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Interview with Benoist Husson ムッシュー・ラスネールにとっての音楽、そしてジャズ愛。

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MONSIEUR LACENAIRE(ムッシュー・ラスネール)
1945年に公開されたフランス映画「天井桟敷の人々」に登場する悪人「ラスネール」から。フランス人の Garance Broca(ガランス・ブローカ)がデザイナーで、Benoist Husson(ブノワ・ユッソン)がブランドマネージャーとして、2011年にスタートしたニットに特化したメンズブランド。ブランドのテーマ、プロモーションをブノワが行い、それに対してガランスがニットや布帛で表現していくユニット。

「ジャズ」と「デモクラシー」からなる造語=”JAZZOCRATIE”をテーマに掲げた2016年春夏コレクションは、具体的には1950年代から60年代の「BLUE NOTE」レーベルからリリースされたレコードのグラフィック・デザインを担当していたリード・マイルスへのオマージュ。リード・マイルスといえば、「!」で埋め尽くされたジャケットのジャッキー・マクレーン『It’s Time』、タイトルを矢印に置き換えグラフィカルにデザインしたジョー・ヘンダーソン『In ’n’ Out』、モノクロのポートレイトにカラー1色を乗せてスタイリッシュに仕上げたグラント・グリーン『Green Street』、ハンク・モブレー『Soul Station』など、この時代のBLUE NOTEのヴィジュアルイメージを決定づける傑作デザインを多数生み出した人物である。

ファッションが音楽を参照する場合、特定のミュージシャンへのオマージュ、あるいは大きくジャンルやムーヴメントのムードを捉えてデザインソースにするということが多いのではないだろうか。後者にあっては、アイコニックなアイテムやスタイルを取り入れることで、より明確な打ち出しになるが、それは一方で引用の域を出ずに終わってしまうという危険性も孕んでいる。要はわかりやすくすればするほど、ベタなものになってしまうということである。その点、〈ムッシュー・ラスネール〉の2016年春夏コレクションは、先にも記したように、単なるジャズがテーマでもなければ、昔のジャズメンのスタイルを追ったものでもなく、そのグラフィックに着目するという実にユニークかつ斬新なものだ。

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ー”JAZZOCRATIE”というテーマで、プレゼンテーションもフランスにおけるジャズの聖地で行った2016年春夏シーズンですが、〈ムッシュー・ラスネール〉にとっての音楽とファッションとはどういった存在なのでしょうか。

ブノワ・ユッソン(以下、ブノワ):私たちにとっては、ミュージックとモードは密接に関係があるものです。毎シーズン、自分のテーマになる音楽を決めて、コレクションに音楽としてのアイデンティティも持たせています。映画のサウンドトラックのように。なぜ今回「ジャズ」にしたかというと、まず僕自身がジャズが大好きでーー個人的にレコードはたくさん買いますーー、それからリード・マイルスの仕事にもすごく感銘を受けているからです。彼のアートワークはとても色鮮やかで、あまり均一でないという手仕事の感じがニットウエアとのリンクを感じさせます。

ー前のシーズンはどんな音楽のイメージでしたか?

ブノワ:1930年代から40年代のフランスのポピュラーミュージックですかね。イヴ・モンタンなんかのクラシックなシャンソン、それもとても有名な曲です。それに対して今シーズンはジャズ、理知的な音楽ですね。

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ー今季のテーマを単にジャズではなく「ジャズ+デモクラシー」という造語にしたのはどうしてでしょう。パリで起こったテロとは関係がありますか?

ブノワ:今回のコレクションを制作しているときはテロの前だったので、テロとは特に関係ありませんね。なぜ2つの言葉をつなげようと思ったかというと、理想としての1つの国というのが頭の中にあって、その国は、グルーヴとかハーモニー、つまり「いい音」というのが1つの大きなオーガナイズのルールになっています。いい音楽には、国家に通じる側面があると私は思います。ひとつの曲を構成するには、ピアノ、ドラム、ベース、トランペットなどが皆均等に重要さを持っていて、平等に役割を担っているということです。

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ー1950年代、60年代のジャズメンはスーツ・スタイルが多かったと思います。日本ではそうしたイメージが根強いのですが、それをいい意味で裏切る、ディライトフルで楽しいコレクションだなと感心しました。

ブノワ:ジャズメンがどういう服を着ているかというのは重要ではなくて、リード・マイルスのグラフィックから出発しています。ジャズというよりもリード・マイルスへのオマージュですね。1年前、デザイナーのガランス(・ブローカ)と次のコレクションについて思いを巡らせ、ブレストしていたある日、宅配業者が薄くて四角い包みを持ってきたんです。開けるとレコードーーハンク・モブレーの『The Turnaround』が出てきました。1962年のオリジナル盤です。そのレコードのアートワークを見て、ぶっとんだんですね。

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極めてモダン、それでいて職人的とでもいうか。Photoshopでなくハンドメイドでしか出せないムードがそこにはありました。そして、これは何かコレクションのアイディアにつながるんじゃないかと閃いたんです。つまり、音楽を聴く前のグラフィックからコレクションの最初のアイディアが浮かんだということですね。

50年代、60年代のジャズミュージシャンっていうと、外見上はスーツを着ていたりしましたけど、黒人でお金もそんなになくて、アルコールやドラッグの問題もあったので、内面的にはもっと深い闇みたいなものがあったんじゃないかと感じます。そうした闇の部分は彼らにとっては日常であったと思うんですけど、そんな彼らが集まって曲を演奏するときには、暗い日常から一歩外に飛び出して別の世界を構築することができたんじゃないでしょうか。彼らのレコードのジャケットはそれを投影したものだと思うんです。だからこそ、わりと明るいイメージになっているんじゃないかと。そういう意味でもグラフィックが私たちにインスピレーションを与えてくれたコレクションですね。

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ープレゼンテーションのときのスタイリングでいうとショートパンツのスタイリングが多いですよね。

ブノワ:まぁ、春夏だからというのもありますけど(笑)、このコレクションはジャズメンについてのコレクションではなく、聴く側、つまり私たちに対するコレクションなのです。

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