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BIG YANK The Third Edition 5人の好事家デザイナーがアレンジした、それぞれのビッグヤンク。 Case1_山下裕文

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ー今回の企画は、元ネタになるヴィンテージがありますが、サイズ感などは変えていますか?

山下:今回の企画はなにも縛りがなく、本当に自由にやらせてもらいました。まずジップアップのシャンブレーシャツは5種類の生地を使って、クレイジーパターンにしています。また、少し時代は前になりますが、特製の菊穴だったり、ステッチの本数なんかも見所。例えるなら、ウニ丼にイクラを乗せたような豪華な感じですね。

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MULTI COLOR PULLOVER SHIRT 各¥23,000+TAX

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山下:パターンも何度も修正して、ヴィンテージそのままではなく、僕好みに仕上げました(笑)。普通ブランドホルダーから色々と制約が出るのですが、サーティファイブサマーズの懐の深さを感じましたね。もともと〈ビッグヤンク〉というブランドは面白くて、アメリカのワークウエアというのはいかに効率的でロスを失くすかがトッププライオリティなはず。本来であれば、これだけヨークにカーブに付けていると、センターで割ってバイアスを取り、身体にフィットさせた方がよくできているシャツになるわけです。でもあえてカーブの強いヨークにしているのは、このデザインに強くこだわりを持っていたということ。単に効率だけを求めない各ディテールが、味になっていますよね。

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ー確かに効率やロスを考えると無理のあるディテールですね。

山下:いわゆるガチャポケや山ポケもシガレットポケットとして特許を取るメーカーですから、ディテールにはそれなりの執念があったのではないでしょうか。

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ー次はグァジャベーラシャツについてお聞きしたいのですが、古着屋さんでよく見かけはしますが、ハワイアンシャツに比べると解明されていない部分が多いと思いますが、これも深い世界なんですか?

山下:いや、ハワイアンシャツに比べると芸術性もないですし、年代によってガラッとなにかが変わるわけではないですね。もう少し庶民的というか、通称キューバシャツと呼ばれるように、あの地域の人々が普段着として愛用していたんです。ものすごい暑い国なので、通気性を重視した生地で、プリーツは動きやすさを考慮したものです。ヘミングウェイは、日常的に使っていましたが、それなりの場所では正装として純白のグァジャベーラシャツを着用していたようです。

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ーなるほど。キューバシャツにもTPOがあるわけですね。

山下:伝統的なキューバシャツに、アメリカンワークウエアの代表的な素材のシャンブレーという組み合わせは滅多にお目にかかれないので、おもしろいアイテムができたのではないかと。

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ー〈モヒート〉も同様ですが、ヘミングウェイをイメージしながらも、本人が愛用していたものをそのまま復刻することはないですよね?

山下:そうですね。実はヘミングウェイをイメージソースにしたブランドっていっぱいあるんですよ。でも個人的には同じことをしたくないですし、ヘミングウェイの着ていた服を真似しても、詰まるところ、オリジナルには勝てないですよね。〈モヒート〉を代表するアイテムのひとつにアルズコートというものがあるのですが、これはヘミングウェイの小説に出てくる殺し屋が着ているコートを僕なりにイメージしかたちにしています。少しファンタジー寄りというか、こうあって欲しいという願望を入れています。

ーそもそもヘミングウェイに興味を持たれたのはいつくらいなんですか?

山下:20歳くらいですかね。何人か人生で影響を受けた人物はいるんですが、アメリカンカルチャーにどっぷりでしたから、自分が服作りをする上で体現しやすいのがヘミングウェイだったわけです。そこで改めてリサーチすると、いろいろとおもしろくて、より好きになりました。

ーそんなヘミングウェイの魅力とはどういうところにあるんでしょうか?

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山下:ノーベル文学賞を取る知的な才能と、それに相反するアメリカンマッチョと称される豪快な生き方、4回も結婚するというプレイボーイっぷりなど、すべてを手にすることができた、ある意味男の理想ですよね。旅する文豪と呼ばれるように世界中を駆け巡った自由な生き方も魅力です。おもしろいことに結婚をするたびに、大作が生まれるんですよ。晩年のジョークのひとつとして言われるのが、ヘミングウェイの最高の作品は“自分自身”って言われるんですよね。さまざまなシーンにおいて、ロバート・キャパを同行させ撮影させたり、セルフプロデュースの才能が抜群でした。

ー酒好きとしても有名ですが、山下さんの〈モヒート〉はそこに繋がってくるんですか?

山下:ヘミングウェイは明け方から仕事をして、午後からは酒を飲むといったライフスタイルだったんですが、ダイキリとモヒートを愛飲していたと言われています。ただモヒートに関しては、個人的な見解ですが、飲んでいないと思います。あるヘミングウェイ研究家が親族に確認したところ、飲んでないとは言いませんでしたが、「我が家では、伝説のひとつとして語り継がれています」と非常に濁した言い方なんですよね(笑)。そういう逸話も含めて、このブランド名を気に入っています。

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