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石塚啓次という男。うどん、スペイン、BUENA VISTA。

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ーそろそろブランドのお話を伺いたいと思います。〈ブエナビスタ〉はいつからスタートしているんですか?

本格的に始めたのは、2015SSからです。それまで定期的な展示会はせず、不定期にちょこちょこ作ってたな。ブランドを始めるときは、スペインに住ませてもらってるから、現地で全部生産できれば少しは地元の経済に貢献できるかな、と思ってたけど。でも、いざやってみたらなかなか難しかったな。

ーというと?

それはもう色々ありすぎて、3日間ぐらい話せるけど(笑)、まず彼らは約束を守らないですね。失敗とかを認めることは絶対しない(笑)。必ずまず「でもね…」って言うからな。青でやってくれと頼んだのに黄色であがってきたら、普通は青がない時点で「すいません、青がなくてどうしますか?」となるけど、こっちでは出来上がってから「いや、青はなかったから黄色でやってみたわ。でもね、黄色の方がいいでしょ?」と、ずっとこんな調子やしな。あと輸送費、税金、工賃も高いしな。今はバスク帽だけ現地で作ってるけど、せっかくこっちで住んでるし頑張ってこれからは少しづつこっちで作っていこかなって思ってるわ。

ースペイン・バスク州のトロサで創業した、超老舗の帽子メーカー〈ボイナス・エロセギ(boinas elosegui)〉製だと伺いました。バスク州で現存する唯一の帽子メーカーだとか。いまやブランドを象徴するようなアイテムと言えますね。

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そやね。昔からこうした形の帽子は好きやったしな。あとは、人と違ったことをしたいという気持ちをずっと持ってるしな。野球帽とかハットとか、今若い子がみんなかぶってるしな、それやったら自分は違うもんかぶろう思うわ。人と違いを見せたいって気持ちがファッションというか、オシャレの原点ちゃうかな。

ー確かに。流行っているからとか誰々が持っているから、という話を聞けば、むしろ避けたくなる気持ちがあります。

そやな。だから、流行りだしたらすぐまたほかの探そかな? それまでに売りまくりますけど(笑)。

ー今では一般的にファッションにも取り入れられているベレー帽の起源とされているバスク帽ですが、今回2トーンのバスク帽が初めてお目見えしています。

この2トーンカラーのバスク帽を作るのに、なんだかんだで2年くらいかかったかな。元々彼らは、創業当時から変わらず白い糸で帽子を作って、そこから染めているんやけど。今回、2トーンを作りたかったので、半分半分でやってくれという話をしたら「そんなことはできない」と。いや、糸から染めたらできるよと提案しても、「俺ら創業当時から変わらずやってるから変えられない!」と返され続けて。。粘りまくってやっとの思いで作ってもらったわ。毎回上がってくる色も違うし、今も常に大変やね。

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ーそんなタフなやりとりの中、裏面のタグにブランド名、しかもカタカナで“ブエナビスタ”と入っています。これは素晴らしい試みですね!

そやね。なかなか面白いものができたかな? サイズ違いで3種類ありますし、好きなようにかぶってもらえたら、と思います。

ーところで、今季のテーマを「Independencia(独立、自立)」としたのはどんな理由があったのでしょうか?

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前回のシーズン(2015SS)は「SOIS LA POLA(最高の仲間達)」というテーマ。自分が服を作るにあたって、周りの友達みんなが力を貸してくれて、本当に助かってるということを形にしました。でも、そこに甘えっぱなしでいるわけにはいかないな、ということで、「Independencia(自立)」です(笑)。あとはバルセロナという土地は、スペインからの独立をつねに悲願としているので、二つの意味をかけて。

ー展示会場には、そうしたバルセロナでの独立運動の模様が貼られていました。

政治的なことをデザインに落とすのはどうかな、と思う部分があるけど、現実に身近に起きていることやしな。バルセロナでの独立問題も色々な見方ができると思うけど。ちょっと前のアイルランドとイングランドの問題とはまたちょっと違う、というか。あれは国が認めた国民投票やけど、こないだカタルーニャで行われた投票は非公認のものやからね。まだまだ時間がかかる問題やろね。

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ーなるほど。

ただ最近よく思うんですが、日本にずっと住んでいたら、もう一回洋服をやろうとは思わなかったやろね。今は、いい意味で自分のことだけを考えていればいいと思っているので、どこかスッキリした気持ちです。〈ブエナビスタ〉では自分が着たいなと思うような服しか作りません。なので、派手な柄ものとかは作りません。それにこっちでヒョウ柄とか、派手な色の服を着ていると、すぐにゲイ扱いされてしまうから気をつけなアカン。〈ブエナビスタ〉は、バルセロナで暮らしている自分にとってリアルな服、ということで“バルセロナリアルクロージング”という感じです。

ーところで、スペインのファッション文化というのはどういった感じなのでしょうか?

正直、そんなに詳しくはないけど、あまり洋服にはお金をかけていないと思うわ。毎シーズン流行りの物買うっていうよりは、古着とか自分の持ってる服ををちょっと縫ってカスタムしたりしてる人たちの方がこっちではオシャレかな。家具とか部屋の内装も自分で作ったりしているしな。ちなみに、スペインの子たちの間で人気があるのは、アメリカ物ですね。ファッションにしろ、音楽にしろ、映画にしろ。これは世界共通かな。

ーそうなんですね。それはちょっと意外な気がします。

学校に通ってる子供たちの99%くらいが、〈イーストパック(EASTPAK)〉のデイパック使ってるわ。あと、〈ヴァンズ(VANS)〉とか〈コンバース(CONVERSE)〉履いてたら、最高にかっこいいって見なされるかな。ただ、日本で買うよりはずいぶん高いけどな。

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ーバルセロナには、日本人はよく来るんですか?

いや、あんまり来ないかな。直通便もないんで。休みが5日間しかないのに、日本からまずフランスとかヨーロッパ入って乗り換えて、とやってると、ほとんど丸1日は移動だけでつぶれてしまうからな。なかなか気軽には来れないやろ。あと買い物するにはダサすぎるしな。ワーホリ(ワーキング・ホリデー)もないので、在住日本人の数も少ないわ。

ーそんな中、永住を考えるぐらい、石塚さんはスペイン・バルセロナに魅せられているわけですが、どんなところが魅力なのですか?

やっぱり、近くに海があるし、レジャー関係は日本みたいにお金も使わなくてできるし最高やな。仕事をするとなるとスペインの人大変やし、外国人として生活するのも大変やけど、トータルで考えると、スペインという国は本当に最高やと思うわ。この先どうなるかはまだわからへんけど、ずっとここに住みたいわ。

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