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FEATURE|The music named TORTOISE. トータスという名のひとつの音楽。

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The music named TORTOISE.

トータスという名のひとつの音楽。

2017年5月17日、水曜日の午後。ぼくたちは開場前のビルボード東京のステージ前にいた。まるで雫が落ちる音さえ聞こえて来そうな静かな空間のなかで、5人のアメリカ人たちが真剣な表情で楽器のセッティングをしている。彼らの名はトータス。シカゴで結成してから、27年の時が経とうとしているバンドだ。メンバー同士ひとことも言葉を交わさず、楽器と対峙しながら黙々と作業する姿には、どこか緊迫の糸が見え、張りつめた空気がそこには漂っていた。でも、いざインタビューがはじまると空気は一変。彼らは和やかなムードでぼくらを迎え、真摯に、そしてユニークに、ぼくたちの問いかけに答えてくれた。ここに届けるのは、彼らの等身大の言葉、そして彼らの意志と姿勢である。

  • Photo_Yuhki Yamamoto
  • Translate_Lena Suda
  • Interview&Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Jun Nakada
  • Special Thanks_Billboard Live Tokyo
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リハーサルが終了してほどなく、ぼくたちが通されたのはアーティストの楽屋だった。そこではリラックスするメンバーたちの姿を拝むことができた。残念ながら、メンバーのうちのひとり、ダン・ビットニーは他の用事があって今回のインタビューに参加することはできなかったけれど、ダグ・マッコームズ、ジョン・ハーンドン、ジェフ・パーカー、そしてジョン・マッケンタイアがぼくたちの取材に応じてくれた。

まず最初に聞きたかったのは、“トータス”というバンド名について。「誰がつけたんですか?」という質問に対して、ふざけた顔をしながらジョン・ハーンドンがダグを指さす。その表情はまるで、こいつが勝手につけたんだ、と言っているようだった。はじめに口を開いたのはダグだった。

はじめは“モスキート”というバンド名にしようとしていたんだ。でも、その名前には先客がいた。だからみんなで色んな名前を挙げていったんだよ。たくさんの候補があって、最終的に残ったのが“トータス”だったんだ」(ダグ・マッコームズ)

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トータスが奏でる音楽には多様性がある。ひとつひとつの楽曲の完成度はさることながら、アルバムを通して聴こえてくるのはさまざまなジャンルの音楽。例えば、ある曲では電子音楽に傾倒しているし、一方ではジャズも奏でる、ロックな曲があれば、リズムだけに意識を向けたものもある。そして、これまでにリリースされた7枚のアルバムには、それぞれにハッキリとしたカラーを読み取ることができる。

俺たちがアルバムをつくるとき、テーマのようなものは設けていないんだ。でも、君たちが言いたいことはわかるよ。というのも、曲づくりのプロセスのなかで一貫性のようなものが見えてくるんだ。つまり、曲同士の共通点だね。アルバム全体を見渡したときの一体感というのは大切なことだと思っている。だけど、それははじめに俺たちが決めることじゃなくて、曲ができてゆく段階で勝手に生まれてくるものなんだ。わかるか? それは湧いてくるものなんだよ」(ダグ・マッコームズ)

我々のバンドはメンバーそれぞれがアイデアの種を持っていて、みんなでその種に水をやりながら育てるようにして曲をつくっている。アルバムの制作に時間を要するのは、エディットにエネルギーを注いでいるからさ。足し算引き算を上手に行ないながら、曲のバランスを整えているんだ」(ジョン・マッケンタイア)

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彼らが曲づくりをする上で大事にするのはどんな要素はなんだろう?

音楽を構成するほぼすべての要素だよ。メロディー、リズム、楽器の音色、イメージ……。でも、それは楽曲によって異なる。さっきジョンが話したように、みんなで種に水を与える作業を通して、その曲のコアとなるものを見つけるんだ」(ダグ・マッコームズ)

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彼らの曲づくりのプロセスは、完成図を用意してひとつの曲を組み立てるのではなく、宝物の地図を眺めるようなものなのだ。なにがあるか分からないものを探しに行くからこそ、既成の枠にとらわれない、聴いたこともないような楽曲が生まれる。結果的にそれが、世界中にいるファンを喜ばすものになっている。

アルバムをつくる度に俺たちは、新しいことにチャレンジしようと思っている。いつも同じ音を出していたら、君たちだって飽きるだろう? それと同じで、俺たちも飽きてしまうんだ。そうするとフレッシュな演奏はできない。だから何事においてもチャレンジすることが大事なんだ」(ダグ・マッコームズ)

世界中にいるミュージシャンたちから厚い支持を受けるトータス。彼らは自分たちの音楽をどのように捉えているのだろうか?

ぼくたちは自分たちのためだけじゃなくて、人のために曲をつくっている。一方通行ではなく、曲を通してお互いにコミュニケーションを取れるように意識しているんだ。トータスの奏でる音楽はユニークだと思っているよ。いつもぼくたちはいろんなジャンルの間を行き来している。ロック、ジャズ、ラテン、ブルース、電子音楽など、さまざまな音楽の間を渡り歩きながら、それらのジャンルのある部分を摘み取り、ひとつの曲のなかでミックスしているんだ。そうすることで、ロックファンにも、ジャズファンにも、あらゆる人たちに自分たちの音楽を届けることができる。それが色んな人々に支持される理由だと思っているよ」(ジェフ・パーカー)

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今回の来日を含め、ここ一年のあいだにトータスは3回も日本に来ている。その理由を尋ねると「去年リリースされた新譜のプロモーションのためだよ」とダグが優しく答えてくれた。彼らのライブを見ていると、そのパフォーマンスの高さに圧倒される。ぼくらが感じたのは、主に2つのことだ。

まずは音色。当たり前だけれど、それは音源を聴いているのとはまったく異なる。奏でているひとつひとつの音に意味があり、必要性を感じる。そのどれもが欠けてはいけないし、なにかを付け足すことも許されない。5人にしか奏でられない音楽がそこに存在しているのだ。

ステージにはエネルギーがあって、メンバー全員が意識をライブに向けている。レコーディングではスタジオでしか鳴らすことができない音を記録しているんだ。そこではライブで出せない音もある。でも逆に言えば、ライブではライブでしか出せない音を奏でているんだよ。それにライブはインプロ(即興)的要素が強い。ぼくたちはいろんなことをステージ上で試しているんだ。フィーリングでね。曲を壊すことは許されないから、“イントロ”、“サビ”、“アウトロ”だけはキッチリと演奏する。山場となる部分以外では弾き方やリズム、パターンを少しだけ替えながら演奏を楽しんでいるんだ」(ジェフ・パーカー)

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もうひとつは、曲が変わるごとメンバーがステージの上を行き来し、楽器を持ち替えること。ひとりがシンセサイザーを弾いていたかと思えば、こんどはドラムセットの前に座りドラムを叩く。次の曲ではベースのストラップを肩から描け、低音を響かせる。そのようにして、ひとりひとりがマルチプレイヤーとなり、いろんな曲でいろんな楽器を演奏している。その姿はライブ会場にいる全員の視線をステージ上に集中させる。オーディエンスを一秒たりとも飽きさせないのだ。

俺たちがバンドをはじめたとき、最初は2ベース、2ドラムで構成されていた。でも、もっと楽しく音楽を奏でるには、さらに楽器を付け足す必要があったんだ。それでシンセサイザーやギター、ビブラフォンといった楽器を演奏するようになったんだよ。みんなはじめは下手だった。この楽器が弾けるからプラスしよう、というスタートではなく、この音色が欲しいから入れようという発想だからね。そもそも楽器が弾けるわけではなかったんだ。手探りで練習して、なんとか弾けるようにがんばった。チャレンジ精神が勝ったんだよ」(ジョン・ハーンドン)

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トータスの楽曲のほとんどがインストゥルメンタルで演奏され、そこにはボーカルの歌声がなければ、メッセージもない。ステージに立った彼らの感情は、どんな方向に向けられているのだろうか?

ただ必至になって拍を数えているよ、ずっと絶え間なくカウントしているんだ」(ジョン・マッケンタイア)

間違いを冒すな、間違いを冒すな、間違いを冒すな…。ずっとそれを繰り返している」(ダグ・マッコームズ)

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もう何度もおなじ曲を演奏しているから、体が曲を覚えてしまって指が勝手に動くんだ。無意識のうちに演奏をしてしまっているときがあるんだよ。そうすると頭のなかに余白が生まれて、まったく違うことを考えてしまう。でも、それが演奏の命取りになってしまうこともある。だから可能な限り、演奏に集中しよう、ライブに集中しよう、という意識を働かせているよ」(ジョン・ハーンドン)

指が勝手に動いてしまう」とジョン・ハーンドンが語るのもうなずける。彼らは1990年に結成され、27年ものキャリアを積み重ねているからだ。では、それだけ長くバンドを続けられる秘訣はどこにあるんだろう?

俺たちはバンドメンバーである以前に、仲のいい友達なんだ。音楽以外にもさまざまなことを共有しているからね。だから俺は他のメンバー4人のことを理解しているつもりだし、彼らも俺に対して同じ気持ちを抱いてくれている。そういう信頼関係があるからこそ、不満があればぶつけるし、いいところがあればしっかりと褒める。これが君の質問に対する答えだよ」(ジョン・ハーンドン)

30年前、俺たちは共同生活をしていた時期もあった。でも、いまはそれぞれの生活があるからそんなことはできない。今日ここにいるはずだったダンと俺はシカゴに住んでいて、ジェフとふたりのジョンはいまLAに住んでいる。距離は離れているけど、バンド活動以外に会ったりもしているんだ」(ダグ・マッコームズ)

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彼らに「音楽以外の共通言語は?」と尋ねると、ジョンがふざけながら「アルコール!」と答える。「いま俺はひどく酔っ払っているんだ」というジョークを交えながら。するとメンバーたちはみんな笑い、仲の良さをぼくたちにアピールしてくれた。

音楽や映画、それにバカなTV番組の話もする。世界中の人たちと同じ話題だよ。でも、最近はアルコールを飲む量が増えた。トランプのせいだな」(ダグ・マッコームズ)

今年、アメリカ大統領に就任したドナルド・トランプ。トータスのメンバーは全員、現在のアメリカ政権に対して“NO”を唱えている。

これだけは必ず書いて欲しい。あいつはSH◯Tだ」(ダグ・マッコームズ)

最近の彼の発言はさらにひどくなっている、もともとトランプを支持していた人間も手のひらを返すようにアンチを唱え始めた。そろそろ彼の政権も終わりに近づいていると俺は思っているよ」(ジョン・ハーンドン)

トランプが大統領になるなんて、誰も信じていなかった。でも、それが現実となってしまった。大統領が決まってからのぼくの気持ちは、ずっと重く沈んでいたよ。どうしてこうなってしまったんだろうと考えると、ひとつの答えに辿り着いた。彼が大統領になれたのは、SNSの時代だからなんだ。これはぼくの主観でしかないけど、若い世代に関わらず、SNSを利用する人は自分たちだけの世界をそこに創り上げる傾向にあると思う。現実と虚空の境界がどんどん薄れていっているんだ。そういった人たちが理想だけを求めてトランプを支持したんだ」(ジェフ・パーカー)

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SNSについてジェフがそう話すと、ジョンが再び口を開いた。

SNSは自分がキュレーションする世界だ。自分がクールだと思うもの、キレイと思うものしかそこには存在しないし、好きな情報しかキャッチできない。でも、現実の世界はそうじゃない。醜いもの、汚いもの、残酷なものがそこらじゅうに存在している。だからこそ美しいものを見たときに感動するんだ。世界はそれに気付くべきだよ」(ジョン・ハーンドン)

いつの時代も、どんなムーブメントにおいても、自己表現することは大切なことなんだ。自分の意志を発信することが生きる上で必要になってくる。それを知っていて欲しいね」(ダグ・マッコームズ)

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時計を見ると、ぼくたちに与えられたインタビューの時間は残り僅かとなっていた。名残惜しさを感じつつも、トータスのメンバーたちに最後の質問を投げかけた。これからのあなたたちの動きについて教えてください、と。

引き続きツアーは継続して行うよ。リリースの予定は、うーん…、いまのところはないね」(ジョン・マッケンタイア)

でも、いつかはリリースするよ(笑)。予定といえば、ツアーが終わったら曲づくりをすることだ。なぜなら俺たちはバンドだからね。キープ・ゴーイング。倒れるまでやるさ」(ダグ・マッコームズ)

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