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フイナムテレビ ドラマのものさし

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2015年1月期のドラマは、すでに一部スタート済みですが、この辺りは見ておいたほうが良い、と思うものをピックアップしてみます。

『山田孝之の東京都北区赤羽』金曜 0時52分~
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画像は公式HPより引用
すでに放送を開始しているが、今期のドラマの中で最大の異色作にして問題作ではないだろうか。2013年に公開され数々の映画賞に輝いた『凶悪』でも、がっつり役に入り込む様子が伺えた俳優の山田孝之が北区・赤羽に移り住むことになり、そこで出会うディープに人たちとの関係を通して自分を見つめ直す…などと設定を書いたところで、このドラマの奇妙なおかしみは伝わらないだろう。そもそも、どこまでがドラマでどこまでがドキュメンタリーなのか分からないつくりになっていて、虚と実を行き来する構成が見る者の視座をぐらぐらと揺さぶるのだ。

山下敦弘監督が撮る時代劇に出演していた山田が、みずからの首を刀で斬るラストカットの直前で芝居を拒否。役に入り込み過ぎた挙句、真剣を使うかラストを書き換えるかしなければ撮影は続けられないと監督に直訴し、結果撮影はストップし、映画はお蔵入りとなる。しばらくして、山下監督の元に山田からあるマンガがごそっと送られてくる。赤羽の街とそこに住む人々の生態を描いた清野とおるの『東京都北区赤羽』『ウヒョ!東京都北区赤羽』だ。「これ読んで何か感じなかったですか?」と山田は監督に詰め寄り、「ここに出てくる人たちってすごい人間らしいと思わないですか? ありのまま生きてるじゃないですか、みんな」などと語り出す。今までの自分の芝居のやり方に限界を感じていた山田は、赤羽で自分の「軸」を見つけたいと言い、そのプロセスを山下監督に映像で記録してほしいと依頼する、というのが導入なのだが、実在の人物が実名で登場するものの、山下監督が山田孝之主演で時代劇を撮り、それがお蔵入りしたなんて話は聞いたことがない。

この辺は設定上のフィクションなのだが、山田と山下が清野とおるのナビゲーションで赤羽のディープな人々の中へ飛び込んで行くことになるだろう2話以降、果たしてどこまで人的コントロールがなされているのか見当がつかない。おそらく相当にカオスな展開が予想される。

演出には山下敦弘とともに『童貞。をプロデュース』『フラッシュバックメモリーズ3D』などのドキュメンタリー作品で知られる松江哲明監督も加わっている。テレビドラマの可能性をぐぐっと押し広げる一作になりそうだ。

『問題のあるレストラン』 1/15木曜22時~
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画像は公式HPより引用
『最高の離婚』の坂元裕二が脚本を手掛け、『最高の~』にも出演していた真木よう子が主演で表参道のレストランが舞台で…と聞くと、レストランを舞台にした恋愛ドラマのようだが、タイトルからも分かるように、そんな生ぬるい話ではなさそうだ。

かつて桃井かおりや研ナオコ、緒形拳らが出演した『ちょっとマイウェイ』というドラマがあった(1979~80年放送)。大手レストランの進出で苦戦を強いられた南代官山の小さなレストランがどうやって逆転していくのかといったような話で、爆笑問題の2人はことあるごとにこのドラマの大ファンであることを公言し、元・モー娘。の安倍なつみの母親はこのドラマの桃井かおりの役名「なつみ」から娘の名を付けたという嘘のような本当の話もある。それほど人気のドラマだった訳だが、なんとなくそんなテイストなのでは、と思ったりもした。が、こちらはもっとハードに、昨年も問題になったセクハラ野次やパワハラに象徴されるような、いまだに女性蔑視がまかり通る男社会に対して女性たちが闘いを挑む、というストーリーらしい。リベンジに起ち上がる行き場を失った女性たちに、二階堂ふみ、高畑充希、松岡茉優など、今をときめく若手女優が名を連ねているのも注目だ。

予告を見ると、「日本のフレンチなんて全部クソだから」と豪語する天才シェフ役の東出昌大も実にいやーな感じでハマっていそうだ。

『デート 恋とはどんなものかしら』 1/19 月曜21時~
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画像は公式HPより引用
『鈴木先生』『リーガル・ハイ』の古沢良太が初めて本格的な恋愛ドラマを書く。これだけでも十分に見る意味はあるだろう。

もちろん、古沢が手掛けるのだから、「恋に臆病な女性が何の努力もしないまま何故かイケメンに言い寄られまくる」みたいなご都合主義の恋愛ドラマになるはずはない。杏が演じる依子は東大出で内閣府の研究所に勤務する超合理的なリケジョ、長谷川博巳が演じる巧は母親に寄生して働かずに好きなことだけして暮らす「高等遊民」的ニート。共に恋愛不適合者だが、結婚を合理的な契約と考える依子と、高齢の母親に替わる新たな寄生先を確保するために打算的に結婚を考える巧が結婚相談所で出会う話だというから、恋愛ドラマとはいえ相当ひねりがありそうだ。

まず最初に契約や打算としての結婚があり、次にそこへ着地するためのプロセスがあるという、普通とは逆の道筋を辿ることになり、そこに鈴木先生と『リーガル~』の古美門の2人が揃ったような「理屈っぽい者同士の応酬」で「恋愛とはこうあるべき」の概念を覆す展開になるものと予想される。

この他にも、前述の『山田孝之の~』の直前に既に放送を開始しているケラリーノ・サンドロヴィッチが脚本・演出を手掛ける『怪奇恋愛作戦』(金曜・0時12分~)も、三木聡の『時効警察』『熱海の捜査官』辺りが好きなひとは間違いなく楽しめるだろう。麻生久美子、坂井真紀、緒川たまきの「本気のコメディ芝居」は壮絶ですらある。エンディング曲も電気グルーヴと終始至れり尽くせり。ちなみに2話完結という変則的な構成で、5、6話は『凶悪』の白石和彌がゲスト監督を務めるという。

あとは、重松清のベストセラー小説を『半沢直樹』チームがドラマ化する『流星ワゴン』(1/18 日曜21時~)もヒューマンドラマとして見応えがありそうだ。西島秀俊と香川照之という『MOZU』コンビは新味がないが、『半沢』チームがようやく企業・組織物から離れ、「人生をやり直すために過去へ戻るワゴンに乗り込む男の話」をどう描くのか興味深い(なんとなく設定が『素敵な選TAXI』に似ているが、もちろんこっちの原作のほうが先)。そして、公式サイトでは脚本が『半沢』の八津弘幸で脚本協力が『明日、ママがいない』の松田沙也となっているが、どうも松田の脚本協力は1話のみで、2話以降はメイン執筆のようだ。

『明日、ママがいない』といえば、脚本協力を務めていた野島伸司が今期手掛けている『お兄ちゃん、ガチャ』(土曜24時50分~)は実に狂っている。『明日~』にも出ていた鈴木梨央(auの“おとくちゃん”)が「ゲームセンターのガチャガチャを回して理想のお兄ちゃんと出会う」という話で、毎回「お兄ちゃんゲスト」としてジャニーズJr.の面々が登場するのだが、ガチャガチャのハズレがアンガールズの田中やワッキー(本人)だったりとなかなかふざけている。ガチャガチャのカプセルには白い綿のようなものが入っていて、それをお風呂でふやかすとお兄ちゃんになる(もちろん全裸の)という設定からして凄い。これを書いてるのが50歳過ぎたおっさんなのだから驚くしかない。少女マンガやBLの世界にこれほど狂った発想をするひとがいるだろうか?