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SLANT × Ryuichi ISHIKAWA 写真家・石川竜一が踏み入れた、“サバイバル登山”という新境地。

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国内外の作家の展示はもとより、数々の作品集を手掛ける「SLANT」から、あらたな写真集が出版された。「CAMP」と題した1冊を撮影したのは、出身地である沖縄をメインフィールドに作品を発表する新進気鋭の写真家・石川竜一。「SLANT」代表・日村氏は、登山経験のない作家に『サバイバル登山』というテーマを投げかけた。なぜ、沖縄の街中から、経験者でも臆する険しい山に向かわせたのか。展示会の前日、搬入作業中の「WAG gallery」にふたりを尋ねた。

Photo_Yuya Wada
Interview_ Nobuhiro Kobayashi[Antenne Books]
Edit_Satoru Kanai

石川竜一
1984年沖縄生まれ。2005年沖縄国際大学在学中から独学で写真を始める。2008年から舞踊家しば正龍、2010年から写真家・勇崎哲史に師事。11年、東松照明デジタル写真ワークショップ沖縄に参加。12年『okinawan portraits』で第35回写真新世紀佳作受賞。14年、森山大道ポートフォリオレビュー展出展。第40回木村伊兵衛写真賞を受賞した『絶景のポリフォニー』、『okinawan portraits 2010-2012』のほか、『adrenamix』(赤々舎)を刊行。私家版写真集に『SHIBA踊る惑星』『しば正龍 女形の魅力』『RYUICHI ISHIKAWA』がある。

SLANT
2009年に金沢21世紀美術館脇にオープンしたギャラリー/出版社。二人の写真家が東京から金沢までを別々に旅しながら撮影した写真を、まるでZINEを制作するように即興で展示した「XEROXED」や、さまざまなジャンルから選りすぐられた作家の作品をカウントダウン形式で発刊するタブロイドシリーズなど、写真やイラストレーション、デザインを中心とした展覧会や出版活動を勢力的に行う。
slant.jp/

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石川竜一を飢餓状態に追い込んでみたい。

ー本日はお忙しいところお時間をいただきありがとうございます。まず、おふたりの出会いから教えてください。

SLANT日村さん(以下、日村・敬称略):大阪のニコンサロンで行われた写真展に僕が行って、話しかけたんです。まだ、木村伊兵衛写真賞を受賞する前だよね。

石川竜一さん(以下、石川・敬称略):そうですね。『絶景のポリフォニー』を出すにあたって、いろんなところで展示していた中のひとつです。

日村:その前から気にはなっていたんですけど、WEBで検索しても作品があまり出てこなくて。それで、『絶景のポリフォニー』と『okinawan portraits 2010-2012』見たら、すごく強烈で。そのときに、なにか一緒にできないかなと思ったのが最初です。

ー大阪の時点で「CAMP」の構想はあったんですか?

石川:はじめは山に行くとかも決まっていませんでした。日村さんから一緒にやろうって言われて、「えっ、なにやるんですか」って聞いたら、「いやぁ、まだ決まってないんだけど、とにかくなんか面白いことできたらなあと思うんだよね」「じゃあ、やりましょう」みたいな感じでしたね。次に電話かかってきたら、山に行くことになってました。

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日村:僕の中では、「なにかやろうよ」と言ったときには、サバイバル登山家の服部文祥さんと山に行ってもらいたいというのがあって。ニコンサロンを出た瞬間に、服部さんとの間に入ってもらった石川直樹さんに「服部さんに聞いてほしい」と電話しました。それで服部さんからメールをもらって、「こういうことがあるのでお願いしますって」と。サロンを出て1時間くらいの間でしたね。

ーかなりスピーディーに進められたんですね。

日村:連絡だけはすぐに取りました。竜一くんには山に行く、服部さんには石川竜一という写真家がいるということだけ伝えて。「青山ブックセンター」のトークショーで聞き手を務めてくださった都築響一さんの『圏外編集者』にも通じるところがあるんですけど、どうなるかわからないけど面白そうなことをやりたいと思ったんです。服部さんのやっているサバイバル登山というのは、最低限の装備だけで登山道も使わずに獣道を歩くというかなり過酷な登山で、食料もほぼ現地調達。竜一くんをそんな飢餓状態に追い込んだら、きっと面白い写真が撮れるだろうと。

石川:こんなに写真集を出して調子に乗ってるぞと。

日村:よし、こいつを懲らしめてやろうみたいな(笑)。

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ー石川さんは最初に企画の話を聞いていかがでしたか?

石川:僕も同じような気持ちはあって。自分が興味を持つってことは、すでに自分の中にイメージがあるんですよね。でも、想像もしてないようなことがくると、やっぱり面白い。それで山って聞いて、「マジかぁ。なにが起こんのかな。俺、どうすんの」って。

日村:ただ、服部さんも本気でやっているので、「自分のサバイバルのレベルを落としたくないし、普段通りにやる」と最初に言われて。さすがにいきなり本番は無理だということで、服部さんと金沢の山奥で3泊4日の予行演習をしました。

石川:服部さんはホントに、先にサーッて行っちゃうんですよ。僕は山なんて登ったことないのに。ひとり、置いてかれたらやばいっすからね。

日村:人の気配すらない山奥で、電気を持たない、時計もないし、テントも持たずに、食料もちょっとだけ。そこで獲ったものだけでやっていく。まあ、取り残されたらやばいよね。

石川:やばいっすよ! なので2回目は、自分の中での装備は揃えていきました。もしひとりになってもなんとか生き延びるための装備を、服部さんの持ち物から考えて。

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