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FEATURE|SWITCH INTERVIEW 金子恵治×尾崎雄飛 服に命を捧げる、愛すべき服バカたち。後編

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SWITCH INTERVIEW

金子恵治×尾崎雄飛 服に命を捧げる、愛すべき服バカたち。後編

多くのブランドのディレクションを務め、さらにバイイングなどもこなしマルチな才能を発揮する尾崎雄飛氏と、目の肥えた服好きを日夜唸らせているショップ「レショップ(L’ÉCHOPPE)」のバイヤーである金子恵治氏が、旧知の仲であることを知っていますか? 出会った頃より才能を認め合い、互いにいい刺激を受け続けるという理想的な関係を築く二人ですが、これまで揃ってメディアに登場することはあまりなかったようです。今回フイナムでは、某テレビ番組のフォーマットをお借りして、お互いをお互いにインタビューしてもらいました。二人の出会いについてから始まった対談は次第に熱を帯び、これからのファッション業界が向かうべき方向性についての真摯な議論へと移り変わっていきました。前後編でたっぷりとお届けいたします。

  • Photo_Shinji Serizawa
  • Edit_Ryo Komuta

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ーさて、前編ではお二人の関係性から「レショップ」というお店について、おおいに語っていただきました。後編では、まず今年の夏に一緒に行ったという出張の話から聞かせてください。

金子:出張に行く前は、尾崎くんにもお金を渡して自由に買ってきてもらって、それを「レショップ」で売ろうとか思っていたんです。実際はそういう形にはなりませんでしたが。

ーということは、フリーマーケットとかを一緒に回ったんですか?

尾崎:そうですね。

ー場所で言うと、どのあたりなんでしょう?

尾崎:ブリムフィールドですね。最寄りの都市は、ボストンかもしくはニューヨーク州の州都であるオールバニーです。そこで年に何回かフリマをやってるんです。面白いですよ、ほかには何もない場所なんで。

L'ÉCHOPPEさん(@lechoppe.jp)が投稿した写真

ー聞いたことあります、ブリムフィールドのアンティークマーケット。

尾崎:僕が行きましょうよと、強引に金子さんを誘ったんです。金子さんなら、なんかものが買えるって聞いたら来るんじゃないかっていう(笑)。

金子:そうそう。

尾崎:僕も服が目当てというわけじゃなくて、〈ヤングアンドオルセン ザ ドライグッズストア〉で展示会をやるときに使う雑貨を買いに行ったんです。でも、ちょこちょこ服も買えましたよね。

金子:そうだね。

ー毎回独自のルートを行かれるという金子さんですが、今夏のバイイングはどんな具合だったんでしょうか? なんでも今回は南米に行かれたとか?

金子:はい。本当はアメリカだけのつもりだったんですが、会社の方からやっぱりヨーロッパも行った方がいいんじゃないかという声があがりまして。

尾崎:よく、これ出張通りましたね、っていうルートですよね。たぶん、日本バイヤーのなかで一番突拍子もない(笑)。

金子:まぁね。でも、南米も行ってほしいっていうリクエストがあったんだよね。

尾崎:あ、そうなんですか?

金子:そうそう。

尾崎:じゃあ、南米に行けるただ一人の人として選ばれたわけですね。「なんか危ないところらしいよ、じゃあ金子さん行けるんじゃない?」みたいな(笑)。

金子:会社としても新規開拓は重要視していて、僕の買付けの後押しをしてくれているんだよね。

ーアメリカ、ヨーロッパ、南米となると、かなり広範囲に渡りますよね。

金子:そうですね。道中としてはまずパリに行って、そこからバルセロナに。で、パリに戻って、そこからアルゼンチンのブエノスアイレスに行きました。そしてそこからテキサスのオースティンという街に行って、ニューヨークに入り、尾崎くんと合流してさっき話したブリムフィールドに。それでまたニューヨークに戻って、という道程でした。計23日間。各都市2~3日ですね。長くても4日間。

ーかなり慌ただしいですね。

金子:まぁでも、忙しいのは行く前の準備なんです。行ってからはもう買うだけなので。今年の夏の出張のメインは、もちろん17SSの発注なんですが、買ってすぐにお店に出せる“現物仕入れ”の方に、気持ちとしては8割くらい持っていかれてますね。

尾崎:(笑)。

金子:お金とカードを持って行ってその場で買うものを、僕らのなかで“現物”って呼んでるんです。

尾崎:この現物は「ベイクルーズ」の伝統で、特徴でもあるんです。あんまりこういうことやってる会社ってほかにないと思うんですよね。

金子:バイイングの予算が10あったら「レショップ」の場合だと6くらいを使って、4くらいは残しておくんです。それで、現物仕入れで付け足すやり方ですね。他のブランドだとやるべきブランドがしっかり決まっているので、シーズン前には9割以上は使っていることが多いんです。だから「レショップ」になって、そうしたシステム的な部分も変えました。

尾崎:そうなんですね。

金子:パリでは展示会と古着のディーラーさんばかりを回ってました。ボリビアとかそっちの方の民芸品や、草で作られたバッグを買ったりとか。あとフランス人が選んできたケニアのアイテムを大量に買いました。パリはブランドの買い付けよりもそういう方が面白かったですね。

ーブランドの展示会も見るには見たんですが、という感じですか?

金子:そうですね。でも新規のブランドも買いましたよ。あと、パリの次に行ったバルセロナも良かったです。バルセロナってファッション不毛の土地なんですが、みんなバルセロナに行きたいから一度はチャレンジしてみるんですけど、結局仕事を見つけられずに続かないというパターンが多いんです。今回はエスパドリーユをやりたくて行ったんですけど、それ以外にも調べてたら5つくらいブランドを見つけられて。

尾崎:へー。

金子:ほとんど展示会に出てないような人たちと商談をしてきました。それこそすぐにお店に投入できるものもあったので、「レショップ」から発信する“バルセロナの今”というのが表現できるなと思いました。ずっと昔からあるエスパドリーユもあれば、横ノリ系っぽいブランドもあったり。あと巾着のレザーバッグだけ作ってる面白い人がいたり、〈メゾン マルジェラ〉でやってた女性がバルセロナに戻って海パンみたいなのを作ってたりとか。一線を引いたというわけじゃないけど、ちょっと隠居してやってるような人が作るものが面白かったですね。

ー一方、南米はどんな様子だったんですか?

金子:アルゼンチンのブエノスアイレスはガウチョ(南アメリカに居住しているカウボーイのことで、先住民族とスペイン人との混血住民)が身につけるものが欲しくて、基本的にはそれを買いに行ったんです。街の中心地から2~3時間離れたところにガウチョの聖地があって。正直、そこに何があるかよくわからなかったんですけど、とりあえず行けば何となるかなと思って。

ーわりとぶっつけですね(笑)。

金子:そうですね。着いた日にそこまで行って、まずはガウチョの博物館を見て歴史を学びました。そこから街に出て色々ものを見て買うという流れですね。服だけじゃなくて、ガウチョのアクセサリーも面白かったです。今の服に合わせたらいいんじゃないかなって。あとは北アルゼンチンのラグとか、ガウチョとは関係ないものも良かったですね。発色が良くて、ちょっとネイティブっぽい感じなんです。総じて、日本ではあまり見られないようなものに出会えました。

ーその辺は金子さんの独壇場ですね。

金子:ただ、ブエノスアイレスの市内は本当にファッションは皆無でしたね。SOHOと言われるファッションエリアに、お店はいっぱいあったんですが、全然ダメでした。そこから今回一番楽しみにしていた、テキサス州のオースティンという街に飛びました。同じ州にあるマーファと違って、すごく近代的というかきちんとした都市だったんですが、思っていた通り若手のアーティストやもの作りをしている人たちがたくさん集まっていました。

ー日本で、オースティンに注目している人はほとんどいなそうですね。

金子:そうかもしれません。集合住宅のような建物のひとつひとつの部屋にアーティストがいて、扉のところに名刺が貼ってあるんです。自分は何々をやってますみたいな。気になる人がいたら、トントンって扉をノックすると中から本人が出てくるっていう。

尾崎:合同展示会みたいな状態なんですね。

金子:そうそう。365日、合同展示会だね。やっぱりエリアが狭いからみんな繋がってて、コンタクト取れなかった人たちでも、別の人が「え? 友達だよ」みたいな感じで繋げてくれたりとか。わりとしっかりとしたコミュニティーがあるんでしょうね。イケてる人たちが密集してました。そんなこんなで結構面白いアーティストに会えました。ワッペンを自分一人でミシン叩いて一個一個作ってる人とか。

マーファで前に泊まった「エル コスミコ」のTシャツのデザインやってる人、プリントの印刷をやってるところなど、今回はそういうところまで掘っていけました。マーファで気になってたことの出元が実はオースティンだったりとかで、だんだんテキサスの全貌が見えてきた感じです。

ーすごいですね。。

金子:仕事以外に、そうした背景のつながりもいろいろ知ることができて面白かったです。あとはレディースの古着もすごくよかったですね。テキサスの人が選ぶ〈エルメス〉とか〈シャネル〉のビンテージ、完全に女性の服なんですが、テキサステイストで選ばれたものをワンコーナー仕入れてきました。言葉だとうまく説明できないんですけど、〈ポロカントリー〉と〈シャネル〉の融合とか、〈グッチ〉のバンダナに古いメキシカンものを混ぜたりとか。ぐちゃぐちゃにミックスした感じが面白くて。全然予定はしてなかったんですけど(笑)。そういうこともできちゃうのが「レショップ」なのかなって。

ー本当に、あまり決めすぎないのが金子さん流のバイイングなんですね。余白を持っておくというか。

金子:そうですね。どんなハプニングがあってもそんな感じです。なんとなく心の準備はできてるというか。

尾崎:そういえば、ベルリンで見知らぬスニーカーディーラーについていったことありましたよね。その先に〈アディダス〉の古いスニーカーが山のように置いてあって。

金子:そうそう。さっき、「今までで記憶に残ってるバイイングは?」って聞かれて、それを言おうか迷ったんだよね。あの出張も思い出深かったよね。ベルリンにまだ誰も行ってない頃だったし。

尾崎:今みたいに「ミッテ」とか栄えてなかったですよね。ようやく一店、面白いセレクトショップができたくらい。

金子:街も工事だらけだったよね。

尾崎:ベルリンの壁も当時の感じをバリバリ残してて。東側に行ったとたんに全然雰囲気違うみたいな。で、連れて行かれたのはやっぱり東サイドなんです(笑)。

ー緊張感ありますね。

尾崎:現場に行くまではものすごく不安だったんですが、行ってみた結果よかったっていう。この経験のせいで、金子さん今みたいになってるんじゃないですか?(笑)

金子:確かにそうかも。こういうことの繰り返しで、今みたいな状態になってるね。

ードキドキする感じがたまらないわけですね?

金子:はい。それを未だにやらせてもらえてるのは幸せなことだと思います。

尾崎:何度も言いますけど、金子さんはバイヤーという生き物ですからね。それを養分にしてるんです。

ー今回は、ブリムフィールドだけではなく、ニューヨークでも少し一緒だったんですよね。

金子:はい。ニューヨークで合流してご飯を食べたり、ランニングしたり。ショールームに行って、仕事もしましたね。

尾崎:あと、ものすごく久しぶりに一緒に現物を買いに行きました。

金子:そこで今回思ったのは、大きい展示会でも誰も目をつけない面白いものがあるんだなって。わざわざ変なところに行かなくても、、

ーいわゆる掘り出し物は見つかると。

金子:はい。多分みんなと見てるところが全然違うんですよね。ただリアルではないのは確かです。だから一緒のところに行っても、結局つける(オーダーする)ものはまったく違うんだなって思いました。

尾崎:金子さんを見ると、みんな正しくバイイングしてるなって思いました。海外の合同展って、こういうモノなら日本でも買えますよね、っていうブースも多いじゃないですか。

金子:そうだね。

尾崎:でもそうじゃなくて、「何だこれ!?」っていうのも何個かあって。そういう「何だこれ!?」を買う派か、買わない派かみたいなところありますよね。

L'ÉCHOPPEさん(@lechoppe.jp)が投稿した写真

金子:インスタに載せたこのサイドゴアブーツ。これ「(合同展示会の)カプセル」に出てたんですけど、100%誰も見てなくて。僕も1回通り過ぎて、2周目に見たときでもちょっと躊躇して。で、ついに中に入って見てみたら、なんか良かったんです。もともとオーストラリアのカウボーイ用のブーツメーカーとして始まって、気づいたらサイドゴアとかを作るようになったらしくて。本国ではすごく有名らしいんですが、日本にはまだ全然入ってきてないんです。よく聞けば、「LVMH」に最近買収されてて、かなりちゃんとしたクオリティのところで。ちょっと掘ったら出てくるそういう話が面白くて、僕の中では日本でもいけるんじゃないかなというストーリーが描けたので、買い付けました。

L'ÉCHOPPEさん(@lechoppe.jp)が投稿した写真

尾崎:この〈オーランドスコーン〉とかもそうですよね。

金子:あとこういうバッグとか。これ本当にかっこいいんですけど、だれもやらない理由もわかるんです。でも刺激は絶対にあるというか。売れないかもしれないですが、感じるところがやたらとあったので、今回ピックアップしてみました。

L'ÉCHOPPEさん(@lechoppe.jp)が投稿した写真

尾崎:こういうのは、鬼顧客の僕が買うんです。

ーなるほど(笑)。

金子:色々なところに行きましたが、世界中どこに行っても何かしらは買ってこれましたね。

尾崎:さらっと言ってますけど、それって本当にすごいことですよね。僕もバイヤーやってますし、いまはいろんなバイヤーさんを見る立場にいるんですけど、やっぱりなかなか“買えない”ことってあるんですよね。

ー決断できない?

尾崎:そうですね。バイヤーって“買う人”という名前がついてるくらいなので、やっぱり買える人がえらいんです。というか、職業を全うしてるんですよね。人が行かないようなところに行くのはいいんです、でもそこでなんか買えるんですか?っていう話になるんです、必ず。そうすると、ブエノスアイレスだろうがどこだろうが、買える人はすげえということになります。すごいし、かっこいいんですよね。バイヤーってそういう職業なんです。で、金子さんは職業じゃなくて、そういう生き物になってきてるという。

金子:なんでもいいからというと語弊はありますが、やっぱり買うということ、もっと言えば予算を全部使うということには、めちゃくちゃこだわってますね。行ってみたけど、買ってこれなかったじゃ本当に話にならないので。

尾崎:それが、僕が弟子時代に一番教わったことであり、恐れていたことでした。「買えるの? お前?」みたいな。「買えない奴はマジでバイヤー失格だからね」っていう。出張前になると大金渡されて、「これ全部使ってこい」みたいな。「こんなにですか!?」って言っても「買うのが仕事だから」って言われて放り出されて。泣きそうになりながら、おっきいカバンに買ったもの入れてました。

ーたしかに責任は重大ですよね。

尾崎:買うことって思ったより難しいんです。買ってる人を見ると簡単に見えるんですけど、自分で選べって言われると全然違いますね。自分で買ってきたものが全然売れなければ、なんの評価もされないわけで。そういうことを考えながら買うわけで、ひとつひとつの決断がめちゃくちゃ難しかったりするんです。


尾崎さんの思い出の一品。その1

尾崎:僕と金子さんとの間柄を語るには外せない一品です。金子さんが最初にバルセロナに行ったときに発見してきたんですよね?

金子:そうそう。

L'ÉCHOPPEさん(@lechoppe.jp)が投稿した写真

尾崎:いわゆるエスパドリーユ屋のエスパドリーユですよね。

金子:ダリとかピカソ、あとジャックニコルソンとか、そういう人が顧客なんです。

尾崎:ダリがめっちゃ愛用してて、写真もいっぱい残ってますよね。金子さんが現地で見つけて持って帰ってきてたのを見て、僕が発狂したんです(笑)。そのあと、金子さんがバルセロナ行くときに僕も一緒に行って買ったものですね。その後〈フィルメランジェ〉でこれのオーガニックコットンバージョンを出しました。そんなこともあって思い出深いアイテムですね。歴史が長いだけあって、今見ても全く古びてないですね。


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尾崎:前編で金子さんが出した、通称“ハゲちゃん帽”なんですが、あれのVer.2があるんです、この世には。

—それがこれなんですね。

金子:あ、このバージョン持ってるんだ。

尾崎:はい。ハゲちゃん帽というステルスベースボールキャップに引き続き、金子さんが被ってることによって憧れを生み出すという帽子の2個目です。

金子:懐かしい。。

尾崎:これ、米軍の40sのハットをモチーフに、〈フレッドベア〉というイギリスのブランドに別注で作ってもらったやつです。

金子:〈フレッドベア〉ってもうないんだよね。

尾崎;これを被ってる金子さんが超格好よくて、みんな憧れたんです。でも被ると金子さんみたいにならなくてなんかおかしい、みたいな(笑)。でもこれ、洗ったら終わりました、めちゃくちゃ縮んで。。なので、もう被ってないんですけど、捨てられないんですよね。

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金子:〈フレッドベア〉っていうのがいいよね。

尾崎:なんでなくなっちゃったんでしょうね。


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尾崎:僕が「エディフィス」に入ったときに、金子さんに任せられた仕事が、ロゴTを作れというものだったんです。で、作った品々がこれです。この〈デュラレックス〉を先輩が作っていたので、僕が引き継いで〈プジョー〉〈シトロエン〉を作りました。これぞフレンチ、というTシャツ。〈シトロエン〉に関しては当時ボロいシトロエンに乗ってたんで楽しかったですね。

金子:なんかすごい売れたよね。

尾崎:はい、売れました。まず〈プジョー〉が売れたんです。で、〈シトロエン〉を次にやったらまた売れたという。

金子:〈デュラレックス〉って、今もうできないんだよね。。このときは奇跡だったっぽいよ。

尾崎:そうなんですね。コップのTシャツがなぜかめちゃくちゃ売れましたね(笑)。

次のページは尾崎さんのものづくりの哲学について。
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