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VOL.10 "INDEX DOMESTIC BRAND" ドメスティックブランド最新事情。 新しい東京ファッションを作るブランドたち。4_tone

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前出卓久 tone デザイナー
1979年東京生まれ。90年代以降の裏原ブームにストリートシーンから絶大な人気を誇った「realmadHECTIC」のスタッフを経て、〈ROC STAR〉のデザインを担当。その後ファクトリーでの洋服作りを経験し、2013年に自身のブランド〈tone〉をスタート。

母親が手編みで作ってくれたニットが、自身のファッションの原点だった。

—前出さんのこれまでの簡単な経歴をお伺いできますか?

前出:ファッションのキャリアとしては〈リアル マッド ヘクティク〉のスタッフからスタートし、その後に〈ロックスター〉というブランドのデザインをやらせてもらうようになりました。そこで初めてきちんとした洋服作りを学んでいくなかで、デザインに至るまでの過程をもっと追求していきたいと考えるようになり、そこからファクトリーに勤めることになったんです。そしてその後、2013年に自身のブランドを立ち上げたという流れですね。

—最後に勤めたファクトリーでは、具体的にどんな内容のお仕事をされていたんですか?

前出:仕事としては、工場とデザイナーの中間にいるようなイメージで、振り屋さんと呼ばれるお仕事です。ブランドの生産の方達とディスカッションしていき、ブランド側の希望を工場と擦り合わせながらより良いプロダクトを作り上げていく橋渡しのような役目を担っていました。大体2年間くらい在籍したと思います。

—そもそもブランドを立ち上げようと思ったきっかけはなんだったのですか?

前出:ファクトリーで働こうと思ったタイミングくらいから漠然とですが、自分のレーベルを持ちたいとイメージしていました。それから僕のものづくりの核となる、なにか特化したものが必要だと考えるようになったんです。そして自分自身が潜在的に洋服を好きになったきっかけとなったのが幼少期に母親が手編みで作ってくれたニット、それが僕のファッションの原点だったと気付いたんです。そういった自分らしい感性であったり、色彩感覚の根本がそこにあったので、ニットを基盤としたブランドを始めていこうと思いました。

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—前出さん自身の中で〈トーン〉をどんなブランドにしていきたいという想いがあったんですか?

前出:ブランドを立ち上げた当初は、ニット3型とニットキャップなどを作ったくらいのごく少量のラインナップでした。特に明確なビジョンがあったわけではなく、単純に自分の着たい洋服を作りたいという想いだけでした。それと同時に自分が着たい洋服がどれ位周りの人に受け入れてもらえるかという挑戦でもありました。〈トーン〉の洋服を手に取ったときに、そこでなにか共鳴してもらえるものがあればいいなと思っていました。

—現在はシーズンのラインナップの数もかなり充実してきましたね。

前出:シーズンを重ねるごとにブランドの世界観やバックグランドをもう少し伝えていけたらなと思い、あくまでもニットに合わせたいアイテムという視点から、ラインナップが少しづつ枝分かれしていったという感じです。

—現在のビジュアルのルックはスタイリストの宇佐美さんと作られたモノなんですね。

前出:はい。〈トーン〉の世界観を伝えていく上で、ルックの撮影は洋服作りと同じくらい重要なことだと思っています。宇佐美さんは洋服だけではなくカルチャーにも造詣が深い方なので、ブランドを始めた当初からお願いしています。できあがったビジュアルを見たときに、自分の想像を超えたスタイリングなどを見ると刺激にもなりますし、そこから新しい発想が生まれることもあるんです。

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常に自分にとってリアリティのあるシーンから影響を受けてきた。

—ニットなどのものづくりの中で、特にこだわっている部分はどんなところでしょうか?

前出:着心地はもちろん、機能的な部分も大切にしています。あとは毎回素材や色、編み方についても頭を悩ませて選んでいますね。今までの経験では専門的にニット作りをしたことはなかったのですが、その分野のプロに相談したり、手伝っていただきながら自分の理想により近いものを作れるように日々努めています。

—そこにストリート全盛であった時代のエッセンスなども加わっているのでしょうか?

前出:僕は1979年生まれなので、その頃は中学生くらいでした。ですので実際には一般的にいう90年代のカルチャーを体感している世代ではないんです。だからリアルにその当時の空気感に感化されているっていうのはあまりないかもしれないです。どちらかというとそうしたカルチャーに憧れを持って追いかけていた感じなので、完全に後追いなんですよね。でも90年代後期以降に僕が体感して来たカルチャーからインスピレーションが生まれたり、アイデアソースになることは多々あります。

—なるほど。リアルタイムでないからこそ、そうした先人たちから学ぶこともあったのですね。

前出:そうですね。〈リアル マッド ヘクティク〉の時は、真柄さんやYOPPIさんから色んなことを教わって、〈ロックスター〉の時にもDJのDARUMAさんと一緒に働かせていただきましたし、ネタの掘り方だったり、アウトプットの仕方というのは今でも良い経験になっていますね。それに加えて工場などでより高度なテクニックや技術を学べたことも良い経験になったなと感じています。

—当時のストリートシーンと現在のシーンはやはり違いますか?

前出:それぞれに良さはあると思うんですけど、当時はなによりクリエーションを全力で楽しんでいるなと思いました。仕事と遊びの境界線がないライフスタイルというのが当時は本当にかっこよくて、遊びの延長線上で仕事につながったり、常にフラットな感覚で仕事ができるモチベーションでいたり。そうした環境は、今となってはすごく貴重な体験で良かったなって思います。

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—過去の経験以外にも、現在のファッションシーンのトレンドや空気感を意識することはありますか?

前出:基本は自分の周りにいる仲間と一緒にいるときに話したことや感じたことが反映されていることが多いので、トレンドもあまり意識はしていないんです。それは常に自分にとってリアリティのあるシーンから影響を受けてきたことも関係していると思います。

—やはり少しづつご自身の気分なども変化していっているのでしょうか?

前出:そうですね。今でもありもののボディを使ったグラフィック勝負なアイテムも大好きなんですが、ずっと洋服に関わってくると自然と仕立ての良い洋服を着る機会ってあるじゃないですか。今まではあまり気にしてこなかったんですが、その着心地の良い服を纏ったときの独特の高揚感みたいなものを最近はより感じるようになって、そういった側面も持っていたいですね。なので、品質という部分でのクオリティを常に高く保ちつつ、ストリートの人たちにも毛嫌いされない、絶妙な塩梅でこれからもいきたいなと思っています。

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—前出さんの今の立場から、現在のファッション及びドメスティックブランドのシーンをどう感じていますか?

前出:語弊があるかもしれないんですが、昔は単純にカッコイイものが売れていたと思うんですよね。だからこそその時代に色んな影響を受けられたのは良かったなと思っているんですけど。でもそこから時代が少しづつ変化していって、安いものが良いとされる時代になったことでみんなの洋服に対する価値観が一度リセットされた。そんな今の時代で思うのは、大きさや形ではなく作り手と買い手が幸せだと感じられる環境がそこにあればそれで成立していく時代なのかなって思いますね。

—細分化されてくことで、売れる=良いものという価値観ではないことを、消費者側も理解できる時代になったのでしょうか。

前出:そう思いますね。洋服もそうですけど、ご飯屋さんとかもそうじゃないですか。たまには綺麗な洋服を着て高級な場所に行くもの良いですけど、小さくてもこだわりがあって美味しい料理を出してくれるお店の方がお客さんとの距離が近くて好きだし、見つけた時の喜びも大きいかなと思います。時代もそうですが、僕自身が年をとってきたというのもあるのかもしれないですけど(笑)。

—そんな今のシーンの現状を捉えながら、ご自身の今後のブランドの展望を聞かせてください。

前出:現状のスタンスを変えずにやっていけたら良いですね、クオリティの面でもっとチャレンジしていったり、超えていかなければならない壁はたくさんあると思っています。あとはブランドを通してニットをフォーマットに、今気になっているアーティストさんなどとコラボレーションをして、そこでしかできないアートピースや洋服なども今後は発信していけたらいいなと思っています。

次のページは、今季の最新コレクションをご紹介します。

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