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FEATURE| NGT48北原里英×白石和彌監督 『サニー/32』という新しい形のアイドル映画。

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NGT48北原里英×白石和彌監督 『サニー/32』という新しい形のアイドル映画。

今春にNGT48卒業が決まっている北原里英さんが主役を務める、2月17日(土)全国公開の映画『サニー/32』。『凶悪』、『日本で一番悪い奴ら』をはじめ、男くさい実録系作品の多い白石和彌監督が作り上げたのは、さまざまな読み取り方ができる“アイドル映画”です。過酷な撮影現場を文字通り体当たりで演じきった北原さんと、北原さんをいい意味で“アイドル”扱いしなかった白石監督の二人に、日本の闇歴史をぶちこんだ、この映画についてお聞きしました。インタビュアーは宇野維正さんです。

  • Interview&Text_Koremasa Uno
  • Photo_Junpei Ishikawa(Rie Kitahara&Kazuya Shiraishi)
  • Edit_Shinri Kobayashi

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左:北原里英(きたはら・りえ)
1991年6月24日生まれ。愛知県出身。秋元康プロデュースによるアイドルプロジェクト「AKB48」のメンバーとしてデビュー。同グループでの約7年の活動を経て、‘16年より、新潟を活動の拠点とする「NGT48」チームNⅢのキャプテンを務める。女優としても多くの作品に出演しており、主な映画出演作品としては、『グラッフリーター刀牙』(12)、『ジョーカーゲーム』(12)、『任侠野郎』(16)などがある。

右:白石和彌監督
1974年生まれ。北海道出身。1995年、中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として活動。若松孝二監督の作品へ助監督として参加する一方、行定勲監督、犬童一心監督などの作品にも参加。ノンフィクションベストセラーを原作とした『凶悪』(13)は、2013年度新藤兼人賞金賞をはじめ、第37回日本アカデミー賞優秀作品賞・脚本賞ほか各映画賞を総嘗めし、一躍脚光を浴びる。その他、『日本で一番悪い奴ら』(16)、『牝猫たち』(17)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)などがある。

STORY
“サニー”……それは「犯罪史上、もっとも可愛い殺人犯」と呼ばれた11歳の女の子。冬の新潟の或る町。仕事も私生活も振るわない中学校教師・藤井赤理(北原里英)は24歳の誕生日を迎えたその日、何者かに拉致された。やったのは二人組で、柏原(ピエール瀧)と小田(リリー・フランキー)という男。雪深い山麓の廃屋へと連れ去り、彼女を監禁!小田は嬉々としてビデオカメラを回し、柏原は「ずっと会いたかったよ、サニー……」と、そう赤理のことを呼んだ。“サニー”とは――世間を騒がせた「小学生による同級生殺害事件」の犯人の通称だった。事件のあらましは、当時11歳だった小学生女児が同級生を、殺害したというもの。突然、工作用のカッターナイフで首を切りつけたのだ。事件発覚後、マスコミが使用した被害者のクラス写真から、加害者の女児の顔も割りだされ、いたいけで目を引くルックスゆえに「犯罪史上、もっとも可愛い殺人犯」とたちまちネットなどで神格化、狂信的な信者を生み出すことに。出回った写真では、独特の決めポーズ(右手が3本指、左手は2本指でピースサインをつくる)も話題を集め、それは信者たちの間で「32(サニー)ポーズ」と名付けられ、加害女児自体も“サニー”と呼ばれるようになった。奇しくも、この“サニー”の起こした事件から14年目の夜に二人の男によって拉致監禁された赤理。柏原も小田もカルトな信者で、二人は好みのドレスに着替えさせ、赤理の写真や動画をネット上の「サニーたんを愛する専門板www」にアップ。赤理は正気を失っていきながらも、必死に陸の孤島と化した豪雪地帯の監禁部屋から脱出を試みる。が!それは驚愕の物語の始まりにすぎなかった――。

アイドルだろうと容赦ない現場。

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今作の企画は、もともと秋元康さんが北原里英に「映画をやってみないか」って話があって、そこで北原さんから好きな作品として『凶悪』の名前が出たところから始まったと聞いているんですけど。

白石日活のプロデューサーを通して、秋元さんが会いたがってるって話をきいて。一人でお会いしに行くのは緊張するなあと思って(笑)。

(笑)。

白石で、脚本の高橋泉にもついてきてもらって。実はホラー映画的なアイデアがあったんですけど。

アイドルの初主演映画としては、定番コースではありますね。

白石ええ。でも、自分はホラーをやったことがないのであまり乗り気になれなかったんですけど、話しているうちに「好きなことをやってください」って話になって。

で、今回の『サニー/32』は本当に好き勝手にやっちゃいましたね。北原さんとしては、迂闊にも『凶悪』が好きだと言ったばかりに(笑)。

北原迂闊ではないです(笑)、本当に好きなんです。観た後、精神的にズン! とくるものが残るじゃないですか。それがずっと心に残ってて。まさか、あの作品にも出ていたピエール瀧さんやリリー・フランキーさんともご一緒できるとは想像もしていなかったので、一人の映画ファンとして、こんなにも幸せなことはないと思います。

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初の主演作でこれだけのスタッフ、キャストに支えられるって、本当に贅沢な話ですよね。

北原そうですね。夢なのではないかと思いまして。いざ撮影が始まると、過酷な現実が待っていましたが(笑)。撮影が始まる前、「なんでもやります!」と言ってしまったことをほんの少し後悔しました(笑)。

白石(笑)。

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これまでの白石和彌作品の作風はもちろんふまえつつも、今回はちょっとソフト目になってるのかと思いきや、最初の20分くらいで「いやいやいやいや」ってなるという(笑)。一体どこまでいくのかって思いながら観てたんですけど、そのままの勢いで最後までいっちゃうんで驚きました。

北原「一体どこまでいくのか」というのは、まさに撮影中に私が思ってたことでもありました(笑)。撮影に入る前にしっかり覚悟は決めてきたつもりだったのですが、撮影の序盤、「山小屋の2階の窓から下の雪のところに飛んでください」と言われた時に、思わず周りにいる方を確かめまして。どこかにスタントの方が待機してるのではないかと(笑)。

白石ケガしたら大変だから、周りの柔らかそうな雪を集めておいたんです。

北原全然柔らかくなかったですよ! 「では、そこに飛んでください」と。自分としてはシーンの山場だと思っていたのですが、ごく当たり前のようにおっしゃいましたよね。最初は甘えもあったのかもしれないなと、そこから身が引き締まりましたね。

“メタ”としてのアイドル映画。

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本作の脚本は、いわゆるNEVADA事件(2004年の佐世保小6女児同級生殺害事件)をはじめとして、日本の近代史におけるいくつかの大きな事件を参照してますよね。北原さんはそのあたり、どの程度認識をした上で撮影に臨んだんですか?

北原いえ、NEVADA事件はほとんど知りませんでした。

そうか。作中の設定でもそうですけど、実際に北原さんがまだ12歳とか13歳とかの頃の事件ですもんね。

北原そうですね。撮影が中盤を過ぎてから、共演者の人たちがそのことについて話していて、そこで初めて調べました。でも、事件を意識しながら演じるより、ほとんど知らないままやっていたのが良かったように思います。

わりと序盤から人が死んでいって、「あ、これは現代の浅間山荘事件をやろうとしてるんだ」って気づいた段階で、若松(孝二)組でずっと仕事をしていた白石監督にとっていかに本気の作品であるのかっていうのがわかりました。

白石そうですね。

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一方で、今作にはドローン少年が出てきたり、ソーシャル・メディアが重要な役割を果たしていたり、北原さん演じる主人公が「ファン」と接する一連の恐ろしい描写は、アイドルの握手会の延長上にあるともいえる。非常に現代的なテーマを扱った作品でもありますよね。

白石そうですね、実際、アイドルの握手会が孕んでる恐ろしさについても発想の出発点としてはありましたね。

北原最初に白石さんから「アイドル映画を撮ろうと思う」と言われました。その時は「どういうことだろう?」と真意がつかみきれなかったんですが、まさかこんな作品になるとは思いませんでした。脚本を読んだ際も、「どこがアイドル映画なのだろう?」と思いまして。文字からは読み取れませんでした。でも、実際に完成した作品を観てみると、確かにアイドル映画にもなっていて、驚きました。

ただの「アイドル映画」ではなくて、アイドルという概念に対する批評であり、メタとしての「アイドル映画」にもなっている。その巧みな構造に、かなり痺れてしまいました。

北原そう思います。白石監督の考える「アイドル映画」はこれなのだなと。

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本作ではかなり強烈な非日常が描かれるわけですが、冒頭、新潟の小さな町で中学校の教師をしている、主人公の日常のシーンがあるじゃないですか。作品が終わってみると、あの一連の日常のシーンがすごく効いてるなって。

北原教壇に立つのは、自分としてはかなり違和感がありましたね。まさか中学校教師の役を今の自分がやるとは思いませんでした。あのシーンの生徒の皆さんは、撮影に協力していただいた中学校に通っている実際の生徒の方々がエキストラとして参加されていました。だから、とてもリアルで怖かったですね。

白石生徒の皆さんには「つまらなそうに授業を聞いててください」って言ってましたからね(笑)。でも、北原さん、中学校教師の役がすごくハマってましたよ。

北原本当ですか? 絶対に教師にはなれないと思いましたね。教室いっぱいの生徒たちに冷たい目で見られながら一人で喋ることが、こんなに精神的に堪えるものだとは思いませんでした。お芝居なのにつらくなってしまって。

白石人前で話すことは慣れているとはいえ、普段、ライブのお客さんとかはみんな楽しみにしてそこにきてるわけだからね。自分に興味がない人の前で話すのって、キツいよね。

北原そうですね。自分が学生の頃、もっと先生に優しくしておけばよかったなと後悔しました(笑)。

でも、冒頭の一連のシーンで、女優・北原里英に対する信頼が確かなものとなって、そこから完全に作品の世界に没入できました。

北原ありがとうございます(笑)。

かねてからの女優志望とこれからの道。

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北原さんは学生の頃は将来何になりたいと思っていたんですか?

北原小さい頃、ケーキ屋さんになりたいと思っていましたがある日、女優さんになりたいと思うようになり、さまざまなオーディションを受けている中にAKB48のオーディションがありました。

じゃあ、最初から明確に女優志望だったんですね。

北原はい。ですから、今回のような作品に出会えて、主演をさせていただく機会をいただけたことは、本当に10年間AKB48をやってきてよかったなと思っています。

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白石監督からは、撮影に入る前、あるいは撮影中に何かアドバイスのようなものはあったんですか?

北原初めてお会いした時、「何か準備をしておくことはありますか?」と訊いたら、「いや、何もしなくていい」と。

白石(笑)。

北原その時に、すべて監督に委ねようと思いましたね。

白石でも、実際に北原さんが何か準備をするようなキャラクター作品ではないと思うんです。

物語の中でも、突然拉致されるわけですからね。

白石そう。あと、自分の作品の脚本は、あまり当て書きで書かれたものは少ないんですけど、今回の脚本は北原さんを念頭に作っていったものなので。アイドル活動ってハードですから、それを全力でやってきた方だったら、きっとやりきれるんじゃないかなと思っていました。

監督にとって、女優・北原里英の魅力はどこにあると思いますか?

白石作品に対する真摯な姿勢ですね。それは、きっと「女優になる」という覚悟が大きいと思います。

北原一生ついていきたいと思うほどの素晴らしい体験をさせていただきました。白石さんは、現場で誰よりも早く、一番に動く方なんですよ。こういう方だから、過酷な撮影にもみんながついていくのだなと思いました。

白石助監督時代から、一番動く助監督と言われてました(笑)。

でも、そういう運動能力みたいなものって、映画にとってすごく重要なことなんじゃないですか。白石監督の作品を観ていて思うのは、いつも反射神経が優れているなってことで。

白石ああ。でも、そういうのって、確かに映画としてのテンポの良さとかと深い部分でつながってると思います。

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白石監督の作品は男くさい作品も多いですけど、今後、もしまた北原さんをキャスティングするとしたら、どんな役が考えられますか?

白石うーん……いい意味でビッチの役とか。

「いい意味でビッチ」(笑)。

白石ちょっと影のある役の方が似合うと思いますよね。

北原嬉しいです。

北原さんは、今後、どんな役をやっていきたいと思っていますか?

北原アイドルの仕事と並行して演技の仕事をさせていただいた時は、どこかに力みのようなものがあったと思います。でも、この春にNGT48を卒業することになって、これからはちょっと肩の力を抜いて、普通の人を演じられるようになりたいと思いますね。

普通の人っていうと?

北原例えば……合コンに来た女友達であったり、主人公の恋敵など、そういった普通の役に憧れますね。

白石今回は全然普通の役じゃなくてごめんなさい(笑)。

北原(笑)。

『サニー/32』
ovie-32.jp
2018年2月17日(土)全国公開

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