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What is HTM? ナイキが創造する革新的プロジェクト「HTM」、再び。

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フラグメントデザインの創設者である藤原ヒロシ、ナイキ副社長ティンカー・ハットフィールド、ナイキインク社長兼CEOのマーク・パーカーによるコラボレーション・プロジェクト「HTM」。3名のイニシャルをつなぎ合わせた「HTM」は、2002年に誕生して以来、ナイキデザインの新しいコンセプトを最新のテクノロジーをもって体現したプロダクト展開で、常にブランドの一歩先を走り続けてきました。そして迎えた2016年。新たに発表された3型のスニーカー。ここではその全貌を、これまで「HTM」が辿ってきた軌跡とともに紹介していきます。

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藤原ヒロシ、ティンカー・ハットフィールド、マーク・パーカー

まず、新作モデルの紹介の前に、「HTM」が何を目的としたプロジェクトで、どのような経緯で始まったのかをおさらい。2002年の誕生以来、過去の名作をアップデートしたもの、最新のテクノロジーを導入したものなど、32のプロジェクトを発表してきた「HTM」。その変遷を、藤原ヒロシ、ティンカー・ハットフィールド、マーク・パーカーが語ります。

「HTM」の誕生秘話。

藤原ヒロシ(以下、H):マークと一度目か二度目に会った時、まだCEOではなかったときに、「ナイキで何かやるとしたら、何をやりたいか?」と聞かれて、「シューズをカスタマイズしてアップデートできるプログラムをやりたい」と答えました。

マーク・パーカー(以下、M):90年代から日本に行く機会が頻繁にあり、そこでヒロシと出会いました。ティンカーとは「エア マックス 1」や「エアトレーナー 1」、「ACG」、「ジョーダン」などのプロジェクトで、すでに何年もの間一緒に仕事をしていたので旧知の仲です。私たちは、出会ってから幾度となくプロダクトやデザインについて話しました。そしてある日、ただじっと座ってアイデアについて話し合うのではなく、行動を起こして何かを作ってみたらどうか、という結論に至りました。

ティンカー・ハットフィールド(以下、T):最終的に「HTM」のプロジェクトは、マークのアイデアだと思っています。いま考えると、「HTM」は彼好みだし、適した人材を集める術を本当に心得ているなと感心しています。

M:最高のパートナーシップは、本物の関係から生まれると常に信じてきました。「HTM」がまさにそれで、ごく自然に生まれました。

H:「HTM」というネーミングは、他社でコラボレーションを表現するために頭文字を使っていた例があり、コードネームとして、ヒロシとティンカーとマークを表現する「HTM」を使いました。でも、まさかそれがそのまま公式の名前になるとは思っていませんでした。

M:初めは他の人たちには何の意味もなさなかったと思いますが、「HTM」と自分たちの頭文字を付けることで、このプロジェクトならではのアイデンティティを確立することができました。シンプルな名前ですが、この制作過程において、私たちひとりひとりが貢献しているということを見事に表現していると思います。

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ナイキ エア フォース 1

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知識や技術を補い合うこと。

M:私たちは、それぞれスタイルも仕事へのアプローチも異なる分、最終的にできあがる作品がより素晴らしいものになると確信していました。まるでジャズミュージシャンたちがそれぞれリフを演奏し、お互いのアイデアを膨らませていくジャムセッションのように。3人の誰かが気になっている具体的なアイデアをベースにすることもあれば、もっと自由に考えを出し合うこともあります。ヒロシは、どちらかと言うとスタイリスト・デザイナーで、スタイルや着こなし、シンプルさに対する感性がとても優れていて、日常生活におけるデザインのあり方に対して確かな眼を持っています。ティンカーについては、彼がこれまで発表してきた素晴らしい作品自体が、彼の「HTM」における役割を明らかにしています。ただのシューズではなく、それまでに見たことのない商品開発からも容易に推察できます。アスリートの表面に隠れた真の姿(スポーツだけでなく私生活に関しても)を浮き彫りにするという共同制作の土台を作り、ストーリー性のある高性能な商品を作ってきました。

T:マークはデザイナーですが、デベロッパーでもあり「ナイキ スポーツラボ」にいたこともあります。さらに、いつも誰と一緒に仕事をするのが良いか、どんなプロジェクトを手掛けたら良いのかを瞬時に察知する能力を持っています。また今あるものを洗練させたり、編集したり、組み合わせ直したりすることに関しては天才ですね。それこそ、彼のオフィスが良い例です。アートや様々な人々のことを物語る思い出の品が絶妙に上手くまとまっている。これは彼の思考を象徴しているようでもあります。

M:3人それぞれの役割はコンセプトによって変わります。音楽で例えると、各プロジェクトのセンターステージに立つ人が、その都度交代します。1人のデザイナーの影響が特に強くなり、商品にもその特徴が表れます。

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ナイキ ソック ダート

M:「HTM」は2004年、デザインの新しいコンセプトへと進化しました。その中でも特に斬新だったのが「ナイキ ソック ダート」です。画期的なシューズの世界を開いたとされる「ナイキ ソック レーサー」をもとに、コンピュータを使用したニットの技術をアッパーに採用。シリコンのストラップでサポート性を高め、先進的な外観のソールと組み合わせています。

ナイキの未来を担うフットウエア。

M:ソックダートは、ティンカーのチームがたまたま丸編み機で遊んでいたことで生まれました。1980年代半ばのソックレーサーにはじまり、商品開発行程の一部として、最終的にフライニットの平編み製法に繋がる重要な一歩となったモデルです。

T:私もソックダートのオリジナルのデザインに関わったひとりなのですが、あれは丸編みを使ったとても難しいプロジェクトで、みんなにこれは”未来のフットウエアデザイン”だと話していました。ただ、最初に発売したときは、たくさん生産しなかったこともあり、実際誰の目にも止まりませんでした。しかし私の記憶ではそれから間もなく、ヒロシがそれを「HTM」でやりたいと言ったのです。

H:その後、何度かマークとティンカーに、"あの靴は面白い、近未来的だから再発したい"と提案していて、それがようやく「HTM」に採用されました。

T:私がこのようなプロジェクトに参加する理由のひとつは、かつて誰の目にも止まらなかった、埋もれた宝物を掘り起こす機会になるだけでなく、そこで未来のデザインへのひらめきを得ることができるからです。また、ニット素材に関してたくさんの研究を行っている時期だったので、ソックダートはその後のプロジェクトにたくさんの影響を与えてくれて、これが本当に先進的、近未来的なシューズだと認識させることができました。

M:最終的にフライニットの平編み製法に繋がる重要な一歩になりましたし、結果的にナイキを将来的に盛り上げてくれる商品開発に取り組んでいたことになります。

H:「HTM」では、どちらかというと、あるものをアップデートするというよりも、新しいアイデアを最初にお披露目するという感覚に近いですね。

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ナイキ HTM フライニット レーサー

H:その8年後、画期的なフライニット テクノロジーの発表というかたちで、ナイキのニットが大きな進化を見せました。「HTM」は、「ナイキ HTM フライニット レーサー」と、「ナイキ HTM フライニット トレーナー+」でこのサポート性、軽量性と環境持続性に優れたテクノロジーを紹介し、新しいコンセプトの起爆点になりました。

M:すぐにその素晴らしいフライニットのポテンシャルを感じました。パフォーマンス商品のエンジアリングのルールを書き換えることになったのは明らかでした。従来の裁断・縫製の代わりにフライニットを使用することで得られる進歩を目の当たりにしたとき、エアブラシとコラージュを比べたかのようでした。とても精密な工程で、糸と編み方の両方を操作するので、サポート性、屈曲性や通気性などどのような機能面でも細かく加工できるようになりました。

H:フライニットのシューズはシンプルに見えて、とてもテクニカル。本当にすごいテクノロジーだと感じました。しかし、初期のサンプルではあまりニット感が出ていませんでした。なので、「ぱっと見てニットだとわかる方がコンセプトが伝わりやすいので、色々なカラーの糸をミックスして表現したほうがいいのではないか」とアドバイスしました。それまでは、割とソリッドだったんです。最終的に機能性に美を融合させて、とても美しいシューズに仕上げることができました。

T:「HTM」は既成概念を打ち破るようなテクノロジーを市場に出すのを、ある意味楽にしてくれるとも言えます。まず発売したことを伝え、人々にテクノロジーに気づいてもらう。そしてそこから大きく展開することができる。その点、私にとってはフライニットの発売のやり方は、「HTM」の目的やポテンシャルに一番適したものだったと思います。

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KOBE IX ELITE LOW HTM

T:2014 年、「HTM」はパフォーマンスバスケットボールの分野に進みました。「KOBE IX ELITE LOW HTM」は初のローカットのナイキ フライニットのバスケットボールシューズであり、コートとカルチャーの境界線を越える存在になりました。斑模様のシューレース、HTM特製アグレット、リフレクティブ素材を用いた蛇の鱗のようなパターンは、シリーズに共通するディテールへのこだわりと、コービー・ブライアント自身のフットウエアへの妥協のない姿勢を反映するものです。

コービー・ブライアントとの邂逅。

H:「KOBE IX ELITE LOW HTM」は、フライニットの進化を祝福する良い機会になりました。はじめはランニングに用いられていた技術が、バスケットボールのようにハードかつ斜めにも動くスポーツでも難なく使えるほど進化を遂げました。

T:私がデザインしたシューズではありませんが、開発中ずっとデザイナーのエリック・エイバーの隣の席に座っていましたし、個人的にはこのシューズはこれまで作られた中でも最も手の込んだもので、よくデザインされ、数々のテストを乗り越えた傑作プロダクトだと思います。

M:コービーは常に最新のイノベーションが搭載されたフットウエアを求めるので、「HTM」として初めて手がけるシグネチャーアスリートモデルが彼のシューズというのは、いま思えば必然だった気がします。みんなとても楽しんで作りましたし、コービー自身も喜んでいました。彼もスニーカー好きで、「HTM 」のシューズができたことを喜び、誇りに思ってくれたと思います。

HTMの未来。

M:(当初)「HTM」は自然に何か面白いことを考え、それを作りたいという基本的欲求から生まれました。その過程は会社のデザインに対するアプローチを象徴するものです。ナイキは「HTM」の未来を探索するのに最適な場所だと思います。

T:ナイキは新しいイノベーションや、誰もやったことのないものを実現し、それを基礎にしてきました。「HTM」はこの究極の目的を実現する、最も明確な道のりのひとつとして確立しています。私自身、関わったことを名誉に思える、とても得るものの多いプロジェクトで、本当に楽しいです。むしろルールを破ることが前提なので、楽しくないわけがありません。

次のページでは「HTM」仕様のNIKEiDについて紹介します。