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「すべての垣根を越えた音楽を」<br> “yahyel”というプロジェクトを通して若者が描こうとしているもの。

Interview with yahyel.

「すべての垣根を越えた音楽を」
“yahyel”というプロジェクトを通して若者が描こうとしているもの。

デビューアルバム『FLESH AND BLOOD』のリリースとともに、ミュージックシーンを躍進するyahyel。深淵な場所で響くビートの上で揺れる艶めかしいジェンダーレスな声。静寂と喧騒を行き交うような音楽はあらゆるジャンルを自在に飛び越え、エレクトロミュージックの最先端で鳴っている。エコーとリバーブを使ったチル感溢れるシティ・ポップと、そのブームに抗うように現れた彼らが音楽に込める思いとは。バンドの核である池貝峻(Vo)・篠田ミル(Sampler)・杉本亘(Syn)の3 名に話を聞いた。

  • Photo_Kisshomaru Shimamura
  • Interview & Text_Naoko Okada
  • Edit_Kenichiro Tatewaki
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―アルバムリリースおめでとうございます。タイトルは『FLESH AND BLOOD』ということですが、アルバムのコンセプトはどういったものですか?

池貝:去年からyahyelというプロジェクトを開始して、トラックメイクをしていくなかで自分たちの色味やテーマが見えてきて。それを上手にパッケージングできたのが今回のアルバムですね。音楽的にいうと、もともと僕らがオンタイムで聴いていた音楽です。今おもしろくて勢いのある音楽をプラットフォームとしたなかで、「日本」というどうでもいいギミックを意識させずにしっかりと音を聴かせる。それがプロジェクトのはじまりだったので音楽的にはそういう音を出しつつ自分たちの音を模索しています。テーマとしては、「日本人」というコンプレックスや帰属意識みたいなものを背負わず、すべての垣根を越えたもの。僕ら個人のアイデンティティにしか帰属意識がないような不思議な世界のなかで、当たり前になっている社会の空気感や雰囲気に対して生まれる軋轢。そこで起こる生々しい個人の出来事というものを1曲1曲に表現しています。

―現在ベースミュージックを基調に楽曲を作られていますが、オンタイムなミュージックでいうとネオソウルなどのもう少しポップなサウンドですよね。ポスト・ダブステップのシーンは今は少し落ち着いていて2013年以降はそこまで大きな盛り上がりを見せていないように感じるのですが、なぜそのジャンルで楽曲を作ろうと思われたんですか?

池貝:今でもそのジャンルで頑張っているアーティストはたくさんいると思います。James Blakeの新譜だってそうだし、これからの展開にはなってしまうかもしれないですけど、Bon Iverの新譜もその文脈に接続しうると思います。

杉本:自分たちの世界観を表現するツールとして、1番合うジャンルってあると思うんです。色々あるジャンルのなかで、僕らがもっとも大きな声で表現できるフォーマットがポスト・ダブステップだということです。

池貝:それとオンタイムな音楽のなかで流れがある音楽というか。その流れに僕らも乗りたかったんです。ムーブメントとしてのポスト・ダブステップは確かに2013年までですが、それ以降はポップ・ミュージックの当たり前、かつ先端的なフォーマットとして定着したと思うんです。こういう流れがあるというマーケティングの要素と、僕らの強みがなにかという分析をした結果このジャンルを選びました。

―今回のアルバムのマスタリングにはJames BlakeやFKA twigsを手掛けるマット・コルトンを迎えていますが、どういった経緯で実現したんでしょうか。

篠田:身も蓋もないことを言えば、「Beat Records」のほうから提案をしていただいたんです。マット・コルトンのポートフォリオを見たときに、僕らが参照しているものが完全に列挙されていて時代の最前にいる人だなって。日本でこういった作品のマスタリングをされている方は思い当たらなかったので、結果論ですが彼しかいないなと思いお願いしました。

―マスタリングを終えた楽曲はこれまでとまったく違ったものになりましたか?

篠田:全然違いましたね。

杉本:たとえば音圧を上げても立体感が失われないというか。

池貝:日本での音楽づくりは、ボーカルをメインにどれだけ綺麗な音を出すか、のっぺりとした音を出すかというところにすごく重きが置かれているように感じるんです。でも僕らの音楽はもっと立体的というか。構造がよく見える音作りのほうが合っているんですよね。そういった僕らのやりたいことを彼はすごくわかってくれているなと思いました。

―楽曲制作においてボーカルがメインにあるわけではない。

池貝:ひとつの要素でしかないですし、重要なことではないです。

篠田:僕らが参照にしているアーティストは、今までのシンガーソングライターでもなければ、いわゆるトラックメイカーでもなくて、両者の性質を併せ持った人たちが多い。彼らの作品を聴くと、もちろん歌が押し出されているパートもあれば、逆にトラックで聴かせようという曲もあります。そういった、出すところは出して抑えるところは抑えるというやり方をするのがマット・コルトンなんです。

杉本:ビートがすごく効いてるんですけど、同時にボーカルのブレスがすごい綺麗というか、気持ちよく聴こえるんです。

篠田:すごいよね。

杉本:あれってすごい外国人のというか、「外国人の」と言うのがまた嫌なんですけど、彼の経験ならではのメイクアップの仕方なんじゃないかと思います。

池貝:そういう言い方をすると本当になんか差別的な感じになっちゃいますが、実際に僕らの肌感としてあるんです。ヨーロッパに行ってツアーしてきたときも感じたんですが、ライブの音づくり1つ取ってもフォーマットに囚われない。踊れる音とボーカルの共存というものをすごく意識してるというか。

篠田:ベースミュージックをちゃんとボーカルのあるポップミュージックとして聴かせるやり方というものに対しては、海外のほうが先見の明があると感じますね。

―では同世代のインディーシーンに関する話を聞かせてください。今のインディーシーンというものがひとつのコンテンツとして流行している、盛り上がっているように感じるんですが、そういったシーンの状況に対して思うことはありますか?

池貝:そんなにひとまとめにしなくてもいいんじゃないのかなとは思いますね。

杉本:空回りしている感はあるかなと。メディアというか、インディーシーンを捉える人たちが先走りしすぎちゃっていて、だけど実際のコンテンツがコンテンツとしてそこまで成り立っているかというとそうでもない。

篠田:ただ個人的な思いとしては、日本において1970年代のニューミュージック、1990年代の渋谷系というふうに約20年スパンで起こってきた、オーバーグラウンドなミュージックのフォーマット更新が起きれば健康的なことなのかもしれないなとは思います。自分がそうしたいわけじゃなくて、あくまでも客観的な感想としてですが。

池貝:正直僕らのスタンスとしては、今の音楽シーンの状態が特に健康的だとは思わないですしね。

杉本:でも少なくとも、同じように思って活動しているミュージシャンはインディーシーンのなかに多いのかなという気はします。

池貝:シーンで括る必要もないんですよね。すごくいろんなことを思って音楽をしている人が多いですし、妙な仲間意識を持つのがもったいないくらい、それぞれちゃんと色があって考えてることがある。

杉本:見ているところはもっと別のところにあると思いますし。

池貝:僕らも普段からつるんでるわけじゃないので、互いにリスペクトし合えるようなことをしている仲間っていう感じですかね。だからそう思うと“インディーシーン”という一言で包括し過ぎですし、もっと考えたほうがいいと思う。

—メディアの報じ方に体する要望はありますか?

池貝:拡げてほしい。今の音楽シーンに必要なことは、もっと興味を拡げることだと思います。まだCDがある程度売れてるとは言っても、今の日本では注目を集めるギミックがアイドル的なものしかなくて、純粋に音楽を売っている人にはフォーカスが当たりづらいじゃないですか?そもそも表現活動への興味がすごい低いなと思っていて。そういうところにフォーカスが当たるように助けてほしいですし、音楽を聴く行為自体をもっと拡げてほしいです。僕らは僕らにできることをやるので、窮屈にパッケージングするよりも、僕らの届く範囲を拡張してほしいですね。それぞれがやっていることも考えるべきですし、その括り自体がすごくもったいない。

篠田:それは間違いない。メディアが批評言語を語るときに「◯◯シーン」として包括して語るのは仕方のないことだと思うんです。ただ、東京とかっていうその帰属で語る必要はないと思うし、それぞれのアーティストに対して固有の説明を与えてあげるべきだと思いますね。

―なかでも特におもしろいと思う周りのアーティストを挙げるとしたら誰でしょう?

篠田:僕は韓国のXXXですね。

池貝:じゃあMura Masaかな。

篠田:でもそういう意識ってすごい大事だと思う。

池貝:こういうことを少しずつ拡張していくこと自体がすごく大事だよね。

篠田:周りって言ったときに、日本あるいは東京アーティストだけしか想像力に入らないっていうのはもったいない気がします。“周り”に含まれるものを拡張して、いろんなところに積極的に接続しようという意思は忘れちゃいけないなと。

池貝:特に僕らみたいなことをやっている人たちがそう言うべきだと思いますしね。

―では最後に、今後のyahyelの展開について、たとえば他のアーティストとコラボレーションしたいとか、考えていることがあれば聞かせてください。

篠田:水面下で動いているので具体的な名前が言えないですけど、一緒にやりたいアーティストや国も考えています。単純に欧米だけを見ているわけではないです。

池貝:いろいろやっていきたいですね。東京の同世代のミュージシャンとやりたいって言ったほうがいいですか(笑)?

―いえ、それは言わなくていいですよ(笑)。ありがとうございました。

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