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STILLSCAPE アートディレクター永戸鉄也とフォトグラファー水谷太郎が生み出す新たな風景とは?

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東京・神楽坂のキュレーションストア「la kagu」のレクチャースペース「soko」にて開催される合作プレゼンテーション「STILLSCAPE」。アートディレクター / アーティストの永戸鉄也氏と、ファッションフォトグラファー水谷太郎氏が、写真やコラージュ、静物を展示する作品展だ。アトリエを共にし、共通点も多いという二人に、作品を見ながらその内容や経緯を伺った。

Edit_Masaki Hirano

自分たちが能動的に仕掛けていくタイミングになってきた。

ー今回の作品展「STILLSCAPE(スティルスケープ)」について教えてください。

水谷:まずタイトルの説明をすると、「Still Life(スティルライフ)」=「静物」と、「Landscape(ランドスケープ )」=「景観_・景色」という言葉をつなぎ合わせた造語が「STILLSCAPE」です。今回の作品展は、視点や物の見方をメインコンセプトにしていて、僕らが共有しているそんな感覚を、お互いに混ぜ合わせて作品を作っていこうという試みです。

ーなるほど。

水谷:視点や物の見方を大切にするという感覚は、僕らがやっている普段の仕事でも当たり前のことです。わかりやすく僕の仕事で例えるなら、ファッション写真を撮る過程で、この服を、このスタイリングで、このモデルで、こういう背景で、こういうムードで仕上げていくというプロセスの事。今回の展示物はそういった見立てや方法を拡張したもの。

—お二人で一緒に作品を作られたと思うのですが、制作を進めていく上での役割分担みたいなものはあったのでしょうか?

永戸:それがほぼありませんでした。と言っても、もちろん写真は太郎くんですし、デザインとコラージュは僕なんですが、そういう職種の垣根みたいなものはなくしてしまっていて、お互いにどこまで踏み込んだら失礼になっちゃうというような、いわゆる線引きがない状態なんですね。だから太郎くんの写真は僕にとっては素材ですし、僕のデザインスキルも彼のツールであるという感じです。

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—作品を拝見したのですが、壁側の写真の作品は水谷さんの写真を素材として使ってコラージュしていると伺いました。

水谷:はい。僕の写真を永戸さんがデジタルコラージュしています。大量の写真を素材として使っているのですが、作品によっては100枚近く重ねているものもあるんです。僕はその作業段階を見ながら「いいですね」と言ったくらい。写真作品に対して物の作品は、お互いが共有しているイメージに向かって、アイディアを編み込んで行くような作業でした。

永戸:例えば僕が切った鉄の素材を太郎くんが配置するとか、僕が配置した物を太郎くんが微調整したり。いわゆる共同作業です。どこまでをどっちがやるとか、分業ではなく、ある程度以上の信頼関係があると、それが自然にできてしまうんです。それに今回はプレゼンテーションと言っていいます。皆さんにこういう作業からできあがったものを、見てもらいたいという気持ちがありました。

—写真作品はわかりやすいなと思ったんですが、物の作品は良い悪いと言いづらい難しさがあるなと思いました。

水谷:普段から風景写真や雑誌を見慣れている人にとっては、写真作品の方がわかりやすいですよね。でも僕らの感覚としては、物の作品の方も同じ感覚で作っているんです。なんだかわからないけどキレイだねとか、たたずまいが素敵だねと思ってもらえることで良いんじゃないかと思います。深さを作り込んであるからこそ表層を感じさせられると。

永戸:物が好きって感覚は、職種に関係なく誰しもが持っている感情ですよね。展示している物の作品が僕らのベーシック=好きという感覚であって、それは服だったり日用品を選ぶときと同じ感覚です。少し高飛車な表現かもしれませんが、このプレゼンテーションを通して、見てくれる人のそんな感覚をちょっとでもひっぱりあげることができれば、今回の作品展の意義もあると思います。

水谷:しかもそれを「la kagu」のようなファッション商業施設で開催するというのも、楽しみと理由があると思っているんです。オープンしてから継続的に多くの人が訪れるそうで、来店する人たちの中には普段アートにあまり興味がない人たちもたくさんいるはずなんです。そんな人たちが作品を見て何かを持ち帰ってもらえたら嬉しいですよね。

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ー物の作品には鉱物や植物などいろいろなものが使われていましたが、素材に共通性などはあるのでしょうか?

永戸:もちろん僕らが好きなものが集まっているんですが、いずれも時間が経って風合いや質感を実感できるものがほとんどです。新品ツルツルのものは桐箱や下に敷いた布くらい。

水谷:自然が作った形って絶対的な強さがあって、僕らのクリエイションでは到底叶わない。でもそれを見抜いたり選び抜いたりする視点は、ものづくりの力になると思います。今回のモノの作品の中には3万年前のアフリカに落ちた隕石も置いてあるし、ふとした瞬間に目に付いて拾った葉っぱもある。自然が作ったそういういろいろなものを僕らは収集していて、例えばデスクの周りにずっと置いていたり、身の回りの残っていたりしたんです。

永戸:見立てるというと仰々しいけど、ものとの出会い方も大事だなと思います。捨てられなくて残っているものもあれば、人や場所の記憶とつながっていて残っているものもある。逆にあまり好きじゃないのになぜかずっと手元にあるものだってありますよね。そういう出会い方のプロセスも重要だと思います。

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—見どころや、こんなところに注目してほしいという点はありますか?

水谷:作品展を作り上げるために、今回は本当にいろいろな人たちに手伝ってもらったのですが、周囲の人間の能力の高さにびっくりしました。こういうことがやりたいという僕らの要求に、非常に高い精度で答えてくれたんです。例えば壁や箱、写真を額装したフレームなどがそうです。自分たちも一生懸命やってきたつもりだったんですが、みんなもそうだったんだなと改めて思いました。だからこそ僕らはさらにその先を目指して、受け身の仕事だけではなく、自らが能動的に仕掛けていくタイミングになってきたなと感じました。

永戸:そういう意味でも「STILLSCAPE」は、やりたいことを形にするための実験の場でもあったと思います。あえてメッセージを言うならば、もっとみんな五感を使って感じて楽しんでほしいと思います。僕はら普段は消費をあおるものを仕事で作っているけど、こんなものが好きなんだよということを見て知ってもらいたい。そして自分たちの好きなことで、ここまで高い精度のプレゼンテーションができるということを体感してもらって、何かを感じ取ってもらえると嬉しいです。

STILLSCAPE
会期:~6月4日(木)
会場:la kagu
住所:東京都新宿区矢来町67
電話:03-5227-6977
営業時間:11:00~20:00 会期中無休
lakagu.com

トークショーを5月22日(金)19:00より開催。
予約はこちらから http://peatix.com/event/84905

作品展に関するお問い合わせ
ビーナチュラルマネージメント
電話:03-5770-5452

永戸鉄也
アートディレクター、アーティスト。1970年東京都生まれ。高校卒業後に渡米、帰国後96年よりCDジャケットデザイン、ミュージックビデオのディレクション、広告やドキュメンタリー映像制作等に携わる。一方、アーティストとしてコラージュ、写真、映像作品を制作、個展、グループ展で発表をしている。
http://www.nagato.org/

水谷太郎
フォトグラファー。1975年東京都生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業後、自身の写真活動を開始。現在ではファッション誌をはじめファッションブランドの広告やアーティストのポートレイトなどを中心に活躍。2013年3月、4人のファッションフォトグラファーによる合同写真展「流行写真」に参加。同年11月には「Gallery916」にて初の個展「New Journal」を行った。作品集に「Here Comes The Blues」。