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第三講 栗原道彦

「紐付くカルチャーとかバックボーンはさておき、単純にデザインとして」

Vintage Art T-Shirt

栗原では、僕もひとつめはアート系のTシャツから。まずウィリアム・ウェグマンのフォトプリントですが、彼は犬を擬人化した作品で有名なアーティストですね。

阿部ワイマラナーだったかな? この犬種ばかり撮っているよね?

栗原僕も何年か前に1枚買って、何か見たことあるなと思って調べたら彼の作品だったと。

阿部90年代に古着じゃなく、セレクトショップでリアルタイムに売ってたのを覚えてる。

今野このMaoは何なの?

栗原それはケン・ブラウンっていうアーティストの作品で、セサミストリートのアニメーションとかも手掛けた人みたいです。確かこのMICKEY MAOは、80年代くらいの作品だったと思います。最近この辺りのアート系Tシャツも気にして見るようにしてますね。特にエッシャー(マウリッツ・コルネリス・エッシャー)辺りは、すでに高騰しているみたいです。

阿部全部アメリカで手に入れたもの?

栗原そうですね。どれも買付け時にアメリカで手に入れたものです。こっちは恐らくレイモンド・ペティボンの作品ですね。

今野ああ、そうなんだ。彼はブラック・フラッグやソニック・ユースのアートワークでも有名だよね。

栗原確かお兄さんがブラック・フラッグのギタリスト、クレッグ・ジンだったかと。

今野そうそう。これはジャック・ケルアック?

栗原そうですね。コピーライト表記がないので、おそらくブートだとは思うんですが。

藤原この辺りは純粋に描かれたモチーフを基準に選んでるの?

栗原そうだね。正直とくにアートに造詣が深いワケでもないし、単純にデザインで選んでる。もちろん紐付くカルチャーとかバックボーン的なものも知らないといけないとは思うんだけど。

藤原すでにアメリカではそれなりの価格になってるものなの?

栗原とくにさっき話したエッシャー辺りは、何年か前までなら普通の古着価格で仕入れられたけど、最近はアメリカでもちょっと買えない価格になっちゃってきてて。

今野〈シュプリーム〉がやった(マウリッツ・エッシャー、レイモンド・ペティボンはともに数年前にフィーチャーされている)のも大きかったかもしれないね。

栗原確かに。リキテンシュタイン(ロイ・リキテンシュタインも00年代にフィーチャー)も最近高騰してきてますしね。

「身幅もあってジャケットの上に羽織ったりするなら、逆にこれくらいの年代の方が様になる」

80’s Columbia & L.L.Bean Fishing Vest

栗原2つめは80年代頃のフィッシングベストで、〈コロンビア〉と〈L.L.ビーン〉のもの。もっと古い50年代以前のものも、あれはあれで好きなんですけど、最近は70年代以降のこの辺がちょっと気になって。身幅があるし、デザインもキャッチーなのでジャケットやコートの上に羽織ったりするのによいかと。最近あまりバッグを持たなくなったので、単純にバッグ代わりにも便利かなと(笑)

阿部そんなに高くはなってないよね?

栗原そうですね。ただ、去年辺りに若い世代のお客さんから、一瞬この辺に人気が集中した時期があって、アメリカでも気にして見るようにはしていたんですが、台湾とかの無名ブランドはあっても、〈コロンビア〉や〈L.L.ビーン〉みたいなアウトドアブランドのものは、むしろ日本国内の方が数がある印象ですね。シアトルとかポートランドを中心に廻ったら結構出てくるのかもしれないですが。

藤原でも着丈が短いし、実際に着ると結構アンバランスなんじゃないの?

阿部若い世代はそれが逆にイイんじゃないの? 長短のコントラストというかね。

栗原〈パタゴニア〉の「スカノラック」とか「SSTジャケット」とか、最近あの辺のフィッシングとかカヤック系のアイテムも調子良いみたいですし、見慣れてきたというか、徐々に抵抗も薄まってはいますよね。

今野このタグ時代の〈コロンビア〉は良いもの多いよね。

阿部そうだね。〈コロンビア〉といえば、小林さん(「……Research」代表)のコレクションはスゴかったね。それこそフイナム(フイナム「コロンビアのフィッシングベストを徹底リサーチ」を参照)で見たけど。

「長年バイイングを続けていて、個人的にも久しぶりにデッドで面白いものが出てきたって自負がある」

90’s panno d’or Double Riders Jacket

栗原3つめはフライトジャケットの素材で作られたダブルのライダース。以前から付き合いのあるミリタリー屋が倉庫を片付けていた際に出てきた古い在庫を買付けしたもので、アメリカ製ながらブランド自体はフランスのブランドみたいですね。

阿部フランスなんだ?

栗原フラッシャーを見る限り、〈パノドール〉ってブランドみたいですね。そのミリタリー屋のおっさんが言うには「90年代前半にMCハマーがこのブランドのパンツを穿いて、アメリカでも流行った」って言ってましたけど。

今野あのサルエルみたいなヤツ?

栗原いや、あれではないと思いますが(笑)

藤原素材だけでなく、ジッパーなどパーツも全部ミリタリーものみたいですね。

栗原そうそう。一応袋には94年のステッカーが貼ってあったので、生産もその辺りだとは思うんだけど。

今野これを買い付けてすぐ栗ちゃんのショールームで見た時、何着も仕入れようとしたら「その辺で勘弁してください」って言われちゃって。

栗原ただ、実は言うほど回転の良いものでもなかったという(笑)

今野嘘でしょ? こんなイイものが売れないんだ。

栗原まあ、長年バイイングを続けていて、個人的にも久しぶりにデッドストックで面白いものが出てきたって自負はあったんですが、実は見つかったほとんどが34~36の小さいサイズで、今だったら逆に44~46くらいのデカいサイズの方が良かったんでしょうね。

藤原栗くん自身は着るの?

栗原昔は何枚か持っていたけど、実はいま現在ダブルのライダースって一着も手元になくて。でも、これに限っては着るかな。80~90年代製となると大抵はモッサリしたシルエットにアレンジされてたりするけど、これに関しては古いライダースのシルエットをほぼ忠実に再現しているから形も良いし、素材もソフトで着やすいから。

「一般兵用と特殊部隊用のともにテストサンプルなんじゃないかと」

ECWCS Level4 GEN3 Prototype

栗原最後はミリタリー関係なんですが、実は謎のモデルが2型あって。ECWCS(米陸軍ネイティック研究センターが80年代に開発したレイヤリングシステム。Extended Cold Weather Clothing System)GEN3のレベル4「ウインドシャツ」っていうモデルがあるんですが、正式に採用されたものには〈パタゴニア〉製が多く、カモパターンもUCP(Universal Camouflage Pattern)が一般的なんですが、これらは恐らくそのサンプルとして作られたものなんじゃないかと。

今野確かにかたち的にはほぼ一緒だね。

栗原そうなんです。そもそもウインドシャツ自体、〈パタゴニア〉の「スリングショット・ジャケット」がベースになっていて、その他に〈パタゴニア〉が製造していた「M.A.R.S.」(古着サミット4を参照)でも「スリングショット・ジャケット」ベースのモデルが採用されていますが、その「M.A.R.S.」版のサンプルじゃないかと思われるモデルが見つかって。

阿部それがこれ?

栗原はい。〈パタゴニア〉は必ず内タグにシーズンとリリース年を表記するんですが、この個体に関しては年表記がなくて。プルタグとかも一般の製品版とは違うシンプルな仕様だったりして。つまり最初にお見せした方(アイテム写真右3着)が一般兵用、次にお見せした方(アイテム写真左)が特殊部隊用の共にサンプル、もしくはプロトタイプになるんじゃないかと。

阿部なるほどね。こんなに珍しいものをどこで手に入れてくるの?

栗原前者に関しては、おそらくラグ屋だったかと。

今野よく見つけてくるよね。最初に見せてもらった方なんて、言われなければ完全にスルーしちゃうもん。

藤原確かに。ジッパーとかも明らかに有り物で設えたって感じがありますもんね。これがスリフトとかに並んでても、いまの栗くんの話を聞いてなかったら僕も絶対スルーしちゃうだろうな。

栗原ぼく自身もまだ確証は得ていないんですが、以前に他の同業者の方が同じものをインスタにアップしていて、その方もアメリカのミリタリー屋で「ウインドシャツのプロトタイプだ」って言われたようなことを書いていたので。

阿部タグとかも一切ないから、完全に詳細を掴むのは確かに難しいのかもね。

藤原そもそもM.A.R.S.って正式に採用されたものなの?

栗原一般的には後に正式採用されるPCU(Protective Combat Uniform)のトライアルラインが「M.A.R.S.」だったと言われているんだけど、兵士の着用写真を見たことがあるのと、以前にR2をデッドで見つけた際に入っていたオリジナルのカートンがADS(Atlantic Diving Supply Inc. ECWCS、PCU等、軍納入品の規格の管理、製造を行っている会社)のものだったので、軍に納入されていたものがあるのは間違いないと思う。

藤原でも「ダスパーカ」とか絶対使われてないでしょ?

栗原あの辺は確かに見たことはない。けど、「M.A.R.S.」やPCU、ハッピースーツ等が開発される以前は兵士が任務中に〈パタゴニア〉などのアウトドアアパレルを着用してて、その需要に対して開発が進められたという背景があるらしいから、完全にないとは言い切れないのかもね。

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