―今年はバンド活動10年目にして、全国11カ所を横断するツアーを行うなど、これまでの活動をさらに推し進めるような展開がありましたが、ツアーを振り返ってみて、印象的なエピソードがあったら教えてください。

BOB:いちばん印象に残ったのは広島なんじゃないかな。

長岡:飲み屋をハシゴしてきたような酔っぱらいの集団のお客さんがいたよね。物凄く騒いでいた(笑)。

JUMBO:僕らのお客さんにはいないタイプでまあ、目立つわけですよ。ほぼ終始、奇声を発していて。

BOB:ずっと「フーッ!」って大声でシャウトしていたよね。

長岡:じっと聴き入ったり、演奏中の手元を観察している人もいるけれど、彼らのようにその場のノリをエンジョイしている感じが俺はすごいいいなと思ったな。彼らが騒ぐことで、気軽に「フ―ッ!」って言える人もいるわけだし。そういう新しいグルーヴが生まれる感じがいいなと思った。

―お客さんの反応によって、皆さんのステージングが変容することもありますか?

BOB:それはあんまり無いかもしれないですね。

長岡:興がのって細かい部分が変わることはあるけど、いつもとにかく一生懸命演奏するだけですね。

―アルバム『Renaissance』の全国ツアーをずっとやってこられて、曲のイメージがちょっとずつ変わってきたところはありますか?

JUMBO:『Renaissance』では純粋な新曲が4曲ありますが、録音した時点では演奏し慣れていなかったので、ツアーを回っていく中で弾き方が変わってきたりはしました。すでに録り直したい気持ちになっています(笑)。

長岡:もうすでに録り直したくなっているね。録り直そうかな?(笑)。

BOB:アレンジや曲のサイズが変わってしまっているものもあるしね。

長岡:いつの間にかロングバージョンになっていたりもする。ライブをやっていく中でこの曲はもっと速いほうが気持ちいいとか、もっと遅いほうがいいね、って演奏を重ねていくとだんだん体感として分かってくるようなところがあります。必ずしも収録したものが正しいという考えでははないから、元々のものから全然変わっていく曲もある。

―確かにそうですね。体感していることをそのまま表現するところがペトロールズの魅力のひとつだと思います。

長岡:まあ、素直なんでしょうね。あ、この前の違ったわ! みたいな感じで(笑)。

―だから、次はどう出てくるのだろう? といつも予想がつかない感じも楽しいです。

長岡:うん。そういう感じを楽しんでもらえるのは嬉しいですね。

―それに、聴くシチュエーションによって、聴こえ方が歴然と違ってきたりします。アルバム『Renaissance』を聴いて気がついたのですが、自分自身も何かしら動いている状況で聴いたほうが、音楽の中により没入できるような気がします。ペトロールズ好きの友人のクルマに乗せてもらい、アルバム『Renaissance』の試聴会をしてみて強く実感しました。

長岡:試聴会、いいですね〜。ありがとうございます。

BOB:そういう風な聴き方素敵だなあ。僕らの曲はドライブに合うってよく言ってもらったりするよね。

―家の中で正座してじっくり聴くというよりも、移りゆく景色を眺めつつ聴くことで、より音楽に広がりが生まれる気がします。例えば、信号のブルーの光が目に飛び込んできて、その光と音楽が相まって違う世界に連れてってもらえるような感覚というか。

長岡:いいですね。確かに対面で聴くような音楽じゃないと思う。

―クルマ好き、自転車好きの長岡さんならではといえる身体感覚、ドライブ感も音像に影響しているようにも思えるのですが、いかがでしょうか?

長岡:特別意識はしていないですが、どうなんでしょうね。潜在的なそういう部分が出ちゃってるのかもしれないですね。

―今回のアルバムは約50分程度の尺で、何度も繰り返し聴きたくなるサイズ感もまた心地良いと思いました。

JUMBO:繰り返し聴けるようなタイム感は意識したところです。実は僕も結構クルマで聴いています。練習も兼ねて。車中で歌っても誰にも文句は言われないですし(笑)。

長岡:音が素直な感じなので、ずっと聴ける感じのアルバムなんだと思う。音色に変に圧縮がかかっていたり、無理に迫力を出したりしていないし。

JUMBO:「amber」も「雨」も前よりサラッとしているよね。

長岡:前はいろいろと音を重ねて作ってみたかったけれど、今回はそれをやらなかったよね。

―曲を作るときは、まずはみなさんでセッションをすることからスタートするということを伺ったことがあるのですが、『Renaissance』もそのようなプロセスを経て作られたのでしょうか?

長岡:とりあえず、僕がふたりに「こういう感じにしてくれる?」と曲のイメージを伝えてから、セッションを繰り返していくうちに曲が増殖していく感じですね。そこで僕は曲の全体のイメージの中のひとつのパーツのような感じでギターを弾いています。ふたりからしたら、全然意味が分からないときがあるかもしれない。

JUMBO:まずは、亮介が弾き語りを持ってくることが多いよね。コードとメロディと。僕とBOBにいろいろとイメージを伝えて、それからまたギターを考えているんじゃないですかね。

長岡:そうだね。最初にギターを考えるのではなく、まずは曲のイメージありき。

―BOBさんとJUMBOさんは長岡さんの歌詞についてどのように思っていらっしゃるのでしょうか?

長岡:ふたりとも歌詞なんて知らねーだろ(笑)。

JUMBO:陰でたくさん本を読んでいるのかな? って思うのですが、一緒にいるときはいつもクルマ雑誌を読んでいるからナゾですね。

—ストレートな表現ではなく、どこか文学的な匂いも感じるのですが。

長岡:本はほとんど読まないし、映画もそんなに観ない。

BOB:言いたいことをストレートに言わないひねくれ者だと思う。ストレートに言われるとクサイなって感じてしまうところがあるから、ほんのり何かを感じさせてくれるところがいいなと思っています。聴き手が自由に想像できる余白があるというか。

長岡:子どもの頃に聴いていた邦楽は「君と出会っていろいろあって、別れちゃって恋しいよ」みたいな感じで、時系列がある音楽が多いなと思っていて。けれども洋楽の和訳を読むとそういった手法のものが無いのが多くて、所帯じみていなくていいな、と思ったことがあって。僕としては、そういう風にもうちょっと感覚的なところに迫っているもののほうがグッとくる。

BOB:言葉のチョイスやリズム感が良いと思う。

長岡:いや〜、もうちょい頑張りますよ。歌詞書くのが好きじゃないんだよね。好きだったらもっと人気が出ていたかもね(笑)。

BOB:普段からポエムを書くような奴は友だちになれないから。

―一同笑。

BOB:そういう俺自身が中学校の頃ポエム書いていたけどね(笑)。当時書いていたもので思い出せるのが「僕はその坂の角を右に曲がった」とか(笑)。

—結構シリアスな感じですね(笑)。

BOB:めちゃめちゃ暗かったんで。

長岡:ペトロールズは全員暗いよね(笑)。

—(笑)。そんなお三方が作り出した今回のアルバムは、ご自身にとってどんな存在でしょうか?

JUMBO:ペトロールズとして10年目の区切りの年に出したアルバムなので、『Renaissance』は集大成と思われがちなのですが、これが僕らのデビュー作じゃないかな、と思います。初めてフルアルバムを出して、全国ツアーを敢行したいま、やっとスタートラインに立ったという気がしています。

BOB:僕は単純にいい作品だな、と(笑)。いままでは自分の作った曲を普段聴こうとは思わなかったんですよ。自分の音に満足していないというのもあったと思います。でも、今回のアルバムは自分で楽しんで聴ける初めてのアルバムですね。

長岡:音楽っぽい感じだ。

BOB:10年経って、やっとそういうものを生み出せた。ふたりはずっと素晴らしいプレイをしていましたが、自分自身に納得がいかないところが多々あって。今回はたぶん、ドラムがいちばん大きく変わった気がします。ドラムのパターンという意味ではいままでの作品よりも簡単になってはいるのですが、音色に対してズバッと自分の出したいという音が出せたという感じが色濃い。それは10年という時のなかで培ってきたものなのかもしれないですね。

長岡:僕にとっては、いろんな人に対する「提案」のような感じかな。ジャケットの三角形のデザインはどうですか? 真っ白い紙を使って、インクを使っていないですが、どうですか? 10年目のファースト・アルバムってどうですか? ペトロールズってどうですか? という感じで。以前からそういった意識でやってはいたけれど、今回は大きな声で言ってみた感じ。こっちにくれば楽しいよ、と。

—いつも皆さんを見ていて感じることなのですが、10年も共にやっていらっしゃって、こんなにも仲が良いのが素敵だと思います。

長岡:そんなに根を詰めてやっていないからね(笑)。みんな無理してやっていないからだと思います。

JUMBO:三人ともペトロールズ以外のこともやっているのがいいのかもしれませんね。

長岡:俺はそんなにエネルギーを使っている自覚はないけれども、やっぱり続けることはエネルギーが要ることだとは思います。長くやっているバンドでも、腐れ縁でやっている感じの人もいるけれどね。それよりも音楽的な喜びを感じながら、一緒にやり続けたい。「みんなで演奏したいな」「録りたいな」と思ったときにやるという。外的な要因に押されてイヤイヤ作ることをしないところがいいんでしょうね。

—現在のように純粋に創造性を追求できる環境やインディペンデントなスタイルは10年前から見据えていたのでしょうか?

長岡:もちろん何も考えていないです。ただなんとなくきな臭いな、というものとは距離を置いてきただけで(笑)。

JUMBO:ふふふふふ。

—皆さんに限らず、周りのスタッフの方々も同じような意識でいらっしゃるところが本当に稀有だな、と思います。

長岡:それは多分にありますね。彼らが居るからペトロールズがあると常々思っていますし、彼らのほうがペトロールズだと思います。今日みたいに、いままでの活動の繋がりの中で生まれたインタビューもペトロールズっぽいと思うし。普段の会話みたいな雰囲気がいいよね。

BOB:うん。そういう感じがペトロールズっぽいね。