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Interview with SQUAREPUSHER スクエアプッシャーが描く、音楽の未来。

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自作ソフトによって生まれた、『Damogen Furies』の複雑なサウンド。

—『Damogen Furies』は破壊と創造を同時に行っているような強烈な作品でした。どんなヴィジョンをもってアルバムに挑んだのでしょうか。

「まず、ライヴで演奏したら面白そうな音楽を作るということ。最終的にはそれをライヴで演奏することが目的で、ある意味、ライヴ・アルバムともいえるね」

—一発録りだったんですよね。テクノのアルバムで一発録りというのも珍しいですが。

「ライヴはリアルタイムで演奏していくわけで、途中で『ごめん。間違ったから、もう一回やらせて』なんて言えないからね。一回しか演奏のチャンスはない、という条件を自分に課すことも今回のアルバムの重要なアプローチだった」

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—一発録りとは思えないほど複雑なサウンドになっているのは、あなたが独自に開発した音楽ソフトのおかげだと思います。このソフトはどういったものなんですか?

「いくつかの要素から構成されているんだけど、すごく単純に言ってしまうと、音を生み出す部分、そして、音を加工する部分の二つに分かれているんだ。音を作り出す機能は基本的にシンセと同じで、世に出ている様々なシンセができることを集約している。さらにこのソフトは、どんな風にでも音を加工できるんだ。これまでは〈こういう音に加工したい時はこのサンプラー〉という風にサンプラーを使い分けていたけど、それを1台に集約した。コンプレッサーとリヴァーヴとか、そういった様々な加工処理がこのソフトひとつでできるんだ」

—すごい新兵器を手に入れたんですね!

「そう、使ってて面白いよ(笑)。このソフトを作った理由はいくつかあるんだ。まず自分が頭のなかで思い描いた音を、好きなように作り出せる楽器が欲しかった。そして、それと同時に機材メーカーへの依存を減らしたい意図もあったんだ。今の音楽業界は商業主義的なシステムにひどく汚されているからね。特にエレクトロニック・ミュージックの世界は機材メーカーやソフトウェア・メーカーに支配されていて、そこから自由になりたいと思ったんだ」

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—支配されているというと?

「企業は新しいソフトウェアを開発して、『このソフトウェアを使えばこういう音を出せますよ、誰々みたいな音を出せますよ』といって商品を売り出す。オリジナルなものを作り出すためではなく、似たようなものを作り出すために商品を売っているんだ。つまりそれは、予測可能でありきたりな音しか生み出せない機材なんだ。僕は誰も予測できないなものを作りたいから、そういった商業主義から距離を置きたいと考えていた。そうするためには、自分だけの音を作るツールが必要で。それを手に入れることで、音楽業界を支配している企業の思惑から手を切りたいと思ったんだ」

—なるほど。エレクトロニック・ミュージックの場合は、ほかの楽器以上にテクノロジーとの関係が直接的ですよね。そんななかで『Damogen Furies』を聴くと、あなたはとても直感的で、独創的にシンセを使っていました。思えばテクノも初期の頃は、アーティストが自由なやり方でシンセを弾いてオリジナルな音色を生み出していましたよね。

「そうだね。そもそもテクノロジーというのは、自分の頭の中にあるアイデアを具現化するための道具に過ぎない。人がテクノロジーを支配するべきで、テクノロジーに支配されたらおわりだよ。でも、今のエレクトロニック・ミュージックの世界はまさにそういう状態なんだ。メーカーが『今はこの音が新しい』と宣伝してアーティストにその機材を使わせて、商品のデモンストレーションをやらせている。本来はテクノロジーではなく、アーティストが曲作りの中心にいないとおかしいのにね。まず自分がやりたい音楽があって、その音楽をやるためにはどんなテクノロジーが必要かを考え、必要であればそのテクノロジーを設計して作ってみる。それがアーティストが本来やるべきことだと思う」

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—確かに。『Damogen Furies』には、今の音楽シーンに対するあなたなりのメッセージが込められているんですね。思えばあなたの音楽は、ただ楽しむだけのものではなく、常にリスナーの価値観や常識を揺さぶるものですね。

「そうあるべきだと思っている。今の社会は聴いているうちに眠くなるような音楽にみんなが溺れている状態だ。それによって、音楽というカルチャーがどんどん厳しい状況に追い込まれていっていると思う。音楽業界だけじゃなく、社会全体に頭のスイッチを切って思考停止するようなカルチャーがはびこっている。僕は音楽を通じて、みんなに目を覚ましてほしいんだ。決して僕に注目してもらいたいと思ってやってるわけではなくて、みんなに物事の価値や音楽の存在意義をもっと考えてほしい。人類がこれから先も存続していくうえで、物事をしっかり考えていく必要がある。特に今は気候とか戦争とか危機的な状況がいろいろあって、そういった問題を解決していくためには人間はいろいろと考えなきゃいけない。みんなに考えてほしいと思うからこそ、僕はこういう音楽をやっているんだ」

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トーマスが考える、エレクトロ・ミュージックの可能性。

—そういえば、あなたは音楽を始めた時はベーシストで、エレクトロニック・ミュージックを軽蔑していたそうですね。それが15歳の時にLFOを聴いて考えが変わったとか。彼らの音楽から、どんな刺激を受けたのでしょうか。

「友達のパーティに行ったときに、そいつがすごくエレクトロニック・ミュージックが好きでいろいろかけていたんだ。自分はまったく興味がなかったんだけど、その時にLFOがかかって、なんとなく気になった。そして、聴いているうちに初めて、エレクトロ・ミュージックのなかにも魅力的なものがあることに気づかされたんだ。それまではエレクトロニック・ミュージックなんて商業的でクソみたいな音楽だと思っていた。でもLFOに出会ったことで、エレクトロニック・ミュージックには生楽器では表現できないエネルギーやオリジナリティ、冒険精神があることを知って興奮したんだ」

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—その出会い以降、あなたはエレクトロ・ミュージックの世界を冒険しているわけですが、エレクトロ・ミュージックの可能性についてはどう思われますか?

「エレクトロニック・ミュージックは今後も発展していくジャンルだと思っている。その可能性については、自分の頭の中で考えていることがいろいろあるけど、それを言葉で伝えるよりも音楽で表現したいと思っているんだ。自分のアイディアや想像しているものを言葉で表現するのは難しいし、今ここでいくら語ったところで、恐らく僕が頭のなかで思い描いているものと、君が僕の言葉を聞いて想像するものはまったく違うかもしれないしね。だから僕は、自分の作品を通じてエレクトロニック・ミュージックの可能性を形にしていきたいと思っている。僕の作品は音楽の可能性を自分なりの形で表現したものであり、音楽の未来を切り取ったものなんだ」

SQUAREPUSHER

イギリスはエセックス出身のテクノ・アーティスト/ベーシスト、トーマス・ジェンキンソンによるソロ・ユニット。94年よりスクエアプッシャー名義で活動を開始。96年に『Feed Me Weird Things』でデビューし、テクノシーンにフュージョン・ブームを起こす。98年には打ち込みを排除したフリー・ジャズ作『Music Is Rotted One Note』をリリースし、ファンを驚かせた。2015年4月、最新作『Damogen Furies』をリリース。5月には、11年ぶりとなる日本ツアーを敢行。