SERIES |
VOL.10 "INDEX DOMESTIC BRAND" 新たな東京ファッションの担い手が語る、 ドメスティックブランド最新事情。 2_Riprap

riprap_1.jpg

西野裕人 Riprap 主宰
石川県出身。1984年生まれ。スタイリスト本間良二氏に師事。豊富な経験をもとに、昨年自身のブランド〈リップラップ〉をスタートさせた。

言葉じゃ言い表せない部分を洋服が伝えてくれる。

—「The Fhont Shop」の店長としてのイメージが強い人も多かったとは思いますが、昨年自身のブランドを立ち上げましたよね。その経緯からお聞かせください。

西野:学生時代に大阪で暮らしていて、その頃に雑誌の企画でスタイリストの本間良二さんと出会いました。元々本間さんのスタイリングと本間さんの手掛ける〈ツータックス(2-tacs)〉が好きだったのですが、それ以上に本人と直接会って話したとき、すごく面白かったんです。それから連絡をとって上京し、アシスタントとして働かせてもらうことになったのが始まりです。最初はスタイリストアシスタントやブランドの雑務をやっていて、その内「フォントショップ」を立ち上げることになり、店長をやりました。店長って言ってもスタッフは僕1人なんですけどね(笑)。何年か経って作る側の仕事に参加したくて、生産になりました。〈ツータックス〉の服作りって今思うと特殊で、とことん会話して作るんです。流れ作業の真逆というか、「何がクールで、どんなことに興味あって、どこどこの街に行ってアレが良かった」「僕はいまコレが面白いと思います」ってノートとペンを持ちながら、所構わずずっと話してました(笑)。そうやって本間さんと頭の中にあるものを全部出して組み立てて作っていました。その頃から独立心や自立心みたいなものは強かったのですが、僕には人間力が足りなかったので今思うと甘えていたことも多かったです。アシスタントや販売員、営業、プレス、生産、企画…と本当に沢山のことをやらせてもらって、今こうして自分のネームが付いた洋服を世に出せることになって、本間さんには本当に感謝しています。

—通常のスタイリストアシスタントとしての業務以外にもアパレルとしてのノウハウも学べたというのは貴重ですね。

西野:そうですね。洋服を借りること、撮影すること、返却すること、貸すこと、販売すること、作ること。ファッションの一連のサイクルを体験できたことは大きいです。今思うとそんな環境はめったにないですよね(笑)。覚えることや、やることは沢山あったけど、色んな人と出会いがあって面白かったです。

—自身のブランドを立ち上げることになったのは、やはりその頃の経験が大きいのですね。

西野:一番は生産の仕事に携われたのが大きいと思います。生産って言うならば、料理でいうレシピを作る人で、デザイナーと同等に大切なポジションだと思います。例えばMA-1を作ろうとなった場合、どの素材を使い、どのファスナーを用いて、リブは好みのテンションに編み立てもらって、どの縫製工場に縫ってもらうかなど…何通りも選択肢があるので、プロダクトをどの狙いに定めるのかも生産が重要だったりします。実際に生産業務がメインとなっていた頃は、アシスタント時とは異なる面白さがありました。

riprap_2.jpg

—今季デビューした〈リップラップ〉。テーマ含めてどんなブランドなのでしょう?

西野:ブランドテーマは、”被服の発言化、発声化”というのを掲げているのですが、ファッションって着る人を形容する手段だと思うんです。言葉じゃ言い表せない部分を洋服が伝えてくれるというか、着る人の声になってくれると思っていて。〈リップラップ〉の洋服が着る人をより引き立てるモノになってくれたらいいなと思います。

—プロダクトを見てみると仕立ての良いシャツやセットアップなどしっかりとした大人に対して向けられたモノも多いですね。

西野:今回のラインナップはトラッドなものが多いです。最近落語に興味があって、本を読んだり動画を見ているんですけど、ファッションの中のトラッドと古典落語って通ずる部分があるなと思っているんです。古典落語って物語と落ちは決まっていて、噺家が流れやリズム、話を途中でそらしたりして独自のネタに昇華しています。同じネタでも噺家によって全然違うのが面白くて。それをトラッドに置き換えると3ボタンのブレザーなんて正にひとつのネタだと思うんです。こうなってなければならないというルールがある。それのどこを面白おかしく話すのか、自分の味をいかに出していくかという面白さがあります。今回だと一見普通のブレザーも、コットン、ナイロン、ウールの生地を交織して使っていて、コットンジャケットのようにラフに着てもらえたらいいなと思い作りました。そうしたアイテムを大人だけではなくて、若い子達にも着てほしいですね。

—ではそうしたアイテムたちがブランドの定番となっていくんですか?

西野:そうですね。まだ1回作っただけなので定番とは言えませんが、今後も継続して作っていこうと思います。先輩方や昔の方に比べたらトラッドアイテムってどうしても僕なんかが作ると劣る部分もあると思うんです。けれど、僕はリバイバルをやりたいわけではないんです。先程の落語で形容すると、ネタを自分の話にしたいのです。感覚に向き合ったアイテムという見方なら僕にしかできないものもあるだろうなと思っています。やっぱり僕自身、〈リップラップ〉だからこそ表現できることにどんどんチャレンジしていかないといけないし、そうでないと意味がないと思うので。オリジナリティのあるアイテムはブランドの顔として人に届けたいなと思っています。

riprap_3.jpg

—これまでにスタイリストアシスタントを学んできたことで、今の仕事にも活かせていることってありますか?

西野:はい。職種によって洋服に対する見方って変わると思うのですが、生産は至近距離で見なければいけない部分が強くて、スタイリストはコーディネートを組む視点で見るので、少し離れた視点で見ると思います。僕はすぐ近くで見てしまうタイプなので、たまに離れて見なければと矯正します。

—洋服作りをしていく上で西野さん自身が大切にしていることはありますか?

西野:沢山あるのですが今思うのは、一見して良い服を作ろうと心がけています。試着してみて“良い面”してるなと思える服。「これ何と合わせようかな」と思える服です。シンプルなアイテムが多いので素材、縫製、パターン。この3つは特に気にして作っています。単に質が良いというだけではなくて、機能としても効果的だったり、着心地がよかったりするもの。生地は、オリジナルを作るために生地屋の担当者に相談にのってもらっています。ウチなんて小ロットなのに、本当ありがたいです。パターンはアウトラインがはっきりしている男っぽい型が好みなので、信頼のおける人にお願いしています。

riprap_4.jpg

—活動の拠点を都心ではなく、浅草橋のエリアを選んだのはなにか理由があったのですか?

西野:選んだというか、4年くらい前に縁あって引っ越してきたのですが、近所に生地屋、附属屋、皮革屋があったり、服作りするにはもってこいの場所なんです。安くて旨い呑み屋も多くて居心地がいいですよ。近所の金物屋に裁ちバサミを研ぎに持って行ったら包丁の研ぎ方教えてくれたり、洋食屋に行ったらマスターが自分で撮った写真集を見せてくれたり。人によってはおせっかいなのかも知れないけど、そういう江戸っ子の余裕みたいなものを感じる街が、僕は好きです。

—いいですね(笑)。以前の職場である中目黒とはまた違ったインスピレーションも生まれるんでしょうか。

西野:クラフト製品を作っているわけじゃないので直接服作りへの影響はないと思いますが、単に下町は居心地が良いです。あと西の方に行ったときに新鮮な気持ちで街やお店を見れたりするので、間接的に良いノリになれるのかなとも思いますね。

—スタイルルックについても聞かせてください。

西野:今回のコーディネート写真は、義父に着てもらって撮影しました。去年の秋に今回(16S S)の展示会を行ったのですが、その際にフラッと寄ってくれて、「これとこれが欲しい」とオーダーしてくれたんです。そのときの時間が、なんとなく良かったなぁと思って、折角なので日を改めて撮影に付き合ってもらいました。自分が良いと思った時間がダイレクトに広告ヴィジュアルになるのは、小規模ブランドならではの魅力じゃないかなと思っています。

riprap_5.jpg

—現在のドメスティックブランドのシーンについてはいかがでしょうか?

西野:どうなんでしょうね(笑)。でも最近はドメスティックに限らずどのシーンもすごく細分化されているので、特定のカテゴリーでは括れないのかなと思います。品質の良い服を作っているブランドもたくさん見かけます。ただ、もうクオリティが良いっていうのは既にデフォルトじゃないかと思っていて。だからこそブランドごとに明確な提案がないと続けていくことが難しくなると思います。僕は作り手なので自分に当て込むしかないのですが、僕はこの環境をチャンスだと思っています。

—今季〈リップラップ〉として打ち出すアイデンティティがあるとすればどんなところでしょうか?

西野:先程も話したブランドテーマです。どこよりも着る人を形容する力のある服。けれど、それよりまだ始めて間もないので「はじめまして、どうぞよろしく」という挨拶です(笑)。

—ブランドとして今後はどんなイメージを持たれていますか?

西野:ファーストシーズンは、アイテム16型からはじめました。アウターがジャケットのみだったので、今後はカジュアルなアイテムも展開していきます。個人経営していて面白いのが、自分が提案や仕掛けを続けていけば多少なりにも仕事になるし、逆にただ日々運営するだけだったら食べていけなくなると思んです。「いま生きてるな」って気持ちになるんです。この気持ちを忘れずに過ごせたらいいなと思いますね。ブランドとして後ろを振り返っても何も無い状況が今の自分にとって良い状況だとも思っているので、何事にもチャレンジしていきたいと思います。

次のページは、今季の最新コレクションをご紹介します。

  |