HOUYHNHNM

FEATURE| 小商いの時代。 〜その店主がいるから訪れる〜 第二回:CAFE Ryusenkei(飲食店)

小商いの時代。 〜その店主がいるから訪れる〜 第二回:CAFE Ryusenkei(飲食店)

小商いの時代。 〜その店主がいるから訪れる〜 第二回:CAFE Ryusenkei(飲食店)

インターネット上で誰でも手軽にモノが買えるようになった昨今。そんな時代における実店舗の意義を探るべく、新たな企画がスタートしました。名付けて「小商いの時代」。近頃よく聞くようになった言葉、“小商い”。規模は小さくとも、一貫したこだわりのもとにコアなモノを取り揃え、名物的な店主がいるようなお店が、最近どうにも気になるわけです。こうしたお店に共通する魅力を探るべく、全国を練り歩いていきます。第二回は箱根の移動式カフェ「CAFE Ryusenkei」です。

  • Photo_Kazuho Maruo
  • Text_Gyota Tanaka
  • Tweet
  • Hatebu
  • Google+
  • LINE

絶景の箱根山のパーキングに佇む、“移動する現代の茶室”。

小田原駅から出発して箱根山を登っていく箱根登山鉄道。終着駅の強羅からロープを伝い走る箱根登山ケーブルカーに乗り換え、ようやく到着するのが早雲山駅だ。ここは大涌谷を経由して芦ノ湖のほとりまで下りられる箱根ロープウェイへと乗り継ぐ中継地点でもある。

山の中腹に位置する早雲山駅からは、見渡すかぎりの山々の奥に相模湾と三浦半島、さらに天気のいい日には房総半島までが望める。そんな早雲山駅前正面に、丸い銀色のエアストリームが、青空に映えるようにぽつんと佇んでいる。さながら大自然のなかのオアシスのようなこの場所が、「CAFE Ryusenkei」だ。店主の合羅智久さんに話を伺った。

—まずは、お店についてご紹介いただけますか?

合羅:アメリカ製のトラベルトレーラーである「AIRSTREAM(Caravel/1967年製)」を、最新テクノロジーの結晶である電気自動車「ニッサンLEAF」で牽引する移動型カフェです。ここ早雲山駅を拠点に、時折、箱根の別の場所に移動したり、横浜や湘南方面へのイベントにお声がけいただいて出張することもあります。厳選されたスペシャルティコーヒーを一杯、一杯、丁寧なハンドドリップで淹れるコーヒーを中心に、ビールやワイン、ウイスキーなどのアルコール類、キーマカレー、スープなどのフード類も提供しています。

— 全体的にシンプルなデザインですが、コンセプトは?

合羅:「移動する現代の茶室」がコンセプトです。茶室って、決して広くはない空間ですが、そこには宇宙がありますよね。このAIRSTREAMを見た時に、直感的に、“現代の茶室”だなって感じたんです。初めて訪れるお客様の第一声はほぼ「わあ、思ったより広い!」なんです。それでしばらくすると、「なんだか居心地が良い」「気持ち良くって眠くなっちゃう」に変わっていきます。この言葉を聞くと、空間つくりが上手くいったんだなあと嬉しくなってしまいます。内装のデザインは、長年の友人で気心が知れているデザイナーさんにお願いしたので、ファーストスケッチを見て即決でした。

—どういったお客さんが来られるんですか?

合羅:9割外国人ツーリスト(旅行者)なんです。それはもう世界中からですね。旅先だとみなさんリラックスしているので、お客さんが集まるとすごくいい空間になって、自然とお客さん同士に会話が生まれるんですよ。この空間では、とにかくいい時間を過ごしてもらいたいんです。それで出てくるコーヒーが美味しかったら、なお幸せじゃないですか。

—ここのコーヒーはどんなテイストですか?

合羅:僕の好きな深煎りが中心です。ここではスペースが狭いので、一つ一つゆっくり注ぐハンドドリップだけです。

—このお店の開業のきっかけは?

合羅:僕は長年レコード会社で働いていたんですが、20代の頃から、ある程度の年齢になったら、箱根や伊豆、軽井沢など、温泉のある自然豊かな土地で暮らしたいとずっと思っていました。また、10年ほど前からカフェをやりたいとも思っていて、ずっと手帳やPCにアイデアを書き溜めていました。今から5年ほど前に会社を辞める転機があって、それを機に、箱根へ移り住んでカフェを開業するという長年の夢を実現させたんです。会社勤めに比べて収入は激減していますが、「ノーストレス、ノーマネー」で、日々楽しく暮らしています(笑)。

—喫茶店やカフェが好きだったんですか?

合羅:若い頃から喫茶店、カフェが好きでよく通っていました。食べ歩きが趣味だったんです。そうするうちに、気に入ったお店で豆を購入して、自宅でKONO式のドリッパーで本格的にコーヒーを淹れ始めていたんです。今では閉店した表参道の「大坊珈琲店」はよく通っていました。「カフェ・ド・ランブル」、「茶亭 羽冨」、そして「大坊珈琲店」の流れを汲む「珈琲トラム」なども好きで。僕、オーセンティックな喫茶店が好きなんです。きっと空間や時間を楽しんでいたんですよね。

—合羅さんにとってのいい空間とは?

合羅:いいお店って、オーナーの哲学、働く人の意識、来てくれるお客様が揃っていて、その全ての人がお店を作っていると思うんです。僕はコーヒーはもちろん好きですが、喫茶店やカフェの空気感が好きなんです。そこに僕が好きでいいなと思うものをミックスしているだけ。最終的に命を吹き込むのは人。これは自分にしかできない空間だけど、ここは素晴らしい景色があるだけで2〜3割増しにもなっているかもしれませんね。

—都内から箱根へ移住して、何か変わったことはありますか?

合羅:都内からもパッと1時間あまりで来られて、温泉入って帰れる、そんな風に即リフレッシュできるのが箱根の良さですね。僕は田舎暮らしではなく、自然豊かな温泉地で暮らしたいと思っていたんです。友人知人も都内から来やすいし、こっちに移住してからの方が、しょっちゅう会っていますね。そういう意味で、この距離感にはいい相乗効果も生まれています。

—このノマド・スタイルのお店は、経営としては新しいですよね?

合羅:これからは絶対に小商いだと思っていました。コンパクトというか、言い換えればインディペンデントで、かつ移動ができることは、これからの時代、最大の武器だと思います。自然災害も想定しておかないといけないですし。僕はロードムービーの巨匠ヴィム・ヴェンダースが好きで、特に『パリ、テキサス』の空気感は無意識下で強く影響を受けていると思います。『俺たちに明日はない』『イージー・ライダー』などのアメリカンニューシネマに見られるように、移動しながら生きるというスタイルは昔からあって。いい意味での現代版ヒッピームーヴメントが到来すると面白いかもしれないですね。

—都心から離れての商売、お店の経営はどのような点に留意しているんですか?

合羅:サラリーマン時代は、仕事のために世の中を追いかけざるを得ない生き方でした。このお店は、世の中がこういうものだって思って作っていないので参考になるかどうかわかりませんが。まず、小商いはシェアすることが大事です。インターネット上の拡散は一番のプロモーションですからね。お店は日々アップデートを繰り返しながら、修正して働いています。認知されるために、売上よりもこの場所で毎日開けていることが大事なんです。

—このコンパクトなスタイルを続けるのにも、いまSNSは欠かせないツールですよね。

合羅:今は、よりバーチャルの時代ですが、ちょっとでもいいからリアルは必要です。実店舗の重要性ってありますよ。やはりリアルなコミニュケーションでしか伝わらないものもあるし、世界中の旅人は多くの情報を持っているので、本当に勉強になります。SNSは予定調和でしかないけれど縦横無尽さもある。古くてもいいもの、新しくいいもの、どちらもいいトコ取りする、僕はそんなアナログとデジタル、両極端な生活ですね。

—そういった意味では、アナログとデジタルの融合がわかりやすく現れている佇まいですよね。

合羅:インテリアやエアストリーム自体も自然のエイジングだから、どれくらいオリジナルを残してモディファイできるかというところに気をつけて内装を仕上げました。発電機代わりになるかなと思って電気自動車にしたんですが、インバーターなど電気供給できるシステムは未開発だったんです。初めはビジュアル重視の旧車で牽引しようかなと思ったけれど、移動時に故障しやすいのは仕事に響くし、普段の環境面も考えて、新車の電気自動車にしました。

—使っている素敵な道具はどれもコンパクトですが、プライベートでも同じですか?

合羅:基本的には自宅と同じですが、移動時に割れる恐れがあるので、買い足しができるものですね。見た目と使い勝手がよくて、割れないものをチョイスしました。マスプロダクトでもデザイン性と機能性を兼ね備えた、誠実につくられたものが好きなんです。

—全てが、現在の合羅さんの生き方に直結しているんですね。

合羅:今までは、無駄に高いものや、今から思えば不必要なものを買っていた生活でした。ただ、一見無駄に思える経験があったからこそ、今のシンプルな生活につながっていると思います。今はいかに無駄なものを省くか引き算の生活。一生直しながら使うものか、替えがきく消耗品の二通りですね。

—カフェとしての継続性、未来のカタチはどのように考えていますか?

合羅:ここ数年、コーヒーのレベルは急激に上がってきていますし、店舗も増えています。僕のお店は、できる限りそぎ落としたコンセプトで、移動するのを楽しむ“究極のノマド・スタイル”。将来的には全国を旅しながら、気に入った町で少しの間だけ滞在してみたいです。まだまだ元気だけれど、ある程度歳を取って、どこかいい場所を見つけたら、いつかこれを固定店舗にしようかなと思っています。

コーヒーとともに大人気のキーマカレーは、合羅さんが20年来通う富士吉田「糸力」のもの。万国共通のカレーは世界中の旅行客に絶賛されている。

合羅さんが愛用する私物

ここからは合羅さんが愛用している品々を、少しだけご紹介していきます。

「『FUJIFILM X10』は、ライカのレンジファインダーを思わせるクラシックな佇まいに一目惚れして購入したデジタルカメラです。コンパクトゆえに機動性に優れているので、旅先や日常使いで大活躍しています。『CAFE Ryusenkei』のロゴのモチーフになっている“コーヒーを飲む老人”は、旅先のヘルシンキの『カフェアアルト』で撮影した1枚です」

常に合羅さんの手の届くところに置いてあり、パラパラ眺めたり、じっくり再読したりと、ページを開くたびにあらたな気づきやインスピレーションを与えてくれるという本。

左上から時計回りに
『茶の本』岡倉覚三著
『陰翳礼讃』谷崎潤一郎
『建築は詩 建築家 吉村順三のことば』
『オキーフの家』江國香織翻訳
『小さな森の家 −軽井沢山荘物語−』吉村順三
『火と水と木の詩 −私はなぜ建築家になったのか−』吉村順三

「僕にとってとても大切なもので、灯台のような役目を果たしてくれています。それぞれの視点は建築家や作家、画家、思想家など多岐に渡りますが、通奏低音として流れている“人と自然との共生”に心を惹かれるのだと思います」

長年このなかの写真集を眺めては、いつかこんな家に住みたいと思い続けていた合羅さん。幸運なことに、箱根に移住する際、吉村順三氏が設計した集合住宅に出会い、現在はそこで暮らしているそうだ。

お土産や開店祝いなどでプレゼントされた品々。左から、「iittala」の鳥のオブジェ。「ARABIA」のアルコールランプ。クリスタル製“北欧の神様”シロクマ。AIRSTREAM の輸入コーディネーターのオーナーにいただいたペーパーウェイト。60〜70年代くらいのフランス製の「Pyrex」のカップ&ソーサ。

「店名は日本語の響きが美しい『流線型』から。そして、Rのフォルムが特徴的なAIRSTREAMから「Ryusenkei」としました。インドアとアウトドアの境界線のない乗り物は、自然との共生。贈り物も動物や鳥など、ひとつひとつの点が集まって流線になりました」

CAFE Ryusenkei
住所:神奈川県足柄下郡箱根町強羅1300(箱根登山ケーブルカー/ 箱根ロープウェイ・早雲山駅前)
営業:10:00〜18:00(夏季は10:00〜19:00)︎※営業日と営業場所は下記のHPに記載
http://cafe-ryusenkei.com
アクセスは、箱根登山ケーブルカー/箱根ロープウェイ・早雲山駅から0分。コーヒーとカレーの「旅するカフェ」。
  • Tweet
  • Hatebu
  • Google+
  • LINE
Page Top