ー今、だいたい何種類ぐらいあるんですか?
菊地:30~40種類ぐらいはあると思いますよ。その他に1点ものを作ったりします。
ー真鍮は大阪から仕入れていると伺いましたが、真鍮にもグレードというか、善し悪しがあるんですか?
菊地:善し悪しというわけではないんですが、種類がたくさんあって、それをどう使い分けていくのかが大事なんです。例えば、鉛が入っていると、固く削りやすくて、銅が多いと柔かく加工がしやすいとか。なので、叩いたり曲げたりするようなものを作るときには、それに適した比率のものを選びます。
ーなるほど。例えば、どこそこの土がよくて、とかそういう基準はあまりないわけですね。
菊地:と、思います。
ーそもそも真鍮って加工しやすいんですか?
菊地:アルミよりは固いんですが、ステンレスとかよりは柔らかくて、自分的にはちょうどいいバランスなんです。ちなみにウチで使っている真鍮は、銅が65%、亜鉛35%という比率で、少し固めな感じです。
ーその比率はあまり変えないんですか?
菊地:はい。まず、色が変わるんです。銅が多ければ、より黄色っぽくなるし。その感じがあまり好きじゃなかったりするので、だいたいこの比率です。
ー固いというのと、曲がりやすい、脆いというのは、違うベクトルの話なんでしょうか。
菊地:少し違いますね。真鍮は、“粘りがある”金属なんだと思います。
ー粘りとは?
菊地:ステンレスとかでも、火を入れていない状態、つまり焼き鈍し(なまし)をしていない状態だと、脆くてすぐに折れてしまったりするんです。焼いていると、ある程度弾力が出るんですよね。そういう意味では真鍮はバキッっと折れたりすることはないですね。
ー改めてお聞きしたいのですが、真鍮の素材としての魅力はどういうところなのでしょうか?
菊地:使っていて思うのは、やっぱり少しずつ色が変わっていくところだったり、あとは素材としての質感が柔らかいイメージがあって。そのあたりが好きなんだな、とは思います。ただ、本当に小さい頃から見てきたものなので、今改めて魅力を、となるとなかなか難しいですね。。
ーちなみに、色はどんな風に変わるんですか?
菊地:膜が張ったように白っぽくなったりします。もちろん黒ずんだりもするんですが。
ー金属でこんな風にきれいにエイジングされていく金属って他にあるのでしょうか?
菊地:アルミとかステンレスも、厳密には色が変わってるんです。ただ、それがきれいかというと何とも言えないですね。銅だと黒っぽくなりすぎますし。
ー真鍮はカトラリーとして使われているぐらいなので、もちろん有害ではないんですよね。
菊地:はい。真鍮は人体に有害なものに触れると反応して色が変わるため、昔から安全食器として使われてきたみたいですよ。
ーというと毒ということですか? 例えば青酸カリとか。
菊地:はい。そういう話を聞いたことがありますね。
ーちなみに、ご自宅で使っているカトラリーはどれくらい使っているんですか?
菊地:ものによっては5~6年くらい使っているものはあると思います。何ぶん〈Lue〉として作り始めてまだ7年くらいなので。。
ー自宅では真鍮のカトラリーを使うことが多いんですか?
菊地:うーん、、カレーを食べたりするときは、真鍮のスプーンを使いますね。まぁ、用途に分けてという感じではありますが、考えてみると確かに多いかもしれません。
まず、元となる真鍮に型の線を描いて、傷をつけて切っていきます。
次に柄の部分に、挟むための隙間を作ります。そして身の部分をバーナーで焼きます。そうすることで、柔らかくなって成形しやすくなるんです。
そのあとが柄付け、これは溶接で行っていきます。フラックス(銀ロウ)という薬品が接着材のような役割を果たすんです。
そして柄の部分を叩いて潰して、持ち手を作ります。
さらに酸につけて、酸化膜をとります。
最後にセラミックの石が入った機械に入れて、水と洗剤を一緒に一晩中回せば出来上がりですね。だいたい一度に50本ぐらい入れます。
ー海外にも、真鍮で作られた作品ってあるんですか?
菊地:ありますよ。パッと思い浮かぶのは、韓国のスッカラ(匙)ですね。これは昔から作られていていますね。あとはタイとかインドにもあったはずです。
ーアジアが多いですね。欧米では結構物珍しがられるんですか?
菊地:かもしれません。ステンレスが今ほど出回る前には、けっこう作られてたみたいなんですが。。
ーステンレスの良さはやはり扱いやすさ、ということになるんでしょうか。
菊地:そうですね。あとは色が変わりにくいという性質もあります。色が変わっていくという価値観が昔の人にはそんなに受け入れられなかったんじゃないかなと思います。ダイヤモンドのように、色が変わらないことが素晴らしいという考え方というか。今も、世間一般的にはそうだと思いますが。
ー真鍮はどちらかというと、色が変わったり味が出てくることに価値を見いだしていますよね。それって東洋的な考え方なんででしょうか。
菊地:そうかもしれません。ただ、最近はヨーロッパの人とかも、そういう風に意識がいくようになったのかもしれませんね。