HOUYHNHNM

FEATURE|BEAMS JAPAN RE- LAUNCH 石川顕、鈴木修司の二人が形にした、それぞれの“日本のクラフト”。

「日本各地の地域性を強みに、いままでの〈ビームス〉では扱ってこなかったようなモノを集めたので、より目新しさを感じて頂けるフロアになったと思います」
そう語るのは、1階フロアのディレクションを担当した鈴木修司さん。過去には、〈ビーミング ライフストア〉や〈フェニカ〉のバイヤーとして日本全国を巡り、自宅にも数多くの蒐集品を揃える「クラフト好き」だ。その鈴木さんが「ビームス ジャパン」オープンに向けて、今一度、日本全国の職人のもとを訪ね歩いた。その結果、“ビームスらしい”ストーリーを豊富に含みながらも、“ビームスらしからぬ”あたらしいフロアが誕生した。

自分でハードルを上げてしまった。だからこそ、たのしい。

―「個人的にもぜひ紹介したいのが、刃物の三大産地である兵庫県の三木でつくられた、この包丁です」。数多ある商品群から真っ先に取り上げたのが包丁という辺りに、鈴木さんの想いとフロアに流れるスト―リーが、これまでのビームスとは違うことを示唆している。
「形は三寿ゞ刃物という工房のオリジナル。普通、柄の部分は漆か白木のままで染めないモノが多いんですが、日本刀をイメージして徳島の本藍で染めています。若干は色落ちしてきますが、植物藍100%なので安心ですし、色が抜けてきて水色っぽくなると、よりかっこよくなると思います」
―当然、そこが「ビームス」であるかぎり、キッチンツールなどの生活必需品で終わるわけはない。アパレルメインのフロアとは異なるベクトルで、日本の技術をファッションで提示することも忘れていない。
「下駄の産地として名高い大分県日田市〈うらつか工房〉のサンダルは、〈ビルケンシュトック(BIRKENSTOCK)〉のソールを張ることで、履き心地をさらに良くしています。防菌、吸水効果のある檜をつかっているので、肌触りもいいんです。これからの季節なら、ぜひ浴衣にあわせて頂きたいですね」
―ちなみに、入り口に掲げている提灯や、それぞれのブースにある県のマークは「Palm Graphics」の豊田弘治さんがデザインしたオリジナルの県章。こういった細かなこだわりも、“ビームスらしさ”と呼ぶべきポイントだろう。
―正直、説明を受けなければ通りすぎてしまいそうなスタンダードなアイテムにも、語り尽くせぬこだわりが込められている。
「これは、通称“フランス焼”という、芸者さんの顔が底に浮かび上がる、輸出用のお土産物だったもの。いまでも岐阜の多治見でつくっている工房があって、〈ビームス〉のマークでやってほしいとお願いしました。いざ出来上がって光にかざしてみたら、富士山に後光がさしているようで、期待以上の仕上がり。ぱっと見ると地味に感じますけど、実は確かな技術力に裏付けられた銘品です」
―日本の銘品と言われると、職人の技が光る手仕事の品と限定しがち。しかし、アノニマスな工業製品にも世界に誇るべき商品は存在する。
「パイロットの『スーパーP』というロングセラーのボールペンです。透明のボディに赤や青のキャップをつけたタイプが有名ですが、銀行や郵便局のノベルティで配られていたクリーム色のタイプも、忘れてはならない銘品ですよね。懐かしさもあるし、色味もすごくかわいいので、ロゴを入れておみやげ向けにつくりました。10本セットの箱付きです」

ただあるモノを買い付けるのではなく、その魅力を増幅させる。

―鈴木さんには、「このフロアが、ある意味では日本の玄関口にもなり得るので、ちょっとしたスーベニアでも、気軽な商品はつくりたくなかった」という思いがある。
「たとえば、マグカップをつくるにしても、マグカップだけをずっとつくり続ける多治見のメーカーに伺って、200くらいあるサンプルから本体とハンドルをそれぞれ選び、理想の形に仕上げる。ただロゴを載せるのではなく、プロダクトが持つ魅力にビームスとしての付加価値をどうプラスするのか。別注というよりも特注ですね。話し出すときりがないくらい、すべてのアイテムにストーリーがあります」
―モノづくりに関していえば、ドイツならゾーリンゲンの刃物、フランスならマルセイユ石鹸など、それぞれの国に得意分野がある。しかし、「生活必需品を生み出すための技術が、様々な地域に点在しながらも、ひとつの国で完結しているはおそらく日本くらい」だと、鈴木さんは語る。そして、その地域性を発信するためにすべてのフロアが揃うことに意味がある。
「日本のいろんな側面を、ひとつの場所でみせられるのは〈ビームス〉だからこそ、という自負もありますね。ここ1Fのアイテムだけで言えば、オープンのときに47都道府県すべてを網羅することもできたのですが、何年か経ってから揃うことに意味があるかなと。ショップのスペースにも限りがあるので、ラインナップが増えるというよりは、入れ替えたり、アップデートしたりという感じで、これからも日本の良きモノを紹介していければと思います」

鈴木修司|Shuji Suzuki
1976年生まれ。1998年ビームス入社。『BEAMS MODERN LIVING』の店舗スタッフ、『fennica』のMD、『B:MING LIFE STORE』の生活雑貨担当バイヤーを経て、ビームス ジャパンのバイヤーとして、1階「銘品」フロアのディレクションを担当。

TOP