第ニ講 藤原裕
「いつかは手に入れたいと長年狙い続けていました」
藤原では、今野さんからのカバーオール繋がりで僕もカバーオールをいくつか。まずは〈リー〉の「31」です。「31」は当時(30年代)の廉価モデルなんですが、同時期にリリースされたハウスマーク仕様の91-Jが10万円以下だった90年代から、すでに30万円とか付けられていた憧れのモデルでもあって、いつかは手に入れたいとずっと狙い続けていました。ただ見つけてもサイズが大きいか、状態に満足できないかで、長年ニアミスが続いたモデルでもあって。
阿部まあ、Gジャンが値上がりし過ぎてるし、カバーオールならではの面白さも沢山あるので、もっと注目されてもいいのでは、とは思うな。
藤原そうですね。僕も気分的にはカバーオールを盛り上げていきたいですし、子供にも英才教育として〈ビッグジャック〉の30sカバーオールも着させてますから(笑)
今野状態もかなり良いね。
阿部それでも廉価モデルってことは、生地とか色落ちとかが正規版と比べて劣るってことなの?
藤原若干生地のオンスは低めかもしれません。
栗原話がそれるけど、同じ廉価モデルでいうと〈リーバイス〉「213」(俗にファーストと呼ばれる506XXの廉価版)と、同時期にリリースされた「506XX」って、現状どっちが高いの?
藤原じつは「213」。最近は大戦モデル(第二次世界大戦中に製作された簡略版)と「213」がほぼ同等くらいの価格ですね。おそらく圧倒的に玉数が少ないのが理由でしょう。
阿部さっき今野くんが見せてくれたアーティストT同様、正規品まで手が届かない人のために作られた廉価版だったりブートレグが古着市場では完全に逆転しちゃってるってことだよね。
一同確かに。
藤原僕の場合、Gジャンはオーバーサイズが基本なんですが、カバーオールに関してはジャストじゃないと絶望的に似合わなくて(笑)。よく阿部さんがオーバーサイズのカバーオールを小奇麗に着られていて、羨ましいなとは思うんですが。個人的には36と38を中心に集めていて。もう1枚持ってきた、この生成りの「44-J」も確か38だったかと。
阿部「44-J」といえばプリンストン(プリンストン大学の卒業記念品。背面にスクールシンボルでもあるプリンストンタイガーや卒業年がプリントされている。古着サミット3を参照)のものはよく見かけるけど、他の大学はじめ、プリント入りのものってあるの?
藤原これは刺繍入りですが、プリンストン大以外のプリントはあまり見かけたことがないですね。
栗原僕も以前これと同じデザインの「44-J」を持っていたんですが、おそらくソロリティのものだと思います。
阿部どういうこと?
栗原このαとかΘみたいなギリシア文字が使われているカレッジものは学校名ではなく社交グラブのもので、男性のみで構成されるクラブをフラタニティ、一方で女性のみのクラブをソロリティというんです。
栗原胸に刺繍された名前も女性ぽいですし、だからサイズも小さいのかと。
今野イエール大学でもスカル&ボーンズみたいな団体(1832年に設立せれたイエール大学内の秘密結社)があるもんね。
阿部あるね。ブッシュも所属していたとか。
今野前にアンティークティファニーを調べていた時、スカル&ボーンズのバッジはティファニーが作っていたし、アメリカにはそういう階級文化みたいなものが、いまでもしっかり残っているんでしょうね。
「以前は派手過ぎて手が出ず、2年ほど前から徐々に探して集め始めた」
藤原続く僕の2つめはドット柄のシャツです。大方が60~70年代頃のものなので特に珍しいというワケではないんですが。じつは10年以上前から気にはなっていて、ただ、その頃の僕には派手過ぎて手が出ず、ここ数年前から徐々に探して集め始めた感じですね。
阿部ブランドは?
藤原「トラディショナル」、「ウェアエヴァー」などマイナーなものが中心で、このサドルマンタグの「リーバイス」のものだけ、若干珍しいくらいで。派手でとにかく着づらいですけどね。1回店に着て出たときは内輪で結構笑いを集めました。
栗原この白地に赤ドットは完全に草間彌生だよね(笑)
一同(笑)
今野この時代のサドルマンタグが付いたシャツをその昔津田沼の「ガレージセール」が一気に出したことがあって、あの時はスルーしたけど、いまになって買っておけば良かったと後悔してますね。
阿部こんなに派手なシャツを当時のカウボーイとかに提案してたってことだよね。
藤原そうですね。50年代まではまだ保守的だったのかもしれませんが、サドルマンタグは60年代に入ってからなので、その頃になるとこういった提案性のある柄もある程度出てきたんでしょうね。
阿部でも、何も突っ込まれずに着るのはやっぱり難しいよね(笑)
藤原デニムと合わせるならギリギリ(笑)。ちょっと前までシャツといえばB.D.というほど、徹底してボタンダウンしか着ていなかったんですが、店が「フェイクアルファ」と一緒になってから、こういったオープンカラーなどにも興味が出てきた感じでして。それにいま穿いている66 (501 66モデル) を最近下ろしたばかりで、しばらくはこれしか穿かないと決めているので、トップスはちょっと派手くらいがちょうどイイのかなと。
阿部結構出てくるの?
藤原いや、1回の買い付けで1枚出てくるか来ないかレベルですね。
阿部当時流行った柄ってワケでもなさそうだし。
栗原流行らなかったからこそ、出づらいんでしょうね。
阿部シャツ自体はいまどうなの?
藤原まだそんなに急激には上がってないですけど、以前なら5800円とか6800円で買えたものが、いまは9800円とか1万2800円ぐらいに上がりつつあるのかな。
栗原玉数は明らかに減っていると思います。まあ、デニムなどと違って寿命が短い分、良い状態の個体が残っていないんでしょうね。
「ちゃんちゃんこみたいなんで、正直着る際はなかなか躊躇しますけど(笑)」
藤原3つめはワークベスト。見た目はミリタリーみたいで気に入っているんですが、全く詳細不明なので良い機会だからみんなで検証したいと思って。
今野Not Fire Resistantって書いてあるってことは、逆に耐火素材で作られたものがあるってことじゃない?
栗原ということは、ファイヤーマンベストなんでしょうね。でなければ、このアラートをわざわざ書かないでしょうし。ファイヤーマンジャケットとかも本格的じゃないものには必ず同様の文言が記されているので。
阿部まずディテールが面白いよね。じつは何度か大阪の古着屋さんでも見たことあるんだけど、大体いつ頃のものなんだろうね?
今野このタグの感じやディテールから60年代ぽく見えるよね。ステッチがオリーブだし、軍モノを作る工場でそのままミシンの糸を変えずに縫製されたんじゃないかな。たまにODの軍モノでもスノーカモみたいな白いボディを縫った後に、縫製糸を変えないまま縫われたイレギュラーなものもあるし。
藤原赤いちゃんちゃんこみたいなんで、正直着る際はなかなか躊躇しますけど(笑)
今野いや、似合ってたよ。
阿部ハンティングとかにも近いディテールワークだよね。ポケットも多いし、これならバッグなんていらないでしょ。
栗原自分でさっきはファイヤーマンと言っておきながら、もしかするとランバーマン(森林作業員)用かもしれないですね。遭難した際やハンター等に誤射されないよう想定して、あえて派手なカラーリングにしているのかも。
今野でもPROPERTY OF U.S. GOVTってことは、官有物ってことじゃない?
栗原例えば国立公園の森林作業員とか。
今野ああ、なるほど。
阿部フィルソン(U.S.ハンティングウエアの代名詞的ブランド)ぽいディテールもあるし、僕もファイヤーマンよりは後者に賛成かな。
藤原ホントはこれのODとかあったら最高なんですけどね。
栗原正直初めて見たよ。気になるのでネットで詳細を調べてみようと思ったけど検索ワードがわからない(笑)
「ほとんど無地かカレッジ系しか着ないので、僕にしては結構新しい試みです」
藤原最後は90年代のアーティスト系のTシャツです。「Largely Literary」というシリーズで、本型のパッケージに入れられ、当時ブックストアで販売されていたものらしく、歴史的な音楽家や作家などをモチーフにスティーヴン・クラッグという人がイラストを担当しています。デッドストックで50種類くらいまとめて買い付け、そこから数種だけ買うことができたもので。
阿部ジャック・ケルアックとかもあったみたいね。
藤原はい。1枚しかなかったですけど。
阿部これは描いてる人も有名なのかな? 若干ディフォルメ感が針すなおっぽいけど(笑)
一同(笑)
藤原古着でも何パターンかは見たことはあったんですが、イラストレーターよりもやっぱりモチーフとなった人物が重要なんじゃないかと。
阿部裕くんは誰を買ったの?
藤原僕はバッハとルイス・キャロル。
阿部ルイス・キャロルって?
栗原確か『不思議の国のアリス』の作者かと。
阿部さっすが。
藤原ボディもヘインズはじめ数種類あって、89年と90年に販売されたものみたいですね(編集部調べによると同時期にマグカップも展開されているよう)。ほとんど無地かカレッジ系しか着ないので、僕にしては結構新しい試みで。
今野以前、山田さん(ベルベルジンオーナー)がこのシリーズを集め始めた頃にお話したら「このイラストを描いた人まだ生きてるみたいだから、今野くんも頼みなよ」って言われて。自分の顔が描かれてるTシャツなんて着てたら、かなり危ないヤツでしょ(笑)。誰かに着られるのもちょっと複雑だし(笑)
一同(笑)