尾崎:そういえば、ベルリンで見知らぬスニーカーディーラーについていったことありましたよね。その先に〈アディダス〉の古いスニーカーが山のように置いてあって。
金子:そうそう。さっき、「今までで記憶に残ってるバイイングは?」って聞かれて、それを言おうか迷ったんだよね。あの出張も思い出深かったよね。ベルリンにまだ誰も行ってない頃だったし。
尾崎:今みたいに「ミッテ」とか栄えてなかったですよね。ようやく一店、面白いセレクトショップができたくらい。
金子:街も工事だらけだったよね。
尾崎:ベルリンの壁も当時の感じをバリバリ残してて。東側に行ったとたんに全然雰囲気違うみたいな。で、連れて行かれたのはやっぱり東サイドなんです(笑)。
ー緊張感ありますね。
尾崎:現場に行くまではものすごく不安だったんですが、行ってみた結果よかったっていう。この経験のせいで、金子さん今みたいになってるんじゃないですか?(笑)
金子:確かにそうかも。こういうことの繰り返しで、今みたいな状態になってるね。
ードキドキする感じがたまらないわけですね?
金子:はい。それを未だにやらせてもらえてるのは幸せなことだと思います。
尾崎:何度も言いますけど、金子さんはバイヤーという生き物ですからね。それを養分にしてるんです。
ー今回は、ブリムフィールドだけではなく、ニューヨークでも少し一緒だったんですよね。
金子:はい。ニューヨークで合流してご飯を食べたり、ランニングしたり。ショールームに行って、仕事もしましたね。
尾崎:あと、ものすごく久しぶりに一緒に現物を買いに行きました。
金子:そこで今回思ったのは、大きい展示会でも誰も目をつけない面白いものがあるんだなって。わざわざ変なところに行かなくても、、
ーいわゆる掘り出し物は見つかると。
金子:はい。多分みんなと見てるところが全然違うんですよね。ただリアルではないのは確かです。だから一緒のところに行っても、結局つける(オーダーする)ものはまったく違うんだなって思いました。
尾崎:金子さんを見ると、みんな正しくバイイングしてるなって思いました。海外の合同展って、こういうモノなら日本でも買えますよね、っていうブースも多いじゃないですか。
金子:そうだね。
尾崎:でもそうじゃなくて、「何だこれ!?」っていうのも何個かあって。そういう「何だこれ!?」を買う派か、買わない派かみたいなところありますよね。
金子:インスタに載せたこのサイドゴアブーツ。これ「(合同展示会の)カプセル」に出てたんですけど、100%誰も見てなくて。僕も1回通り過ぎて、2周目に見たときでもちょっと躊躇して。で、ついに中に入って見てみたら、なんか良かったんです。もともとオーストラリアのカウボーイ用のブーツメーカーとして始まって、気づいたらサイドゴアとかを作るようになったらしくて。本国ではすごく有名らしいんですが、日本にはまだ全然入ってきてないんです。よく聞けば、「LVMH」に最近買収されてて、かなりちゃんとしたクオリティのところで。ちょっと掘ったら出てくるそういう話が面白くて、僕の中では日本でもいけるんじゃないかなというストーリーが描けたので、買い付けました。
尾崎:この〈オーランドスコーン〉とかもそうですよね。
金子:あとこういうバッグとか。これ本当にかっこいいんですけど、だれもやらない理由もわかるんです。でも刺激は絶対にあるというか。売れないかもしれないですが、感じるところがやたらとあったので、今回ピックアップしてみました。
尾崎:こういうのは、鬼顧客の僕が買うんです。
ーなるほど(笑)。
金子:色々なところに行きましたが、世界中どこに行っても何かしらは買ってこれましたね。
尾崎:さらっと言ってますけど、それって本当にすごいことですよね。僕もバイヤーやってますし、いまはいろんなバイヤーさんを見る立場にいるんですけど、やっぱりなかなか“買えない”ことってあるんですよね。
ー決断できない?
尾崎:そうですね。バイヤーって“買う人”という名前がついてるくらいなので、やっぱり買える人がえらいんです。というか、職業を全うしてるんですよね。人が行かないようなところに行くのはいいんです、でもそこでなんか買えるんですか?っていう話になるんです、必ず。そうすると、ブエノスアイレスだろうがどこだろうが、買える人はすげえということになります。すごいし、かっこいいんですよね。バイヤーってそういう職業なんです。で、金子さんは職業じゃなくて、そういう生き物になってきてるという。
金子:なんでもいいからというと語弊はありますが、やっぱり買うということ、もっと言えば予算を全部使うということには、めちゃくちゃこだわってますね。行ってみたけど、買ってこれなかったじゃ本当に話にならないので。
尾崎:それが、僕が弟子時代に一番教わったことであり、恐れていたことでした。「買えるの? お前?」みたいな。「買えない奴はマジでバイヤー失格だからね」っていう。出張前になると大金渡されて、「これ全部使ってこい」みたいな。「こんなにですか!?」って言っても「買うのが仕事だから」って言われて放り出されて。泣きそうになりながら、おっきいカバンに買ったもの入れてました。
ーたしかに責任は重大ですよね。
尾崎:買うことって思ったより難しいんです。買ってる人を見ると簡単に見えるんですけど、自分で選べって言われると全然違いますね。自分で買ってきたものが全然売れなければ、なんの評価もされないわけで。そういうことを考えながら買うわけで、ひとつひとつの決断がめちゃくちゃ難しかったりするんです。