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Interview with Benoist Husson ムッシュー・ラスネールにとっての音楽、そしてジャズ愛。

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ープレゼンテーションのときの演奏が非売品ですけれどレコード化されました。これはダビングなしの一発録りですか?

ブノワ:そうです。メジャーな曲を中心に選んでいます。当時もそうなんですが、有名なバージョンで演奏して、その後に演奏家のバージョンを演るというスタイルで演奏しています。参加してくれたミュージシャンたちにも、BLUE NOTEっぽいグルーヴを出してくれるようにお願いしました。選曲は自分の好きな曲を。『Somethin’ Else』でキャノンボール・アダレイが演ってた「枯葉」とかは、彼はBLUE NOTEの人じゃないんだけど、まぁ好きだしいいか! と思って入れました(笑)。

ーリード・マイルスがBLUE NOTEのジャケット・デザインをやっていた頃、パリではジャズはヒップでアンダーグラウンドな音楽だったと思います。ボリス・ヴィアンが大好きでしたよね、ジャズは。昔はそうでしたが、今の世代にはジャズはどう受容されていますか。

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ブノワ:今は若者でジャズを聴く人は少なくなってますね。ヒップホップなんかがアメリカの黒人音楽の代表格になっています。私たちがブランドを立ち上げた当初からやっているのは、古い物事からインスピレーションを得て、それを少し新しいものに変換して提示するということです。私たちは「コンテンポラリー・ノスタルジア」と名付けているんですが、コンテンポラリーとノスタルジーを掛け合わせた言葉ですね。古いものをリスペクトする姿勢はいつもあります。例えば私たちのロゴマーク。19世紀の絵にあったものを参考に、もう少し現代的にしました。

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ーなるほど、馬車と自転車が掛け合わされていて、スタイリッシュだけれどユーモアもあって、〈ムッシュー・ラスネール〉らしさを感じるロゴですね。ところでブノワさん自身はジャズはいつ頃から聴き始めましたか?

ブノワ:自分が子供の頃、私のおじいさんがジャズを聴いていたのでその影響で聴いていましたね。おじいさんはエロル・ガーナーとかを聴いていました。私はそんなに好きじゃないんだけど(笑)。15年前にディジー・ガレスピーの『スウィング・ロウ、スウィート・キャディラック』を聴いて、そこからのめり込むようになりました。

ー個人的なお気に入りのジャズミュージシャンがいたら教えてください。

ブノワ:いっぱいいるんだけど、リー・モーガン。一番最初にファンクに近いグルーヴをジャズに持ち込んだのが彼です。彼がどうやって死んだか知ってますか? 彼女にドラッグを持ってくるように頼んで、その彼女が持っていったら彼は娼婦と寝ていて、それでピストルで撃たれた。そんなところも含めて(笑)お気に入りですね。あとは、セロニアス・モンク。好きすぎて私の息子にセロニアスと名付けたんです。それからキャノンボール・アダレイ、ユセフ・ラティーフ……まだまだありますね。レーベルとしてはBLUE NOTEが特に好きなんですけど、なんで好きかというと、チーム編成になってるからなんですね。あるミュージシャンがフロントマンになるときもあれば、ほかのミュージシャンのサポートにまわるときもあって、そういうチームワーク感がいいんです。それは僕らのブランドのスピリットにもリンクしています。そんなこともあって、コレクションを作る際はグループ、集団をイメージするんです。今回だったら友達同士が集まって音楽を演奏するとか、前のシーズンだったら集まって自転車ででかけよう、とかそういうことを考えています。

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ー今回のようにまたレコードを作ったりすることもありそうですか?

ブノワ:これまでも色々音楽をテーマにしたプロジェクトをやってきたので、今回はこれで、先はまだちょっと未定です。南仏で音楽フェスティバルをオーガナイズしている友人がいるんですが、毎回そこでEPレコードを作っています。あとはパリの自分たちのブティックでコンサートをやったり。ミュージシャンたちはウインドウの中でマネキンのような感じでいて、演奏します。で、聴く人は通りで聴く。年に一回ある「フェット・デ・ラ・ムジーク」のときには毎回やってますね。ほんとは違法なんですが(笑)、この日だけは各所でいろんなことをやっているので、大目にみてもらえています。

ー音楽は主にレコードで買うんですか?

ブノワ:そうですね。オリジナル盤を。店よりは「Discogs」なんかのネットで買っています。パリのレコード屋は品揃え的にはエレクトロとかロックが多いですね。中古盤屋もあるけど、コレクションするようなものはあんまり。蚤の市だと状態がイマイチだったり。あとは日本で結構買いますね。「ディスクユニオン」とか西新宿の「HAL’S」、渋谷の「ディスクランドJARO」。日本のレコード屋は盤の状態もいいですね。

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取材現場には、パリでのプレゼンテーションも見に行くなど、ブノワと交流のあるFPMの田中知之氏も。

ー先の話になりますが、2016-17年秋冬で〈ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)〉とコラボしてますね。どういう経緯で始まることになって、またやってみてどうでしたか?

ブノワ:まず日本でPRを担当してくれている美江子(笹野美江子さん/POULSOFFICE)が紹介してくれたんですけど、相澤さんはスノーボードとか冬のスポーツがすごく好きみたいで、私たちは冬のスポーツウエアのフォークロアな感じからインスピレーションをよく受けてて、2年か2年半くらい前に「一緒になにかやりたいですね」と話していました。いま作っている(秋冬の)コレクションは2つのストーリーから構成されていて、ひとつは私たちが作った話、もうひとつは相澤さんが持ってきた話で構成されています。お互い忙しいし、私もそんなにちょくちょく日本には来られないので(笑)、ちょっと時間がかかってしまいましたね。

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ー〈ホワイトマウンテニアリング〉のショーはご覧になりましたか?

ブノワ:もちろん。ネイティヴアメリカンっぽいプリントがすごくクールでよかったです。服のボリュームも面白かったし。フィレンツェでも彼のショーを観たけど(adidas Originals by White Mountaineeringのコレクション)、そっちはもっとテクニカルで、デザインの部分とテクニカルな部分をミックスしてイノベーションしているところがとてもうまいですね。

ー最後に、今回のコレクションはどんなシチュエーションで着てもらいたいですか?

ブノワ:テラスでパナシェを飲みながら、ですかね(笑)。

Monsieur Lacenaire JAZZOCRATIE
01. Cheese Cake (Dexter Gordon)
02. Say You’re Mine (Duke Pearson)
03. Peace (Horace Silver)
04. This I Dig For You (Hank Mobley)
05. The Sidewinder (Lee Morgan)
06. Gemini (Jimmy Heath)
07. Song For My Father (Horace Silver)
08. Autumn Leaves (Joseph Kosma, Johnny Mereer, Jacques Prévert)