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その道の識者9名が表現する、新しいビッグヤンクのかたち。 CASE4_草野 健一(KENNETHFIELD デザイナー)

BIG YANK The Third Edition 2nd Collection

その道の識者9名が表現する、新しいビッグヤンクのかたち。 CASE4_草野 健一(KENNETHFIELD デザイナー)

2016年の春夏よりスタートした〈ビッグヤンク(BIG YANK)〉の『ザ・サードエディション』のセカンドコレクションが発表された。これは2011年に実名復刻を果たした〈ビッグヤンク〉が、様々なジャンルのクリエーターたちとコラボレーションしたコレクションで、洋服のデザイナーはもちろんのこと、ミュージシャン、理容師、古着屋オーナーなど、バラエティに富んでいる。前回は5人であったが、今回は9人にスケールアップ。各々が感じる〈ビッグヤンク〉の魅力を引き出したプロダクトは、インラインのワークウエアにはないものばかりだ。その全貌を参加したクリエーターのインタビューを通して解析していこう。

  • Photo_Toyoaki Masuda
  • Text_Shuhei Sato
  • Edit_Yosuke Ishii
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草野

『ザ・サードエディション』に初参加となった〈ケネスフィールド(KENNETHFIELD)〉の草野健一氏。海外でも広く知られるデザイナーのひとりであり、いくつものインターナショナルブランドを手掛けたこともある実力派だ。そんな草野さんが提案したのはワークエプロン。アンファッションのアイテムをファッションとして取り入れる、洋服のおもしろさが詰まった1枚です。

道具であるエプロンをファッションに落とし込む

ーまずは草野さんが〈ビッグヤンク〉を知ったきっかけを教えて頂きたいのですが、古着などは持たれていますか?

草野:正直に言うと僕は1枚も持っていません(笑)。というのも古着は10代の頃からシャンブレーシャツやデッドストックのデニムなどは買っていたのですが、単純に〈ビッグヤンク〉の存在を知らなかったんです。その後「ビームス プラス」で働いていた2000年頃に〈ポスト オーバーオールズ(POST O’ALLS)〉のコレクションを買わせてもらっていたのですが、そこに施された“ガチャポケ”や“山ポケ”といったディテールを通して、そのルーツである〈ビッグヤンク〉の存在を知りました。これらのディテールは色んなブランドのデザインソースにもなっていたので不思議に思っていたんですが、ようやく腑に落ちたんですね。若い頃に知らなかったからこそ、今回のようなものが作れたのかもしれませんね。

ー確かに〈ビッグヤンク〉は今ほど知られた存在ではなかったですよね。ではなぜ今回エプロンを企画されたのでしょうか?

草野:〈ビッグヤンク〉って多機能なポケットを追求したワークウエアブランドで、当然ながらファッションとしてではなく道具としてものを提供していたと思うんです。僕が作らせてもらうなら、そういう道具的な視点で考えて、それをファッションとして着てもらう方が楽しいかと。

実用に基づいたワークブランドらしいディテールたち

たすき掛けすることで首に負担がかからす、レザーのアジャスターによりフィット感も良好。

ーエプロンという一風変わったアイテムですが、どのようにデザインをしていったのでしょうか?

草野:60年代頃のマイナーブランドのエプロンをもとにデザインを進めました。とはいえ普通のエプロンを作ってもおもしろくないので、もっとワーク寄りのディテールを盛り込んでいく方向にしたんです。実は〈ケネスフィールド〉でも毎シーズン、エプロンを作っていて、毎回買ってくれる知人がいるんです。彼はそれを着て、実際に働いているのですが、首に掛けるタイプだと肩が凝ってしまうと。だからたすき掛けにできないかとリクエストをもらいまして。そこで考えたのが、今回のエプロンにも採用しているレザーパーツをアジャスターとして使った意匠なんです。

BIG YANK × Kenichi Kusano(KENNETHFIELD) 1942 APRON 左:LEATHER ¥59,000+TAX、右:PARAFFIN ¥18,000+TAX

ー生地のセレクトもまた面白いですよね。それぞれどういう理由で選ばれたのでしょう?

草野:右はコットンポリエステルのパラフィン加工ですね。原宿に「ピッツァ・ケベロス」というピザ屋さんがあるのですが、そこのユニフォームに〈ケネスフィールド〉のエプロンを使ってもらっていまして。ハードユースで洗濯を繰り返すことを考えると、コットン100%よりもコットンポリエステルの方が丈夫で理に適っているんです。だから道具として機能する方がよいと思って、今回の企画でも、コットンポリエステルを採用しているんです。

ー完全に考え方が道具ですね。アンファッションなものをファッションとして取り入れるという感覚が草野さんらしいですよね。

草野:セレクトショップの諸先輩方がずっと提案していたことって、そういうことなんですよ。だからそういう感覚は継承したいと思っています。

ーそして左のレザーもいいですね。粗野なラフアウトっぽい雰囲気というか。

草野:これは〈ロッキーマウンテン フェザーベッド(Rocky Mountain Featherbed )〉のショルダーヨークに使われているレザーなんですよ。サーティーファイブサマーズさんは独自でタンナーさんとスペシャルな革を作成しているので、厚さの加減もいいバランスのレザーを持っているんです。(編注:サーティーファイブサマーズは〈ビッグヤンク〉と同じく〈ロッキーマウンテン フェザーベッド〉も手掛けている)。実はこのレザーを使ってシャツも作ろうと思ったのですが、ワークウエア特有の巻き縫いがレザーだと手間が掛かるうえに、ロスのリスクも大きいので、泣く泣く諦めたのですが(苦笑)、結果的にはエプロンにもしっくりとハマりましたね。

スマホが収まる実用的なポケットサイズに改良。左胸には〈ビッグヤンク〉を象徴する”山ポケット”を配し、ネームを付けてアクセントをプラス。

ーエプロンに山ポケットという発想も新鮮で面白いです。

草野:生産効率の問題なのか、ユーザーからのニーズなのか分かりませんが、“山ポケ”や“ガチャポケ”は一度なくなってしまったディテールですよね。そういう事実を踏まえながらも、今使うとしたら、どういう風に提案すべきだろうと考えました。だからポケットのサイズは当時のままではなく、iPhoneがスッポリと入る大きさにしたんです。また実際にタバコも入るか、ソフトパックだけでなくボックスを入れたりして、今のライフスタイルに寄ったものしています。非常に有意義な企画でしたね。

エプロンの内側には補強のための当て布がシャンブレー生地で配される。見えないところにも嬉しいこだわりが

ー内側に張られたシャンブレー生地はどういった意味があるのでしょうか?

草野:重い荷物を運ぶときって、ちょうど荷物を腰のあたりに持ってくるでしょう?そうしたときに腰まわりが擦れるので、服に接する側には補強のための当て布を施しました。〈ビッグヤンク〉は代表的なアイテムにシャンブレーシャツがあるので、その辺りも考慮して生地にはシャンブレーをセレクトしています。

道具としてのエプロンを、気負わずコーディネイトに取り入れる

ー実際にこのエプロンのコーディネートを提案するなら、どのようにしますか?

草野:気負わずに着用してもらうのが一番で、ジャケットの中にインするのもありですし、春先だったらネルシャツにジーンズ、ペコスブーツでラフに着るのもいいと思いますよ。ランチャー的なスタイルですね。

20世紀を代表する写真家、アービング・ペンの写真集『SMALL TRADES』。パリ、ロンドン、ニューヨークの労働者たちを収録。

ージャケットの中に着るのは〈ケネスフィールド〉でも提案されていますよね。こういったスタイリングのアイデアはどこから浮かぶのでしょう?

草野:昔の本や写真集を眺めて、そこからアイデアを得ることが多いです。例えばジャケットの中にエプロンを着たスタイリングは、アービング・ペンの『SMALL TRADES』からヒントを得ました。1950年頃のリアルな労働者たちのポートレイトが収められているのですが、実際にジャケットの下にエプロンを着ている人が何人も出てくるんですね。細かな服のディテールが見れるのも昔の写真集の面白いところですね。

ーなるほど。事務所も古本屋街で有名な神保町ですしね。

草野:この街に事務所を構える大きな理由の一つです。本は好きで、気晴らしによく近くの古本屋さんを回ります。

ーこれなら流行に左右されず、長く着れそうですね。

草野:このエプロンに限らず、自分の作るものはお客さんに10年使ってもらえるように考えて作っています。だから今日着ているフレンチのコックジャケットも素材を変えながら、5年ほど作っていますし、あと5年は続けたいと思います。実際に店頭で接客する機会を積極的に設けているのですが、流行に左右されず、ベーシックに着られるサイズをご提案しています。けっして安い買い物ではないので、お客さんには安心して着用してほしいですし、作り手としてはそこに責任を持ちたいんですよ。

草野健一

1969年生まれ。熊本県出身。「ビームス プラス」のディレクターを経て、2012年より自身のブランド〈ケネスフィールド〉をスタートさせる。ヘリテージ系アイテムからドレスまで幅広い知識を有しており、これまでに数々のインターナショナルブランドのディレクションを手掛けている。不定期で神保町にあるアトリエでは「がらくた市」なるイベントを行っており、そのマニアックさが人気を集めている。

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