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FEATURE|It’s a family affair. ハイバイ・岩井秀人と写真家・植本一子。家族に理想のカタチはあるのか。

植本さんとお母さんの関係は多分、ぼくと父の関係ですね。

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岩井植本さんは、フェアさもすごいなって思ったんです。ぼくは舞台上に自分役を立てるんで、もうちょい自分の役に味方がつくようにコントロールするんです。

植本んん? 味方がつくようにですか?

岩井そう、より被害者に見えるように。植本さんはしないですよね。あらためて書いてみたら、相当悪者だなって思われる可能性とか、よぎったりしないですか?

植本わたし? あーないかも。小説が読めないのと一緒で、本当のこと以外って、あんまり興味がないっていうか。なんか面白くないなって思っちゃって。飾ったこととか、つくりものは出したくないなっていうのがあって。

岩井徹底してるんだろうな、そこが。

『働けECD わたしの育児混沌記』から、以降の2冊では文章のトーンも変わりましたよね。ある種、ポップだったものが、より尖鋭化されたとでもいうのか。

植本うんうん、そうですね。うんうん。

岩井タイトルがね。

一同(笑)。

植本まあ、でもね、最初のときから、もうちょっと文芸よりにしたいというのはあったんですけど。ポップさだったり、旦那さんの名前をつけないと売れないからっていうので、割とこういう感じにはなってて。でも中身は結構エグいと思います。

そうですね。決してポップではない。

植本うん。この2冊(『かなわない』『家族最後の日』)はやりたいことやった感じです。『かなわない』は、自費出版で結構売れたんですよ。

岩井マジですか。自費で?

植本1400部。自分で売って。それで声がかかって。

岩井すごいね。

植本でも、なんかこれ(テーブルのDVDを指して)すごいショックでした。『て』は、お母さんを演じるでしょう、岩井さんが。

岩井そう。不思議なことしてますよね。

植本やややや。でも、わたし、やっぱそこまで至ってなくって。もちろん、わかってるんですけど。お母さんにもお母さんの言い分があるっていうのも、もちろんわかるんですけど。

岩井あ、はいはいはいはい。それは、お母さんとの距離があれだからでしょ?

植本うん。本当にいま連絡も取ってなくて。米だけが一方的に送られてくるんですよ。で、うちの旦那さんも、もう長くないって言われちゃってて。ピンチっちゃピンチなんですけど、やっぱり親には頼れなくって。頼れないんだけど、それでもかなり参っちゃったときによぎるのはお母さんだったりして。

岩井ああ、そうなんだ。

植本うん。それでも、やっぱり連絡は取らないようにしているんですけど。

岩井お父さんは?

植本お父さんはね、空気みたいなもんなんです。

岩井なるほど、なるほど。でも、植本さんとお母さんの関係は多分、ぼくと父の関係ですね。ぼくの場合は完全に敵っていうか。父を死んでも全然許さないっていう感じかも。『て』は2周あるじゃないですか。1周目はそもそもぼくが書こうとした内容で、おばあちゃんがボケたことを中心に兄弟が再集合したんだけど、それでまた父ちゃんと仲が悪くなるみたいな筋で。

そこでの父ちゃんや兄ちゃんの狼藉をいっぱい書いてやろうと思って、母に取材したら全然違うことを言いだしたから、「あれ、これ書けないよ」と思って。じゃあ僕の視点と母の視点の両方を書こう、と。なんだったらちょっと追体験しようっていうので、ぼくが母の役をやるっていう。

これを最初にやったときは、下北沢の駅前劇場っていうとこでやって。実は演劇界のなかでは、駅前劇場でやるっていうのは、ステップアップみたいなところがあるんですね。本当にどうでもいいことなんですけど。それで、いよいよやるぞっていうときに、すごい箱庭療法みたいなことをやってるって自分でも思ったんだけど、意外と突破口になったところもあって。セルフカウンセリングみたいな錯覚がありましたね。

植本あれ、つらかったなぁ。お母さんが、みんなが盛り上がっているのを……。

岩井外から見るところ?

植本そう。泣いて。

岩井あれ、なんなんですかね。願い?

植本そうですよね。ファンタジーでしたよね。

岩井ファンタジーですね、多分。

植本で、自分は同級生と電話してたりしたでしょう。

岩井そうそうそう。

植本お母さんでもあるんだよなって思ったし、わたしもお母さんにインタビューしようとして失敗してるんですよ。失敗っていうか……。

岩井いや、難しいと思うな。

植本ね、難しいですね。

岩井女の人の親子って、やっぱ、ちょっと違うと思うんだよな。

植本そうなんですよね。思います。

岩井ほぼ同体で育つみたいな感じ。うちの嫁と娘を見てて思うんですけど、1個の生き物として育つ時間があまりにも長すぎる感じがするっていうか。ちょっと男の親子とは違うなって思いますね。これ(『て』)の続きみたいな感じでやった『夫婦』っていう作品もあって。うちの父が外科医だったのに医療過誤みたいなので、最後はまったく面影ない生き物になって壮絶な死に方をしたんですよ。

植本おばあちゃんみたいな感じ? 

岩井そう。本当に紫色のおばあちゃんみたいになって。その時、さすがにその仕事をやってきた人が仕事に裏切られる無念さみたいなものは感じたけど、ぼくはずっとざまあみろと思いながらいて。「こんな作品をつくって、お父さんを許したんですね」みたいに言われるんですけど、いちいち「まったく許してないです」って答えても、あんまり理解してもらえなかったですね。書くことも含めて、(作品は)許すことだっていうファンタジーを信じてる人が多いんですけど、それはちょっと違う気はしてますね。

植本そうですね。かといって、攻撃したいってわけでもないんですよ。でも、やっぱり「お母さんかわいそう」みたいな読者も出てくるし、難しいですね。でも、「家族だからなにを書いても許されるよね」みたいに言われるのが一番きついかも。

岩井あーなるほどな。

植本どっかでお母さんがこれを読んで死ぬんじゃないか、みたいなことも思ったりするんですよ。

さっきの佐世保の娘さんの話じゃないですけど。

植本そうそう。でも、8:2くらいで死なないだろうとも思ってるし。でもやっぱり、わたしはこっちを選んだんだなっていうのは、ありますね。もちろん許してないのもあるし、ネタにしてると言えばそれまでなんですけど。でも、それをしないと進めないというか。

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岩井さんのお父さんは舞台を観に来て、「わかんなかった」ってニヤニヤして帰ったという話が、過去のインタビューにありましたよね。

植本あった! あれは、めちゃくちゃ怖い話!

植本さんのお母さんも、「すみません みにおぼえがありません 多分仕事でいっぱいいっぱいだったんじゃね ごめんね 今なら余裕あるよ」という、句読点の一切ないメールが届いたやり取りを書かれていますね。それに対して、「ふざけんな」というストレートな感情を吐露している。

植本そうそう。ああ、怖い。

おふたりのお話を聞いていると、息子/娘側の「許す・許さない」っていう次元に、まず親がいないのかなって。

岩井だから、(反面教師として)そうならないことでリベンジするしかないというのは、圧倒的にあると思う。僕はできちゃった婚で、子どもをつくるかどうかもろくに考えてなかったし、子どもができたら絶対に叩いちゃうなって思ったんですよ。それが怖かったんだけど、そうはならずに済んでいる。でも、その血が流れてるんで、絶対方向としては近いんですよ。そうなった瞬間に言いたくなる言葉の色どりがうちの父ちゃんを彷彿とさせるから、そっとよかす(避ける)みたいな。「こんだけのことをしてんだから尊敬しろ」みたいなのを、あんな高々と叫ぶ父親は、いまだに見たことがない。

植本うちのお母さんも、あんなにいやな人、自分の周りにはいないなっていうのが本当にあって。まず、友だちにならないタイプ。

岩井でも、友だちには違う顔してるんじゃないですか? そんなことない?

植本友だちがいないんですよ。

岩井いないんだ(笑)。

植本いないと思う。外面よくて仲良くならないタイプ? 自分の内側を見せない感じがしますね。

岩井うちの父ちゃんも外面はすごくよくて、どんだけ取材しても、外面がいいってことだけがわかりましたよ。周りの人に取材してったら、超社交的でフェアで、みんなをいろんなところに連れていってるとか。

植本怖いーーーーー。

岩井そう。だから誰の話? みたいな。お葬式のときに、それまで会ったことのない人たちが来てくれて、話す人、話す人、父の話がまったく想像がつかない内容ばっかりだったから。これおかしいぞと思って、何人かに取材したんですけど――。じゃあ、なんだったんだろう、あの人にとっての家って。

植本本当ですね。

「こうやって自由に表現できてたのって、旦那さんありきだったなって。」
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