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小西康陽と曽我部恵一が語る。うた、ことば、音楽。

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「小西さんの歌詞に自分を投影してしまいます(曽我部恵一)」

−おふたりがお会いするのはいつ以来ですか?

曽我部:昨年の10月に島根の大根島というところで行われた「子だぬき音楽祭」というイベント以来ですね。僕はソロで出演していて、小西さんはNOEL&GALLAGHERとしてDJでご出演されていました。DJを拝見して「これは大変なことになっている!!」と思いましたね。

小西:はははは。

曽我部:いやー、とにかく最高でした。とても感動して刺激を受けました。

小西:ライブでお会いした直後に『わたくしの二十世紀』のプリプロダクションに入りました。当時、Twitterで曽我部さんがリリースするアナログのジャケットを見たときに「これは買わなくちゃいけない」と思って。それで「CITY COUNTRY CITY」で働いている知人に連絡をして予約をして。けれども、ライブでお会いした流れで、曽我部さんが最近リリースしたCDやレコードをお手紙とともに送ってくださって、実際は頂いてしまったのだけれど。そのアルバムは曽我部さんのペインティングの肖像がジャケットになっているものなのですが、僕はペインティングの肖像のレコードが大好物で(笑)。その時点では自分のアルバムのジャケットを考えていなかったのですが「あ、やられた!」と思いましたね。当然ながらiPhoneで見るとすごい画像が小さいでしょ? 実際どんなテクスチャーで描いているのか。これをどうしても見なくちゃいけないって思った瞬間に購入を決めていました。このレコードは本当に良かったし、聴いていていろんなことを思ったし、曽我部さんというアーティストのこともいろいろ考えた。そんなアルバムでした。

-曽我部さんは『わたくしの二十世紀』を聴かれてどのような感想をお持ちになられましたか?

曽我部:なかなかひと口で語るのは難しいのですが、このアルバムを聴いているとふと、人生のさまざまなことが思い出されてボーッっとしちゃいますね。日々、育児や制作に追われて慌ただしい日常を過ごしているのですが。「音楽の世界に浸る」という感覚とはちょっと違うのですが、自分の人生を描いた映画があるような、映画の主人公になったような気分になるというか。アルバムを聴いていると不思議とそんな感覚にスイッチするんです。小西さんの歌詞の世界に自分を投影してしまうようなところがあるのかもしれないですね。聴いているときはすごく寂しかったり、悲しかったり、マゾヒスティックな感情に浸ったりするのではなくて、なんだかとてもエレガントで優雅な時間が流れています。言葉にするのが難しいのですが小西さんの音楽の力、音楽の魔法というものがとんでもないということを感じますね。

小西:ふふ(笑)。

−曽我部さんがお持ちになった感想は、小西さんの歌詞の世界観と深く関係していらっしゃることかもしれないですよね。小西さんの歌詞は難しい熟語や奇を衒った言葉、英語を使わないところが特徴的だと思うのですが、テクニカルな面で曽我部さんが感銘を受けたことはありますか?

曽我部:小西さんに感銘を受けていることは、テクニカルな面を超越しているような気がしますね。2分くらいの曲なのに映画を一本観たような感覚に浸れる音楽だと思います。そういった音楽を作る人は外国人だとランディ・ニューマンとかさまざまな素晴らしい音楽家がいますが、日本語の美しさを生かしながらやっている方では小西さんが断トツで大好きです。アルバムを聴いて印象的なのは政治的なものの扱い方というか。小西さんは政治的なことをあんまりおっしゃられないと思うし、コミットしないようにしていると思うのですが、小西さんの歌詞の中にものすごく政治的なステートメントがあるように感じられるんです。僕が交流しているシンガー・ソングライター(不定形ユニット パラダイス・ガラージとしても活動)で豊田道倫くんという方がいるのですが、彼が発言していた「政治に関連したことを歌うよりも、日々しっかり生きているということがいちばん政治的なことだ」というメッセージがふと、思い出されました。

小西:パラダイス・ガラージが(笑)。

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曽我部:聴いていていつも思うのは、人間が生きている中で出合う悲しみとか寂しさというものがすごく美しくて優雅なものに感じられるということ。小西さんはそういった感情がどこからきているのか一切説明してくださらないんだけれども、本当の悲しみってこういうことなんじゃないかなって。そんなに悪いものではなくて、また今日も生きる糧にすらなるのではないかなって思えるというか。

小西:恐縮です(笑)。

「「曲と詞が分けられないような音楽を作りたい(小西康陽)」

曽我部:僕は小西さんの歌詞だけを読むのも大好きなんです。言葉だけを読んでいると、別のアレンジや曲調が思い浮かぶのですが、CDを聴くと本当に詞の世界観を突いている音の世界があって、これこそ音楽なのだと感心しました。

小西:何年も前から僕は詞と曲を別に書いたことがなくて。同時に書いているんですよ。昔、サニーデイ・サービスの「魔法」という曲を聴いたときにすごいショックを受けたんだよね。未だに忘れられないのだけれども。静岡の「CORNERSHOP」というレコード屋さんに常盤響さんと水本アキラさんと三人で行ったときかな? 水本さんが「魔法」を試聴すると言って、お店で聴いたときにガーンってきちゃって。僕もそのときに購入したのですが本当にいい曲だし、いい歌詞なの。というか、曲と詞が分けられないような音楽だよね。僕もああいう音楽をいつも書きたいと思うんです。曽我部さんもそうでしょ? 一言目から全部出てきた感じでしょ?

曽我部:そうですね。


−『わたくしの二十世紀』というアルバムも詞と曲が分けられないような音楽ですよね。人生や心の奥底にあるものと向き合うきっかけをくれるような重みがあるのに、何度も繰り返し聴きたくなる魔力のある音楽という気がしています。

小西:実はそれはちょっと考えていて。1曲を長くしてしまうと結構お腹いっぱいになってしまうからなるべく短く、とは思っていて。ほとんどイントロもない曲や間奏がない曲もあって、どんどん次の曲に展開するようにしました。2曲目の「私が死んでも」は歌詞が3番まである4分以上ある曲なのですが、今回は思い切って3番をカットしてみました。

曽我部:小西さんの曲は4分30秒というイメージがあります。

小西:鋭いですね~! そうなんですよ!

曽我部:でも、今回は2分台のものとかが多くてすごく短いと思って。

小西:鋭いな。本当にその通り。曽我部さんの音楽は何分くらいのものが多いの?

曽我部:僕はだらだらと作っていると3分30秒とか4分になってしまうのですが、2分30秒というのがベストだという持論が勝手にありますね。2分30秒で情報量が多いという音楽が好きなんです。ビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」とか、こんなに短かったの?という曲が好きなので、2分30秒でいい音楽を作るというところを目指していますね。

小西:サニーデイ・サービスは結構長いですよね?

曽我部:長かったですね。

小西:90年代って全体的に4分台に突入した世界でしたよね。

曽我部:CDに収録できる時間が長くなったからですよね、きっと。

小西:そうですね。

曽我部:ビートルズが「ヘイ・ジュード」をやってしまったから、それ以降はなし崩し的に長くなっていった気もするのですが。今回の小西さんのアルバムは全体的に曲が短めなところがなんだか“遺作”っぽいんですよね。

小西:あはは。やめて(笑)!

曽我部:小西さんは変わらずに音楽を作っていかれるだろうし、変わらずに元気いっぱいDJもされていくと思うんですけれども、勝手ながら遺作を聴いているような受け止め方をしてしまうというか。『わたくしの二十世紀』というタイトルも雪景色のジャケットも相まって。音楽を作ること、音楽を残すという行為の意味が節々に感じられて、とにかく参りましたという感じです。それに、音楽って別に新曲である必要が全然ないことを改めて気が付かされて。「じゃあ、新曲って一体、なに?」ということが日々、頭の中をかけ巡ります。

−ピチカート・ファイヴ時代の曲や過去の作品でありながら、編曲や歌い手がまったく違うことで、また別の個性を持った曲に仕上がっている。その状態が新曲と言えますよね。

曽我部:そうそう。過去の曲をまったく新しい形で発表することがすごく挑戦的というか。アルバムとしてもすごく革新的だと思います。昔はそういうことがよく行われていて、いろんな曲をリアレンジしてニューアルバムを作られた時代ももちろんありましたよね。スタイルとしてはオーセンティックなことでもあるけれども、いまの時代にこういうものを発表するというということが非常にアナーキーなことだと思います。「じゃあ、新曲を一生懸命作っているミュージシャンはどうなの?」と問われている気もしていて。すごくいろいろ考えさせられました。

小西:僕が2004年にアイドルに書いた曲ばかりを集めた『きみになりたい。』というコンピレーションを出したときに、編集者・ライターの北沢夏音さんが雑誌でレビューを書いてくれたんです。そこには「もう新曲がかけないんじゃないか」って書かれてあって(笑)。でも今回のアルバムは北沢さんが言うところのそれなの。北沢さんにもアルバムを送りつけましたけどね(笑)。

曽我部:北沢さんに最近お会いしたのですが「素晴らしかった。生前葬のようだった」と、おっしゃっていましたよ。

小西:またまた(笑)。

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