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FEATURE|It’s a family affair. ハイバイ・岩井秀人と写真家・植本一子。家族に理想のカタチはあるのか。

こうやって自由に表現できてたのって、旦那さんありきだったなって。

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植本もし男の子が生まれたらって考えたりしました?

岩井あ、それ考えたことなかったけど、ちょっと違ったかも。それは怖いなと思いますね。破壊的なパワーがあるから、男の子の泣き声って。あれには、ちょっと抑えられないものが出てきそうな気がする。

植本めちゃくちゃしんどかったですよ、女の子。修行だと思ってました(笑)。わたしは、割と意識的じゃなかったので、最初はバッて出ちゃうんですよ、お母さんが言ったような言葉が娘に対して。それにすごい「わぁぁぁ」ってなって。

岩井自分で?

植本そう。「あああ、お母さんみたいだ」って。これはやばいって気づいたから、ここまでの本になったとは思うんですけど。本当に気づかずになぞっていく人って、いっぱいいるんだろうなと思って。やっぱり、やられてきたことしかできないっていうか。男の子がよかったなっていうのは、ずっと思ってましたね。別物だろうなって。

岩井なるほどね。

植本でも、女の子が生まれたからここまで回復できたのかな、とも思うんですけど。いまが一番楽な感じはしますね。親と切れて。

岩井楽ね。そうね。重みがありますね。ここまでのものになってっていうのは(笑)。どのくらいの期間をかけて書いたんですか?

植本これ(『働けECD』)は1、2年かな、本当に子どもが小さい大変な時期で。これ(『かなわない』)が5年分。これ(『家族最後の日』)が2カ月(笑)。

岩井よく書きますね。

植本いまも書いてるんですよ。

岩井また!?

植本旦那さんのこと、書いてて。

岩井そっか。がんって本当にひでえですね。なんなんですかね、あの病気って、なんのためにあるんですかね。

植本ふたりにひとりが死んでますからね。まあ、でもしょうがないですね。しょうがないですよね。

岩井とにかく、お医者さんって謎だなって思うのが、嫁が病気で手術するので同意書を書くってときに、「大丈夫です。いままで2000例くらいやって、そのうち1人しか死んでないですから。大丈夫ですよ」って言われたんですよ。そのときに、ずいぶんなことを簡単に言うなって思ったんですけど。でも医学界側から見たら、2000人のうち1999人助けられるって、ものすげえ効果なわけじゃないですか。それを理解して「あ、そうですね」ってサインするのって、すげえ難しいなと思いながら……。結局、サインして無事だったんですけど。これ、結果次第じゃ荒れ狂うかなと思うものが。

植本そうなんですよね。

岩井ああいう選択、結構あるじゃないですか。

植本いっぱいあります。うん。

岩井抗がん剤治療ですか?

植本うん。いまやっと、それ。

岩井抗がん剤治療っていうのも、自分だったらどうしようとか、すごい悩みますよね。いきます? 抗がん剤。

植本うーん。いや、わかんないかも~。考えたことないですね。

岩井そうなった場合にお医者さんって、確実に「抗がん剤治療をやんなかったらもっと早く死にました」って言うんですよ。

植本あーーー。

岩井「やったからこれだけ延びました」って言うけど。でも死に際としては……まあ、わかんないな。抗がん剤の威力すごいじゃないですか。

植本効けば、いいんでしょうけど。

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岩井効いたときのミラクル度合はすごいですよね。うちの母も悪性リンパ腫ってがんになったときに、片足が(大きく膨れるように)本当こんなんなって、そのときも病院5か所くらい回って、どこでも骨の問題だって言われてたのが、ようやくがんだって見つかって。1個目の抗がん剤でピタッとハマった。そういうこともあるんだなと思いながら。

植本セカンドオピニオンとか言われたんですけど。もう、うちは旦那さんが頑張りたくないって言ってて。この病院でいいみたいな。

岩井なるほど。じゃあ、意見を聞くのも別にいいみたいな?

植本うん。どこも行きたくない。抗がん剤で体力も奪われちゃって、体重も20キロくらい減っちゃって。本当に動くのも大変みたい。

岩井もう、どのくらいの期間なんですか?

植本まだ1年経ってないですね。がん発覚してから。何回か手術して、転移が見つかったんですよ、この前。でも転移したら厳しいって言われたんで。あとは抗がん剤使って、引き延ばすだけっていうニュアンスで言われて。で、旦那さんが入院するときに「奥様だけちょっと残ってください。説明しますから」みたいなのを言われて。

岩井耐えられない話だ。

植本そうそう。「来た、来た、来た」と思って。で、抗がん剤が2種類あって、1種類目で効かなかったら2種類目を使うけど、2種類目は結構きついですって。旦那さんは、もうしんどいことはしたくないし、放射線治療もしたくないって言ってるから。

岩井あれ、なんでだろう。

植本やっぱりラッパーなので、喉がダメになるなら放射線はいやだって言ってて。いまは、「旦那さんはどう思ってるんだろうな」って思いながら一緒に過ごしてる感じです。なので、ちょっと急がないとと思ってて。旦那さんから発言を聞くのとかも。

岩井ああ、なるほど。遺言じゃないけど。

植本そうそう。わたしがこうやって自由に表現できてたのって旦那さんが許してくれたというか、旦那さんありきだったなとすごい思っちゃって。その、(旦那さん以外に)好きな人がいたとか……。

岩井すごいですよね、それもね。それ、ちょー面白かった。「なに、なに、この夫婦」と思いながら。

植本そうですよね。だから、いないんだろうなって。こんな人は。

岩井オープンにする前提で夫婦を始めたんだったらあり得るんですよ、まだ。だけど、そうでもなくて。どういうテンションでこの会話ってされるんだろうって思うくらいに。

植本面白いですよね。

岩井いや、すごい面白いです。すごいフェアに、一対一で話してる感じがするっていうか。もうちょい社会を使って攻撃しようとしたりするわけですよ、「どういうつもり?」みたいな。あれを読んだ限りじゃ全然そうじゃなくて、「わかった。けど……」みたいな。「お、わかっちゃった」みたいなところが。

植本そうそう。こんな面白い人、いなくなっちゃうとやばいと思って。

岩井そうね。そうですね。

植本ちょっといま、急いでますね。

「既婚者が夫に彼氏の存在を明かした先に、見えてきたこと。」
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