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FEATURE|It’s a family affair. ハイバイ・岩井秀人と写真家・植本一子。家族に理想のカタチはあるのか。

既婚者が夫に彼氏の存在を明かした先に、見えてきたこと。

植本9月に石田さんの書き下ろしが出るんですよ。去年一年間書いてた原稿があって、それを大急ぎで出すことになって。そのゲラをちょっと読んだんですね。怖くて読めなかったんですけど、自分の部分だけ探して。

岩井エゴサーチしてる。

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植本そうそう。今年の2月に『家族最後の日』を出したときに、現代ビジネスで書いたエッセイがあって。「旦那さんががんになる直前まで彼氏みたいな人がいたんだけど、その人とも別れて家族に戻った」みたいなことを書いたんですね。それを旦那さんが読んだ感想として、「あ、やっぱりって思った」ってゲラに書いてあって。

一同(笑)。

植本「やっぱり」って思ったんだっていうのがわかって、安心したんですよ。そういうふうに思ってくれてたんだなって。言葉にはしなかったけど、許してくれてるというか。個として見てくれたんだなっていうのが、きちんとそのゲラを読んでわかったので。この前も、すごいかわいいって思ってる男の子がいて、みたいな話をして(笑)。

岩井なんなの!?

植本その男の子、すごい若いんですけど。

岩井若いんですね、しかも(笑)。

植本すごい若くてかわいくて! 1年くらい前から気になってたんですけど。その子を友だちとかに見せると「石田さんに似てる」って言われちゃって、すっごいヤダ! って思って。「石田さんに似てるって言われるんだけど」って本人にも言って、バッて写真を見せたら――。

岩井どこまで話してるんだ。

植本「似てない」って(笑)。「最近、落合博満に似てるって言われる」とか言って。似てるんですよ、たしかに。それも書かないとなって思いながら……。最近、そのゲラを通してまた一歩踏み込んだ感じもありますね。どこまでいけるのかなって。

岩井やめなさいよ。ポクって逝っちゃいますよ、本当そのうち。面白い、どこまで行けるのかが。いやあ、知らない、そんな夫婦。書かなくちゃですね、だからこそね。

植本そうなんですよ。やっぱ石田さんが生きてたってことも残さないといけないし。こんな夫婦でもいいんですよって。

岩井そうですね。

植本何枚か見せると、「角度によっては、あ、似てるね」みたいな。

岩井そこはいいの、別に(笑)。

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なんでもう一回そこに戻ったんだっていう(笑)。それで言うと、石田さんも同じタイプといいますか。『かなわない』にも書いてありましたけど、義弟さんが腹を切って飛び降り自殺をして。

岩井そんな死に方あります? しかし。

その姿を見て、お義父さんの具合が悪くなったことに対して「親父、グロ耐性ないから」って発言されたことが、すごいとしか言えない……。

植本そう。ネタができたね、とか。

インタビューしなきゃ、とか。

植本そうそう。そのインタビューをもとに原稿を書いてるんですけど。

岩井すごいなー。義弟さんって遺書とかあったんですか?

植本ないです。

岩井なし? 強烈だな。

植本そうなんですよね。お義母さんも統合失調症の気があったし。

岩井どっちのですか?

植本石田さんの。

岩井ああ、そうなんだ。

植本そうそうそう。繊細な家系だなとは思いますね。まあ、石田さんの場合は最初から家庭崩壊してたっていうか。そういう家だから、逆に家族に対する理想がなかったっていうのがゲラに書いてあって。だから、うちの家族――わたしとのこともそんなになかったんだなって。

岩井なるほどね。

植本っていうのは、いまわかって。そういう会話は、ほとんどなかったんですよ。

岩井その方法だけじゃないにしても、自殺って起きると周りがものすごいライフゲージの減らされ方するっていうか、汚染みたいなことをされる気がするけど。強いですよね、本当にそのことだけを思ってたわけじゃないにしても、「取材、取材」みたいなこととかって。

植本テンションはすごい上がってましたね。わたしも旦那さんも。

岩井面白いって言っちゃあれかもしれないけど。

どうして、そんなことばかりが植本さんの周りには起きるんでしょうね。

岩井「書いてくれ」なのかな? わからないなぁ。

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あくまで岩井さんの場合は、ワークショップでいろんな人が集まった上で、「みんなもそんなことあったんだ」っていうことですけど、すべてがひとりの30代女性の人生に起こり得るのか。引っ張ってきているのか。

岩井実はいるのかな。いっぱい。

植本いると思いますよ。めちゃくちゃあると思う。

いまのお話を聞いていて、『て』の登場人物で、家族外の人物が「お父さん、全然大丈夫だよ」って言うのに対して、お母さんが「あなたははつくりが違うのよ」っていうくだりを思い出しました。「あ、植本さんも石田さんもつくりが違うのか」。それは、性格とかそういうことじゃな、つくりなんだろうな、と。

岩井かもしれないなあ。でも、意外とエゴサーチして傷ついたりはするんですよね。傷ついてない人が書く文章じゃない。けど、傷ついてたら書けないでしょ、みたいな。

以前に「しんどいことを書くのはしんどい」って発言されていましたよね。

植本いや、しんどいですよ(笑)。

岩井ぼくはそのしんどさに耐えられないから、ちょっと“オモシロ”にするの。

植本ああ、なるほど。

今日のお話を聴いていて、やはり通じるものを感じつつも、そこが違う部分なのかな、と。植本さんは一切薄めていない原液のようとでも言いますか、ユーモアは排除してますよね。

植本ああ、そうかも。ずーーと行く感じが。でも、いいんじゃないですか。なんの根拠もなく言っておりますけど。この調子であれ書いてるんだったら、大丈夫なんでしょうね。選手生命的に。

そうですね。ご本人に会うと。

岩井もうちょい雲がかかってるみたいな。

植本そんなイメージでした?

岩井わかんない。全然想像がつかなかった。

植本「怖い人かと思ってた」っていうのは、言われますね。でも、つくりものは出したくないっていうのがあるから、そこかもしれないですね。

岩井すごく純粋なんだと思いますね。

捉え方は人それぞれだと思いますが、読んでいて辛くなるという意味では、ずっと喉元に刃物を突きつけられているような気分になりますね。

岩井でも、そういうのかも。当時、自分も呼吸できなかったんだから、読んでるほうもまだ呼吸するな――そう思ってはいないと思うけど。ぼくはすぐ息継ぎしたくなる、浅い読み手なんですよ。ぼくも息継ぎなしで書きたいかもしれないけど、多分耐えられないんだと思う。でも、そうしちゃうとたどり着けないものが確実にあると思うんだけど。

演劇の場合、自分も舞台上に出たりするし、「大丈夫ですか? お客さん寝てないですか?」みたいな部分も含めて、どうしても軽くしてしまうところがあって。でも、何年か前から、それいらないなってやっと思い始めた。やっぱり、笑っちゃうとその時に何も考えなくなることってあるので。だから、自分が観てすごく面白い作品って、笑えるかどうかなんて関係ないんだって思ったんですよ。笑いは重要じゃなくて、ずっと何かについて考え続けられるもののほうが豊かだってことに気づいて。じゃあ、自分もそういうふうにしようと。ちょっとつらかったけど、でも多分そっちのほうが強いんだろうと、だんだん推移していった気がするんですよね。

「ある意味これ、被害者の会。」
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