぼくらがデザインする服に反応してくれるバイヤーさんが少なくなったというのも正直あるんです。
お店ができれば、直接お客さんに届けることができますね。
辻 東京のお店では、ぼくらがお客さんに届けたいものが喜ばれるんです。
徳田 がんばってつくったものが意外とお客さんの琴線に触れたりするんです。後で話題になって「欲しい!」と言われても、結果的になにもできない状況が多々あったんですが、今回大阪にもお店ができて、ようやくそういった現状を打破することができるのがうれしいですね。
辻 やっぱり、自分たちでやるべきことはやらなあかんと思ってますね。せっかく服屋として生きているので、なにか楽しいことや驚きを与えたい。誰が買うねん! っていうものをデザインしたいんですよ。
大阪でファッションが栄える街といえばアメ村が真っ先に思い浮かぶんですが、そこから少しだけ離れた道頓堀にお店を構えたのは、なにか理由があるんですか?
辻 ぼくにとって、大阪といえば難波なんです。“ミナミ”と呼ばれるところなんですけど。ここは大阪のいろんな人種が集まる場所で、お金持ちやそうでない人、老人も若者も全部受け入れてくれる。そんなミナミのなかでも、やっぱりいいなと思うのは道頓堀なんです。
辻 お店の裏に流れているのは江戸時代につくられた運河で、大阪港まで流れているんです。これができたことによって、街の東側には芝居小屋や歌舞伎座ができたり、お金儲けをたくらむ魑魅魍魎がいっぱい集まってきて、まぁとにかく賑やかになったんですよ。遊郭もできたし、近くにはラブホテルもある。衣食住も揃っている。そういう場所がおもしろいんじゃないかと思ったんです。大阪らしいなぁ、と。
辻 そうなんですよ。そういう場所にはきっとなにかあるやろと思ってね。それに、ここなら“ついで”でこれるでしょう? 地下鉄もJRの駅もすぐ近くやし、ご飯がてら遊びにきてもいい。わざわざうちをめがけてこなくても、何かのついでに寄れる場所にオープンしたかったんです。
辻 めちゃくちゃありますよ。でもまぁ、東京のスタッフが大阪に来てくれたり、もともと取引先で働いていた子が働いてくれたり、普段はスタイリストをやっている女の子が週末だけお手伝いをしてくれたり。とにかく優秀なスタッフがいてくれてるんで。彼らがなんとかしてくれるだろうと思ってます。
お店の空間に関してもお話を聞かせてください。ショップに足を踏み入れて驚いたのが、下町らしい街の雰囲気と、このお店が持つ品のある佇まいとのコントラストでした。それは狙ったものなんですか?
辻 すごい雑多な街なんでね、入った瞬間に世界が変わるお店がつくりたかったんです。これ、ぼくらは壮大なギャグだと思ってるんですけど。まさかこんなお店をつくるとはみなさん思ってなかったでしょうから。
徳田 服とお店の雰囲気をマッチさせるのが普通なのかもしれませんが、私たちはその逆をしたかったんです。カジュアルな服をもっと品よく見せるというか、空間によってもっとイメージがよくなるような設計にしたかった。美術館っぽいと言えばわかりやすいですかね? 壁面は垂れ下がりの壁にして、ハンガーラックが見えないつくりにしていたりとか。
辻 無機質なものにしたかったんですよ。ここで働くスタッフがどんなご飯食べて、どんな趣味を持って、どんな生き様を抱いているのか。それが分からへん店にしたかったんです。趣味趣向の延長線上でつくったんだな、と思われないような店にね。それよりは、もっとイメージが膨らむような、夢のある場所にしたかった。それで徳田さんと一緒に建築デザイナーの方と相談して、こういう感じにしたんです。
辻 「クル」という事務所の水谷光宏さんにお願いをしました。全国で活躍されていて、もう60歳を越えている大御所なんです。水谷さんの他の作品をぼくは知っているので、「水谷さんがつくっている以外のものを」というお話をさせてもらいました。同じものはイヤやから。
見たことあるものではなくて、新しい景色をつくってほしいと。
辻 そうですね。そしたら雛形が上がってきて、ここはこうしたい、あそこはああしたいというリクエストを伝えました。
辻 徳田さんが話したように美術館のような空間にしたいということと、あとはアルミの什器を入れたいなと。アメリカ出身のアーティストにドナルド・ジャッドという人がいたんですよ。彼の代表作があるテキサス州マーファにものすごいデカい作品をアルミでつくった人なんですけど、それを見た瞬間に「これや!」と思ってね。それでアルミの塊のような平台の什器をつくってもらったんです。
一方、お店の奥には広いスペースがあって、ここがあることによって店内が本当に広々とした印象になりますね。
辻 鏡ばりの壁の裏にはフィッティングが3部屋あるんです。とにかく贅沢な空間にしたいなと思って。だから絨毯も敷いて、店内の中心には50~60年代の建築でよく使われたテラゾという人造大理石を用いました。いまの若い人たちがあまり見たことない、ドキドキするようなものにしたかったんですよ。
徳田 インターネットがある時代にわざわざ足を運んでくださったお客さんが、このお店に来た瞬間にふとテンションが上がる空間。カジュアルな服と空間のコントラストを楽しんでもらいたいんです。
辻 あと、ここのいいところは、自然の移り変わりを楽しめるところにあると思うんです。四季の流れはもちろんですが、1日の中でも朝から夕暮れ、そして晩を感じることができる。そこに晴れや雨の日など天気の要素も加わるでしょう? それもひとつの魅力だと思いますね。
商品のラインナップは〈ブルーナボイン〉のシーズンのコレクションがすべて展開されるんですか?
辻 そうですね。それと、うちでやっている〈フレイフレイ(HURRAY HURRAY)〉というブランドも展開します。セレクトショップではないので他社さんの服はやりませんが、量産とは無縁なアートピース的なアイテムは仕入れようと思っています。それと、エクストラヴァガンザというコーナーを展開していて、ここではニューメキシコから仕入れてきた珍しいインディアンジュエリーを置いていますね。普通のものをうちでやってもしょうがないので、世間的にはあまり価値を見出していないけど、ぼくらがおもしろいと思うものここに集めようかと。
大阪でお客さんと直接コミュニケーションが取れるようになって、それがクリエーションにもたらすものも大きそうですね。
辻 う~ん…、それはないと思いますね。「服、どうですか?」とかは一切聞くつもりはないので。おもしろいと思っていただけるものを提供するだけなんですよ、ぼくらの役割は。もっとマスに向けたブランドなら考えますけど、ぼくらはそうではないんでね。おもしろい服さえつくっていればなんとかなるんじゃないですかねぇ。
辻 聞かへんことが大事なんだと思います。我々は孤独を楽しんでいるんですよ。徳田さんとふたりでデザインをしていますけど、お互い最後の最後までなにをつくろうとしているのかわからない時がありますから。展示会の前の晩ギリギリまでですよ? もちろん当たりハズレはありますけど、ハズレたとしても、2年くらい経ったときに「あれ、おもろかったな」と思うこともありますし。本当にええもんなんて誰もわからないですよ。
辻 まぁ、みなさんに我々のことを知って欲しいというのはありますね。
徳田 20年経って、ようやく新しいスタートが切れるな、とは思いますね。先ほども話しましたけど、やりたいこと、表現したいことを自由に発表できるというのが本当にうれしいです。
辻 もう本当に、好きなものをなんぼでもつくったろと思います。バイヤーさんが取ってくれへんことが怖くなくなったというか。すごく気がラクになりましたね。
徳田 あとはスタッフにとってもいい影響をもらたしてくれることを期待しています。自分たちが携わっているブランドはこうなんだ! って、誇りを持って働ける空間ができたと思うので。
辻 ここで成功をして、「ブルーナボインでもできるんやな」っていうのが伝われば、みなさんも独自でお店をつくりやすくなるでしょうし。ぼくはそういう店が増えて欲しいなと思います。
冒頭で大阪の色が薄くなっているというお話がありましたもんね。その濃度を濃くするいいきっかけになるといいですね。
辻 本来の目的はそれですから。ぼくらはクラシックな服をつくっているわけじゃないので。TPOも関係ない、遊びの服なので。それをデザインするために、ぼくらも遊ばしてもらいます。このお店もそうなんです。先ほども話しましたが、ここをつくったのは本当に壮大なギャグなんですよ(笑)。
たくさんの人が駆けつけお祝いをしたレセプションパーティー。
「大阪の濃度を濃くしたい」という辻さん、徳田さんの願いに賛同するように、ショップのオープン前夜に開催されたレセプションパーティーにはたくさんの関係者が集まり、新たな門出を祝いました。
壁面には〈ブルーナボイン〉、〈フレイフレイ〉のコレクションがズラリと陳列され、什器の上ではブランドのマスコット、パンダ(?)ならぬジョナパンを模したパンや、大阪ならではのアイデアが詰まったたこ焼き風のミニキッシュなど、手軽に楽しめる料理が所狭しと並んでいました。
ドリンクを片手に服とフードを楽しむ来場者たち。お店の意心地の良さを証明するかのように、パーティーのスタートから終わりまで、人々の姿は途絶えることなく、その盛り上がりはお店の外まであふれるほど。辻さん、徳田さん、スタッフの方々は皆、来場されたお客さんの応対で足が止まることはありませんでした。
左:木村 真さん / LOFTMAN 代表取締役 「おめでとうございます! パンチのあるお店ですね。大阪の新しいスポットになって欲しいですね」
右:中島昭一さん / doo-bop オーナー 「関西ブランドが大阪らしい場所にお店を出されて本当にうれしく思います。関西を盛り上げられるように、これからも一緒にがんばっていきましょう!」
左:谷 篤人さん / IMA:ZINE バイヤー 「ブルーナボインさん、おめでとうございます!ぼくは生まれがこのすぐ近くで、すごく感慨深いのと、こんなところにできるなんて本当に驚きです」
右:稲葉冬樹さん / IMA:ZINE ショップマネージャー 「THE大阪な場所にお店ができて、さすが辻さんですね。本当におめでとうございます!」
左:佐藤セイゴさん / miraco デザイナー 「かっこいいしか言葉がないですね。大阪でみんなが楽しくなるような場所だと思うので、これからが楽しみです」
右:小澤さん / アパレル業 「素敵な景色が眺められて、いい場所ですね。おめでとうございます」
左:森本雅之さん / アパレル営業 「レセプションパーティー、すごく楽しかったです! 立地や内装に驚きました。さすがブルーナボイン!」
中:パンサーさん / LOFTMAN 「辻さん、徳田さん、おめでとうございます! ブルーナボインとは10年以上お付き合いさせていただいていますが、これからもよろしくお願いいたします!」
右:武藤洋平さん / アパレル営業 「オープンおめでとうございます! お店、本当に最高ですね。職場が近くにあって毎日通る場所なので、しょっちゅう来ますんで、よろしくお願いします!」
左:高松 直さん / カジカジ 編集 「アパレルのお店がないところに出店するあたりが、ブルーナボインらしいなと思いました。おめでとうございます!」
中左:羯磨雅史さん / カジカジ 編集長 「ブルーナボインさん、大阪店のオープンおめでとうございます。これからも素敵な服をつくっていってください!」
中右:圓 進さん / スタイリスト 「この場所にこんなお店ができるとは思わなかったので、単純にすごいと思いました。これからが楽しみです。おめでとうございます!」
右:満田啓介さん / 自営業 「おめでとうございます! ブルーナボインらしい、かっこいいお店ですね!」