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FEATURE|BEAMS meets Rizzoli. 世界へと広がるBEAMSのクリエイティビティ。

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本書アートディレクター 米山菜津子篇

今回の『BEAMS beyond TOKYO』において、米山さんはArt Directorとしてクレジットされていますが、実際にどのような作業を行われたのかを、改めて教えて頂けますか?

米山私は企画の初期段階に編集プロダクションのロケットカンパニーさんから声をかけていただいたのですが、すでに「リッゾーリ」側と〈ビームス〉側とのやりとりで「〈ビームス〉が手掛けてきたコラボレーションに焦点をあてた本をつくる」ということが決まっていました。どういうかたちでコラボレーションを見せていくか? ということを皆で何回もディスカッションし、商品をつくる過程を漫画にするとか、制作現場に取材に行くなど、色々な案が出たのですが、最終的にはコラボレーションの結果として生まれた商品をとにかく集めたカタログにしよう、そして数を多く掲載することで自然と〈ビームス〉の40年の歴史が立ち上がるようにしよう、ということにまとまりました。

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とはいえ、実際に商品がどのくらい集まるかは未知数でした。過去の商品は〈ビームス〉にアーカイヴされているわけではないので、主にスタッフの皆様がコレクションしていたものをお借りしたのですが、膨大なアイテム数から「これは誰々さんが持っている」「これは社長の自宅にある」とリストがどんどん更新されていくのは見ていて楽しかったです(実際にリサーチされていた〈ビームス〉のプレスの方はどれだけ大変だったことか…)。そうやって集まった商品は、何年も押入れに眠っていたようなものもあれば、実際に着用されて使い込まれたものもあれば、過去のカタログに掲載された写真しか存在しないものもある。また、何十万円もするジャケットもあれば、数百円程度の文房具もある。コラボレーション先のブランドも、〈ソニー〉のような企業もあれば、伝統的な手法でつくり続けられているこけしだったり、個人オーナーのパン屋さんだったり。そういうバラバラな条件のものをビジュアライズするには、ひとつの手法でまとめるのは難しい。そもそも〈ビームス〉というのは、ひとつの看板の元に多種多様なブランドを含んだゆるやかな存在である、ということが大きな特徴でもある。それをひとつの手法で表現するのは難しいですよね、という話になり、

  1. クオリティの高さをきちんと魅せるスタジオ×スティルカット(Photographer 小林広和)
  2. 大人っぽさとチャレンジ精神を共存させたスタジオ×モデルカット(Photograpehr 濱田祐史 × Stylist 小蔵昌子)
  3. BEAMSの原点である原宿の遊び心を魅せるロケ×スティルカット(Photographer 小濱晴美 × Stylist 小山田孝司)
  4. 原宿や東京のエモーショナルな部分を引き立たせるロケ×モデルカット(Photograpehr 山谷佑介 × Stylist 小山田孝司)

という4つの柱を考え、それぞれのチームをスタッフィングし、一部を除いてほぼすべてのカットを数ヶ月かけて撮り下ろしました。実際の撮影時には、大枠の意図をそれぞれのチームに伝えて、打ち合わせをして。スタジオ撮影はほぼすべて私も立ち会い、フォトグラファーとアイデアを出しながら一緒につくり上げました。1の小林さんは職人気質な方なのですが、プロップの買い出しから一緒に行って、微妙なライティングの違いを相談しながら何パターンか撮ってもらって選んだりと、じっくり取り組んだ撮影でした。2の濱田さんは普段は作家として活躍されている方なのですが、スタジオ撮影後のコラージュ作業を「せっかくだから米山さんも一緒にやろう」と言ってくれて。編集部の会議室でお喋りしながら切ったり貼ったりして、途中から学祭の準備を徹夜でしているようなムードになってきて、かなり盛り上がりながら仕上げました。3や4のロケチームは現場チームのアイデアにかなり委ねた部分もあります。3の撮影は選んだアイテムも遊び心のあるものが多かったので、わりと珍道中な感じで。現場での直感的なインスピレーションを大切にし、たまたま通りがかった犬に参加してもらったり。編集のアシスタントさんがいい感じだったらもうその人に着てもらっちゃう、くらいその場の勢いありきの撮影でした。〈ビームス〉のお店のスタッフの方や、プレスの方にもこっそり登場してもらっています。4は立ち会えなかったのですが、雨が降る中、かなり過酷で長い1日だったそうで、でもその過酷さのおかげもあってか、上がってきた写真が想像以上にエモーショナルで。「東京のロケでここまでできるんだ」と皆で沸き立ちました。

最終的に一冊にまとめる際には、チームもアイテムのカテゴリも時間軸もすべて無視してごちゃまぜにして構成しました。カテゴライズしきれない多種多様なものがある、という印象をつくり出すことが大切だなと思ったのです。

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米山さんは、そもそも〈ビームス〉に対してどんな印象を抱いていましたか?

米山私が初めてファッションやカルチャーというものを意識し出した1995年頃、〈ビームス〉というセレクトショップはその入り口としてとてもフレンドリーな存在でした。雑誌で見た〈Xガール〉や〈ミルク フェド〉、〈クラークス〉のワラビーなど、憧れのアイテムは〈ビームス〉に行けばあらたか揃っていたし、知らなかったブランドや見たことのないワクワクするようなアイテムがおもちゃ箱のように溢れかえっていて、興奮したのを覚えています。結局そのときは自分のお小遣いの中から買えたのは〈ビームス〉のロゴステッカーくらいだったのですが。

『BEAMS beyond TOKYO』のアートワークに関して、最も留意した点、こだわった点は何でしょうか?

米山規模が大きくなり扱う商品やブランドが多種多様になっても、自分が最初に感じた「何が飛び出してくるのかわからないおもちゃ箱のような楽しさ」や「フレンドリーな印象」は、〈ビームス〉という企業の根底にいまもあるものと感じています。それを素直に出していければ良い形になるのではないか、と考えていました。

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本書は日本のマーケットだけでなく、グローバルで販売されるわけですが、特別そのことを意識して制作されましたか?

米山本のコンセプトを〈ビームス〉の佐藤さんや編集チームと考えていくなかで、「この本は、原宿からはじまり東京の文化を担う一旦としての〈ビームス〉を世界に向けて発信していく礎である」というような話を何度もしていたので、アイテムを選んだり、スタッフを組む際にそこは重視しました。モデルもフォトグラファーも全員東京在住の人にお願いし、ロケで撮影したカットには原宿駅や明治神宮のようなアイコニックな風景も入れつつ普通の道路や踏切の風景も入れたり。でも、いまの原宿のイメージは「キッズ」「観光地」というムードが強いですが、〈ビームス〉が創業した頃の原宿は「おしゃれでおもしろいことがしたい大人」が集まる場所だったわけです。そのムードを目指していこう、ということは皆で共有していました。

「リッゾーリ」という出版社に対してはどのようなイメージを抱いていましたか? また、過去に出版された本で、好きな本などはありますか?

米山「リッゾーリ」の本とは、〈ビームス〉と出会った時期と同じ頃によく通っていた渋谷のパルコブックセンターの洋書コーナーで出会いました。ヴィクトリア時代のドレスの本から最先端のファッションブランドのコンセプトブック、一生泊まれないようなホテルのインテリアの本、味の想像もできないような美しい一皿が延々と載っているレストラン本、伝説的なグラフィックデザイナーの本、とにかく思いつく限りの素敵なものが世界中から集められ、美しい写真に収められ、大きく分厚い一冊になって書店の一角を賑わしていました。気が向くままにそういった本を眺めて、世界にはこんなに知らない素敵なものがある、ということに心が躍っていたものです。その膨大なリストの中から自分が「これは特に好きだ」と感じるものを探し出すことが楽しくて。いま日本ではどこの書店にもそういうコーナーはなくなってしまいましたが、「リッゾーリ」社がそういう「文化をアーカイブし、残していく」ような仕事をずっと続けてくれているのはとても重要なことだと思います。

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米山さんは、ご自身で「YYY PRESS」という出版レーベルも運営されていますが、やはり紙媒体には特別な思いがあるんでしょうか?

米山ウェブ媒体もよく見ますし、SNSやニュースサイトなども情報を取り入れたりモノや人をつなぐリソースとして積極的に活用していますが、未来にどう残るかという点に関してはまだ課題があるのかなと感じています。好きで見ていたウェブサイトが突然消滅してしまって、10年後にまたあの記事を読みたいなあと思ってもなかなか難しいですよね。でも、紙の寿命は洋紙で100年、和紙で1000年。古本の流通の仕組みもそれなりに整っていて、30年前の本でも本気で探せばわりと手に入る。今のところ紙媒体の方がそこは確実なのかなと。

あと、たくさんの情報をまとめつつあるひとつのムードを醸し出す、というようなことも紙媒体の得意技ではないかと思います。今回のように、アーカイブをまとめてボリュームのある状態で見せるような場合は特に有効なのではないでしょうか。本には始まりと終わりがきっちりあって、ひとつの完結した存在感が生まれます。そういう魅力は他のメディアではいまのところ代用できないものなのかなと思っています。

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文化をアーカイブし、残していくことの意義を最初に意識されたのはどんなときでしたか? また、文化をアーカイブし、残していくことの大切さについて、米山さんの見解を伺えますか?

米山以前、日本の国立国会図書館に取材に行った際にとても感銘を受けました。日本の出版物は国会図書館に納本することを義務付けられているので、そこには国内で出版されたすべての出版物が収集・保存されていて、申請すれば誰でも閲覧することができるようになっているんです。その設立理念が「真理がわれらを自由にする」というもので。公平に資料を集め提供してゆくことで、誰に対しても知る自由を保障し、それが健全な民主社会を育む礎となっていく、ということなんです。

パリのとある古書店に行ったときも圧倒されました。過去の雑誌やカタログや細かい印刷物が年代やカテゴリごとに箱詰めされて天井までぎっしりと詰まっていて。そこには名だたるメゾンのデザイナーも足繁く通うらしいということを聞いて、最新のファッションがこういう過去のアーカイブをヒントにして生まれることも多々あるんだろうなと実感しました。

過去のものって、古いのではなくて新しいんです。いま知らないものに触れることはすべて新しいことなんだと思っています。それに、過去に生きていた人がつくったものにいまの人が感動できるというのはとても希望があることだなと思います。それは、自分がつくったものももしかして遠い未来にまったく知らない誰かの心を数ミリでも動かすかもしれない、ということでもあるから。なので、つくるものはきちんと遺していきたいし、遺すからにはきちんと誠意を持って取り組まないといけない、と考えています。

最後のページは、〈ビームス〉のプレス / PRマネージャー佐藤尊彦さん篇です。
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