去る5月23日、スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社(以下、スターバックス)は47都道府県中、唯一店舗がなかった鳥取県に新店「シャミネ鳥取店」をオープンした。スターバックスがいよいよ全国制覇!? とテレビやネットを中心に大きく取り上げられ、当日オープン時の行列はおよそ1,000人にまでふくれあがったという。一歩間違えれば、ドリンクが早々と売り切れた、サービスが悪い、という声が客から出てきそうなものだが、否定的な声はほとんど聞こえてこない。お店のスタッフは、どんな事前準備をして、どうやって大量の客にサービスを提供したのか。件の店やその周辺エリアを統括するディストリクトマネージャーの鳴川さんと柴田さんにお話を伺った。
「行列の先頭のお客様がお並びになったのがオープン前日の13時。翌日の7時オープンだったので、合計18時間お並びになったわけです。ほかにも夜通し並ばれるお客様などもいらして、オープン時にはおよそ1,000人の行列。かなりの時間待って頂かなくてはならなかったので、寒い朝方にはホットコーヒーを、暑くなってきたお昼にはアイスコーヒーをご提供し、また日よけのためのテントも設営しました。ブラックコーヒーが苦手な人のためにミルクやシロップもつけたりしました」。
行列の長さは人気のバロメーターでもあるが、あまりにお客を待たせすぎると不満が噴出してしまうケースもありうる。しかも問題ないのが当たり前で、失敗すれば責められるといった具合だ。このあたりはホスピタリティに定評のある、スターバックスらしい対応が功を奏したといえるだろう。
そして、予想を超える人数が来店したことにより、用意していた相当数の限定商品のタンブラーとマグは早々と売り切れた。しかし、生命線であるフードやドリンクの量に関しては、細心の注意が払われたという。
「事前に社内で蓄積したデータから来客数を予想しましたが、事前の反響を見る限りその数は確実に上回るだろうとわかっていました。そこで冷蔵庫を増設し、廃棄覚悟でドリンクやフードを相当数発注しました」。
通常であれば、オープンして3ケ月くらいしてようやく店舗スタッフも仕事に慣れて、スムーズに仕事が回るようになるだろう。しかし、今回はスタートダッシュが求められた。オープン初日からスタッフの高いパフォーマンスが必要だったのだ。そのためには特殊なプロセスが取られた。
「現地採用のスタッフは、面接や教育を通常より1ケ月早く実施しました。中でも時間の融通が利くバイトスタッフは、岡山県などで2ケ月住み込みでトレーニングを積んでもらいました。そのほかヘルプのスタッフとして、北は北海道から南は沖縄まで、経験豊富な精鋭のスタッフ24名にも来てもらいました。当日は、ドリンクを作るなどスピードが求められる作業はヘルプスタッフに、現地採用のスタッフにはお客様にコーヒーなどをサーブしてもらって、雰囲気作りを意識してもらいました。やはり現地の人同士の方が打ち解けやすいですからね」。
もちろんヘルプのスタッフたちの宿泊費や各地からの旅費などは会社が支払う。このことからもスターバックス内でも、鳥取出店は大きなプロジェクトだったということがわかる。出店騒動から2週間(取材当時)を経て、現在の状況とこれからのことについてお聞きした。
「ありがたいことにお客様の数はオープン以来ほぼ変わらず、行列もほぼ1日中ですね。でも、誤解を恐れずに言えば、新店舗がオープンしたこと自体には、あまり重きはないんです。ただ、地元の方が喜んでくれるのはうれしいことですが。それよりも長い目で見て、このお店を地元のお客様に愛されるお店にすること、居心地のよい空間を提供すること、そのためにどうするかを考えていきたいです」。
圧倒的スピードが求められる状況でありながら、細やかな心遣いと周到な準備で本来のサービスを怠らないその姿勢こそ、スターバックスの特長だろう。なかなか難しいことではあるが、どんなビジネスであろうとぜひ真似したいサービス力だ。