FEATURE |
Talk about JIM PHILLIPS スクリーミングハンド。かの有名すぎるグラフィックアートのイベントこぼれ話。

J01hynm_JimPhillips.jpg

80年代のスケートカルチャーを代表するアーティスト、ジム・フィリップス(Jim Phillips)。彼は1975年からデッキカンパニー〈サンタクルーズ(SANTA CRUZ SKATEBOARDS)〉のアートディレクターとして活躍し、1000枚以上のデッキやTシャツ、ステッカー、広告ビジュアルを手掛け、〈インディペンデント(INDEPENDENT)〉のシンボルであるアイアンクロスなど、スケートシーンにおける普遍的作品を数多く残してきた。その中でも1985年に発表した、当時から多くの人々に大きな衝撃を与えたのが、スクリーミング・ハンド(SCREAMING HAND)。そんな彼の代表作ともいえるこのグラフィックの30周年を記念したアートショーが、原宿はビームスTにて開催された。ショーに合わせてリリースされた〈バンズ(VANS)〉のスリッポンやTシャツなどにも触れつつ、ジム・フィリップスと親交の深いBEAMS SURFSK8のバイヤー、加藤氏に話を訊いてみた。

Photo_Shin Hamada
Text_Senichiro Ozawa
Edit_Jun Nakada

02hynm_JimPhillips.jpg

加藤忠幸
バイヤー、農家。BEAMS SURF&SK8のバイヤーであると同時に鎌倉で野菜づくりを営むファーマー・サーファー(加藤農園4代目)。スケートやサーフィンをすることも、それにまつわる様々な表現物もこよなく愛する。その溢れるばかりのエネルギーで、本場アメリカのスケートカンパニーとのコラボレーションや企画展を実現している。さらにはアートやカルチャーを綴ったZINE『SSZ』のエディターでもある。

ジム・フィリップスとスクリーミングハンド。今回のアートショーについて。

加藤:ロサンゼルスから今回のショーはスタートしているんですが、セブンスレーター(SEVENTHLETTER)のギャラリーから順に世界中を巡回してきて、この12月、ビームスがトリとなりました。この後は、来年からアメリカ国内での展示ツアーがはじまる予定みたいです。

―ビームスでのアートショーはいかがでしたか?

加藤:参加しているアーティストたちがハンパないですよね。それぞれで活躍しているアーティストが、お題を与えられて作品をつくるというのは、あまりないことだと思います。とくに、スケーターの人って、同じお題で何かをつくるってなったら、何それ? って感じになっちゃうと思うんですよね。だから、良い意味でちょっとひねくれているスケーターのアーティストたちが参加できちゃえるくらいのアイコンなんですね、ジム・フィリップスのスクリーミングハンドというのは。それと名だたるアーティストに加えて、今回のショーでは、〈サンタクルーズ〉がショーの各地でローカルな、いわば地元のアーティストをリスペクトしてフックアップしているのも良いところですね。どんなアーティストでもイメージできるグラフィックとして、スクリーミングハンドの持っているパワーというのは改めてすごいなと思いました。

03hynm_JimPhillips.jpg

―そういえば、80、90年代のシーンをリアルタイムで体験していないキッズたちもアートショーにたくさん来ていました。スクリーミングハンドが誕生した当時よりもっと下のジェネレーションも惹き付けていることに少し驚きました。

加藤:スケートがまた流行ったりしていたのも影響があるかもしれませんね。ストリートでかっこいいとされているものの根底には常にスケートカルチャーがあるんだと思うんですね。マーク・ゴンザレスやジェイソン・ディルといった、今も活躍しているスケーターが通ってきたルーツ的な部分がスクリーミングハンドや今回のショーの中にあって、それを見てみたい、見ておきたいという気持ちが若い子たちにあるんじゃないでしょうか。

―ちなみにアートショーモードになっている今現在の加藤さんのベストセッティングは何でしょうか?

加藤:リスクペクトを込めて、スケートデッキは〈サンタクルーズ〉でトラックは〈インディペンデント〉、ウィールは〈OJ〉、そして大好きなスリッポン〈バンズ〉を履いてって感じですかね。今回のショーは自分が好きなものたちをカタチにできたというのがあります。でも、アートショー自体は、僕がやったのではなく、ジムさん(ジム・フィリップス)のスクリーミングハンド30周年に対してNHS(編集部注:デッキブランド・サンタクルーズを統括するスケートカンパニー)が敬意を表して企画したものです。それだけジムさんの偉大さを感じるショーでした。

04hynm_JimPhillips.jpg
05hynm_JimPhillips.jpg

80年代から今まで。スケートボードの魅力

―スクリーミングハンドといえば、スケートを知らない人でも見覚えがあるグラフィック。加藤さんがそれを知ったのはいつでしょうか?

加藤:スケートが流行ったときに買ったステッカーがそれでした。中学生のときです。青い手というのはインパクト大だったし、それに口がついているというのがありそうでなかったグラフィックで、さすがスケートっぽいなって思いました。スケートアイコンといったら、多くのひとの頭に浮かぶのは、スクリーミングハンド、アイアンクロス、〈スピットファイヤー〉のビッグヘッドのいずれかだと思います。そのうちの2つがジム・フィリップスの作品ですからね。

―それでは、その30周年を迎えたスクリーミングハンドの生みの親、ジム・フィリップス氏と加藤さんのファーストコンタクトというのはいつ頃だったんですか。

加藤:1997年頃の話で。僕はサーフィンが好き。それで、ひょんなことから会社でサーフチームをつくろうとしたんですよね。チームロゴを誰かにお願いしようと思ったときに、これはジム・フィリップスにお願いしたいなって。ジムさんは、スケートのグラフィックが有名だけど、掘り下げていくとサーフィンのグラフィックをいくつもやっているんですよ。元々のアーティストとしてのキャリアのスタートが、サーファーマガジンのアートコンテストでの入選からだったし、そのときに描いたウッディのグラフィックからその道にどんどん進んでいったという。もちろん、僕のジムさん作品への入り口は、スクリーミングハンドであったり〈インディペンデント〉(編集部注:スケート史に輝くトラックメーカー)のアイコンのアイアンクロスとかだったりしたんですが。で、ほんとにたまたまですが、地元にジムさんとめちゃくちゃ仲がいい方がいたんです。鎌倉にある野菜市場の帰り(編集部注:加藤さんはビームスのバイヤーを務める一方で稼業の農業もしている)に、よく寄る和菓子屋さんがあるんですが、そこの波乗り饅頭のグラフィックを描いていたのがジムさんなんです。1997年ていうのは、80年代からずっとハードに作品をつくり続けてきたジムさんがスローライフを送っていた時期。みんなが知るようになったアートワークを編集した本『SURF SKATE & ROCK ART of JIM PHILLIPS』もまだ出ていなかったので、仕事のオファーも知り合いからちょこっと受けるだけって感じでした。

06hynm_JimPhillips.jpg

―鎌倉の和菓子屋さんの店先からカリフォルニアのアトリエへと繋がったんですね。

加藤:そうです。自腹でジムさんにいろいろグラフィックを描いてもらってたんです。それで「君はビームスって会社にいるんだね」とか、いろいろ話すようになりました。その後、2001年、ビームスが25周年のときに、社内で記念Tシャツのデザインの公募があって、そこで僕が描いてもらってきたサーフチームのグラフィックを提案したんです。それでビームスとジムさんが繋がるようになって。それからTシャツをはじめスニーカーやマグカップをつくったりと。ちなみにジムさんの作品にハンドウェーブというグラフィックがあるんです。マーベリックの大波が手になっているやつ。それは個人的にスケートとサーフィンが融合されているものだって感じてて、気に入っているんです。それで、自腹で描いてもらったチームロゴ用のグラフィックはすべてビームスのライセンスにしてもらったんですが、ハンドチューブという、ハンドウェーブを連想させるグラフィックだけは今でも個人で所蔵しています。

―ジム・フィリップス氏のアートブックの記事にも、当時依頼したサーフチーム用のグラフィックやビームス、加藤さんのクレジットが記載されていますね。それと、波乗り饅頭の地元の大先輩の名前も。

加藤:はい。めっちゃ嬉しかったです。ジムさんてとてもいい人なんです。今回のアートショーにあわせてリリースする〈サンタクルーズ〉や〈バンズ〉とのコラボレーションアイテムでも、おそらくジムさんの力添えがあったと思います。

07hynm_JimPhillips.jpg

コラボレーションアイテムについて

―見慣れたというか、かの有名な〈サンタクルーズ〉のアイコンロゴの中に、ビームスのクレジットが入ってデザインされているのを最初に見たときは、びっくりしました。

加藤:NHSは、歴史を重んじる会社なので、今までの流れを壊すことをしたがりません。そのため、スケートカンパニーではないビームスがオフィシャルのものとコラボレーションするにはハードルが相当高くなります。だからって、別注を通常のレギュレーションでやるとなると、他と大差ないものになってしまいます。そうならないために、一番ハードルが高い部分を越えていこうというのが、僕たちビームスのバイヤーの考え方。今回のデザインに至るまでに重要だったのが、〈インディペンデント〉とコラボレーションしたっていうことでした。このブランドも過去にスケートカンパニーとの別注のみで、ファッションではやらないというのは有名な話でした。〈インディペンデント〉のアイアンクロスでつくりたくて、実際にアメリカへ会いに行きました。アイアンクロスはスクリーミングハンドと並んでジムさんの代表的なグラフィックだったし、ウエストコーストとイーストコーストとスタイルの違いはあっても、スケーターが着るTシャルはアイアンクロスのだったり、スケーターがはくトラックは〈インディペンデント〉のだったり。それは映画『KIDS』(編集部注:90年代後半に公開されたニューヨークのスケーターキッズを題材にした、写真家ラリーク・ラークの初監督作品)のジャスティン・ピアース(キャスパー役、元ZOOYORKフロー)を見たりしてもわかる。それだけスケートのアイコンになっているアイアンクロスでやりたくて、最初は断られたんだけど、ジムさんと今までしてきたやりとりや作品のことをわかってもらって、グラフィックをつくることができたんです。そういうことがあって、今回は、〈サンタクルーズ〉のオフィシャルのものにビームスって入れることができたんだと思いますね。

―ビームスのバイヤーとして、一般の人がなかなか直接会うことができない海外のアーティストやスケーターと何かを企画する。いわば、ユーザーとアーティストの間にいる、作品のトランスレーター的な存在である加藤さんではなく、いちスケーター、いちサーファーとして、良い意味で加藤さんがひねくれている部分はどんなところでしょうか?

加藤:いやー、どうなんですかね。まっとうに生きてきましたからね(笑)。単にギャップが好きなのかもしれません。スケーターやサーファーっていうのは、ひとつのものでもいろんな角度で見る生きものですよね。僕はサーフィンを最初にはじめましたが、ずっと前からスケートも洋服もずっと好きでした。ピシっとした恰好にスニーカーを合わせたり、昔の〈サンタクルーズ〉のスケビでジェーソン・ジェシーが赤と緑のコンバースをシンメトリーで履いていたり。そういうのがカッケーって。スケーターのひねくれた感じと自分の中にあるギャプ観というのが、すごくリンクするように思います。あと、純粋にストリートから生まれる絵が好きなんです。スケートやサーフィンというのは、スポーツという感じがしないんですね。スケートしながら絵を描くひともいれば音楽をつくるひともいたりして、自由なひとが多いじゃないですか。でも、野球選手で絵を描くとか音楽できるひとって聞いたことがないし、サッカー選手で絵が超上手いらしいよなんていうひとはあまりいないだろうし、逆にいたら、どんな絵を描くのか見てみたいですね。これは決してスポーツ選手をバカにしているんじゃなくて、それだけスケーターやサーファーは自分を表現をするのが上手ですよね。そういう部分に強く惹かれるし、それが自分の近くに常にあるというのっていいじゃないですか。僕の部屋なんかは、そういう好きなものがどんどんたまっていってるので、とても落ち着きますよ。

―ジム・フィリップス氏をはじめとして、いろいろなアーティストとやりとりを続けてきたと思いますが、そこで大切なことは何だと思いますか。恐らく、語学力ではないような気がするのですが。

加藤:そうですね、語学ではないとは思います。アーティストやスケーターとのコミュニケーショにおいては、伝えたい目的意識が大切。そして、その手助けになるものが、ジン(編集部注:加藤さん自らが執筆/編集するジン、SSZ)だったり、自分でラフを描いたりすることですかね。ジムさんとのやりとりもそういうのが大半です。スクリーミングハンドを骨にしたときも、自分で描いて、これですって渡して。ジンは本当に役立ちますよ。どういうものが好きなのかっていうのもダイレクトに伝えられるし、相手もジンをつくってたりするのでそれと交換してくれたり。好きなものに対しての仲間意識がスケーターはすごく強いから、だから英語をうまく話せなくても、ラッキーなことに繋がりが広がっていくことは多いです。

―そういえば、加藤さんが好きなスケーターのひとりでもあるマーク・ゴンザレスも今回のアートショーに参加していますね。彼のスクリーミングハンドはいかがでしたか。

加藤:ゴンズっぽいなーって思いました(笑)。ちなみに、今はジムさんは、スケート・サーフ・ロック・アートっていう捉えられ方かもしれませんが、いずれはその作品が美術館に飾られているような人物になってもおかしくないと思っています。もし、僕がどこかのすごい美術館のキュレーターだったとしたら、絶対にピックする作品です。スケートボードデッキの上に描かれてきたものたちが、アート作品として美術館に並ぶ。そういう新しい価値観さえ生み出してしまうアーティスト、それがジム・フィリップスなんじゃないかと思います。

08hynm_JimPhillips.jpg

ビームスT 原宿
電話:03-3470-8601
住所:東京都渋谷区神宮前3-25-15 1F
コラボレーションアイテムはこちらから!