ー〈ロッキーマウンテン フェザーベッド〉はいつ頃から値段が上がり始めたんでしょうか?
寺本:僕が探し始めたときには、もう「クリスティー」で3万8千円とかしてたよ。今じゃもう7万8千円とかするんじゃないの? アメリカで400ドルとか500ドルするって聞くもんね。ただ、値段は軒並み上がってるけど、ちょっと落ち着いたんじゃないかな。古着屋でもあんまり出てこないみたいだし。とくに毛皮がついてるのが少ないんだよね。
今野:そうですね。
ー今野さんが今日持ってこられた私物はいつ頃買われたんですか?
寺本:これは珍しいよ!
今野:これ買ったとき、欣児さんに連絡しましたね。
寺本:あー、きたね。
今野:大阪で見つけたんです。1年半前くらいですかね。見つけたときに、なんかこれ様子がおかしいなって。
寺本:そうだね、おかしいね、これ。
今野:裏側とかボタンの仕様が変わっていて、写真撮って、欣児さんに送ったんです。
寺本:これはおそらく工事現場で使うから、オレンジが見えないといけないとか、そんなことだと思うけどね。
今野:さっき信岡さんとは、ハンティングじゃないかな、っていう話をしてたんです。
寺本:まぁ、それもあるかもね。
今野:サイズ48ですね。
寺本:48は大きいよ。なかなか珍しいよね。
信岡:これ裏、総とっかえしてますよね。普通は内側にパッチポケットがないので。
今野:別注なんですかね。
寺本:誰かのカスタムオーダーだと思うよ。いろいろなものを作ってるんだよ。当時の話は、なかなかわからないんだよ。ピエールはカブと会ってるんだけどね。で、カブには娘さんがいて、娘がやってたはずなんだよ。それから〈シェーファーアウトフィッターズ〉に移ったんじゃないかな。
今野:〈シェーファーアウトフィッターズ〉でも、レザーヨークのベスト作ってますよね。
寺本:そうそう。ちなみに、“シェーファー”っていうぐらいだからドイツ系だよね。
今野:ドイツといえば、ペリンガー社ですね。そろそろ革の話をしてもらいましょうか。
青木:この革って使っていくと、味が出るという感じではなく、落ち着いた感じの使用感が出てくるんです。
今野:この革は、〈エルメス〉で使ってるやつなんでしたっけ?
青木:そうですね。今回使っている”シュランケンカーフ”はペリンガー社オリジナルの代表作で、〈エルメス〉はこのレザーを元に作ったレザーを、長年使用していると言う形になります。ヨーロッパ社の革屋さんって、だいたいハイブランドの資本が入っているのですが、自己資本でやっているのはこのペリンガー社だけらしいです。
寺本:かっこいいねぇ。
青木:最初は、この革のカットを手帳に入れて持ち歩いてました。商品化したものの、最初は数枚しか買う事ができなかったのですが、いまは〈イタダキ〉でも使ってきちんと取引ができるようになりました。
寺本:すごいね、立派だよね。
ーものとしてはかなり高価なレザーということですよね。
青木:そうですね。いま、原皮が全然手に入らなくて、値段も昔に比べると随分上がってしまいました。
今野:自分の周りにも、〈イタダキ〉のアイテムを使っている方が多いんですけど、使いやすいと評判もいいです。
青木:〈イタダキ〉もなんだかんだで始めて10年くらい経つのですが、この革自体は7年前くらいに、革屋さんから提案してもらって使うようになったんです。今回のダウンベストもウチの顧客さんに紹介したら、その時点で2着売れました。
寺本:これいいもんね。
青木:この手の顔料系の革ってたくさん出回っているのですが、やっぱりクオリティが全然違うんです。
ーオレンジの発色もすごく綺麗ですよね。
青木:そうですね。クロームなめしというやり方なのですが、日本だとコストパフォーマンスが良く手軽なのがクローム鞣しといった考えが主流なのですが、ペリンガー社では全然違う方法なんです。なんでも、一枚一枚をラッピングして何ヶ月か置いておくらしいんです。それで薬品を浸透させて、pHを一緒にするっていう。
寺本:すごいね、こだわりが。革は勉強したら面白いからハマっちゃうんだろうね。
青木:シュリンク材を使って革を縮ませてこのシボ感を出すんですけど、そのシボ感にほとんどブレがないんです。
ー今回作ったダウンベストでは、ブラックと、なんと形容したらいいかわからない絶妙な色味の2色展開ですね。
今野:グレージュというんでしょうか。黒は黒で安定して人気だったんですが、このツートンカラーもいいですよね。〈エルメス〉らしい独特の色味です。
寺本:今野くんが作るものは色気があるよね。
今野:ありがとうございます。今のコメントは太字でお願いします(笑)。
寺本:いやほんとにさ。結局色気がないとだめだよ。
ー裏地についても聞かせてもらっていいですか?
寺本:裏地は〈エルメス〉のスカーフじゃないの?(笑)
今野:全部が全部〈エルメス〉のスカーフではないのですが、一枚一枚、このアイテムにふさわしいメゾンブランドのヴィンテージスカーフを選定して、ダウンベスト一着につき一枚、贅沢に使用しています。
寺本:でも色気あるよね、これも。
今野:シルクの光沢とかデザインも含めてですけど、やっぱり雰囲気が全然違いますよね。
寺本:そうだね。
今野:〈エルメス〉のスカーフ作りの工程とか、本当にすごいですよね。
寺本:いや本当にすごいよ!
ー今野さんにお話を伺ってると、〈エルメス〉の話がよく出てくるような気がします。やっぱり思い入れがあるんですか?
今野:高校生のときに、革のフックをついたブレスレットを先輩にいただいて。そのときに〈エルメス〉の魅力を説いてもらったことがあって。それぐらいのときからの付き合いです。いまでも憧れの気持ちが強いブランドですね。
ーこのダウンベストを展示会に出してみてのリアクションはどうだったんですか?
今野:正直、予想以上の反応でしたね。もちろんモノの良さには自信がありましたけど、金額的なところを含めてどこまで伝わるのかなと思っていたんですが、そこは自分が考えていたところよりもはるかに良かったですね。あとは〈ロッキーマウンテン フェザーベッド〉のコレクターの方にも受け入れていただけたのは嬉しかったですね。大抵「もう持ってるから」って言われてしまうことが多いんですが、これに関しては黒を持ってるからこっちの色にしようというような感じで、買っていただけました。悪そうな方たちは、みんな黒にいきましたね(笑)。グレージュの方はアパレル系の方々から人気でした。
ー並べてみると、けっこう印象は違いますよね。
今野:確かに。それにしても黒と金のコンビって、不良心をくすぐる何かがあるんですかね?(笑)
寺本:一緒のコンビで、鞄とか作ったら売れたかもね。
ー実際に作るときは信岡さんとのやり取りだったと思うんですが、わりとスパッと決まったんですか?
信岡:そうですね。ただ、細かいところにはかなりこだわってやってましたね。例えば、この引き手のスライダーのところをわざわざ革で作ったりとか。
青木:財布で使ってるような引き手でできない?ってお願いがありまして。
寺本:いいよね、この部分も。
ー〈ロッキーマウンテン フェザーベッド〉では、これ以外にも毎シーズンかなりの別注がありますよね?
信岡:そうですね。
寺本:やりすぎなんだよ(笑)。
信岡:1シーズン40型ほどあります。そのほかにインラインでもかなりバリエーションがありますね。
寺本:10何年やってるので、違いを出すのも難しくなってきてるよね。
信岡:細かく色を変えたりとか、そういう作業になってきますね。
今野:最近では〈ポーター〉とのコラボレーションが印象的でした。
寺本:あれも信岡がやったからね。今回のは今野くんの直営でも売るの?
今野:今回はまずリニューアルしたWEB STOREで販売します。千駄ヶ谷のお店は、いまは直営店ではなくて、ちょっとやり方を変えてやっているんです。
寺本:そうなんだ。でも、店があると、面白いけどね。
今野:そうですね。ゆくゆくはまた何か考えていきたいですね。