ストーリー
近未来の日本。犬インフルエンザが大流行するメガ崎市では、人間への感染を恐れた小林市長が、すべての犬を“犬ヶ島”に追放する。ある時、12歳の少年がたった一人で小型飛行機に乗り込み、その島に降り立った。愛犬で親友のスポッツを救うためにやって来た、市長の養子で孤児のアタリだ。島で出会った勇敢で心優しい5匹の犬たちを新たな相棒とし、スポッツの探索を始めたアタリは、メガ崎の未来を左右する大人たちの陰謀へと近づいていく──。
お互いのインスタグラムでは二人の交流の様子がうかがえるのですが、こうして揃ってメディアに出ることはあまりないのではないでしょうか?
野村それはそうですね。そもそも僕は裏方で、あまり表に出たりはしないので。
村上母親に訓ちゃんの事務所(トリップスター(TRIPSTER))に連れていかれたんです。
野村僕は、虹郎のお母さんのことは昔から知ってるんです。それこそ昔、海の家(辻堂海岸の「スプートニク(sputnik)」)をやっていたときに、ライブをやってもらったりしていたので。
野村さんは、若い才能とも積極的にコミュニケーションをとっている印象がありますが、村上さんについてはどんな印象をお持ちですか?
野村自分たちが若いときのちょっと生意気な感じが残っているのがすごくいいなと思ってるんです。
村上さんにとって野村さんとはどんな人ですか? 年齢も倍くらい離れていると思うんですが。
村上そうですね、親世代。面倒見がとにかくよくて、優しい。あとはなかなかグラサンを外さないシャイな人です(笑)。
村上さんが生意気というのはどういうところなんですか?
野村生意気って言うと聞こえがよくないのかもしれないんですが、最近はわりと丁寧な子が増えたなって思うわけです。僕はもう歳ですけど、やってることがわりと若いので、若い子に会う機会は多いんです。すると彼らは敬語がすごくしっかりしていて、けれど受け身なんですよね。
野村知らないことがあったとして「それなに? どういうこと? 教えて?」ぐらいのスタンスできてくれれば、こっちはいくらでも教えるんですが、「写真一緒に撮ってください」でおしまいっていうか。
野村まぁそれは僕が威圧的なだけかもしれないんですが。とにかくおとなしい子が多いのかなと思います。振り返ってみると、自分たちも若いときには生意気ってよく言われながらも、大人の人たちに可愛がってもらってたんです。けど今はそういう子が本当に少ないですね。その点、虹郎は構えないというか、素で接してくれるので、そういうところがいいなと思います。そういう風に来てくれた方が単純に楽なんです。
村上訓ちゃんはもう身内みたいなんです、親戚というか。
こうして話を聞いていても、敬語を使うことなくナチュラルに会話しているのが印象的です。
野村僕も虹郎くらいの歳のときに、敬語なんて使わなかったですからね。「ティース」みたいな(笑)。
敬語とかタメ口とかでいうと、英語はそのへん曖昧ですよね。
野村そうですね。僕は、虹郎よりも若い外国人の友達も多いんですけど、みんな「Yo Kun!What’s up?」 って感じですね。日本人の若い友達も外国ではそんな感じに喋るんですけど、日本語になると急に敬語になったりして。
さて『犬ヶ島』です。野村さんは、今回の作品では役割がたくさんあったかと思います。原案、声優、キャスティングディレクター。キャスティングにはどんな風に関わったんですか?
野村日本に住んでいるキャストに関しては全部僕が決めました。
そんななか、村上さんをわりと台詞の多い「エディター ヒロシ」という役柄にキャスティングしたわけですが、どんなところを見込んでの抜擢だったんですか?
野村まず、ウェス(アンダーソン)の作品というのは“ウェス組”のような感じで、一度出演した俳優が何度も出演することが多いんです。なので、お互いのことをよく知っているんですよね。ご飯を一緒に食べに行ってみたら、この人とこの人も実はすごく仲が良かったとか。だから日本に関しても日本版の“ウェス組”みたいになったらいいなというのがありました。一緒に録音するわけではないんだけど、どこか繋がりがある人たちでやりたいなと。
野村その話をウェスにしたら、「そんな風にできたらいいね」と言ってくれたので、そういった観点で選びました。あとは、さっきの英語と日本語の話ではないんですが、日本語って年齢とかその職業ならではの話し方というのがあるので、どうせやるんだったら役と実際のキャストの年齢が近くて、音色、声色が近いものが欲しいと思ったんです。
野村はい。ただ、最初はそこまで細かく決めてませんでした。でも、ウェスと色々話していくなかで、例えばこの科学者は32~35歳くらいで、しばらく研究所にいて今実務をやっているキャラクターにしようという風に、細かい設定を考えていったんです。そうなると、やっぱり実年齢に近い子たちで組んでいこうとなりました。とはいっても、みなさんに頼んでるのはほんの1ラインとかなんですけど。
村上さんの演じた「ヒロシ編集員」はけっこう出番が多いですよね。
野村そうですね。「ヒロシ編集員」は高校生なので当然10代です。虹郎の声は、張りに少年の瑞々しさや強さがあるんじゃないかなと思って、お願いしたんです。
村上最初はiPhoneのボイスメモで撮りました。「使うかわかんないけど」と言われて。
野村それを今度はウェスに送って。人によってはこの声だったらこっちの役の方がいいかな、とかあったんですが、虹郎の声はウェスが聞いても「うん、これはヒロシだね、彼でいこう」となったんです。虹郎の場合は、セリフが他の人より多いので、追加で頼んだりもしました。
収録のときには、すでに声を入れられるだけの画ができていたんですか?
野村『犬ヶ島』の制作は、ちょうど3年前のいまごろから始めたんですが、まずは絵コンテのサンプルを集める作業からでした。次に脚本のラフが英語で上がってきたので、それを読んで、日本だとこれはどんな風に受け止められるかみたいなことを考えて、細かいところを直したり。さらに今度はそれを日本語に変えて。
野村そうこうしていると、絵コンテが上がってきたんで、それを使ってまずは声を当て込んでみようと。英語と日本語だと尺が全然違うので、当て込む作業にすごく時間がかかりました。
野村しかも、ウェスのセリフ回しってすごく独特なんです。
野村同じ言葉をわざと繰り返し喋ったり、硬い話し方なんですけどオフビートで笑わせたりとか。それを日本語に変換して、ウェスの良さを生かしながらなるべく英語に合うように短くしようとすると、すごく難しくて。あとは字幕もすごく難しかったですね。字幕には字幕のスピードがあるので、それに合わせていくと、ウェスの言い回しが死んでしまうんです。
野村ここは一行にまとめてくださいって言われたりするんですけど、ここをまとめてしまうと、前後のセリフをわざと一緒にして、少しづつずれていくことで笑わせるというのが抜けてしまったり。とまぁ、そういうことをいろいろとやっていたわけです。
観ていても日本語、英語、字幕が入り混じる構成がかなり複雑だなと思いました。この裏には結構な苦労があるんだろうなと。
野村それで僕が尺合わせのために、全員分を読んだんですが、結局僕の声が…。
野村そう。一番悪い役柄の「小林市長」の声っぽいって。実際にキャストしようとした人ではなく、「クンの声を残す」と言われて声優をやることになったんです。
野村もともとは裏方だし、演技なんてしたこともなければあんまり興味もないので。ただ、ラジオ番組(antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING : J-WAVE 81.3)をやっているので、収録のあとにみんなに残ってもらって、「ちょっと読むから録ってくれる?」という感じで色々とやってました。そのときにどういうトーンで録音すればいいのかというのは相当詰めたので、虹郎たちに頼むときはだいたいこのくらいの尺回しで、このキャラクターだったらこういう話し方だっていうのがわかっていました。だから演技なんてしたことないんですけど、みんなに「ああしてくれ、こうしてくれ」って指導したりして(笑)。
村上最初はちょっと多めの分量を録ってくれと言われて、送ったら「もうちょっと早く」とか「なるべく音のないところで録ってほしい」と言われたので、トイレにこもったり。たぶんそういうことはみんなそれぞれやってると思うんですけど。
野村朝、クルマの中でこそこそ録音して嫁さんに不審に思われたりね(笑)。あと、虹郎は外で話すシーンがあったので、うるさい場所はだめだけど、屋外で抜け感のある場所で録ってほしいってお願いをして。
野村大学生とかが楽しそうにお酒を飲んでいるなか、ベンチに座ってやったよね。
村上やったねー。あとは一回きちんとスタジオに入って録りました。そのときは(松田)龍平くんとか、(野田)洋次郎くんとかも順番にやったんです。そのとき、少しだけ監督とスカイプで話しました。とにかく訓ちゃんから言われていたのは、「ヒロシ編集員」は15歳くらいの設定なので、もっと若くしろと。あとはもっと早くって。いまの3倍くらい早く喋れと言われました。監督の書くセリフってすごく話しにくいのに。
作品を観ていて村上さんの声はすぐにわかりましたし、すごく印象に残りました。あとは英語でのセリフもすごく自然に聞けました。高校生のときにカナダに留学していたとのことですが、いまでも英語は不自由なく話せるんですか?
野村英語のセリフがあるのが虹郎くらいだったんですが、それがすごく難しかったですね。というのも、あんまりツルッとした英語というか、発音が良すぎてもおかしいという話になって。和製英語と英語の半々くらいというか。早口になりすぎると、ケイン・コスギみたいになってそれだと流暢すぎてだめなんです(笑)。
村上そう。わざと英語だと発音しない部分を喋ったり。
野村RとLの発音がきれいすぎてもだめなんですよね。でも、そういうのを気にしだすと喋るのが遅くなるので、そこはもっと早く!みたいなことを言ってました。
村上さんは今回ウェス・アンダーソン監督とは会ったんですか?
村上まだお会いできてないんです。日本に来るみたいなので、そのときに会えたらと思っているのですが。
ベルリンでの国際映画祭に、野村さん含め日本のキャストの方が何人か行かれていましたが、村上さんは都合が悪くて行けなかったんですか?
村上そうですね。そのとき僕は舞台の本番で。誘ってもらっていたのですが、残念でした。
野村「本当に行くから連れていくぞ?」って聞いたら「舞台が。。」って。なんとかずらせって言ってたんですけど。
野村オープニング作品じゃなくて、後ろの方の日程だったら行けたんだけど、今回はオープニング作品になったので、難しかったんです。
ベルリン国際映画祭では、結局、銀熊賞(監督賞)を受賞しました。
野村夏木(マリ)さんも洋次郎も、ブチ上がってましたね。
村上さんは、完成した作品を観たばかりということですが。
村上めちゃくちゃ面白かったですね。それまではどんな話かまったくわかっていなかったので。
村上まず台本をもらってないんです。自分のセリフ分しかもらってないので、誰がどこをどんな風に喋ってるっていうのも、なんとなくしかわかってない状態でした。
野村セリフを紙で渡してはいけないっていうのがルールだったんです。話もなるべくわからないようにというか。これは虹郎だけじゃなくて、ほかのアメリカの俳優もみんな一緒です。これはみんなが言うことなんですが、ウェスって一緒に撮影をしながらインプロビゼーション(即興)で組んでいくという感じではないんです。役者たちは自分が何をやっているかわかっていなくて、パズルの1ピースになっているような感覚なんですよ。完成系をわかっているのはウェスだけ。
野村ベルリンで初めて観たひとも多かったんですが、自分がどういう風に料理されたのがそこで初めてわかるというか。ウェスは録り直しはするんだけど、別の録り方をしてみたりとかはないんです。なぜなら頭に全部入っているから。だからスケジュール通りに撮影が終わるんですよ。僕たちは完全に料理の素材ですね。
たしかにどの作品を見ても、ブレというか隙がないですよね。
野村自分のセリフを見ただけでは、何が面白いのかがわからないんですけど、完成した作品を観てみると前後がこういう流れだから、こういう風に活きるんだというのがわかるという。ちょっとマゾヒスティックな喜びがありますね。
野村さんは『犬ヶ島』という作品をいまどんな風に捉えていますか?
野村映画が面白いのかどうかというのは第一稿から関わっているので、正直もうよくわからないんですけど。
野村だから観終わってみんなが喜んでくれたなら、そこでようやくお役御免というか。責任は果たしたなと、ほっとした感じの方が大きいですね。というのも、ウェスが僕のことをすごく信用してくれて、日本のことは、僕がこれがいいと言えば「じゃぁそれでいこう」となるわけです。いやいやそんなに簡単にわかったって言わないでくれよと言うと、「いや、僕はクンのことは信用しているから」と。眠気も飛びますよね。
野村さんはウェス監督とは付き合いも長いと思うんですが、このタイミングでまたストップモーションという手法を用いた作品を作ったということに関してはどう思いますか?
野村前作の『グランド・ブダペスト・ホテル』が世界中でヒットして、次回作を期待されるなか、すごく作りづらくてお金にもならないかもしれないけれど、自分が好きなストップモーションをやるあたりが、このひとは本当に映画が好きなんだなって。リスクを取る人でもあるし、素晴らしいなと思います。
村上さんはウェス・アンダーソンの作品についてはどんな感想を持っていますか?
村上初期の作品はそこまで観てないのですが、何回も観ているのは『ダージリン急行』ですね。あとは『ムーンライズ・キングダム』とか。『ダージリン急行』は定期的に観直す作品です。
野村そういえば『ダージリン急行』も出るはずだったんだよね。都合が悪くなって出れなかったんだけど。
野村いやそれこそわかんない。電車のパッセンジャーとかにさせられてたのかな?(笑)